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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
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第1話

第1話 眩しい朝


 っ………ぅ……………ん………?

 ピピピピピピピピピピピピピピピピッ!

 ………朝か……。

 今は………朝6時か。

 昨日は……というか今日は3時に寝たし、まあいつも通りだな。

 とはいえ、やはりまだ一人暮らしというのはどうも慣れない。

 ぱっぱと朝飯作ろう。

 

 今日からは高校生活が始まる。

 高校は親友と一緒に決めたため知り合いは多い。

 「マーちゃーん!」

 と噂をすればその知り合い一号が早速お出ましだ。

 「よ。朝から元気だな、フー。まだ6時だぞ」

 俺の家の塀からひょっこり顔を出すのは、幼馴染で付き合いの長い天漢冬美(あまのがわふゆみ)

 短くて揺れにくいはずの栗色の髪が揺れるほど激しく手を振っている。

 「マーちゃんも早いねー。朝ご飯自分で作るのも大変でしょ?やっぱりうちで食べればいいのに。ママも問題ないって言ってるよー」

 「それはフーのお母さんに手をかけさせるだろ?いんだよ、そんな大した労力でもなし」

 「そんなことないってばー。フーもマーちゃんと一緒にご飯食べたいのに」

 「それは知らん」

 「ぶー」

 ふてくされたフーに一瞥をくれ、朝飯の準備にとりかかる。

 フーとは保育園からの付き合いで家も割と近く、顔を合わせない日は片手の指で足りるくらいしかない。

 他にも幼馴染はいるがそいつらは小学校からで、やはり一番付き合いが長いのはフーだった。

 

 7時半になったが、そんなわけで学校に行くのも一緒なのだ。

 電車に乗って行く少し遠い高校で、駅では他の奴が待ってるはずだ。

 「弥ー!おはよー!」

 「お、来たなお二人さん。てかお前制服似合ってねー!」

 「ほっとけ」

 どちらを指差したわけでもないが、こいつが女子にそんなこと言うはずもなく、俺はシケた反応を返す。

 開口一番で俺をけなしてきたこいつも小学校からのツレで、名前は八々雲弥(ややくもわたる)

