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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
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第15話

第15話 幕開け


 もうすぐ夏休みが明ける。

 宿題は5人とも無事終わり、夏の2回目の合宿は故あって中止となったが、夏休み明けにはいよいよ文化祭準備が始まる。

 星藍高校はイベントの豪華さゆえに人気が高いが、文化祭は別格だ。

 期間は4日間、準備期間は夏休み明けから1ヶ月間と特別なことはないが、予算は他校の数倍、さらに準備期間中は授業時間は50分が20分ずつ減り、各曜日の7限目は削減されるという出鱈目なハイクオリティを目指す文化祭となる。

 ちなみにうちのクラスの出し物は花乃のライブに決まりかけたが、事務所からの規制刺客して俺と弥が何とか止めた。

 俺は半ば強引な止め方もしたし、あれはかなり骨だった。

 まあそれはともかく、クラス別の出し物は1学期末テスト後に生徒会に提出するのだが、部活別で出し物をする場合は夏休み中に提出しなければならない。

 副部長としてリリアが是非うちの部活でも何かやろうということになり、今日は俺の家で会議をする。

 「とまあそんなわけでうちでも何かすることになった」

 「やるからには楽しくやりたいわ。部活部門での最優秀賞も狙いたいし」

 リリアの熱のある発言に、花乃とフーも賛同した。

 「そだね、バド部最高の思い出ってことで!」

 「やるからには優勝だね!」

 俺は正直文化祭なんて馬鹿らしいと思っていたのだが、こうして皆の気合いを見ると俺も少しは楽しみになった。

 「つーわけで、何か提案ある人ー?」

 部長ということで強引に議長にされた俺の第一声に最初に手を挙げたのはフーだった。

 「クレープ屋さん!」

 「なるほど、フーの得意分野だからな」

 「へぇー、冬美ちゃんクレープ作るのうまいんだ」

 「クレープというか、フーは菓子作り全般が上手いんだ。クレープもプリンもケーキもマカロンも何でもござれだ」

 「へぇー!すごいわね!」

 「将来はお菓子職人さんになるのが夢なんだー」

 「じゃあそれがまず候補だな。他には?」

 すると弥が元気よく手を挙げた。

 「はい!メイド喫茶!」

 「絶対むりだ」

 「何で即答!?文化祭の定番だろ!?」

 「普通に無理だろ……副部長、言ってやれ」

 議長が言うまでもないということを示すべく、俺はリリアを見やった。

 「まあ…人数的に無理よね」

 「あーくっそー、それがあったか……」

 今更気づいた弥は悔しそうに頭をかいた。

 「さらに言えば花乃がいるしな。メイド喫茶もそうだが、事務所の目を気にしてこいつが露見するような出し物は避けるべきだ」

