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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
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第4話

第4話 ダークホース


 高校初の中間テストが終わった。

 うちの学校では、長い試験休みが明けた日の朝のホームルームで、全教科の答案が一つの封筒に入れられて返される。

 俺の成績はまあ自分としては普通の数字で、弥は英数国科目が70点以上という好記録だが、物を覚えるのが苦手で理科科目と地歴公民科目が40点を行ったり来たりといった偏り方だ。

 さて、フーの結果はどうかな……?

 「マーちゃんマーちゃん!見てよほら!全部平均越え!」

 ふむふむ……確かに。

 しかも現代文と古典は89、92という高得点。

 「よくやったな」

 軽く頭を撫でながら褒めると、フーはほのかにはにかんだ。

 「えへへ……でっしょー?」

 「さて、桜咲はどうかな」

 まあ今回は簡単だったし、これなら桜咲も大丈夫だろ。


 **********************


 などと考えていた朝の俺はバカだ。

 なんと、桜咲梨里杏は赤点を取りやがりました。

 今は部活の時間で、着替える前に全員で体育館に集まっている。

 「こ、これは……えっと………」

 元気溌剌なフーが声を失っている。

 無理もない、なぜなら赤点を取った科目は実に5つもあるのだから。

 もう少しで赤点回避というものもあるが、数学に至っては一桁というあまりに悲惨な結果なのだ。

 口には出せないが、どうやったら取れるんだこんな点数………。

 「勉強の理解ができなかったらよ!文句ある!?」

 「え!?いや別に!」

 …口に出してました。

 「つってもこの点数はまた……何があったんだ?」

 「リリ、覚えたりは得意だけど、こういう自分で答えを求めるとか導き出すとかホント無理なの。どうしても行き詰って気分転換に地歴と理科やってたらこんなことに……」

 弥とは全く逆の脳みそってことだな。

 ちなみに桜咲の物理、日本史、地理の成績は全て90台、生物に至ってはなんと満点。

 物理がこの中で一番低いのは、計算がそこかしこで必要だからなんだろうな。

 「それで3日後に追試やるから、部活はそれまで禁止だって……」

 「部活禁止か。当然だけど結構痛いな。ちなみにそれでまた赤点あったらどうなるんだ?」

 「………期末まで部活禁止」

 「は!?」

 これは………まあこれも当然のことかも知れないが、かなり重く見たほうがいいな。

 期末まであと一ヶ月強はある。

 その間練習できないってのは………。

 「じゃあハヅマが勉強教えてやんなよ」

 「そうだね!マーちゃんが教えればすぐできるようになるよ!」

 弥の提案に言葉を失っていたフーも同調してきた。

 そこで桜咲が質問を投げかける。

 「そういえば音宮君は結果どうだったの?」

 「……誰にも言うなよ?」

 「?うん」

 「………ほら」

 俺はカバンから答案の封筒を取り出すと桜咲に渡した。

 「えーっと?………え?え!?えぇ!!?」

 あー…まあ予想通りの反応。

 フーと弥はすました顔だが。

 桜咲は興奮して俺の答案を見回し始めた。

 俺の結果は、日本史97、生物99、他はすべて満点。

 そもそも俺は小学校を卒業する時点で中学の範囲を網羅していたし、中3を迎える頃にはネイティヴでも聞き取れるほど英語ができていた。

 その俺にとって、今更間違えるところなんてないし、間違ったところと言えば日本史のコアな問題と生物の字が汚いなんていうイミフな理由の減点のみで、その気になれば全教科満点も狙えたのだ。

