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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
12/19

第12話

第12話 合宿


 夏休みが始まって1週間が経過しようとしていた。

 今日からはいよいよ、夏の合宿。

 5人全員で楽しみにしていたこのイベントには俺も心を躍らせていた。

 新幹線に乗って合宿先である静岡に到着した。

 既にプライベートビーチ付きの別荘を購入しており、誰憚ることなく合宿に臨め、遊べる。

 付き添いでの先生もいないしな。

 「「海だーー!!」」

 駅から数十分歩き、別荘と海が見えた途端にリリアと花乃が叫んだ。

 リリアはTシャツを脱ぎ捨て、花乃も変装をといた。

 「おーい、まずは別荘の中に荷物入れろー」

 俺の言葉に2人は渋々こちらへ戻り、寝室に移動した。

 「ここが女子の部屋だ」

 「へえー!広ーい!」

 「ベッドもふわふわよ!ほらほら!」

 こんなところでも花乃とリリアははしゃいでる。

 俺と弥は男子部屋に荷物を入れ、水着に着替え始めた。

 「そういや、今日も練習すんだよな?」

 「ああ、今が9時だから……2時くらいまでは遊ぶが、そっから3時まで休憩して練習だ」

 「結構長く休憩すんだな」

 「まあな。近くの体育館を既に抑えてる。6時半くらいまで練習する」

 「それから夏休みの宿題だよな?」

 「ああ。晩飯は7時半くらいの予定で、そっからまた色々やって寝る」

 「肝試しやろう!」

 色々、に反応したか、弥が急に叫んだ。

 「まあ考えとく。ほらさっさと行くぞ」

 早めに着替え終えた俺はパラソルとイルカを持って一足早くビーチに向かった。

 日焼け止めを塗るのも面倒なので、生地の薄いラッシュガードを着て外に出た。

 別荘についているウッドデッキからはビーチに短い階段が伸びている。

 パラソルとイルカを置き、シートやらを取りにその階段を2往復くらいした頃に皆も出てきた。

 「おい!リリアちゃんの水着ってお前が選んだのは本当か!?」

 階段を下りるなり、小声で弥が話しかけてきた。

 「ああ」

 「………お前、わかってんじゃん!」

 急に訳のわからないことを言いつつ弥は肩を組んできた。

 リリアを見ると…今日も今日とて似合ってんなぁ。


 「ひゃっほーーーーーーーーう!!」

 早速遊びタイムが始まって、弥は海へサーフボードと共に飛び出した。

 「へぇーっ、ワタルくんサーフィンできるんだー」

 「あれでもかなりサーフィンうまいからなぁ…て、お前なにやってんだ?」

 「浮き輪膨らましてるの。これ噛むのがなかなか続かなくて」

 言うとリリアは浮き輪の吹き込み口を咥え、フーフー吹き込み始めた。

 全く進まねえな……。

 ……………………。

 「…良かったらやってやろうか?」

 「え、いいの?先に海に入っててもいいわよ?」

 「うん、いい」

 「…そう…じゃあよ、よろしく」

 リリアは若干下を向きながら浮き輪を差し出した。

 「おう」

 俺はそれを受け取り、吹き込み口を咥え……て待て。

 これってさっきまでこいつが咥えて………!

