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第四戦:プリップリーのカンカンカーン♪

 クロエ、恋斗、リーヴの三人が門を抜け、城内へと足を進め始めた頃と同時刻……。

 東の首都レギンレイブに、クロエの所属するギルド"ブリュンヒルド"は存在している。

 そのギルドの大広間、円形の部屋の中で彼女の帰りを待つ数人が言葉を交わしていた。


「クロエの奴、やけにおせぇなぁ……。どっかで道草でも食ってんのかぁ?」

 木製の机に足を乗せ、だらしなく椅子に座り、頭の後ろで手を組む黒髪の少年が誰ともなく呟く。その声に続き、不安に顔を翳らせる最年長と思しき女性が口を開いた。

「アンタじゃあるまいし、ましてやあの娘に限ってそんなことはあるはずがないわ」

 口ではこう言うものの、内心穏やかではないことは、忙しなく室内を歩き回る様子を見れば、一目瞭然である。

「まああいつの事だ。また持ち前の悪運で――というかドジを踏んで大変な事に巻き込まれたりしてんじゃねぇのか……?」

 陽気に笑う少年――黒革のレザーコートを身に纏い、白い革のボトムスを履いた、いまだ幼さの残る彼の名は、スルーズ・オーグレン。漆黒の短髪をツンツンと逆立てた深紅の瞳の少年は、目を閉じたまま口の端を持ち上げにやけていた。

 彼の軽率な態度と発言に軽く苛立ちを覚えた女性は、スルーズの後ろに立つや、拳を握り締め軽く頭を叩いた。

 いってえ!!何しやがる!!と憤る少年に一瞥下すと、

「縁起でもない事をぬかすな、馬鹿ものが!」

 黒を基調とする地の生地に、花等の金銀様々な色の刺繍を施した和服を着た女性――彼女の名はマニ・バルテルス。彼女もまた美しく長い黒髪で、それを頭の後ろで一つに結っている。優美な曲線の輪郭を持ち、仄かな蝋燭の光を受ける頬は雪のように白い。二重の瞼の奥に輝くは、ダークブラウンの光を放つ大きな瞳。その容姿を一言で言い表すなら、まさに和の女神、である。

「そんなにマジになって怒らなくてもいいじゃねぇかよ…。でもあいつ、ホントにハズレばっか引く体質だから……不安だよな」

「今回ばかりは不安で不安でたまりませんよ、まったく……。一応、現在地の確認だけはやらせておきましょう……ゲンドゥル」

「はい、今術式展開を始めています。彼女の魔力の位置を捕捉中」

 ゲンドゥル、と呼ばれた知的なメガネの男が右手を掲げると、掌を中心にして巨大な魔法陣が展開されていく。複雑な幾何学模様が広がっていき、彼の元を離れると部屋の床へと横たえた。直径1mほどに成長したそれは、窓のない静かな空間の中で輝き、幾つもの凹凸を作り上げていく。

 四方に広がる山々を表現した光は、この世界の地図である。険しく聳える山稜は円型に連なり、その円の内側を四つに分割した壁がそれぞれの国を独立、あるいは分断させている。航空映像のように映し出された地図の丁度左側――東のエリアのほぼ中程に位置する光点が、現在彼らの居るギルドである。

「彼女の魔力を現在地から追跡します。しばしお待ちください、マスター」

「えぇできるだけ早く頼むわ。……クロエに何もないことを祈るばかりね……」

 ゲンドゥルという名の男は、掌を魔法陣に向けたまま瞑目し集中を高め続ける。不穏な空気が、お世辞にも広いとはいえない部屋の中を流れていることにも構っていられないほどに。

 今まで椅子に座っていた黒髪の少年が立ち上がり、手を組んだまま祈るような姿勢で直立するギルドマスターの元へと歩み寄った。身体を強ばらせるマニの肩をポンと叩き言葉をかけた。

「信じようぜ、あいつの、少なからずの幸運を……。なんたって、仮にもあいつは、レギンレイブを救った英雄――魔奏士マエストロクロエなんだからよ!」

「……お前のクセに、気が利くことをいうじゃないの」

 緊迫していた空気を和ませるほど可憐な微笑みを浮かべるマニ。

「信じましょう、彼女を。何事もなく帰還してくれることを願って」

 だがその時、予想だにもしなかった言葉が部屋の中に響き渡り、その場にいた誰もを震撼させた。黙り込み、金髪少女のいる位置を補足し続けていた、メガネの男の言葉によって。

「特定完了!!クロエさんの現在座標は……W(ウェスト)75、N(ノース)10……。――西の首都ヴァナハイムです」

「はぁ!?ヴァナハイムだとぉ!?ここからまったくの反対側だぞ!!」

「まさか……詳しい位置までは解らないの!?」

「詳細情報を確認します……。――えっーと、ヴァナハイム中部に建造された巨大建築物の内部だと推測されます」

「う、嘘でしょ……!!ヴァナハイム城になぜ!?」

「ちょっと待てよ、その状況かなりやべぇんじゃねぇか…?ヘイムダルの野郎に出会いでもしたら……」

 誰もが息を呑み、黙り込む。

 黒髪のギルドマスターは不安と焦燥の入り交じった表情を浮かべ、口元に手を当てる。整端な顔立ちからは先刻までの美しさ、冷静さが消え失せ絶望の色が伺える。だが意を決したように目をギュッと閉じると、呼吸を整え、言った。