 「てゆかマーちゃん。メイド喫茶やることになっても場所は大丈夫なの?」

 「生徒会がクラス別の出し物で使わない場所をうまく使って割り振るんだ。星藍の文化祭は豪華だが、その分、生徒会は大変というわけだ」

 「へぇー。じゃあお化け屋敷とかならのんちゃんもお客さんからは見えないね」

 「のんちゃん……?ああ、ノノノんのことね」

 リリアは謎(?)のあだ名に一瞬戸惑ったようだ。

 まじでややこしいから俺としては統一してほしい。

 「そうだな。じゃあお化け屋敷が候補2つ目っと」

 俺はクレープ屋とお化け屋敷をホワイトボードに書き込んだ。

 ちなみにこのホワイトボードは小さい頃、母さんにバドを教わってた時に使ってたもので、こんな形でまた使うとは驚きだ。

 「じゃあ他には?」

 すると今度はリリアが手を挙げた。

 「あのさ、思ったんだけど、他の部活と協力したりしてするのはどう?」

 確かにこの学校では部活間で協力して出し物をしてもよいことになっている、が………。

 「……リアちゃん、それは無理」

 俺が言う前にフーが言った。

 「え、なんで?」

 弥と花乃も微妙な顔をしていて、フーも言いにくそうだったので俺が答えた。

 「リリア、俺はな……好きでもないやつらとやるのはまっぴらだ」

 「あー…そう言えばそうだったわね…」

 俺は実はクラスの出し物の時、花乃の露見を最大限避けるためにクラスで暴れまくった。

 いや、暴れたっていうのは議論での話だが、結果俺はクラスで更に浮くこととなった。

 リリアもそれを思い出したらしく、げんなりした顔で納得した。

 「じゃ、じゃあそれはできないってことで……じゃあ劇とか映画も難しいわね」

 「てゆかさ、ハッチは何か案ないの?」

 そこで花乃が急に俺にふってきた。

 「んーそうだなぁ……レーザーの迷路とか?」

 「?なにそれ?」

 「レーザーとその反射鏡みたいなのを買って教室に並べて迷路にするんだよ。そのレーザーに触れたらアウト……いや、3回触れたらアウトみたいな」

 俺の案にフーは驚愕した。

 「ま、まさかレーザーって本物の切れるやつ?」

 「いや、んなわけねえだろ。赤外線センサーみたいなやつだよ」

 「あー、スパイみたいな……それ面白そうだね」

 フーは予想外といった顔で目を見開いた。

 「じゃあそれも候補に入れて、他には案あるか?」

 するとまたも弥が手を挙げた。

 「じゃあアニメクイズみたいなのは?花乃がいるしさ」

 「あー、なるほど」

 花乃はアイドルではあるが、これで大のアニメ好きなのだ。

 クイズの内容はこいつを中心に決め、俺たちは景品集めに貢献すればそこそこのものになるだろう。

 「どうだ?花乃」

 「アニメのことなら任せてよ!」

 どうやら問題なさそうだ。

 「よし、これで4つ出たな。他には?」

 

