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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
11/19

第11話

第11話 もしかして初?


 夏休みになった。

 星藍の夏休みの宿題はかなり多いが、個人の勉強と仕事を全て無視して取り掛かった結果、3日で満了。

 今日からは部活と仕事と勉強に集中できる。

 と思いきや、

 「ねえ、ハヅマ君」

 「ん?」

 午前練の終わった直後、リリアが声をかてけきた。

 ちなみに今日は第1体育館が使えないらしく、バレー部や体操部まで第2体育館を使うらしく、今日の練習は8時から10時までと短くなったのだ。

 「今日の午後からってさ、ヒマ?」

 「んー、特に何もないな。なんでだ?」

 「じゃあさ、その………プールに行かない?」

 「は?」

 また唐突な誘いが来た。

 「今度合宿で海いくでしょ?けどリリ、あんまり泳げなくて」

 誘いではなかったみたいだ。

 まあ、どちらでもいいのだが。

 「そっか。てかお前、泳げないのに海行くのではしゃいでたのかよ」

 「ま、まあね。とりあえず、どう?」

 「ああいいよ。皆は誘うのか?」

 「ううん、2人だけで。だって、泳げないなんて知れたらその……恥ずかしいし」

 「そんなに恥ずかしいことでもないだろ。てか俺に知られたのは恥ずかしくないのか?」

 「……んー、どうだろ。わかんない」

 するとなぜかリリアは笑った。

 なぜこのタイミングで笑う?……なんて疑問はすぐには起きなかった。

 「まあいいや。じゃあ帰って準備したらすぐ代々木駅にきてくれ。先に着いたら連絡いれてくれ。昼飯は向こうで食おう」

 「りょーかいっ」



 そんな感じで1時間後。

 代々木駅に来たら、既にリリアもいた。

 到着の連絡はさっきもらっている。

 「よう、待たせたな」

 「あ、ハヅマ君!ううん、リリアも今来たところ」

 まあ確かに連絡もらったのはつい先ほどだが。

 てか……なんか今のやりとり照れたな。

 「で、どこのプール行くの?」

 「まあ待て。そろそろ……お、あれか?」

 話していると、俺達が今日行く公園プールへ向かうバスが来た。



 バスに揺られて数十分後、目的地に到着。

 「へぇー!大っきいプール!」

 「昔よくフーと来てたところだ。うちの生徒でもなかなか知らない穴場なんだぜ」

 少し得意げに話す俺。

 中に入り、プール内にある焼きそば屋を集合場所にして更衣室に入った。


 そしてさらに数分後。

 俺は早めに出てきてリリアを待っている。

 ………そういえば水着どうなったのかな。

 一応俺が選んだのだが、俺はその水着を着たリリアの姿をまだ見ていないのだ。

 あの後、結局近場の水着店では決められず、芸能プロからもらった雑誌を見て決めたのだ。

 あれからリリアからは、サイズ的にバッチリで大丈夫という話は聞いていたが、さてはて似合うのかどうか。

 うんうんと唸っていると、後ろから声。

 「お待たせ、ハヅマ君」

 咄嗟に速い動きで振り返る。

 …………滅茶苦茶似合っている。

 やっぱこいつ、普通にかなり可愛いんだよなぁ……。

 「え、な、かわ………/////」

 あれ、なんかリリアが赤くなって狼狽えている。

 まさか………。

 「あ、あのー、どした?」

 「い、いやだって、今ハヅマ君、可愛いって…/////」

 ……………………………。

 ノオオオオオオオオオ!!!

 やっぱ口に出してたあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 「い、いや言ってねえよ!!喉乾いたっつったんだよ!!」

