第2話
第2話 気まずい再開
放課後になった。
今から校庭で部活の勧誘が始まる。
校庭には色んな部活や同好会の長席が設けられ、入りたい部活のところで入部届けを書く。
俺はフーと弥の3人でバドミントン部の長席に向かう。
しかし、新入生だけでなく勧誘に超力を入れた先輩達が活気溢れる勧誘活動をしており、混んでてなかなか進まない。
文句を言い合いながらもバドミントン部の長席に着き、やっとため息をついた。
「すいませーん、バド部入りたいんで…」
「あー!こないだの人!」
え?
て、なんか聞き覚えのある声………。
見ると、なんとこないだ俺がナンパした女の子だった。
いや、先輩だろうし女の人と言った方がいいか。
ん?でもリボンの色が……。
「おいどうする!近くで見たらめちゃ可愛いじゃんこの子!」
急に弥が小声で話しかけてきた。
「知らねえよ。てかどうするってお前は何する気だよ」
まあ、確かに可愛いほうでは………滅茶苦茶あるな。
パッチリとしていて澄んだ目。
整った鼻先、小柄かつ華奢な体つき。
僅かな、そして絶妙なあどけなさを残した顔立ち。
指先も、触れたら天使と間違えるのではと思うほど綺麗だ。
これほどの美少女が勧誘しておきながら、なぜ誰も入りたがらないのか不思議でしょうがない。
「あのー、どうかした?」
思わず見とれて直視しすぎてしまい、その子に向き直った。
「いや、別に。つか覚えてたんだな」
「そりゃ自分をナンパしようとした人はねー」
彼女は快活な笑みで答えた。
一応ナンパされた意識はあったか。
「ああ、あれはこいつに言われてやったことだから、妙な誤解はしないように」
「あー!言うなよハヅマー!こんな可愛い人に!」
また可愛いとか、しれっと言うなこいつ。
「あははー、可愛いとか照れますなー!」
やっぱりめっちゃフランクだなこの人。
でも待てよ…?
「あのさ、あんたって1年?」
襟を締めるリボンの色は確かに今年の1年のだ。
だが、こうして勧誘側として座っているからにはやはり先輩……?
「いやいや、このリボンの色が目に入らぬか。1年よ。わかった、1年なのに勧誘してるのが気になったんでしょ」
そう、それそれ。
「実はこの学校のバドミントン部って今誰もいないんだって。一昨年で皆卒業して顧問も定年で、3人以上部員が集まれば創部できるの」
「へぇー、今何人くらい集まったんだ?」
俺は長席に座りつつ尋ねる。
「まだ誰も。せっかくだし自己紹介しとくわね。桜咲梨里杏よ。よろしくね」
俺たちも一応口頭で名乗り、入部届けに名前を書いた。
その後は各部活の活動場所に移動してそれぞれで色々やるらしいが、バド部はまず創部をするということなのでその場で解散となった。
連絡先を交換し、創部が完了したら連絡をよこすと言っていた。
うちの学校には体育館がなんと3つもあり、バド部の活動場所となるのは第2体育館だそうだ。
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その夜、今日は少し奮発してフーと2人で焼肉屋に来ている。
奮発というのは、フーの分も俺のおごりということだ。
まあ俺にとっては大した痛手ではないので問題ないのだが。
「それにしてもビックリしたねー。まさか誰もいないなんてさ」
「ああ。それに顧問も辞めたって話だったしな。あの様子だと素人の先生が顧問やることになるかもな」
「え?じゃあ練習どうするの?」
「部員の誰かが考えるんだろ。最終的に何人集まるのか知らないが、今のところ全員が経験者だし、初心者に対する配慮とかは心配なさそうだ」
