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第三戦:炸裂!思い出しビックリ!

 馬――ではなく一角獣を走らせること約三十分。女性兵士長率いる隊列は、そびえ立つ白亜の門の前で足を止めた。

 背伸びをしたり、かぶっていたヘルムを外したりしている様子を見ると、どうやらここが目的地の王都であるらしい。

 遥か100m先の方、隊の先頭から「開門!!!」という威勢の良い声が聞こえるとともに、ふたたびゆっくりと隊は動き始める。豪音を立てて開いていく木製のドア、その先からは溢れんばかりの光が差し込んできている。ここからはよく見えないが多分門の先には、人で賑わっているのだろう。

 今まで俺の後ろで、ほぼ気を失ったかのような状態でいたクロエも、到着を予見してか、がさごそと何やら動き出したようだ。

「ふぇ……ここ、どこですか…?」

 寝起きのような掠れた声で聞いてくるクロエ。まだ慣れない手綱をなんとか操作しながら、俺はその声に小声で応えた。

「王都、だとよ。俺たちを囲んできた兵士達がいたろ?あいつらのホームタウン…というかホームシティなんだろよ」

「おう…と?オウト……。――えっ、王都ですか!?」

 突然声のボリュームが跳ね上がったので、思わずビックリして飛び上がり声を出してしまった。前を進んでいた兵士達が訝しげな顔をしながら、

「どうした?大丈夫か?」「もしかしてどこ痛むのか?」

 と聞いてきたので、

「あぁ……お気になさらず!!時々あるんです、あの…あれだ!思い出しビックリってやつ!?はははっ…」

 咄嗟に思いついた「思い出しびっくり」策でなんとかこの場を切り抜けることにした。案外納得して、何事もなかったかのように、兵士たちは前に向き直ってくれた。……自分で言っといてだけど、何だよ思い出しビックリって。

 ただでさえ要注意人物として王都ここに連れて来られてるというのに、変な行動をとって目をつけられないようにしないと。

「………で。王都がどうしたんだ?特に何かあるってわけでも無いんじゃ……」

「大アリです!!それもかなりヤバいってレベルで!!」

「少し声のボリュームを落としてくれ。――んで何が問題なんだ?」

 周囲から集まりつつある注目の目を極力気にしないようにしてはいるが、時折聞こえる「夫婦喧嘩か?」という呟きと嘲笑はさすがに看過出来なかった。あえて大きく咳払いして話を続けようとするが、しかしそれは叶わなかったようだ。

 列の動きがふたたび止まり、兵士達が全員馬から降り始めたために。

「陛下の元に一度保護した二人を連れていく!各自装備のメンテナンスと休息、補給を終えた後、持ち場に戻れ!」

 最前列にいた女性兵士が指示を下し、俺とクロエはその人の元に連れて行かれる。金髪少女に向け小声で先程の返事を返す。

「話は後で聞く。兎に角今は無事に帰れるよう、陛下とやらをどうにか丸めるぞ」

 顔を真っ青にし冷や汗をだらだら流すクロエを、内心不思議に思いつつ、女性兵士の後に続いた。

 屹立する白亜の城壁へと伸びる、長い――見た感じ軽く100段は超えている――石の階段に圧倒されるものの、気を確かに持って、女性兵士のあとを一段一段踏みしめて歩く。

「ところで君達、名前は何と言うのだ?何だかんだ聞くタイミングを失ってしまっていたが、名を聞かなければ色々不備がある」

「そういや名乗ってなかったな。――俺は鳴宮恋斗。さっきは馬……じゃない、ユニコーンに乗せてもらったり助けてくれてありがとう」

「礼を言われるほどのことじゃないさ。迷える者を助けるのは私達ヴァナヘイム騎士団の務めだからな。……して、もう一人の女性の方は?」

「………このままじゃ、殺される……」

「――?おい、クロエ。名前聞かれてるぞ」

 何か呟いてるようだが、ぼそぼそ言っているのでうまく聞き取れない。下をむいたまま黙りこくっているので肘で横腹あたりを小突いてみる。すると思いがけない反応を見せ俺は軽く面食らった。

「わぁっ!?――どうかしたんですか!?」

 勢いよく顔を上げて大袈裟に驚くクロエ。その様子に、俺何かしたのかなと考えてしまうも、普通に返事をしてくれたので安堵する。

「どうかしましたか、じゃなくてだな……」

「まぁまぁそう急かすな。その子もまだ、旅の疲れが取れていないのだ。ゆっくりいこうじゃないか」

「すいません、少し考え事してて……。私はクロエ=アーデル……じゃなかった!!!クロエ・エルリヴェールと申します!」

 エルリヴェール…?電話で名乗った時は、確かアーデル何とかって言ってた気がするけど…。まあ本人がそう名乗ってるんだから正しいんだろう。

「クロエ…。咲き誇る者、か、良い名だな。この世界の英雄にも、クロエという最強の魔法士がいたよ」

「ははは…。私も彼女の事を凄く尊敬しているんですよ…」

 口では笑っているものの、表情は硬いため俺の目には彼女の笑は不自然に写る。何か様子がおかしい気がする。……腹でも痛いんだろうか。

「おっと、私から名を聞いたというのに、最後に名乗ることになるとは…まったく申し訳ない。私はリーヴスラシル=エルヴェスタム。聞いてのとおり一回ではとても覚え切れない名だろ?皆は私のことをリーヴさんとかエルさんとか呼んでいる。君たちも呼びやすいようにして呼んでくれ」

「わかりました。じゃあ俺はリーヴさんって呼ばせてもらいます。よろしくお願いします」

「あぁ宜しく。……と、自己紹介を終えたところで丁度上り終えたようだ」

 遠目で見ていたよりも、遥かに大きな城壁の姿に俺とクロエは感嘆の声を漏らした。雲を突き抜け、蒼穹にまで届くほどの高さのこの建物は、王のおわす城というよりも迫り来る敵を跳ねのける、不動の要塞のように見える。そしてその入口を護るは、重厚な鉄のアーマープレートに身を包み重鎮する四人の衛兵。彼らは俺達の姿を視界に捉えるや否や、素早い動きで門の前に立ちふさがる。

「あの者達に話をつけてくる。君たちは少し待っていてくれ」

「あぁすまない。頼んだよ」

 軽く返事を返すと、踵を返し衛兵の元に歩みを進める。銀のポニーテールを揺らし重鎮する衛兵へと怯みもせずに歩み寄って行く姿は、とても女性には見えない。

 数分後、俺たちのほうに戻ってくるとにこやかに笑うとこう告げた。

「少々頭の固い奴らだったんで、少し時間が掛かってしまった。頭ごなしに否定するものだから、危うく剣を抜くところだったよ」

 本心なのかジョークなのか、微笑む彼女の言葉に俺は背中に薄ら寒いもの感じ、そして思った。

 この人には死んでも逆らわない!!!

 と。


 俺たち三人は、巨大な門をくぐりこの城の主である陛下のもとへと進み始めた。

 To be continued……

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