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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
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第10話

第10話 雪辱


 区間交流大会、予選リーグBブロック最後の試合。

 俺たちはその試合を俺とリリアのペアで挑んだが、21ー15と21ー16で負け、予選リーグの結果は2位となった。

 それでも決勝トーナメントには進めるが、やはり悔しさは否めないで、今は苦い思いをしながら昼飯を食べている。

 「すまん、負けちまった」

 「ごめん」

 「2人が謝ることじゃないよ。結構惜しかったしな」

 「そーそー。決勝トーナメントには出れるんだし、大丈夫だって」

 弥とフーは慰めてくれたが、リリアはどうも落ち込んでいる。

 前のシングルスの大会の時もそうだったが、こいつは試合に負けたらかなり落ち込むらしい。

 実はインターハイ予選にも出たのだが、その時は泣くほど落ち込んでいた。

 ちなみに全員予選で負けたが。

 「トーナメントの組み合わせ的に、リベンジできるとしたら決勝戦だな。そこで必ず勝とう、ハヅマ」

 「ああ」

 ホントこいつは、普段はチャラいくせにこういう時はまともだな。

 それだけじゃない、高校に入って……こいつは少し大人になった感じがする。

 「あと、少し気になったことがある」

 「あ、リリも。あのペア、連携ほとんどとってなかったね」

 「そう、それだ」

 俺たちの相手ペアは、山河さんという方が動きまくって打ちまくっていたが、もう片方の澤井さんという方はほとんどシャトルに触っていなかった。

 「山河さんの武器はあのスタミナと、コートのどこにシャトルが行っても追いつき打ち返せるステップだ。だが、あれはどう考えてもシングルス向けとしか思えない」

 「やっぱりそうよね。あのペアの人のこと信用してないのかな」

 「そういう風には見えなかったが……まあ何にしろ、あのペアには要注意だな。さっき古岡さんと話して決勝であたったら、さっきと全く同じオーダーでいこうって話をした。リベンジ狙いの俺たちには願ってもない話だ」



 その後、決勝トーナメント初戦、2回戦をハラハラしながら勝ち進み、ついに決勝戦。

 俺たちを予選リーグで打ち負かした古岡さんのチームも無事ここまで勝ち上がり、雪辱を晴らすべくぶつかった。


 途中経過は、まあまずまずだった。

 さっきシングルスで負けたフーはファイナルまで持ち込んで勝利した。

 「やったー!!やったじゃんふゆみん!!」

 「勝ったー!勝ったよ!ねえマーちゃん!」

 「ああ、お疲れ。よく頑張ったな」

 

 だが逆に、1ダブの花乃・弥ペアが負けた。

 対策を練るのがかなりうまいペアだったらしく、ファイナルにいく前に潰された。

 「あー!負けたー…すまん」

 「気にすんな。ここからは俺たちの番だ」

 「頑張ろうね、ハヅマ君」

 「おう………!」

 ついに最終戦が始まる。

 もう周りでは全ての試合が終了し、ギャラリーでは関係のない観客も見ている。

 高校生のチームがここまで来たことに少々驚いている人もうかがえる。

 ここからの話は至極シンプル、これで勝った方が優勝だ。

 俺とリリアはネット前に並び、相手ペアの山河さんと澤井さんと向かい合い、挨拶の握手をした。

 サーブは俺からだ。

 「ラブオールプレイ!」

 決勝の試合を受け持ち緊張している主審の声。

 試合が始まったが、俺はしばらくサーブを打たなかった。

 その時俺は、この状況を吟味していた。

 決勝戦、最後の試合、これで勝った方が優勝………。

 それ以前に、試合開始のこの感じをゆっくり噛みしめるのは久しぶりだ。

 何で今になって思い出すのかな。

 まだ両者共に点は全く入っていないこの状況。

 ここからどの様にプレイし、点が入るのか楽しみで、俺たちが全部のラリーを制してやるという意気込みが心の奥底で湧き上がる。

 俺のこの、最初のサーブから試合は始まる。

 その先どうなるのか、俺に何ができるのか、何もわからないこの状況。

 俺はゆっくり呼吸を整え、静かにショートサーブを打った。

 その瞬間、無意識にさっきまで感じていたワクワク感はさっぱり消えた。

 激しく打ち合う音がたちまち響き始めた。

 実に30にのほるラリーを制したのは、こちらだった。

 途端に歓声があちこちから上がる。

 だがやはり相手もすごい。

 先刻と同じく山河さんが動き回って、どこへ打とうが拾ってくる。

 なんとかスマッシュの連発で押し切れたが、このままだと2セット目にはジリ貧だ。

 「やっぱり山河さんが凄いわね」

 「ああ、引き締めていくぞ」

 「うん」

 

 その後も澤井さんはほとんど活躍せず山河さんが動き回ったが、1セット目は何とか取れた。

 「やったーマーちゃん!」

 「何とか取れたわ!」

 「ああ、そうだな……」

 だが、どうも腑に落ちない。

 澤井さんはなぜ何もしない?

 ベンチも全く動じず、むしろ勝利を確信している様にも見える。

 なんか不気味だな………。

 

 2セット目が開始された。

 さあ、どう来る……?