 「ヒューッ、ハッチやるぅー!」

 「うっせ!」

 「キャハハハハハハ!」

 花乃がいきなりの一撃を喰らわせ、からかいながら海へ入っていった。

 「ったく、あいつは………」

 まあもう咥えちまったしいいや。

 俺は思い切り息を吸い込み、バドミントンで鍛えた肺活量を2回爆発させて浮き輪を膨らませた。

 「ほらよ」

 何となく顔が明後日の方向を向いたまま浮き輪をリリアに返した。

 「あ、ありがと」

 リリアはまたも下を向きながらそれを受け取った。

 「マーちゃん!早くきなよー!」

 「おーう。じゃ行こっか、リリア」

 「うん」


 それから約4時間ほど遊びほうけていた。

 フーと弥が競争してたり、俺が砂城の下に敷かれたり、スイカ割りでリリアが弥を殺しかけたり、俺と弥がショーで飛び込みしたり、でかめの浮き輪ボートで競争したり。

 昼飯を挟んで2時になり、小一時間休憩してから近くの体育館に移動して練習をした。

 遊んだ後で士気は低かったが、嘘の罰ゲーム宣告であいつらが必死になったのは俺の中だけの笑い話となった。

 そうして3時間半の練習を終えた頃は全員かなりヘトヘトで、花乃がため息をついた。

 「はぁー、もうダメだー」

 「だらしねぇなー。インハイ本戦に出たらこんなもんじゃ済まねえぞ。ほら晩飯係、食材の調達いくぞ」

 「はー、ちょっと待ってー。リリもクタクタ」

 晩飯係というのはリリアのことだ。

 家では毎日自分が作っているらしい。

 リリアの学校での弁当はかなり美味そうで前々から気になっていたのだ。

 今日こそはありつける。

 俺とリリアはこれから歩いて少しのところの商店街で食材の調達に向かう。

 「フー達3人は先に別荘に戻っといてくれ」

 「へーい」


 

 約30分後に別荘に戻ると、3人はインテリアで夏休みの宿題をしていた。

 4人とも冷静に考えればそんなに疲れてないらしく、リリアも早速晩飯に取り掛かった。

 そして出てきた晩飯は超うまかった。

 数十分で出来た飯を平らげた頃には8時半を回っていた。

 「ねーマーちゃん、今日はこれからどうするの?」

 「んー、なんか余興でもやるか、夏休みの宿題を進めるか、どっちがいい?」

 「「「「余興」」」」

 俺以外の全員が口を揃えて答えた。

 「いいハモリだったな」

 「宿題はもうたくさん。てゆか、なんかスケジュール表みたいなの作らなかったの?」

 俺のハモリに対する感想をスルーして花乃が訊いてきた。

 「だって作ったってどうせそんなに意味ないだろ。結局その時その時でやりたいようにって変わるんだろうからな」

 「確かにねー。で、余興って何やるの?」

 「怪談or肝試し!」

 花乃の質問に弥は元気よく答えた。

 「肝試しは準備できてないから無理だが、怪談ってのは定番だよな」

 「えー?フーそういうの苦手なのに」

 「そんなこと言うなって。怪談は日本が誇る夏の風物詩だぞ!冬美もこの辺で慣れとけって」

 「日本が誇るってのはいいすぎでしょ。まあ怪談はリリもあんまり得意じゃないけど賛成よ」

 「私もー」

 リリと花乃も賛同し、フーも渋々折れた。

 「よーっし!じゃあ電気消そうぜ!ロウソク持ってきたし!」

 「準備万端すぎだろ。じゃあ今が8時半過ぎだから9時15分くらいまで時間をとって、その間に怪談話を話せるやつからどんどん話していこう」

 「言っとくけどフー怪談話なんてないからね?」

 「おう」

 そんな感じでロウソクに火がつき、部屋の電気を消した。

 「おおー、なんか本格的ね」

 リリアがその雰囲気に早くも感想を述べた。

 「確かにな」

 俺も同意する。

 「それじゃあ口火を切った弥から行こうぜ」

 「了解。ふっふっふ、じゃあせっかくのトリだし、最初から上げめでいくか」

 「全くトリじゃねえだろ」

 俺は冷ややかにツッコんだ。

 「ふっふっふ、まあご静聴あれ………ある所に6人の大学生がいた。6人の内の1人、Aはスキーの穴場スポットを見つけたという話を持ち込み、冬休みにそこで6人でスキーに行く事になった」

