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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
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第19話

第19話


 結局あれからも文化祭時の犯人を見つけることはできなかった。

 まあそのことに関しては警戒を促したし、目立ったことも起きていないため今は大丈夫だろう。

 それよりも、俺にはこの文化祭後の3週間が勝負なのだ。

 なぜなら……。

 「生徒会選挙?」

 ある日の昼休み、食堂で俺が話したことをリリアがおうむ返しにきいた。

 「ああ、明日から生徒会選挙活動が始まるだろ?俺も副会長に立候補しようと思っててな」

 「まじかよ…?てか、また内申点狙いか?」

 「もち。来年には会長になるつもりだし、今から生徒会には慣れとこうと思ってな。まあ一年から副会長ってのも内申ではプラス点になる」

 「でも大丈夫なの?部長もしながら副会長だなんて」

 俺と同じ盛り付けの弁当を口に運びながらフーが問いかけた。

 「問題ねえよ。たまに抜けることもあるかも知れねえけど」

 「でもリリリんの勉強は?2週間後には定期テストもあるのに」

 「それは心配ないわ。今回は自分1人でやってみるの。前々から予習を強化してるし」

 「そういうことだ。つーわけでお前らに頼みがあるんだが」

 「ん、何だ?」

 俺はこの食堂に来る前に貰ってきた一枚の紙を前に出した。

 「この推薦用紙にお前らの名前を書いて欲しい。つっても別に推薦人としてのスピーチをして欲しいってことじゃない」

 「おお、ここに書けばいいんだよな?」

 「おう、頼む」

 弥は鉛筆をとると、一番上の欄に名前を書いた。

 それを花乃に渡し、花乃も名前を書いてくれた。


 ************************


 その日の夜、明日から学校中に貼るポスター製作のた花乃にうちに来てもらった。

 花乃は芸術面での特技が多々あり、絵は特に得意なのだ。

 「絵の具類は一通り揃えといたから」

 「オッケー。じゃあまず、どういうポスターにしたい?」

 「んー、そうだなあ。やっぱり頼れる感じかな。頭がキレて体力があるイメージで」

 「人物像は頼れる、ね。キャッチコピーは?」

 「そこなんだよなー。とりあえず『革命』とか入れたいんだけど」

 「おおー、なんかすごそう」

 「インパクトあるだろ?まあ『革新』とかでもいいんだけどな」

 「なるほどね。じゃあ『革命をもたらす』みたいな感じ?」

 「そうそう。なんかこう………『革命の起源ここにあり』みたいな」

 「んー、なんか心から感が足りなくない?」

 「そうか?」

 「うん、なんか人から借りて作ったみたいな感じする。悪くはないと思うけど」

 「そっかー。じゃあ例えば花乃はどんなのがいいと思う?」

 「例えば……………『嵐をもたらす者ここにあり』」

 「災害じゃねえか!嵐もたらしてどうする!」

 「だって『革命』とかに比べて飾らない感があるというか………」

 「確かにそうだけど、俺がそんなポスター見たら安心できないから」

 「そーかなー?破天荒な感じして……ダメか」

 「まーけど飾りすぎるのもアレだよな」

 「そうだよ!もっとこう…『平成の徳川家康』とか」

 「と、とくがわいえやす……何か凄そうだがパッとしないな」

 「んー、じゃあ『星藍の安倍首相』とか」

 「んーーーーーー…………まあ候補に入れとくか」

 「なーんか良いのが浮かばない。なんかこう…………そうだ!『副会長はじめました』!」

 「うん、どうツッコんでいいかわからないな」

 「…………本気だったのに」

 「………まじ?」

 この落ち込み方は確かに本気だったみたいだな……。

 「ああそうだ。お前から見て俺ってどんな感じ?」

 「んー、ハッチのイメージから考えると………………『大魔王』」

 「ヒドすぎる!」

 「あはははははははっ!」

 「はぁ……もうキャッチコピーは『革命の起源ここにあり』でいいや」

 「何さもういいやって」

 「まあ気にするな」

 「むー、まあいいや。じゃあ次はポージングだね。私が思うに、ハッチは顔がいいから描くより写真をプリントするのがいいと思う!」

 「そうか?んーまあ顔がいいかはともかく別に写真でいいけどさ」

 「うんうん!じゃあポーズだけど………」


 とまあこんなそんなでポスターは着実に出来上がっていった。はずだ。


 ************************

 

 翌日、花乃に描いてもらったポスターを掲示板に貼り付け、演説等の活動も行った。

 一応この時期は中間テスト2週間前でもありあいつらも忙しくしているが、一日交代で俺の推薦人立場として演説などでの補助をしてくれることになった。

 ダチの存在はこういう時ありがたい。

 


