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第一戦:私と契約して魔法勇者(?)になってください!

「これ絶対落ちたよ…マジで…」


 そう一人ごちた俺、鳴宮恋斗なるみやれんとは現在、無職かつ一文無しの身である。

 というのも、つい先日高校を退学いたしまして晴れて自由の身(なんていうけど、親にマジギレされた挙句出ていけと言われ、人生を路頭に迷っているのだけれど)になったところである。一文無しとは文字通り――財布はもとより――ポケットのなかには一円たりと持ち合わせていないということだ。

 というわけで帰る場所も、寝る場所もありはしない俺はとりあえず、アルバイトを探すことにしたのだった。

 しかし社会は自分のような未熟者、軟弱者が考えるような甘いものでは、決してなかった。元々、やることすべてが上手くいかないアビリティを持つ俺が、寒波よりも冷たい世の中で上手くいくはずがなく、行くところ行くところで断られるのは自然の道理だったのだと痛感させられた。

 バイトの面接にいく方法はもちろん徒歩である。公共交通機関を使用するにはお金がいるが、俺はそんなお金持ち合わせていない。歩き続けた俺の胃の中は、もう何も入っておらず頼りなく、ぐぅぅぅぅと鳴るだけである。


「もういっそ死んだ方がましかな…」

 精神的にも身体的にも切羽詰った俺は、もうこんなことしか考えることは出来なくなってしまっていた。


 冬の風は、こんな俺にさえ容赦なくびゅうびゅう吹き付けてくる。手足は悴み、末端の感覚はもうほとんどない。こんなことならもっと厚着してから家を出るべきだった。

 もっと楽しい人生を歩んでくれば良かった…。今頃になって後悔するとは…。


 絶望の淵、断崖絶壁に立たされているそんな時、目の前に一枚の紙がひらひら舞い降りてきた。

 どうせ何かの広告だろうと、スルーしようと歩みを早めたとき、書かれている一文が目に入り、藁にもすがる思いで、紙切れを必死に手にいれた。

 書かれている内容はこうだ。

『アルバイト急募!勇者求ム!

 ・自分の力に自身のある方を募集。仕事内容は、モンスターの討伐、狩猟等。勤務時間は、その依頼による。

 ・住居ならびに、朝昼夜の三食、道具はこちらから支給。

 ↓こちらに連絡をば。

 TEL ○○○○』

 こんなところだった。

 なんと。三食と家までついてくるとは。


 しかしなかなか胡散臭い。こんな破格のアルバイトがあっていいものなのか。しかもモンスターて。今時小学生でも嘘だとわかるレベルだ。


 しかしこの際だ。狐につままれたと思ってやってみるか。

 半ばやけくそになりながら、表記されている連絡先に、携帯(解約されていないことが救いである)から電話をかけることにした。

 何度かコールした後、

『お、お電話、あ、あり、ありがとう…ございます!!ギルドブリュンヒルデ、日本支部のクロエ・アーデルハイトと申します!』

 …なんだこの接客。噛み噛みじゃねぇか、大丈夫なのかよ…。

「あのすいません、アルバイトの広告をみて電話を差し上げたのですが…」

『えぇ!もしかして仕事引き受けてくれるんですか!?やったぁ!!これで私も一人前になれる!!わかりました、すぐそちらへ向かいます!!その場を動かないでくださいね!!では!!』

 乱雑に、それも一方的に電話を切られてしまった。しかもよくわからないことを言っていた。一人前だとか。

 しかし俺の位置を聞かないでどうやってここに来るというのだろうか。あの電話の子は、もしかして(もしかしなくても)ドジっ子なのかもしれない。

 とりあえず、言われた通り待っておくか。どうせこのアルバイトも、失敗に終わるだろう。


 溜息をついたその瞬間だった。

 手にしていた紙切れが突如、眩い光を放ち俺の手から離れていく。胸の高さ辺りで静止し滞空した。広告を中心に、幾何学模様の魔法陣が展開されていく。

 その様子に、俺は口を開けてぽかんとするしかなかった。非科学的な状況に唖然とする。


 一際強い光を放ったと思うと、魔法陣の中から


「わぁぁぁ!!危なぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 なんと女の子が飛び出してきたのである。

 俺は反応できず、少女と絡まり合いながら後ろにぶっ飛んだ。


「いててっ…。――って、わぁぁぁ!大丈夫ですか!?」


 大丈夫なわけねぇだろ!!

 そう叫びたい思いを、ぐっと堪え俺は、

「あぁ…俺は大丈夫だ」

 と答える。すぐさま少女は立ち上がって、手を差し伸べてくれた。

「ほんとすいません…。私こういうことがしばしあるもので…」

「ありがとう…まぁ気にしなくていいから…。」

 短く切り揃えられた金髪。ぱっちりした青い瞳。スーツに身を包む、活発な小型犬を連想させる容貌の可愛い少女。

 その子の手を借りつつ立ち上がるが、よく状況が飲み込めない。

「あのー…君は?」

「私が、先程電話を承らせていただいたクロエ・アーデルハイトです!!」

 ほう。最近の少女は、魔法まで使いこなせるようになったというのか。


 …え?

「これからギルドで、勇者になるための手続きを行いますのでお迎えに上がりました!!というわけで早速行きましょう!」

「いやまてまてまてまて!!まずあんたはどうやって現れて、どうやってギルドとやらに行くのか教えてくれ!!」

「??」

 なんでそこで首傾げるんだ!俺の方が意味わかんないわ!

「どうってこうやってですよ?」


 少女が指差す方向には、先程彼女が飛び出してきた魔法陣が存在する。

 なんだそれどこでもドアかよ!

「兎に角行きましょう!!」

 手を掴まれ、強引に連れて行かれる。少女の足取りは軽いが、俺の方はまったくそうではなかった。

「せー…の!!」


 わけもわからず突っ込んだ魔法陣の先のあった風景を、俺はまったく想像していなかった。というより予想できなかった。なんせ見た事は一度もなかったから。


 モンスターがそこら中を闊歩している情景を、誰が予想できただろうか。


 鳴宮恋斗の冒険譚は、ここから始まった――


 To be continued.....

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