 俺はショートサーブを打ち、澤井さんが後ろへ上げた。

 それをリリアが後ろへクリア。

 すると、かなり高くあがったからか、山河さんに飛んでいったのに澤井さんと位置を交代した。

 澤井さんはシャトルの予想落下点でジャンプの構えをとった。

 まさか………。

 澤井さんは跳び、恐ろしいジャンピングスマッシュを打った。

 速い。

 球はたちまちリリアにヒットした。

 リリアは反応すら出来なかったということだ。

 「ごめん!大丈夫?」

 澤井さんは自分の球を謝りにネット前まで来た。

 「だ、大丈夫です」

 俺はその時、ネット前に来た澤井さんのラケットを見ていた。

 澤井さんが帰っていき、リリアが声をかけてきた。

 「ごめん」

 「大丈夫。それより……あの人のラケット見たか?」

 「え、ううん。何使ってたの?」

 「……エックスフィールのブラスト」

 「え!それって………!」

 リリアも驚いたようだ。

 エックスフィールはバボラーというバドメーカーのラケットで、その圧倒的なヘッドの硬さから出るパワースマッシュが最大の特徴だ。

 だが、ヘッドの硬いラケットは肩を壊す危険性も高く、ましてやあのエックスフィールのブラストは男子でもなかなか使いこなせたものではない。

 それを女性が使っていたのは初めて見た。

 「じゃあ肩のことを気にして今までセーブしてたってこと?」

 「いや、それなら予備のラケットを使えばいい。あの人の最大の武器たるジャンピングスマッシュはジャンプが高く、次の動きに素早く入れない。だから機動性に特化したあの山河さんがペアなんだ」

 シングルス向けのスタイルでダブルスを組んでいるのはこういうことか。

 「ど、どうするの?」

 「あの人に上げたら即ジャンピングスマッシュで終わる………リリア、消極的な考えなんだが……」

 俺は作戦をリリアに耳打ちした。

 「……でも、それで本当にできるの?」

 そう問われた時、俺は笑っていた。

 「ああ。必ず成功させる。任せてくれ」

 「……わかった。じゃあ私も頑張る」

 作戦を伝え終わると、俺たちは相手に向き直った。

 次のラリー、俺達は決め球を全く意識しなかった。

 ひたすらラリーが長く続くよう粘り、もうダメだと思ったところで澤井さんに上げ、ジャンピングスマッシュをもらって終わる。


 2セット目の残りはひたすらそれでしのぎ、2セット目は21ー7で相手が取った。

 「どう?ハヅマ君」

 「…………」

 よし、これならいける。

 「大丈夫だ。ファイナルは手はず通り」

 不敵に笑い、ファイナルが始まった。


 ベンチからは声援が後から後から湧き、相手がサーブの体勢になると止まった。

 サーブが上がり、数回のラリー、そしてついに澤井さんに上がった。

 澤井さんがジャンプの姿勢に入ると、俺たちは縦に並び、俺は後ろで1人でスマッシュに備えた。

 澤井さんのスマッシュが俺の右に飛んで来る。

 そして俺は、それに追いついた。

 俺はそれを高く、再び澤井さんに上げた。

 澤井さんのスマッシュを防げた時、厄介なのは山河さんだ。

 あの機動力でどこへ返しても追いつき、澤井さんのカバーができる。

 だから俺はあえて澤井さんにもう一度上げた。

 澤井さんは高いジャンプが仇となり、次のジャンプが遅れた。

 中途半端なジャンプのスマッシュは勢いが皆無で、前で構えていたリリアにプッシュされた。

 こちらに点が入る。

 「やったぁ!」

 「きた!成功だな!」

 俺たちは盛大にハイタッチをした。

 俺が最初のジャンピングスマッシュに追いついた理由は、2セット目の観察の成果と2セット目で溜まった澤井さんの疲労だ。

 あの人のスマッシュにはクセがある。

 スマッシュを打つ時、肘がスマッシュを飛ばす方向と180度逆を向くのだ。

 それを2セット目で観察した俺は、それに慣れ込んだというわけだ。

 「この後もこの調子でいくぞ。例のタイミングは指示するから聞き逃すなよ」

 「了解っ」

 その後も順調に進み、スコアが12ー13でこちらが勝っていた時、またも澤井さんにシャトルが上がった。

 澤井さんはタメをつくり、ジャンプしたその時。

 「今だリリア!」

 「了解っ!」

 澤井さんはスマッシュと見せかけてドロップを打ってきた。

 俺は2セット目の観察を活かしてそれを見抜き、打つ方向の先にいたリリアに合図を出した。

 リリアはネット前に突っ込み、余裕のあるプッシュをお見舞いした。

 「よっしゃ!ナイスショット!」

 「すごいすごい!この試合イケるわ!」

 その後も、リリアのすばしっこさを活かして澤井さんの隙をつきまくり、俺たちは決勝戦を制した。

 「やったー!」

 「優勝だー!」

 ついにやった。

 このチームの初優勝だった。

 「やったわハヅマ君!大勝利よ!」

 リリアも大いにはしゃいでいる。

 「ああ、やったな!優勝だ」

 俺はそう言うと右拳を差し出した。

 リリアはその意図を察したらしく、少し照れながら俺の拳にその小さな拳を重ねた。

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