 「な、なんでこんなにできるの!?新手のカンニング方法とか!?」

 「人聞き悪いこというな。なんでかって……」

 夢のため………と、まあ今は言わなくていっか。

 「別に?まあ3日あるなら赤点回避までもっていくのは簡単だ。お前が一ヶ月以上部を離れるのはこっちにとっても都合が悪いしな。教えるよ、勉強」

 「あ、ありがとう……」

 どこか釈然としてなさげな声で礼を言われた。

 まあ色々脳が追いついてないんだろうな。


 **********************

 そんなわけで放課後。

 俺は桜咲に勉強を教えるべく、桜咲家に…ではなく、俺の家に桜咲を連れてきた。

 まあ俺の家は誰もいないし、男を部屋にあげるのにも抵抗があるんだろうから、黙って了承した。

 「一人暮らしなんだ」

 「ああ、誰もいないから気兼ねいらないぞ」

 言いながらドアを開け、電気をつけた。

 「おじゃましまーす」

 元気な挨拶とともに桜咲が部屋に入り、リビングへ向かう。

 「へぇー。結構広いのね」

 「そうか?まあ座りな」

 まあ確かにリビングだけは広いかもな。

 うちの親はバドミントン界の超有名人で、かなり顔が広かったため客を呼ぶためにリビングは広い。

 一度ここに大人が10人以上入ったこともあったからな。

 「さて、まずは晩飯にしよっか」

 「あれ、もう?」

 「もう7時半過ぎてる。8時以降の飯は脂肪が余計に摂取されるようになるからな」

 「へぇー。男の子でもそういうの気にするの?」

 「太るより細い方がいいだろ。そもそもバドミントンは脂肪の燃焼がいいスポーツじゃないんだからな」

 言うと俺はコンビニで買った弁当を温め始めた。

 その間桜咲には英語と古典の単語を覚えておいてもらう。

 覚えるのが得意ならそれをやらなきゃか。

 「そういえばさ、ハヅマ君って晩御飯いつもどうしてるの?」

 「フーの家で食べる確率70パー、外食25パー、コンビニ弁当5パー。ちなみに昼飯は50パーがフーのお母さんの弁当、50パーが買い食い」


 早々に夕食を終え、早速勉強に取り掛かる。

 ただ、思った以上に難航して、今日1日ではあまり進まなかった。

 「ちがうちがう。こっちに移行したからここの不等号をひっくり返すんだよ」

 「あ、ここで狂ってたのね。失敗失敗」

 さっきもやったとこだろ、と言いたいが言わない。

 今度こそ口には出さない。


 「いやここだよここ。この助動詞の意味は?」

 「受身、尊敬、自発、可能」

 「そうそう。で、ここに入るのは?」

 「えっと……可能?」

 「ちがう。前後の文を読んで合致するものを探すんだよ」

 「うーえっと、ここでこう言っててぇ……」


 そんな感じで約3時間。

 そろそろ帰ったほうがいいよな。

 「おい、もう11時だぞ。そろそろ帰ったほうがいいんじゃねえの?」

 「あ……うん。そうよね」

 やっぱり残念そうだな。

 まああんまり進まなかったし、当然か。

 「まああんま気を落とすなよ。まだあと3日あるし何とかなるよ」

 「うん……そうね」 

 「まあつっても夜も遅いしなー。家近いんだろ?チャリ出すからおくるよ」

 「え?いいわよ、そんな……」

 「遠慮すんなって。つか、それで心配させられるこっちの身にもなれっての」

 「っ………わかった。ありがとね」


 **********************


 翌日の昼休み。

 俺たちは4人で図書室で勉強をしている。

 正確には3人で桜咲の勉強を見ている。

 昨日あれだけやっても点数アップはあまり図れなかった。

 昨日と違う勉強方法をいくつか考えては来たが、2人も桜咲の勉強を見たいと言ってきた。

 今は現代文をやっている。

 「それにしてもハヅマが手こずるとは、桜咲さんもやるねー」

 「弥、茶化すなっての。この結果次第では部活の制限がくるんだぞ」

 「マーちゃんでもさ、英語はどうするの?」

 「それについては考えてることがある。まず問題は数学だ。これは公式を覚えても応用ができなきゃ意味がない」

 「今やってるのは現代文だよね」

 「わかってるよ。数学は俺が何とかする。とにかく、国語は俺が教えてもダメなことがわかった。数学に関しては80点取らせてやるから安心しろ」

 「あ、あんまりビシバシはしないでよね」

 桜咲が引きつった顔をした。

 まあそんな厳しくするつもりはないけど。

 「今日は俺も部活休む。こいつの勉強見るから」

 「う、ごめんね音宮君」 

 「いい点取ればそれでいいんだよ」



 放課後、宣言通り今日は俺も部活を休んだ。

 基礎練だけは数十分やったが、今は桜咲の勉強が最優先だ。

 「ごめんね、リリのために」

 「部活のために、でもある。気にすんな、いい点とって返してくれればいんだから」

 「う…がんばります」

 今日も俺の家で勉強だ。

 家に着く頃には5時15分くらいかな。

 晩飯の時間を抜いて……5時間はできるな。

 それだけあれば今日中に数学の50点のところまでは持ち上げられる。

 あとは英語だな。

 間に合えばいいが。

 

