第14話
第14話 もしかして2?
リリアが風邪から復帰したのは2日後だった。
だが、その頃にはお盆休みに入っていて学校は閉鎖していたので、弥たちで近くの体育館を借りてブランクが出ないように練習していた。
俺は訳あって参加しなかったが。
そしてお盆が明けた初日の午後練習。
俺はフーと登校したのだが、いつものように電車ではない。
校門のところでリリアと遭遇した。
「リリアー、おっはー」
「リアちゃーん!」
「あ、ふゆえ!?」
リリアは俺たちに振り返ると、挨拶を中断して驚いた。
まあそりゃそうだ、だって俺たちバイクで登校してんだから。
もっともフーは俺の後ろに乗っているだけだが。
「ど、どうしたのそれ?」
リリアは尚も驚いた様子で訊き寄ってきた。
「お盆に免許とったんだー。いいだろ」
「この学校ってバイク通学OKだったの?」
「家が遠くて特殊な理由があると許可出んの。言い訳つけやすい別荘買って、そこの住所でバイク通学の申請したら通った」
「へぇー、ハヅマ君もワルよのう」
「ははっ、どんなもんよ」
とりあえず俺はそこでフーを下ろし、注目を浴びる中を通って俺は駐輪場にバイクを置いた。
そして体育館、準備中。
「それにしてもいいよなーバイク」
「ルンルンは取らないの?」
「親の許可が出ない。講習代もバイク代も出さないってよ」
「まあ通学で使えたら便利よね。ねーハヅマ君、明日から乗っけてってよー」
「むーり。通学で乗せるのはフーだけだ」
「さっすがマーちゃん、わかってるぅ!ね、今度あれ行くからね。約束の」
「あー、良いぞ」
「え、何だよ約束のって」
「バイクの免許とったら遠いとこにある焼肉屋に行こうって言ってたんだ」
「えーいいなー!リリも連れてってよー」
「悪いが2人って約束でね。だからリリアはおるすばん」
「でもハヅマと冬美ってホント仲良いよなー」
「あったり前じゃん!だって幼馴染だもん!」
「関係あんのか?俺は皆とも同じくらい仲良いと思うけど」
「もーそこは頷いとけばいいのにー」
「はいはい、ほら、そろそろ練習始めるぞ」
「「「「はーい」」」」
そしてそして4時間の練習、本日も終了。
「はあー、今日も疲れたー」
今日も今日とてフーが床に転がった。
「ほらほら片付け片付けー」
「うー、マーちゃんの鬼ー」
片付けを終え、シャワーを浴びて外に出るとリリアがいた。
「おーお前いつも思うけどシャワーあがんの早いな」
「まあね。それよりハヅマ君さ」
「うん」
「今夜の夏祭りって行く?」
唐突にリリアが投げかけた質問に俺は問い返した。
「え、今日どこかであんの?」
「うん、多摩川で」
「へぇー、て遠くね?」
「そんなことないでしょ。隣よ?」
「まーなぁ……て、お前それに行く予定?」
「うん。皆も誘えたらって思って。急かな?」
「んー、まあいんじゃね?基本皆ヒマだし。まあ花乃は変装してかなきゃだけど」
「それもそうね。まあ皆が出てきたら誘うわ」
「りょーかい承知の助。じゃあさ、俺フーが出てきたら帰るから、弥と花乃に伝達よろ」
「りょーかい承知の助」
悪戯っぽく笑いながらリリアは俺のマネで敬礼した。
**********************か
あの後リリアから電話があり、恵比寿に集合してから電車で祭りに行くことになった。