昼に話を聞いたところ、桜咲は中学時代からの経験者らしい。
小学校時代の友人がやっていて、その影響を受けたのだという。
「じゃあマーちゃんがやればいいじゃん!一番経験長いんだしさ!」
「人に教えたことなんてないしなー…まあ何とかなるか」
「ふっふっふ。これでキツイ練習は回避できそうだぜ」
「それはないから安心しろ」
「ブー」
またふてくされたか。
「でも今のままじゃインターハイで男子の団体戦出場はできなさそうだね」
「女子も2人だと無理だぞ。まあ高校生限定のやつじゃない県民大会とかなら混合で出られるかもな」
「そうだねー。あ、それ焦げかけてない?」
「ぅおっと、危ない」
危うくガンの素になりそうな肉を拾い、皿に移す。
「そういえばさ、あの子にナンパしたってホントなの?」
「あー。制服とリボンの色が同じだったから話しやすいだろって弥に言われてな。まさかバド部で同じになろうとは」
「けど珍しいね。マーちゃんがそんな浮ついたことやるなんて」
「弥に誘われてのことだったからな。ちなみにあいつは女子大生に声かけて瞬殺されてたぞ」
「あははっ!恥ずかしー!」
「しかも相手2人いてさ、なんかあやされたみたいに…と、桜咲からだ」
不意に桜咲から電話がきた。
少々不躾な気もしたが、フーの前で携帯を開いて電話に出る。
『もしもーし。なんかそっちは賑やかね』
「フーと一緒に焼肉食ってんだ。あ、フーってのは冬美ちゃんのことね」
こいつは思ってた以上にフレンドリーな性格で、初めて名前を呼ぶ時にもう下の名のちゃん付けで呼んでいたのだ。
まあ男子は別だが。
『いーなー焼肉!ね、今度リリも連れてってよ!』
どうやらこいつの一人称は『リリ』らしいな。
「まー機会があればな。で、どうした?」
『あ、そうだ。創部は完了したわ。顧問は組籐先生がやってくれるんだって』
まじか、俺らの担任じゃん。
『組籐先生って私達のクラスの担任でしょ?それで頼んだの』
ん?私達の?
「ちょ、ちょっと待て。お前って俺らと同じクラスだっけか?」
『そーよ?忘れてたの?』
…まじかー、いや問題あるわけじゃないけど。
ただ、あんだけ可愛い子がクラスにいたら気づいただろうに。
『えーひどーい、忘れてたんだー。まーいいわ。そんなわけだから明日の放課後、部活の用意持って第2体育館に来てねー。冬美ちゃんと一緒なら言っといてー』
「おーわかったー。そういやあれから部員集まったか?」
『うー、それが全く。音宮君たちが来てくれなかったら創部もできなかったところよ』
「そっか、わかった。んじゃ」
『うん、またね』
無愛想気な別れとともに携帯をきり、ポケットに戻した。
「リアちゃんなんて?」
電話を切るなりフーが訊いてきた。
リアちゃんというのは桜咲の愛称らしい。
「創部できたから明日の放課後に準備持って第2体育館来いってさ」
「おぉー、じゃ明日から部活できるね。そういえば部員集まったって?」
「いや、俺ら以外誰も入らなかったそうだ」
「えー?じゃあ4人だけー?」
「まあ少なくとも最初のうちはな。これからは大っぴらな勧誘はできないし、4人でも何とか実績残して後輩を多く勝ち取らなきゃな」
「それならマーちゃんいるし大丈夫だよ!マーちゃん去年すごいトコまで行ったんだし!」
「高校ではどうかな。まあ頑張るけど」
苦笑を浮かべると、俺は残り僅かとなった肉と玉ねぎを口に放り始めた。
シメにアイスを食べて外に出て、チャリに乗りながらフーがぼやいた。
「あーあ、またあの距離漕がなきゃなんないのかー」