 家に着くと、なんと鍵は開いていた。

 「鍵かけて出なかったの?無用心ね」

 「いや、多分これは………」

 家に入り、リビングに入ると、桜咲に絶句させる驚愕的物体があった。

 「え…な…!?」

 「もう来てたのか、早かったな」

 ……まあ、物体ではなく正しくは人だが。

 しかも女の子。

 そいつはソファに腰掛けてCDプレイヤーと向かい合い、俺たちを待っていたらしい。

 「意外と早く終わってさー。入っちゃった」

 「え…どういうこと音宮君?この人、確かアイドルの……!」

 桜咲はそこにいた女の子を見ながら驚いている。

 なぜなら、桜咲が言った通りこいつは超人気アイドルなのだから。

 「本藤花乃だろ?俺の小学校時代のダチだよ。お前に英語を教えてもらおうと思って呼んだ」

 「どーもー!本名は不二崎花乃(ふじさきかの)って言うの。明日からは私も学校行くようになるからよろしくね、リリリん!」

 「あ、うんよろしく!リリリん………?」

 …いきなりのあだ名呼びにさすがの桜咲も戸惑ったみたいだな。

 相変わらずこいつの馴れ馴れしさには下を巻く。

 「つか『リリリん』って言いにくくないか?」

 俺が細かいツッコミを入れると、

 「これでも役者することもあるからね。滑舌はいいんだよ」

 あー、なるほど。

 改めて桜咲に向き直る。

 「まあそんなわけだから、今日から英語はこいつに見てもらうことにした。こいつは英語だけは得意だから」

 「だけじゃないですよー?」

 軽口を叩きながら早速英語の勉強に入った。


 やはりこいつは英語だけはどうも教え方もうまく、桜咲の勉強はすこぶる捗った。

 花乃曰く、仕事柄将来の海外進出に備えて英語だけは完璧にする必要があったのだとか。

 数学も昨日俺が考案した新しい勉強法により着々と進み、この2つは今日で赤点回避は確実と思われる理解までこぎつけた。


 「じゃあ今日はもう遅いし、ここまでにしよう。桜咲、またおくろうか?」

 「うん。あ、でもノノノんを送ったほうがいいんじゃない?アイドルなんだし」

 ノノノんて。

 こいつらすっかり仲良くなったな。

 「私は家近いからだいじょぶだよ。それにアイドルだからこそ、意地汚い記者が潜んでたらスキャンダルにされかねないし」

 「ああ、なるほどね」


 **********************


 「なんていうか、想像と違ってたなー」

 「?何がだ?」

 桜咲の帰り道、昨日と同じく桜咲をチャリの後ろに乗っけてこいでいる。

 「ノノノんよ。普段からあんな感じなの?」

 「あー、まあ昔からあんなだったなー。初対面で男だろうが年上だろうがとにかくフランクなやつで。そういやあいつバド部に入るからな」

 「え!そうなの?」

 「ああ。もともとフーと弥と花乃は俺の影響でバド始めたんだ」

 「へぇー、そうなんだ」

 「まあそれはともかく、明日はフーと弥に勉強教えてもらえ。連絡してあいつらも明日は部活休むことになってるから」

 「うん」

 暗い夜道を小声で話しながら20分程度走り、桜咲をおろして家に帰った。

 一応無事に家についたか花乃に連絡して訊き、だいじょぶだよという返信に安堵しつつ俺も勉強を始めた。

 俺は追試というわけではないが、俺が目指すとこへ行くにはまだまだ勉強が必要だからな。

 目標としては、一年の2学期末までに2年の範囲を抑えたいものだ。

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