 おお………雰囲気ある喋り方。

 こいつ変な特技多いよな………。

 「スキーに来た6人は遅くなるまで滑り続け、日も沈み始め人も少なくなった時、最後に1番長いコースを滑ろうということになった。そして6人は滑り始めたが、妙な事になった。何といつまで滑っても下に着かない。どころか、さっき通った所をまた通った。いつまで滑っても下には着かない。これはと思いAは5人を集めたが、そこでまた妙な事が起こった。何と6人の内の1人、Bがいない。手分けして探すこととなり、約一時間探したがBは見つからない。山からも下りられない、Bもいない、周りに人もいない。どうしたものかとAを始め4人も狼狽えた」


 その時、俺の右手が何か小さく柔らかいものに包まれた。

 それは、隣に座るリリアの手だった。

 その表情は固く怯えているようで、手は小さく震えている。

 俺は思わず手を上に向けてその手を握り返した。

 そのことにリリアも気づいた。

 「………ありがと………」

 リリアはうつむき、囁き声で礼を言った。

 弥の話は続く。


 「だが、Cは小屋を見つけたという。この状況で出来ることはそこで雪と風を凌ぐことだけだった。早速その小屋へ行き、中へ入るとAはリュックからコンビニのパンやおにぎりを出した」

 リュックはどこから出てきた、とツッコむのはKYというものだろう。

 「小屋に入って2、3時間が経過した時、戸を叩く音がした」

 弥はコンッコンッと机を裏拳で叩いた。

 「DはそれがBだと思い、戸を開けようとしたがAはそのノックを不自然に思った。なぜ何も言わないのか、なぜ普通に戸を開けようしないのか。不明な点が多い。Aは戸に向かってこう訊いた、『おーい、Bなのか?』。その答えは…」

 コンッコンッ。

 弥が机を叩く音。

 「…戸を叩く音だけ。Aは再び戸に向かって訊いた、『もしかしてレスキュー隊の人ですか?それとも遭難者ですか?』。その答えは…」

 コンッコンッ。

 「…またも戸を叩く音だけ」


 その時、右手を握る力が強まった。

 リリアは固唾を飲んで怯えている。

 …そんなに怖いかなぁ?

 とりあえず俺も手をほんの少しだけ強く握り直すと、リリアの表情は僅かに固さを失った。

 弥の話はさらに続く。


 「これはあまりに不自然だ、ということになり、Aは戸に向かって話した、『では、これから幾つか質問をするので、YESならば1回、NOならば2回戸を叩いて下さい。よろしいですか?』」

 コンッ。

 「相手の了承を確認しAは質問を始めた。『まず、貴方はBですか?』」

 コンッコンッ。

 「どうやらBではないらしい。ならばレスキュー隊か。『では、貴方はレスキュー隊の人ですか?』」

 コンッコンッ。

 「レスキュー隊でもないらしい。と、そこでAは思った。さっきから『貴方は』と訊いているがそもそも相手は1人なのか、それとも多人数なのか。気になって訊いた、『貴方は複数の人と一緒にいますか?』」

 コンッ。

 「どうやら複数人らしい。しかし、ならば気になることがある。『貴方は声が出ないのですか?』」

 コンッ。

 「声が出ないらしい。では、複数人いながら、なぜ他の人は声が出ない人に戸を叩かせるのか。他の人も全員声が出ない?いや、そんなことあり得ない。ならば一体なぜ……?」


 ……こいつ本当に怪談話す時だけは真面目だなぁ。

 そんなことを思っていると、またも右手を握る力が強まる。

 リリアは心底怯えた表情で弥を見ている。

 もう結構泣き出しそうで、俺の手を握るリリアの手には、本人でも無自覚のうちに縋り付くような思いが余さず集約されていた。

 何とかしてやりたいが、どうしたものか。

 ………俺が無理矢理思いついたことは、リリアの手を両手で包むことだけだった。

 前にもこんな感じがあったな、自分の考えの浅ましさを恨めしく思うこの感じが。

 リリアは俺の行動に少々驚いた様子を見せたが、次の瞬間にリリアはその小さな体を俺の体に寄せてきた。

 胸のどこかで弾んだような気持ちを抑え、弥の話に再び耳を向ける。

 

 「これはあまりにも不自然すぎる。複数いて全員声が出ない、そんなことが……Aはいよいよ勇気を振り絞って訊いてみた」


 『貴方は……人間ですか?』


 コンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンッッ!!!