 だがさらに翌日、妙なことが起こった。

 「音宮君」

 「あ、ども先生」

 朝のホームルームが終わると、担任の組籐先生が声をかけてきた。

 「音宮君、生徒会選挙からは下りたんですか?」

 「は?」

 え、なに急に。

 俺はもちろん下りてなどいないはずだが。

 「もし辞めるなら出来るだけ早く選挙管理委員の顧問の岩波先生に伝えておいて下さい」

 「い、いやちょっと待って下さい。俺は辞退なんてしてませんけど」

 「あら、そうなんですか?でも今朝ポスターが剥がされていましたが」

 「な…………!」

 何でまたそんなことに。

 俺は先生との話を手早く切り上げ、あいつらの元に向かった。

 向かったと言っても同じ教室にいるのだが。

 「なあお前ら」

 「あ!ハッチ!」

 声をかけたら何故か花乃が叫んだ。

 「お、おうどうした」

 「今朝掲示板見たらポスター全部剥がれてたよ?どうゆうこと?」

 「俺も今そのことで声をかけたところだ。お前らも何も知らないのか?」

 俺が訊くと、4人は全員首を横に振った。

 「やっぱりか………てまさか」

 「多分そのまさかね。また文化祭の時と同じ犯人の仕業よ」

 俺の心当たりと同じことを思っていたらしきリリアは顔を少し険しくして言った。

 「だよな………だが相手も巧妙だ。下手に引き裂いたり落書きしたり跡が残るやり方より、単なる嫌がらせではないやり方で潰しにくるんだからな」

 「おいおい、呑気だなハヅマ。このままじゃ選挙に出れなくなるぞ?」

 弥の問いに花乃が答えた。

 「大丈夫だよ。ポスターは家に予備があるし。それをまたコピって貼ればいいだけだよ。選挙管理委員にはこういうことがあったって報告して全校放送で流せば…」

 「いや、それはダメだ」

 「え?」

 花乃のアイデアに俺が口を挟むと、花乃はたじろいで俺を見た。

 「こんなことがあったと全校に知れたらイメージダウンに繋がりかねない。たった1人でもそれほど恨んでるやつがいるって思われるからな」

 この学校は何もかもが豪華で生徒会はその分責任重大なのだ。

 だからこそしくじればどんな悪影響があるかわからない。

 「でも、それだと貼り直してもまた同じことされるよ?別にそのくらいのことでイメージダウンになんてならないよ」

 花乃は少し必死に意見をおすが、

 「確かにそうかも知れないが、1人そう思うやつが出たら終わりだ。そいつから考えはどんどん伝わっていくんだからな。選挙管理委員に立候補の意思を伝えはするが、謎の犯人のことは話さない。また剥がされても対策はあるからな」

 「対策…?まあそれは置いといて、そしたら犯人が手を変えて邪魔してくるかも知れないわよ?」

 俺の話にリリアが指摘する。

 「構わない。とりあえず今を乗り越えなきゃな」


 俺はそう強く言い放ち、昼休みに選挙管理委員に話をつけ、翌日にまたポスターを貼り直したのだった。


 ************************


 ポスターを再び貼り直して3日が経った。

 中間テストまで10日、選挙まで17日。

 結局あれからポスターを3回貼り直し、3回とも綺麗に剥がされ続けた。

 だが、俺はそれに対して痛くもなく対応している。

 その対応とは、毎朝一番に登校し、誰も来ないうちに貼り直すという、まあ一種の力技だ。

 単純な方法ではあるが、これならこの揉め事は校内に知れることもないし、授業中に剥がそうものなら、その時の授業に一時的にでもいなかった生徒を洗えば容疑者を絞れる。

 そのことを犯人も分かって犯行が決行できないというわけだ。

 そんな感じでその3日は選挙活動も順調に進んでいたのだ。



 だが、その夜。

 俺は家のリビングで寝ていたのだが、密かな物音に目を覚ました。

 誰かがいる………。

 誰だ………?

 その物音は二階の俺の部屋からしているようだ。

 慎重に階段をのぼり、自室に入ると俺は明かりをつけて訊いた。

 「誰だ?」

 静かに、でも無視出来ない威圧感をはらんだ俺の声に、その人影は振り向いた。

 うっわ何だこいつ!

 めちゃめちゃ怪しい!