「――行きましょう、クロエを迎えに。このままだとあの子の命が危ないわ」

「あぁそうだな……事態は一刻を争う。早急に準備を整え出発しよう」

 慌ただしく室内を駆け回り、ある者は剣を、またある者はスタッフを手に取って、ギルドを後にした。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


 足音だけがこだまする、豪華絢爛な装飾を施された長い長い廊下を、俺とクロエそして女性騎士改めリーヴスラシル兵士長とともに歩いている。

 時折目に入る、モチーフはよく解らないが見た感じ高そうなタペストリーや、壁に規則正しく配置された松明、毛並みの揃った如何にも高級そうなレッドカーペットなどが存在しているあたり、流石は一国のお城と言ったところか。

 辺りを見回しながら、どんどん先に進むリーヴの後を、置いていかれないように付いて行くと、今まで見ていたものとは比較できないほど異彩を放つ重厚な扉の前で彼女は足を止めた。

「ここが王の待つ『謁見の間』だ」

 入口の門といい勝負が出来るくらいに巨大な扉。所狭しと散りばめられた宝石や金の紋様が照明の光を受け、キラキラと輝かしい反射光を放っている。

 緊張していた身体も、この芸術とも言える扉の美しさを目の当たりにし、いつの間にやら緩んでいた。

「す、すげぇ。何なんだ、この入口は……」

「我が国の誇る生粋の技術士の中から優れた者だけを集め、半年ほど掛けて作らせた扉だと聞いている。――気圧されたか?」

 軽く微笑み腕組みしながら、自慢げに問いかけてくる女性兵士。

「あぁ……。王様に会うって言うんで、道中ずっと緊張してたけど……こんなもん見せられて、思考が何もかもぶっ飛んじまったくらいだ」

「ふふっ。やはりそれほど凄いものなのだな。私は小さい頃からずっとこれを見てきたからイマイチわからなくてな。意識して見ると、たしかにそんな気がする。――クロエも感動したか?」

 話はクロエにも振られたのだが、少女は俯き黙りこくったままでいる。ここに来る間や、ユニコーンに跨っていた時もずっとこんな感じだったのだが、本当に何かあったのかではないかと心配になる。

 彼女の様子に、リーヴも不安になり声をかける。

「大丈夫か、クロエ?ずっと元気がないようだが……もしかして身体の具合が良くないのか?」

 しばらくの間が空いて、思い出したように顔をあげ辺りを見回す金髪少女。

「え……あ、すいません、考え事をしてたら意識が遠のいていました。……それで、何でしたっけ?」

「何でしたっけ、じゃなくてだなぁ……」

 さっきからというか、ヴァナハイムに到着してからというものずっとこの調子のクロエに俺は軽く面食らう。移動中は下を向いては俯いたままで、まともに話も聞いていない。何か気にかかることでもあるのだろうか。

「クロエも君と同じく緊張していたのだろう。それに、長旅の後でもあるのだろう?少々疲れが残っているのだよ。王には失礼だが、早めに報告を終え宿に向かおう」

 重厚な存在感を放つ華美な装飾の扉に手を掛けるリーヴ。だがそれを制すかのように、

「待ってください、リーヴさん。ヘイムダル陛下の会う前に少しだけ時間を下さい!」

 クロエが慌てながら声をあげた。

「あ、あぁ、少しなら構わんが……。どうかしたのか?」

 思案顔をする銀髪の兵士長は、訝しみながら質問する。

「そ、その!王のお前に向かうというのに、こんな格好で行くのも、し、失礼だと思ったので!!」

 たどたどしく言葉を繋ぐ少女の姿は、何故だろう、俺の目に怪しく映った。バレてはいけない何か隠しているような、そんなふうに。

 刹那の逡巡の後、リーヴはにこやかに微笑んで明るく朗らかな声で返した。

「クロエはいい心掛けをしているな。ふふっ、恋斗も見習ったらどうなのだ?」

「残念だが持ち合わせがなくてね……このままで行かせてもらうよ……」

 失礼も何も君はスーツなんだから、それ以上の正装はねぇよ!!というツッコミは口の中に留め、あえて微苦笑をして誤魔化した。

 が、ここで考える。彼女は荷物などを手にしていたか?ということを。

 答えは――否だ。背中にも、肩にも服が入るようなバッグは持っていたなかったはずである。

 ならば何処に?俺がこっちの世界に来たときのように魔法で取り寄せたりすることは可能ではあると思うが……。

「なあクロエ、なんか着替えられるような服持ってきてたのか?」

「いえ別に服とはないんですが、ローブをいつも携行していまして……。まぁ"携行"と言うより、"格納"と言った方がしっくりくるんですけど」

 クロエはそう言ってから、指をパチンと一度鳴らすと、何もない空間から、真っ白い革でできた何かが現れた。

 少女はバッと広げ羽織ると、その何かは足元まで裾があるローブだと解った。

 身の丈には合わないようなローブと彼女の容姿は、不思議とマッチしており、どこか魔術師めいた雰囲気を醸し出している。前の留め金をひとつずつ留めていく。 ※ちなみに掛け違えている。

 最後に、フードを目深に被ると、

「お待たせしました……それでは行きましょう」

 と、今までで一番気合の入った声で一歩踏み出し……


 ――そりゃあもう盛大にコケましたよ。

 思わず吹き出す女性騎士。俺もその様子には耐えきれず爆笑した。まぁこれのせいでプリプリに怒ったクロエは思いっきり俺の脛を蹴り飛ばして、謝罪の言葉も聞いてくれなかったのは、予想通りだった。

 To be continued……

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