 それから30分ほど話し合い、マジックショー、バドミントンチャレンジ、英語聞き取り大会などが提案され、計7つの案が出揃った。

 「英語聞き取り大会ってのはリリ的に却下よ」

 「確かにな」

 だが早速1つが消された。

 何のために出てきたのかは置いとこう。

 「マジックショーは、弥以外できないよな?」

 「はいはい、フーはバドミントンチャレンジっていうのは消すべきだと思います」

 俺がマジックショーのことで議論し出したや否や、フーが勝手に話題を変えた。

 「んー、まあいっか。いいか?」

 3人を見ても反対意見はなさそうだ。

 「じゃあこれであと5個だな。あとマジックショーと同じ理由でクレープ屋も厳しくないか?」

 「んー、練習すればいいんだろうけど、それなら他のやつやった方がクオリティは上がるよね」

 「ああ。だからあとはお化け屋敷、レーザーの迷路、アニメクイズか」

 「こうして見ると、アニメクイズも外すべきだと思うわ」

 「えー?盛り上がりそうなのに」

 リリアの意見に花乃は不満そうだった。

 「つっても星藍ってアニメ好き少ないらしいから、確かにこれはボツだな。弥とフーはどうだ?」

 「フーもさんせー」

 「んー、まあしょうがない」

 「じゃああとはお化け屋敷とレーザーの迷路だな。悪い、花乃」

 「んー、残念だけどいいよ。それよりお化け屋敷ってどのクラスもやりそうじゃない?」

 「確かにそうだが、だからこそダンチのクオリティでやれば成功になるじゃん」

 「なるほど。でもレーザーの迷路っていうのも面白そうだしなー……」

 花乃も納得したが、次いで出た発言に俺たち4人も唸った。

 こうなったら………。

 「じゃあ両方やるか?」

 「「「え!?」」」

 俺の提案に女子3人は予想通りの反応を見せた。

 「両方って、お化け屋敷とレーザーの両方か!?」

 弥も驚いてるようだな。

 「不可能じゃないだろ?空きの教室の中には内扉で2つ繋がった教室もあるんだ。仮にその教室を抑えられたとするだろ?」

 俺はホワイトボードを真っ白に消し、内扉で繋がった2つの教室を表す2つの長方形を描いた。

 「で、後ろの教室の前の入り口を入った所を受け付けにして、後ろの教室をレーザーの迷路にする。レーザーの迷路にワーカーは1人で足りる筈だし、入り口を入った所にいる受け付けがお化け屋敷とレーザー両方の受け付けをやればお化け屋敷にワーカーを3人据えられる。それだけいればホログラムと仕掛けを駆使してお化け屋敷も兼ねられる。どうだ?」

 正直ここまでする必要があるのかと疑いたいが、ここまでのことをすれば内申もあがる。

 部活別の出し物の最優秀賞も取れるだろうし、この部活のいい思い出になる。

 俺の長い話に4人はしばらく固まっていたが、やがて顔を上げた。

 「確かに!それいいな!」

 「そうしよう!あ、でも」

 弥に続きリリアも賛同したが、急に止まった。

 「でもこれって、内扉で繋がった2つの教室を取れたらって話よね?もし取れなかったら無理よ?」

 「それは心配ない。部活別の出し物の企画書を提出する時には使いたい教室とその理由も書ける。更に提出する時に口頭でうまく丸め込めればいいし、その辺は俺の得意分野だからな」

 自分で思うのもなんだが、俺は口はうまい。

 「そっか。じゃあ任せたわよ、部長!」

 「おう、任せとけ」

 リリアの期待の笑みに俺も笑顔で返し、早速企画書を書き始めた。


 **********************


 次の日。

 企画書を提出した時に、やはり内扉の教室の競争率は高いということで、翌日に希望の部活と同好会の代表者同士で話し合うこととなった。

 そしてその翌日、口喧嘩でなら負け知らずの俺はバドミントン部に見事に吉報を持ち帰った。

 その日からは部活を全て午前練にして、午後からは予算の使い方や教室内の仕掛けの配置を検討し、夏休みが明ける頃にはすぐに準備に取り掛かれる状態になっていた。


 始業式の日。

 この学校では早速文化祭の準備が始まった。

 俺はクラスではかなりハブられた状態だったので、うまくクラスを抜け出して部活のほうの準備に取り掛かれた。

 ちなみにうちのクラスでは劇をやるらしく、花乃もキャストからは外れたので一安心している。

 俺は願いもせずほぼ何の役割も与えられておらず、他の4人もバラバラのセクションについたのでバド部の出し物の準備は捗りそうだ。

 そう思っていると、あいつらが来た。

 「よー、どうだ?ハヅマ」

 「とりあえず2つの教室をどう使うかを考えてた」

 俺は考えていたアイデアを話した。

 内扉は後ろの教室の前の入り口の逆サイドの前の端にある。

 受付はレーザーとお化け屋敷の両方の受付を兼ねるために大変そうだ。

 レーザーは後ろの教室、お化け屋敷は前の教室を使い、お化け屋敷の出口は前の教室の後ろ出口を使う。

 お化け屋敷を客が出たら後ろの教室に分かるように紐とベルで仕掛けを作り、後ろの教室にいる受付はそれを確認したら後ろの教室の前の入り口を開けてお化け屋敷の客を入れる。