 いや、怪しいのは最初からだが、暗視ゴーグルに黒いニット帽、黒いパーカーと下はジャージ。

 口を隠すためのマスクまで真っ黒だ。

 その不審人物は暗視ゴーグルをつけたまま立ち上がると、真っ直ぐ俺に突進してきた。

 「うおっ!」

 至近距離まで詰め寄ると、不審人物は短く細いパイプを真っ直ぐ俺に突き出してきた。

 体勢をかがめてかわし、そのままでんぐり返りをして位置が入れ替わった。

 立ち上がり腰を落として構えると、相手はパイプの先をこちらに向けて突っ立った。

 顔はまだ見えないが、身長は低い。

 相手はパイプを振りかぶりながら俺に突っ込み、パイプを振り下ろす。

 俺はそれより早く相手に向かって再びでんぐり返りをすると、相手は対応しきれず不安定な跳躍をして床に転がった。

 俺はすかさず立ち上がりかかと落とし、すると相手は横に転がりながらかわしてパイプを横薙ぎに振ってきた。

 咄嗟に左手首でガードしてしまった。

 すごい痛い…そして、重かった。

 パイプそのものが相当重いんだろう。

 これは振り回すのに相当肩の力が要るな。

 おそらく相手は身長と合わせて考えると、女子ソフトボール部員か。

 俺は左手首で受けたまま右手でパイプを掴むと、さらに左手で掴んで思い切り引っ張った。

 相手はパイプごと引っ張られて近づいて来たのでそのまま腹に膝蹴りを入れた。

 「くっ!」

 相手は短い悲鳴とともに床に転がった。

 今の声、やはり女だな。

 相手は腹を抱えしばらく唸っていたが、やがて立ち上がってベランダから脱出した。

 二階から飛び降りるように脱出したそいつに驚いてベランダから下を見たら、驚いたことに何ともない様子でそのまま塀を越えてどこかへ行った。

 「あっ………っ、くっ………」

 追いかけようとしたが俺は左手首を負傷したし、夜道では暗視ゴーグルをつけている相手のほうが有利。

 深追いは出来ないか。

 この奪い取ったパイプから指紋を検出したいところだが、相手は手袋もしていたし無理。

 そして俺は急いである物を探した。

 確かこの場所に…………。

 「あった」

 思わず声に出した。

 俺が手に取ったのは保存用のポスターだ。

 掲示板から毎日剥がされる度に貼り直す時のコピー用にとっておいたものだ。

 おそらく犯人、さっきのやつは剥がしても剥がしても貼り直せる原因であるこれを探していたんだ。

 それにしても何の目的か知らないが、妨害のためにここまでやるとはな…………。

 その日はとりあえず左手首に包帯を巻いて寝た。

 結構ジンジンくるな…明日の部活は控えめにしよう。


 ************************

 

 次の日の昼休み、例によって食堂にて。

 俺は深夜の襲撃のことを話している。

 「え!?誰かに襲われた!?」

 「しっ、声がでかい……まあそういうわけだ」

 「で、コピー用のポスターを狙ってたわけか。そこまでやるとはな」

 リリアに続き、弥も驚いた様子だ。

 「つーわけでポスターは今も持ち歩いてる。学校にいる隙に侵入して…ということもあり得るしな」

 「でも、犯人もこれでポスターの妨害は出来なくなったわ。他の手で妨害してくるかも」

 リリアが神妙な顔で言うことは正しい。

 次は一体どんな手で…………。

 「まあ昨晩の一件で相手が女子であること、身体能力、特に肩の力か腕力が強いやつであることはわかった。あと犯人は付け入る隙を伺おうと俺たちを偵察するかもしれない。だから今もちょっとだけ周りに警戒してるわけだが……………」

 これがどーーーーもうまくいかない。

 なぜなら俺は普段から注目されている。

 それも女子からはなんかキラキラした目で見られるし、男子からも嫌悪の目で見られる。

 これでは犯人が俺を観察しようという視線は見つけようもない。

 「まあそれはしょうがないよ。マーちゃん結構顔はいいほうだし」

 「そういえばハヅマ君って友達少ないんだっけ?女子にモテるから嫉妬されてるんじゃないの?」

 リリアはからかうように言った。

 「確かになー。男で仲良いのなんて俺だけだしな」

 弥が言うと、俺はそれを即否定した。

 「ちょい待てそれは違う。お前もう忘れたのか?」

 そう、俺の男友達は弥だけではないのだ。

 まあやつとはなかなか会えないが。

 「あ、あー!忘れてた!」

 弥も思い出したようで、突然声をあげた。

 「え?なになに?」

 リリアは理解不能といった顔で俺たちを見回す。

 そこで花乃が口を開いた。

 「私達がいたジュニアクラブにイタリア人の友達がいたの。その頃からハッチの実力はずば抜けてたんだけど、そいつはハッチと唯一肩を並べてたの」

 「へぇー…………?」

 リリアはどこか釈然としない様子だった。

 多分、『その頃からずば抜けていた』という部分に引っかかっているのだろう。

 無理もない、俺の大会での成績や練習を見ていてそこまで俺が強いという印象は受けないはずだ。

 だがやはり、これはまだリリアには黙っておくべきか………。

 「けどそんな人忘れてたなんて、ワタル君だめじゃない」

 「まあもともと弥たちはあいつとは接点少なかったからな。こいつらがあいつと会ったのなんてあいつがジュニアの体験で来た時の3回だけだし、俺は家族ぐるみの付き合いで会うことが多かったからな」

 「へぇー。なんか会いたいなー、その人に」

 「まあそれは置いとこう。ところで今日は何やらテスト勉強に追われて選挙活動に専念できない立候補者たちが続出しているようだ。この隙に俺はますます選挙活動に熱を入れるとしよう」

 その日は昼飯を食べ終えてから校内放送で周りに差をつけ、俺は順調に生徒の支持を集めた。

 しかし一方で犯人の次なる魔の手も差し寄ることも忘れてはいない俺だった。

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