 「え、へへぇ?そうなの………?」

 なんかわけわからん動揺をしている。

 クッソ、迂闊だった………。

 「ま、まあとにかく練習すんだろ?ほら行くぞ」

 「あ、う、うん」

 強引に話を打ち切って、さっさとプールに入る。

 一瞬ニヤニヤこちらを見る女子大生が視界に映ったが、もはやどうでもいい。

 「で、泳げないってのは全くなのか?」

 俺は近くのでかいプールに入りつつ訊いた。

 「うーん、全くってことはないけど。あのさ、普通って浮くの?」

 なんか曖昧な質問がきた。

 「んー、まあ普通にしてれば浮くな。泳いでても」

 「リリもさ、普通にしてれば浮くけど、動くと絶対沈んじゃうの」

 「そりゃまた難儀な。じゃあとりあえずバタ足で補助をつけて沈まないようにしてみよう」

 「りょーかいっ」

 ピシッとした敬礼でリリアは返事をした。

 最初はとりあえず、定番の補助が手を引っ張ってバタ足するやつだ。

 俺が泳ぐ方向を背に両手を差し出すと、リリアはぎこちない手つきで両手を握った。

 うっわ……柔らけえ…。

 凄く小さい手。

 しかも、なんて表現したものか。

 小さなその手を通して、守ってあげたくなるような義務感的なものが俺の中に入ってくる。

 甘く縋りつくようなその手に、俺はしばらく我を忘れてしまった。

 「じゃ、じゃあ行くぞ」

 「う、うん」

 そのまま手を引っ張り、リリアはバタ足をする。

 そして次第に……うん、沈んでるな。

 「一旦ストップ」

 俺の声にリリアは水中でも反応し、バタ足をやめて顔を上げた。

 「確かに沈んでるな」

 「やっぱりかぁ。なんで沈むのかな?」

 「………バドミントンでさ、スマッシュの落差がつかなかったらどうする?」

 「えーとそれは…………数打って練習する?」

 「そうだ。つまりこれも………そういうことだ」

 「……まさか………」

 もうこうなったら数泳いで練習するしかない。

 俺は別に水泳教えたことなんてないが、これはそうしたほうがいいとしか思えない。

 

 その後、何度も手を引っ張って練習し、小一時間ほどで昼飯時になった。

 「もうこんな時間か。とりあえず休憩にして飯食おう」

 「うん……て、財布は?」

 あ、更衣室だ。

 「すまん、俺が取ってくるから、あの屋内のかき氷の店の前で待っててくれ」

 「わかった」

 そう言い残して俺は財布を取りに更衣室へ向かった。

 それにしても、やっぱり何度手を繋いでも全く慣れずじまいで、始終ドキドキしっぱなしだったなぁ。

 フーや花乃とならこんなことないのに………小さい頃から手を繋いでたから、あいつらだけは慣れてるってことなのか?


 財布を持って約束のかき氷の店の前にいくと、なんとリリアはかき氷をもった4人の男に囲まれていた。

 今日は客足の少ない方で周りに監視員もいないが、明らかに目立っている。

 「ねーねーお嬢ちゃん!俺らと昼飯どーよ?」

 「だーいじょぶだって!何なら焼きそばも食う?」

 「い、いえあの…」

 リリアも怯えている。

 それを認識すると、俺は焦る足取りで男4人とリリアに歩み寄った。

 「リリア」

 「!ハヅマ君!」

 ぱあっと明るく安堵した顔を浮かべたが、それを男4人はかき消した。

 「えーなになに?こんなヤサ男がツレなの?」

 「はっ、こんなの放っといて俺らと遊ぼーよ!」

 …………こいつら、永遠に主役になれないタイプだ。

 「ぁあ!?んだとゴルァ!!」

 おっと、また口に出してたか。

 男の1人の怒号に周囲の人達はビクッと体をすくませた。

 「もーいいだろ?俺は人に迷惑かけなきゃ何してもいいと思うが、迷惑かけることならその辺にしとけ」

 「…お前調子乗んじゃねえぞ?」

 頭と思しき男が、首を一捻り二捻りしながら俺に近づいた。

 つか、首捻っても鳴ってねえし。

 はぁ………やれやれ。

 深いため息をつくと、怒りの限界を見た男の1人が俺に右手で殴りかかってきた。

 だが、俺も最高球速の競技で鍛えている身だ。

 惰性に生きるやつらのパンチなど止まって見える。

 俺はその右手をかわし、相手の右側に体を寄せると、相手の体を思い切り俺の体に寄せて膝蹴りを腹に食らわした。

 「ぐはっ!」

 男はあまりの腹の痛みに地面でうずくまった。

 それを見た男の1人が、右足を真っ直ぐ俺に突き出して蹴りかかってきた。

 俺はまたも相手の右側に回り込み、軸足一本となった相手の左脚の膝を後ろから蹴った。

 「ぐおっ!?」

 相手はその場で不自然に倒れこみ、油断したところをうつ伏せに押さえ込み、相手の両手を背中で交差させて右足で押さえつけた。

 「いででででで!おい離せコラ!」

 俺は男の暴的な憤慨を無視し、残る2人を見た。

 「まだやんのか?」

 その問いに戸惑った2人は、膝蹴りをくらった男と俺が押さえつけていた男を拾い上げ、どこかへ去った。

 「大丈夫か?ごめんな、遅くなって」

 俺はリリアに向き、一言の詫びを入れた。

 「ううん、平気よ。それよりありがと」

 「おう」

 俺たちはその後、サンドやドッグや焼きそばを買い、パラソルテーブルについた。

 「それにしても驚いた。ハヅマ君ってケンカ強かったんだ」

 「まあなあ……俺のダチってさ、今のバド部員だけなんだ」

 「え?」

 突然の話に、リリアは疑問符を浮かべた。

 「俺は昔から人付き合いが下手で、何かともめててな……ケンカはよくしてたんだ」

 「へぇー。だからあんなに強いんだ」

 「まあ体は幼い頃から鍛えてたしな」

 