「ここがいいっつったのお前だろ」
「そーだけどさー。次はマーちゃんがバイクの免許取ったら来ようね」
「あー」
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翌日の放課後、第2体育館。
そこで俺たちは今、舞台の近くで円形に座り話し合っている。
「えーそれでは、まず大事な会議をしたいと思います。まずは部長とコーチを決めましょう」
堂々としつつもぎこちない司会進行をする桜咲の言葉だが、少し気になった部分もあった。
「コーチを決める?」
桜咲以外の3人が気にしたであろう点を指摘したのは弥だった。
「そ。顧問の先生はバドミントン未経験の人で、技術的な指導は部員の誰かがやってほしいって。誰かやりたい人か推薦したい人はいる?」
桜咲は質問に答えると、そのまま淡々と皆を見回した。
「じゃあマーちゃんを推薦する!マーちゃんすっごい上手いんだよ!歴も長いし!」
「あ、そういえば保育園のころからやってるんだっけ」
桜咲が昨日の話を思い出して頷いた。
一応何歳からやってるかは昨日教え合っている。
「まあラケットを遊びで振ってたくらいだけどな。まあ俺が思うに、ちゃんとコーチを決める必要はないんじゃないのか?部長だけ決めてそいつが練習メニューを作って、技術的な指導については部員同士で気づいたことを言い合えばいいだろ?」
「なるほど。2人もそれでいい?」
もう部長になったかのような口調で桜咲が2人を見た。
反対意見がないのを確認し、俺が口を開く。
「じゃあ部長を決めなきゃな。一応副部長も決めとくか」
「部長はマーちゃんがやればいいじゃん」
「そうだよ。俺もハヅマでいいと思うよ。副部長は桜咲さんがやるとかで」
「まー俺はいいけど。桜咲それでいいか?」
俺が桜咲を見ると、また反対意見はなさそうだ。
「で、副部長が桜咲さんってのも決定?」
今のは弥の発言なのだが、こいつが女子にそんな普通な呼び方してると違和感バリバリだな。
「フーはいいと思うよ。引っ張るのとか得意そうだし」
「うーん、まあじゃあやってみよっかな。じゃあ今日はとりあえず何する?」
なんかすごいあっさり決まったなぁ。
俺は少しうなってから答えた。
「まずは試合しよう。シングルで総当たりは……」
今は5時前、部活時間終了まで残り約2時間半。
ワンセットでやるにしても、1試合10分の計算でいくと、全試合やって120分、2時間かかる。
「…いけそうだな。とりあえずやってみるか」
「そうね。じゃあ紙とペン持ってくるわ」
言うと桜咲は更衣室に走り、持ってきたそれらでリーグ表をつくり、試合を始めた。
1時間半後、全ての試合が終了した。
ほとんどの試合が際どいものとなった。
最終結果の順位は上から順に、俺、弥、桜咲、フーだった。
俺が優勝するのは自分でも特に驚くことではなかったが、フーと桜咲の3決ではかなり驚かされた。
フーがバドミントンを始めたのは小3の夏前、弥と全く同じタイミングで俺と同じジュニアクラブに入った。
こいつのバド歴は実に7年にもなる。
対する桜咲は中学の頭に始め、歴はおよそ3年。
その少ない経験で、桜咲はフーとのかなり際どい試合ぶりを見せたのだ。
最終的に桜咲が勝って、スコアは21-16。
「すごいねリアちゃん……中学始めでこんなにうまいなんて…」
フーはかなり感激しているようだったが、かなり疲れたらしく息は切れている。
桜咲はフーの感激を素直に受け止めて言った。
「え、えへ?そうかな…?」
……こいつ照れてんのか?