 かなりチャラチャラしたやつだが、俺のことをフーの次に理解しているやつで、頼れなくはない。

 「まあまあカリカリしなさんなって。切符買っといたしさ」

 「うそだー。フー達が切符使わないの知ってるくせにー」

 「あら、バレた」

 全く、こいつは高校生になっても変わりがないようで、喜ばしいのか嘆かわしいのか。

 今日から通う私立星藍学園高校は、4人でここと決めて入った。

 もう1人はワケありでしばらく来れない。

 そこは県内でも飛び抜けて施設やイベントが豪華、建物も綺麗で、充実した高校生活をすごす絶好の場所として選んだ。

 部活も盛んだが、勉強が少しレベルの高い高校で、フーと弥にはかなり手を焼かされたものだ。

 まあそれで俺の勉強が疎かになったわけでもなし、こいつらのためだから文句などないのだが。


 学校に着き、入学式もつつがなく終わり、俺たちは教室に戻った。

 「運良く3人、同じクラスだったな」

 「だねー!よかったよかった!」

 「………お前らはいいよな………席隣だし」

 「あ………」

 弥が元気がないのに反応して、フーが言葉を失う。

 3人同じクラスなのはそうなんだが、名簿の関係で弥だけほぼ対角線の位置の席だった。

 そして弥の言う通り、俺とフーは隣同士。

 「あ……その…まあいいじゃん遠くても!同じクラスなだけラッキーだよ!」

 「…フー、慰めなくていいぞ。ちょっと口元緩んでやがる」

 「え?」

 そう、下を向いてはいるが、こいつは微かに笑ってやがる。

 俺たちの席は最前列だが、こいつは一番後ろから2番目という超ラッキーな席で、それが嬉しいのだろう。

 「あはっ、バレた?しかも周り女子多いし、俺の高校生活の出だしはかなり好調みたいだねー!」

 一瞬で元気を表情に宿し、急に上を向いて高笑いをしだした。

 わかりやすいなこいつ…………。

 「はーい、席についてー!」

 おっと、担任のご登場だ。

 全員が速やかに着席し、自己紹介タイムに入った。

 「私は今日から1年間、皆さんの担任をすることになりました組籐凪子(くみとうなぎこ)です。1年間、楽しく過ごしましょう」

 そう言って深くお辞儀をすると、全員がおどおどと拍手を始めた。

 男子の一部が若干テンション高く見えたのは、彼女が妙齢の美人だからだろう。

 まあ俺は年上お断りだから特に何とも思わなかったが、なぜか隣のフーにミドルキックされた。

 「はい、では皆さんも自己紹介をお願いします。ではこちらから」

 言いながら組籐先生はフーを指した。

 こいつは出席番号1番だしまあ当然だろうな。

 

 その後、先発でど緊張のフーに始まり、数分かけて自己紹介タイムは終了、長い連絡事項を経て、解散となった。



 「もー、何であの先生フーのこと指すのさー」

 解散の後、弥がこちらへ寄ってくると、フーが突然グチり始めた。

 「しかたないだろ、フー真ん前の右端なんだし」

 「そんなのわかってるよ!」

 俺が至極当たり前なことを言うとフーはキレた。

 まーそりゃわかってるよな。

 「まあまあ。それよりさ、冬美は部活見学行く?」

 強引に話を割って弥が訊いてきた。

 「ううん、てかもう決まってるじゃん。ね、マーちゃん?」

 「ああ。それが……母さんの夢だから」


 俺が入ると決めているのは……バドミントン部だ。

 この学校のバド部は都内ではかなりハイレベルだが、正直俺はチョロいと思っている。

 俺は去年、バドの全国大会に出た。

 でも、それだけでは終われない。

 俺は高校でこそ全国大会、インターハイでベスト8には入ると決めている。

 ただ…

 「じゃあさ、今日はちょっと出かけねえ?」

 じゃあ、の意味がよくわからない弥の言葉。

 「どこ行くの?」

 「俺思ったんだけどさ……このクラスは、可愛い子が少ない」

 ………………は?

 「というわけで!ナンパ行こうナンパ!高校デビューしようぜ!」

 なぜナンパが高校デビューなのかわからない。

 てか、ただしたいだけだな絶対。

 「えー?そういうのは男子だけで行きなよ。フー帰るから」

 言うとフーは俺に一睨み浴びせて帰って行った。

 「俺もナンパとかお断りなんだけど。興味ないし」

 早々に立ち去ろうとすると、弥は俺の肩を掴むと一回転させて、今度は両手を肩に乗せた。

 「いいのか?このままだと俺たちの青春は、モノクロに染まる一方だぞ?」

 「染まらないよ。もう今で十分だろ」

 「十分じゃない!そうやって波に乗り遅れると高校生活の負け組になるぞ!いいじゃねえか用事ねえんだろ?つれないぜ親友」

 「ったく……じゃあちょっとだけな」

 「ぃやっほー!さすがだぜ親友!」

 渋々折れると、弥は飛び上がって喜んだ。

 まったく、世話の焼ける。

 