 レーザーの客はその場で見てられるから問題なし。

 「てな感じでどうだ?」

 「んー、かなり複雑だがまあ了解した」

 「んー、難しいからあとで説明し直してよ、マーちゃん」

 「へいよ」

 「で、次は何すんの?」

 花乃が訊いた。

 「次はこれだ」

 俺は夏の間に決めたそれぞれの間取りを描いた紙を取り出した。

 レーザーは単純なM字コース、お化け屋敷は方向感覚を狂わせて恐怖に陥れる迷路のようにした。

 「これを元に間取りを測るんだ。それで通路を作る木材やイスがどれくらい要るか測る。夏の間はこの教室に入れなかったから今からパパッとやっちまおう」

 「はーい」

 花乃が返事をしたところで俺はメジャーを2つ取り出した。

 お化け屋敷の通路は木材で作るが、レーザーの方はレーザー設置の関係でイスや机の脚を拭いてテープで固定して通路を作る。

 ちなみに役割は、弥が受付、フーがレーザーのワーカー、俺とリリアと花乃はお化け屋敷のワーカーだ。

 これから文化祭当日までにやることは、通路作り、レーザーの設置、レーザーの景品集め、お化けの仕掛け作り等だ。

 30分かけて必要な木材とイスの数を割り出し、生徒会の協力を得てイスを大量に導入し、俺とリリアはお化け屋敷用の木材を買いに出た。


 「ふんふんふ〜〜ん♪♪♪」

 買い出しに歩いている途中、リリアは楽しそうに鼻歌を歌っている。

 吸い込まれそうな歌声を止めるのを躊躇いつつ俺は訊いた。

 「そんなに楽しいのか?」

 「そりゃもちろん!こんなに楽しみなのは本当に久しぶりよ!やっぱりこの学校にしといてよかったわ」

 「この学校は色々豪華だからなぁ。その分校則も厳しいけど」

 「それを差し引いてもいい学校よ、星藍は。でも何でここまで気前のいい経営してるのかしらね、星藍の理事長も」

 「内申面でやりやすいからだろ。生徒の良いところを色んなところで引き出せばそれだけいい内申もつけられる。まあ元々金があったからできたことなんだろうな。イベントの豪華さとかが入学希望者を増やし、定員を増やし、更に金が入るようになる。いい仕事だぜ全く」

 「そう思えばすごくラッキーよね、リリ達。この学校の倍率すごかったじゃない」

 「ははっ、確かにな」

 「ふふっ、でしょう?」

 「まあバドミントン部がなかったことも幸いしたかもな。お陰で楽しくやれてるし、部長になった分内申もあがる」

 「そういえばハヅマ君って内申のこと結構気にしてるわよね。なんで?」

 「俺の行きたい大学のために必要なんだよ」

 「へぇー、もう大学決まってるんだ。まあハヅマ君頭もいいしね」

 「そりゃそうさ。なんたって俺、小学生の時から夢が決まってたんだから。そのために必死こいて勉強したよ」

 「で、友達少ないんのよね」

 「う、それに触れるな」

 「あはははっ!ごめんごめん」

 「ったく…」

 「でもどうせなら友達いっぱい作ればいいのに」

 「いいんだよ数なんて。本当に気の合う確かなダチがいれば」

 「おおー、ちょっと迷言」

 「…お前その『めいげん』は迷うのほうだろ」

 「気のせい気のせい。それはともかく、バドミントン部員がもっといればワタル君の提案したメイド喫茶とかもできたのにね」

 「まあそれはそうだが」

 「でも実際は意外と出来たのかもね、5人でも」

 「いや、さすがにむりだろ」

 「そう?男の人は執事の服でやったりして」

 「半数近くが執事なのはメイド喫茶というのか?」

 「じゃあ男2人もメイド服とか!ワタル君とか似合いそう!ほら想像してみて!」

 「いやそれは……いや、あいつの顔って中性的だしなぁ。あいつは嫌がったろうけど、俺も」

 「そう?ハヅマ君も結構似合いそうだけど。ほら想像してみて?ハヅマ君のメイド服姿」

 「そんなもん想像すんじゃねええええええ!」

 「あはははははははははははっ!」

 「…ったく…ふふっ」

 何がそんなに可笑しいんだか。

 まあ、悪い気はしないけどさ。

 

 材木屋に着いてからもリリアは楽しそうだった。

 どういう風にするのかを考えるのが楽しいのだという。

 

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