こいつ弥に可愛いって言われた時も照れなかったのに…。
まあ当然かもな。
その後は余った30分弱を使いダブルスの試合もした。
ペアは割と適当に、男子ペア、女子ペアでワンセットマッチの試合をした。
時間的に厳しいため通常の21点マッチではなく、短縮の15点マッチで行い、男子ペアの勝ち、その後解散となった。
しかし、解散の直後桜咲に声をかけられた。
「ね、音宮君」
「ん?」
「よかったらこの後焼肉行かない?部長と副部長で少し話し合いたいしさ」
あー、そういえば今度行こうとか言ってたな。
…にしても『今度』って翌日のことじゃないだろ。
まあ細かいツッコミは置いとくか。
「んー、俺的には2日連続はちょっと。寿司屋でもいいか?」
「まあそれはそうよね。もちろんいいわよ」
そんな感じで、さっそく飯行くことになりました。
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あの後、今日は碧波と食いに行くからとフーを家に帰し、桜咲と2人で寿司屋に来た。
「な、なんか高そうなとこだけど、ホントによかったの?音宮君のおごりで」
「気にすんな。焼肉ケッてここに来たいっつったの俺だし、金はあるから」
ちなみに来たのは回転寿司ではなく、近くの商店街で一番評判のいい高級寿司の店だ。
まあそんなに高いわけではないのだが。
「いいなー、焼肉の次にお寿司なんて。家お金持ちとか?」
「いや、普通の家だ。あと親はいない」
「え?」
急な発言に戸惑ったようだな。
まあ無理もない。
「父親は俺が生まれてすぐ失踪したらしい。母さんはプロのバド選手で4歳の誕生日の日から俺にラケットを握らせてたんだが、去年の冬に病気で死んだ」
「そ、そっか…ごめんね、嫌なこと訊いて」
「別に?俺としてはこっちの方が自由でいいし」
それに、口には出しにくいが、俺は……。
「でも、じゃあ生活費はどうしてるの?親戚の仕送りとか?」
「親戚もいないよ。母さんが死んでからは4ヶ月の間だけ孤児院で過ごして、その間に高校に通いながらできる仕事探したんだ。その頃幼馴染がプロのアイドルとしてのデビューが決まって、そいつの紹介でそいつのいる芸能プロダクションと提携結んだんだ」
「へぇー!幼馴染にアイドルいるんだ!ちなみに仕事って?」
「ああ、作曲。父親はミュージシャンだったらしくてさ、CDとか色々小さいころから勉強がてらによく聴いてたんだけど、そしたら12歳の頃になんか作曲できるようになってさ。母さんはあんまよく思わなかったみたいだけど」
「な、なんか衝撃の事実連発ね……」
なんか絶句しそうになってるな。
「そんな大層なもんでもないけどな。その父親ってのもまた冴えない典型的なダメミュージシャンで、売れなくてどっか行ったんだから恥ですらある」
「あははっ、確かにね!」
……はっきり言うやつだなあ。
しかし母さんのことではあんな態度だったし、いい奴なのかそうでもないのかわからんな。
「あ、バドミントンのことで訊きたいんだった。中学時代に夏の大会でどこまでいったの?」
「弥とダブルス組んで全中までいって準々決勝敗退」
「全中出たんだ!すごいね!」
「いや、弥とはコンビ組みやすいからってだけ。それに小さい頃から母さんがツノ生やして特訓してたから」
「あーなるほどね。でも私は全中には出れなかったから、やっぱり凄いわよ」
「つってもお前フーとはかなりいい試合だったろ」
「相性がよかっただけよ。冬美ちゃんってスピードはあるけどパワースマッシュに弱いから」
「まあそうだけど」
確かにフーはパワースマッシュに弱い。
ただ速いだけのスマッシュなら小さい体のひねりを生かして器用にとるが、パワーのあるスマッシュを返すのはあいつが最も苦手とすることの1つだ。
だが、こいつのスマッシュはパワーどころかスピード自体そんなになかった。
相性がいいとは言いにくいと思うが……謙遜してるんだろうし、これ以上の指摘はヤボかな。
その後も少し会話をして、腹が満たされたところで解散になった。
おくろうかとも言ったが、タクシーだからと言って帰っていった。
いくつか気になったこともあったが、明日からは本格的に部活も始まる。
はやく帰って練習メニューを作らねばな。