恵比寿駅に着くと、既にフーと俺以外の3人は揃っていた。
「おー、待たせたなあ。てか、花乃は浴衣じゃねえんだ」
「変装の関係で帽子に眼鏡を身につけるから、組み合わせ的に浴衣はおかしいなって思って。ルンルンも私服だけど」
「そりゃ男の浴衣なんてろくなもんじゃない。浴衣は女の子が来てこそだ!」
相変わらずチャラいことを言っているが、その発言は少し微笑ましかった。
大方、変装の都合上浴衣を着れない花乃を差し置いて自分だけ浴衣を着るわけにはいかないと気を遣っているのだろう。
そして………。
「リリアは浴衣だな」
「う、うん…どう?」
リリアは軽く両手を広げて訊いた。
「ああ、まあその、似合ってる」
「えへへ……ありがと」
素直な感想を述べたが、3人はニヤニヤ笑っていたので早々に電車に乗せた。
5人で電車に揺られて数分後、多摩川到着。
「うおー、賑わってんなあ」
弥がおっさんみたいな感想をスルーして俺が皆に訊いた。
「じゃーまず何行く?」
「「「焼きそば!」」」
すると女子3人はハモって答えた。
「ん、じゃー行くか」
だが、焼きそばはどこもかなり混んでいた。
「これ焼きそば無理じゃね?」
「ハヅマ、諦めたらゲームセットだぞ」
「つってもこれ無理っしょ。このままじゃ何も買えねえし、俺唐揚げ食いてえ。ちょっと行ってくら」
「あ、リリも欲しい!一緒に行こ!」
「おう。お前らー!あの肉巻きの店の裏に集合なー!」
「おーう」
無理でした。
唐揚げは買えたが、集合場所になんて人が多すぎて全く行けん。
無理矢理なら行けたろうが、リリアが痴漢でもされたら困る。
俺とリリアは人混みに流されてかなり遠い所に来てしまった。
「電話繋がんねー」
「皆電話とかしてて電波混雑してるのよ、きっと」
「とりあえず肉巻きの店の裏に集合ってことになってるし、フーとはこういう時はそういうのに従えって言ってあるからそこ行こう」
「でもだいぶ流されて、そのお店の場所もわかんなくなっちゃったわよ?」
「まーそこは何とかなんだろ…と、弥から電話だ」
『もしもーし』
「もしもし?どう?肉巻きの裏に行けそう?」
『無理。流されて場所わかんなくなった。だからさー、今日はもうこのメンバーにしね?』
「は?どゆこと?」
『これじゃ合流すんの無理だから、このメンバーに分かれて行動して、それぞれで解散ってことで』
「んー、まあいいけど、お前らはそれでいいのかよ」
『ああ、また今度どっかで祭りあったら5人で回ろう。とりあえず今日はこのメンバーで』
「ああ、わかった」
そう言って俺は電話を切った。
「あいつらも場所わかんなくなったらしいから今日はこのメンバーに分かれて回ろうってことになった」
「そ、そう。じゃあまず、どうする?」
「とりあえず喉乾いた。ラムネ買いたい」
「わかった」
「やっとラムネ買えたけど、これ開けんのメンドクセーんだよなー」
「?これどうやって開けるの?」
「知らねえのか?上のビー玉を押し込むんだよ……と、開いた開いた」
「へぇー、今までペットボトルで買ってたからこんなの初めて」
「でも一回くらい見たことないのか?」
「うん。そもそもリリ、お祭りに来たこと自体そんなにないから」
な、なんかまた踏み込んだことをきいたか…?