 そんなわけで駅前。

 帰り道のでかい駅で降り、その前の広場で弥は仁王立ちをぶちかました。

 「さあ、どの子からいくかなー…」

 「あんまりガツガツすんなよ」

 「わかってるって。お、あの子が良さそうだ!いってきまーす!」

 言うが早いか、狙いを定めると一直線にその子に向かう。

 見たところ女子大生のようで、『あの子』という表現は適切ではないだろう。

 ところで結果はといえば、予想通り撃沈だった。

 「はや……瞬殺だったな」

 「せめて秒殺と言ってくれ……お!今度はあの子がよさそうだ!よし、今度はお前の番だぞ」

 「もうかよ。てかあの子よく見たら俺らと同じ学校だぞ。しかも新入生」

 「だから話題とか弾みそうなんじゃん!俺が年上はダメだっていう実験をしてやったんだから、絶対キメて来いよ!」

 「はあ……あんま期待すんなよ」

 言うと、俺はテクテクとその子に歩み寄り、肩を叩ける距離で右手斜め後ろから声をかけた。

 「あ、すいません」

 何となく敬語で話すと、その子は素早い動きで振り返った。

 「ん?どうしました?」

 特に物怖じしてなさそうな、豪胆そうな子だった。

 てか、めっちゃ可愛いな。

 長いまつ毛に小さな鼻、目は直視できないほど眩しく綺麗な紫。

 薄色の金髪を若干ねじった感じのツインテールにしていて、毛先は若干の黄緑。

 「いや、同じ星藍の新入生みたいだから、お茶でもどうかとね」

 渋々やっていることを必死に隠しながら話すが、どうも古臭いナンパのセリフが出てしまい、彼女もなぜか笑った。

 まあなぜかって俺のセリフが陳腐だったからなんだろうが。

 「いいわよ、ちょっとだけね。君名前は?」

 なぜそうなる。

 学校に広めるつもりか……?

 いや、違ってそうだし、いっか。


 「音宮羽銃魔(おとみやはづま)だ」


 **********************


 「えー!?ナンパ成功したの!?」

 初のナンパをかました夜、俺は幼馴染のフーと飯を食っている。

 飯というのは俺の家でだが、つい先日に一人暮らしを始めた俺を寂しませないようにとこいつが来てくれるようになった。

 まあ特に寂しくはないが、こいつの厚意には甘えたいところでもある。

 そこで今、今日の放課後のナンパの話を聞かせているところだ。

 「いや成功とは言えないだろ。失敗と言うのかも疑問だが」

 あの後、結局どこかの店に入りはしなかったが、その場で5分10分喋ると彼女はどこかへ行った。

 新入生同士として話はそこそこ盛り上がり、また会おうねーみたいな感じで終わった。

 「で、名前教えたんだ。マーちゃんがナンパしてたって学校で広められるんじゃない?」

 ヒヒッとフーは悪戯っぽく笑った。

 「んー、そういうのに興味あるようには見えなかったがなあ。まあ別にそれでも問題はない」

 「え、なんで?嫌じゃないの?」

 「別に?上っ面の噂だけで人を判断して遠ざけるようなやつと仲良くなんてしたくないしな」

 そもそも俺は誰とでも仲良くしようなんて思わない。

 本当に気を許せるやつにだけ時間を割きたいし、逆にそうじゃないやつに上辺だけの厚意を出すなんてまっぴらだ。

 「さっすが!風評なんて気にしないもんね、マーちゃんは」

 「限度もあるけどな。お前はよく知りもしないやつの上っ面の噂に踊らされたりしないだろ?」

 「もっちろん!マーちゃんはいつだってマーちゃんだもん!」

 「いや、俺の話じゃなくて……」

 まあいいか。

 若干的はずれなフーの解釈に苦笑して、晩飯を平らげた。

 フーはまだ食べていて、俺は先に自分の食器を洗い始めた。

 「ねーマーちゃん。明日の放課後カラオケ行かない?弥も誘おうよ」

 フーが最後に残したサラダを口に運びながら急な誘いを投げかけてきた。

 「んー、どうだろ。仕事が今日中に終わったらな」

 その後はフーも家に帰る。

 いつも名残惜しそうだが、俺もやる事があるしな。

 まあ…そのことで俺もいつも迷ってばかりなのだが。



 翌朝は、またフーと一緒に駅に向かう。

 駅で弥と合流すると、昨日のナンパの話題にさらに火がついた。

 俺としては避けたい話題なんだがな。

 今日はホームルームが中心で、部活動紹介やら色んなビデオを見るやらで正午少し過ぎに解散となった。

 昨日で仕事も終わったし、誘われていたカラオケに行き、声をガラガラにして帰った。

 


 そして翌日。

 今日はいよいよバドミントン部に入部する日だ。

 高校に入る際に新調したシューズとラケットバッグを持ち、愛ラケットをラケバに入れて家を出る。

 「あ!マーちゃんラケバ新しくなってる!」

 そういえば買い換えたこと、フーに言ってなかったな。

 「ああ。地味なやつしか買ってもらえなかったから少し派手なのをな。シューズも変えたぜ」

 「いーなー。今度フーにも買ってよー」

 「そりゃ親に頼めよ。ほら行くぞ」

 言って俺たちは歩き出す。

 ちなみにフーや弥もバド部に入る。

 しかし、俺たちは部活動見学に行かなかったのだが、今日それを後悔することになる。


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