 「「「きゃーーーーーーーーーーーー!!!」」」


 弥は最後の質問の答えに机を盛大に打ち鳴らし、女子3人は悲鳴をあげた。

 弥の話は続く。

 「何とその小屋は、昔その雪山で遭難した人達の霊で取り囲まれていた。霊達のみぞ知ることだが、その中にはBの霊も混じっていたという………」

 最後の一撃を浴びせ、弥はスタスタと電気のスイッチのところまで歩き、部屋の電気をつけた。

 「どうだ?怖かっ…」

 弥は感想を求める途中に、俺を見て言葉を失った。

 理由はただ1つ、怯えきったリリアが俺にしがみついていたからだ。

 「あ、あのーリリアちゃん?そんなに怖かった?」

 弥は恐る恐るリリアに訊くと、

 「あっ、ごっ、ごめん!」

 リリアは我に返って俺から離れた。

 俺は怪談とは別の意味でドキドキが止まらない。

 「ハヅマハヅマ」

 すると弥が小声で耳打ちしてきた。

 「感謝しろよ」

 ニヤニヤ顔と訳のわからないことを言いながら弥は親指を立てた。

 「うっせ」

 ぶっきらぼうに返し、弥は皆に訊いた。

 「さて、次は誰が行く?」

 「そ、その前にちょっと休憩しようよ。腰が抜けちゃって………」

 女子ってのは怖がりだなぁ。

 

 その後は俺と花乃が1回ずつと弥がさらに2回怪談を披露してお開きとなった。

 あとの時間は宿題を少し進め、トランプなどで時間を潰して10時半過ぎに寝た。

 やはり皆疲れているし、早めに寝よう。


 だが、俺は1人で夜中に起きた。

 もともと体力のある俺は1日3時間の睡眠で十分のため、1人起きて個人の勉強を始めた。

 個人の、というのは、学校にも全く関係のない勉強だ。

 3時前になったある時、インテリアに入る人影があった。

 「リリア。眠れないのか?」

 「う、うん…ハヅマ君も?」

 「俺はもともと睡眠時間短いんだよ。で、今はちょっと本読んでた」

 「へぇー、何の本?」

 「動物の本」

 俺の答えにリリアは少々驚いたようだ。

 「め、珍しいわね。ハヅマ君がそんな本」

 リリアは俺の隣に少し間を空けて座った。

 「そうでもねえよ?俺はもともと動物大好きだからな」

 「へぇーっ、意外!どんな動物でも?」

 「まーそうだな。人間にない可愛さというか」

 「わかるわかる!リリ犬とか猫とか好き!」

 「ど定番だな」

 リリアはさっきから高い声で騒いでいるが、どういうわけかこのインテリアは防音性が高く、あいつらを起こしてしまう心配はない。

 「…ね、ハヅマ君」

 「ん?」

 「…ありがと」

 「は?」

 なんかまたわけわからん言葉が飛び出した。

 「今日楽しかったのはハヅマ君のお陰。リリが………楽しくバドミントンできるのはハヅマ君のお陰なの。だから…ありがと」

 「……別に俺はガチで何もやってねえだろ?皆と一緒だから楽しいんだよ、きっと」

 「もちろんそれもある……けど、リリが1番感謝してるのはハヅマ君なの。だから、ありがと…おやすみ」

 「あ?ああ」

 そう言ってリリアはインテリアを出た。

 …何だったんだ一体。



 その翌日、波乱に満ちた練習と海、夜にBBQと花火を催し、夏の第1回目の合宿は幕を閉じた。

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