「そっか……まあじゃあ、来年はまた来ような」
「うん………て、これ固いわね」
「力ずくでやるしかないことだしな。これ持っといてくれ。で、それちょっと貸してみ?」
「うん、ありがと」
俺は自分のラムネをリリアに渡し、リリアのラムネを開けた。
「よっと……ておわ!?」
「きゃあ!?」
俺がラムネのビー玉を押し込むと、ラムネは飲み口から勢いよく噴き出した。
「あーもったいねえ!それやるからこれ飲むぞ!」
「あ、う、うん!」
俺は噴き出すラムネを慌てて口に運び、何とか全体の1割程度を残して無駄にせず済んだ。
「あーあぶね。お前これ、もしかして振った?」
「え?ううん?」
…あれ、なんかこいつ白々しいな。
まさか……………。
「…お前これわざとだろ」
ていうかよく見たら笑いをこらえてるし。
「あははははははははっ!ごめんごめん冗談!一回やってみたかったのよ」
つまりこいつはわざと振ってわざと俺に開けさせたってわけか。
「お前なぁ………ははっ、まあいいけどさ」
まあそんなに怒ることでもないか。
それに………なんかこの笑顔を見ると憎めない。
て、たかが冗談半分に何真剣に考えてんだ。
「あ!金魚掬いが安い!あれやりたい!」
「一回100円か。あれって安いのか?」
「安いわよ!だってさっき300円の屋台もあったもん!ほら、行こ行こ!」
「お、おおい引っ張んなっての」
そうして金魚掬いに挑戦したわけだが、こいつはことの外下手だった。
「あー、また!もーこんなのとれるのー!?」
「『絶対取ってやるわ!』とか言ってたのはどこのどいつだよ」
「世界のどこかにいる誰かよ」
なんだそりゃ。
「へいへい…てか椀を水面近くまで持ってこいよ」
「あ、なるほど!そうだ!カットみたいにやろう」
「は?カット?」
「そう!見ててねー…ほっ」
リリアはポイを鉛筆のように持ち直し、水面に対し斜めに構えるとポイの側面を斜めにダイブさせた。
結果、近くで構えていた椀に金魚が飛び移った。
「ほら!すごくない!?」
「おおすげえ!何今の!?」
「まだまだー!ほっ」
「おおー!また入った!」
「ね!すごいでしょ!?」
「おおすごえ!おっちゃん!俺もやる!」
「あいよ!」
見たことのない金魚の掬い方に俺まで情けなくはしゃいでしまい、俺は100円を手放して金魚掬いに参加した。
「あはっ、見てられなくなった?」
「何かやりたくなってきた!ほっ。おーいけた!」
「ね!ね!すごいでしょ!?」
「おお、ちょっと勝負しようぜ!負けた方がなんか一個おごりな!」
「いいわよー!ほっ。ほら!3匹一気!」
「まじ!?」
その後も忙しなくはしゃいでしまい、9ー6でリリアの勝ちとなった。
金魚は飼うことも出来ないので屋台に返した。
「ふっふっふー、どうよハヅマ君」
「はー、何か金魚掬いであんだけ盛り上がったの久しぶりだったなー」
「ねー。あ、ハヅマ君!かき氷おごって!」
「はいよ、罰ゲームな」
リリアはメロン味を選び、ついでに俺もレモン味で食べた。
「うあっ、きた〜〜〜!この頭にくるやつ!」
一口目でリリアは定番のリアクションを見せた。
「そうか?俺あんまりこないけど」
「うそー?これがかき氷を食べる時の幸せだっていうのに、損な人ね」
「痛いのが幸せなんて…ひょっとしてマゾか?」
「な!?ち、ちがうわよ!」
「ははははっ、うそうそ」
「むー。あ!次あれやりたい!輪投げ!」
「オーケー」
そんな感じで挑戦した輪投げ。
今度もこいつは苦戦するかと思ったが、意外とうまかった。
「やったー!一等賞!」
「お、お前うまいな。俺五等だったのに」
「ふっふっふー、やるでしょ。ハヅマ君も欲しい物あったら取ってあげるわよ?」
「そうか?ならあの目覚まし時計を」
「よしきた!ちゃんと見ててよね!」
「おう」
そうして再挑戦したリリアは、これまた難なく目覚まし時計を手に入れた。
「お前ホントにうまいな…」
僅かに感嘆しながら俺は褒めた。
「でしょ?これからは撃墜王と呼んでよね!」
「輪投げで撃墜王とは…ん?」
言いながら歩き出した俺は、妙な屋台を見つけた。
「どうしたの?ハヅマ君」
「なあ、あれちょっと行ってみないか?」
「ん?どれどれ?」
俺が指差して向かったその屋台は『忍チャレンジ』という名前だった。
忍…というと忍者か?