 その後、ゆったり飯を食べ終え、さらに少し泳いだところでクロールもできるようになった。

 「やった!今のイケてたでしょ!?」

 「ああ、やったな」

 「うんっ!」

 ついに達成した目標に喜び、リリアは弾けるような笑顔を見せた。

 また目のやり場に困らされる……。

 「まあとにかく目標達成なわけだが、もう帰るのか?」

 「んー、どうせだからもう少し遊んで行きたいな。ね、あのウォータースライダー行こっ!」

 「お、おいおい。練習後で疲れてんだし程々にしとけよ」

 「だいじょーぶよ!だって今元気だし!」

 あとで疲れがくると言っているのだが。

 まあ…今日くらいいいか。

 「…わかったよ」

 苦く笑いながら俺はウォータースライダーに足を向けた。

 「うんっ!じゃあ早く行くわよ!列が長くなっちゃうわ!」

 「ぅおっ!」

 急に俺の手首を掴んでリリアは走り出した。

 こんな調子を見てると、本当に疲れなんて溜まらないんじゃないかと思わされる。

 

 ここのウォータースライダーの迫力は結構なものだが、今日は運良く列が短くて済んだ。

 「じゃあリリが先に行くわね」

 「おう、下で待ってろよ」

 「りょーかい!じゃあいってきまーす!」

 言うとリリアは勢いよく滑り降りた。

 ものすごい速さで駆け滑り、100M弱の距離をたちまち走破した。

 「…ぉーぃ」

 スタート地点からゴールまでは結構離れているのに、ここまで呼ぶ声が聞こえてくる。

 とりあえず俺も手を振り、スタート地点に座る。

 俺もリリアのように勢いよく滑り出し、グルグルと青色のレーンを駆け巡り、息もつかない間にゴールした。

 ゴールから出たところのプールもまたでかく、リリアはその少し離れたところで待っていた。

 「あはははっ!それっ!」

 俺が水面から顔を出すと、リリアは思い切り水を浴びせて来た。

 「あ!このやろ!」

 「キャー!」

 ふざけた声でリリアに水を投げ返す。

 しばらくそこで遊び、今度は噴水や滑り台などがあるこれまたでかいプールに向かった。

 基本子供ばかりだが、リリアは人目も憚らずはしゃぎ始めた。

 「ほらほらハヅマ君!こっちこっち!」

 「え?どこだ?」

 「隙あり!」

 「どわっ!」

 「あはははははははっ!」

 入り組んだ滑り台の中で俺を迷わせ、リリアはいきなり後ろから俺を押して滑り台を滑らせた。

 俺は正面からうつ伏せに滑り降り、水から顔を上げた。

 「ぶはっ!」

 「はっはっは!甘いぞハヅマ君!」

 「にゃろう。ならば喰らえ!」

 言うと俺はポケットから2丁の水鉄砲を取り出し、低い滑り台の上にいたリリアに一斉に浴びせた。

 「きゃっ!きゃははははははっ!ていうかいつの間に持ってたのー!?」

 笑いながらリリアが訊いてきた。

 「さっき更衣室に財布置きに戻った時さ!」

 俺も笑いながら答えた。

 

 

 その後も急流すべり台やら流れるプールやらで散々遊びまくり、気がついたら5時半を回っていた。

 「あー、もう5時半か。そろそろ帰った方がいいな」

 「えー?もう?早いなー…今度は冬美ちゃんたちも連れて来ようね、ハヅマ君」

 「おう」



 帰りのバス。

 この時間なら混み合わないと思って早めの帰宅を決めたが、案の定だった。

 外はもうすっかり夕焼けだ。

 なんか…今日確か泳ぎの練習で来てたのに、完全に遊びがメインになっちゃったな。

 まあ………悪くない時間だった。

 窓の外に顔を向けて黄昏ていると、左肩に重みがかかった。

 見るとリリアが寝落ちして、俺の肩はその枕になっているところだった。

 やっぱり練習後にあれだけ遊んだら疲れるよな。

 そういえば前にもこんなことあったなぁ。

 フーの家族と一緒にプール行って、帰りの車の中でフーもこうなっていた。

 でも、あの時とは何かちがう。

 あの時より落ち着かないのに落ち着く、そんな感じ。

 俺は思わず、リリアの顔を覗き込んだ。

 ……天使かと思った。

 やっぱりこいつって滅茶苦茶可愛いよなぁ。

 心境もやはり複雑だ。

 ドキドキして落ち着かない感じよりも、むしろ………とても心が癒され、安らいぐ。

 なんでだろうな、いつもならこんな状況、堪えられないだろうに。

 でも、やっぱりどこか落ち着かないし、鼓動は早いな。

 無理もない、なんせフーと花乃以外のこ女の子とこんなに密着してするのは初めてだからな。

 けど、心は安らぐのに、なぜかこの時間が早く終わって欲しいという感情も感じている。

 自分の心中の何もかもを説明できないまま、バスは駅についた。

 「今日はありがとね。楽しかったわ」

 「ああ、またいつでも呼んでくれ」

 「うんっ。バイバイ」

 そういうとリリアは行ってしまった。


 なんだか今日は変わった一日だったなぁ。

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