「あらあんちゃん、やってくかい?」
屋台の前で屋台の意味を考えていると、その屋台のおばちゃんが声をかけてきた。
「なあおばちゃん。これって何やるんだ?」
俺がおばちゃんに訊くと、
「これは手裏剣で的を狙うんさ。3回投げて点数稼いで賞品ゲッチュ!てわけだガハハハハハハハ!」
説明を終えるとおばちゃんは愉快そうに笑った。
手裏剣か………面白そうだな。
「じゃあ一回やるよ。手裏剣ちょうだい。いいよな?リリア」
「いいけど、手裏剣って危なくない?」
「どうせニセモンだろ」
「あいよ、300円ね」
俺は300円を渡し、手裏剣を3つ受け取って驚いた。
こ、これって本物……?
手に取った俺にはわかった。
その重み、鋭い刃。
投げる際に使うらしき手袋も出された。
大丈夫か……?
まあ金払っちゃったし、とりあえずやるか。
俺は手袋をつけ1枚の手裏剣を縦に構えて投げた。
手裏剣は勢いよく的に飛んでいき、トンッ、と深く刺さった。
「あらーあんちゃん筋がいいねー」
「ども」
相槌を打ちつつ俺は2枚目、そして3枚目を投げ、1枚は真ん中、2枚はその1つ外側という結果だ。
「あいよー、13点ね。二等だからそっから好きなん取っていきな」
「ほーい」
なかなか豪華なものが揃っており、俺は花乃が喜びそうなアニメグッズを選んだ。
「じゃあこれで」
「あいよ、どうもねー」
「リリアもやるか?」
「え、できるかな…あれってやっぱ本物でしょ?」
「危険があったらおばちゃんもやらないだろ。大丈夫だって」
「う、うん…じゃあやってみよっかな」
そうしてリリアも挑戦し、必死こいて1枚2枚を投げたところで3点だった。
「頑張って5点いこうぜ」
「う、うん…それっ」
だが、リリアが投げた3枚目はそれておばちゃんの顔に飛んで行った。
「キャア!しまっ…」
「ほっ!」
だがおばちゃんは思いも寄らない反射神経の白刃どりで手裏剣を止めた。
「ひっひっひっひ、老いさらばえても腐ってはおらんな」
……………このばあちゃん何もんだ?
結局縮み上がったリリアは3枚目をキャンセルし、参加賞のティッシュを貰った。
「なかなか刺激的な屋台だったな」
「もう、心臓に悪いわよ……」
「はははっ、まあいいじゃねえか。あいつらにいい土産話ができた」
「それはそうだけど……あ、射的!あれやろ!」
急に元気になったなこいつ。
まあいいか。
「おう」
だが、射的ではリリアも苦戦した。
「あーもう、何で落ちないのー?」
「まだやんのか?もう900円投資したぞ」
「だってあのライオン欲しいんだもん」
どうやらリリアはライオンのぬいぐるみが欲しいらしい。
ライオンに弾が当たりはするのだが、台から落とさなければならないらしく、苦戦一方なのだ。
「…しょうがねえな。おっちゃん、こっち一回」
「あいよ」
俺は300円を払ってコルク銃を受け取り、斜めからライオンに狙いを定めた。
そして、リリアがライオンに弾を当てたタイミングを狙って追い討ちをかけるように俺もライオンを狙撃し、ライオンは台から落ちた。
「おー、ライオンゲット、おめでとう!」
おっちゃんはライオンを拾い、俺に渡してきた。
「どもっす……ほらよ」
俺は受け取ったライオンを隣のリリアに差し出した。
「え?いいの?」
「ああ、欲しかったんだろ?」
「……うん、ありがとっ。すっごい嬉しい!」
ライオンを受け取ると、リリアは嬉しそうにはにかんだ。
「っ…………」
「?どうしたの?」
「い、いや…嬉しいもんだなって。喜んでもらえるのは」
「え?」
「なんでもねえ。それより腹が減った。なんか食いに行こう」
「あ、うん」
適当に誤魔化した俺にリリアも続いて、ポテトやらタコ焼きやらを食べ、8時半に解散となった。
弥たちとは駅で偶然落ち合い、一緒に帰る途中に土産話を聞かせあったのだった。