価値基準は
「何故お前はこの学校を受けるんだ?」
「はあ…。」
「はあ…ってお前な。理由とか無いのか?」
「はあ…。」
「お前な…。まあ、いい。いや、良くないが。俺が言いたいのはな。お前の成績ならもっと良い高校に行けると思うんだ。どうだ?挑戦してみないか?」
「先生がそうおっしゃりますが、良い高校とはなんですか?偏差値やら何やらが全てではないと思います。」
「そうだな。偏差値の上下なんて学校の一つの基準だ。だから、勉強が好きじゃない生徒に無理矢理勉強させようなんて思っていない。俺はただ常識を身につけてほしいだけだ。文化祭を見に行って凄い気に入ったとか、あの学校は部活に熱心だからとか、あの制服かわいいでもいい。どんな理由にせよ、それが理由なら俺は全力で応援するよ。でもな、お前みたいに特に行きたいって学校も無くて成績も良い生徒には偏差値の高い学校を薦める以外何をすればいい?偏差値以上の価値基準をお前は持っているのか?」
「そうですね。今のところ持ってません。でも先生が言うほど頭良くないですし。第一志望は変えるつもりはないです。」
「お前はそう言うがな。俺はお前に期待してたんだよ。」
「……。僕は……」
「……本気を出してみようと思わないか?時間はまだまだあるし、受けるか受けないかはもっと後で決めてもいい。目指すだけでもいいんだ。頑張ってみないか?一歩踏み出してみないか?」
「はあ…。目指すだけなら。」
「そうか……。頑張ろうな!」
面談が終わった後に私が悪鬼の如く寝る間を惜しんで勉強したかというとそんなことはなく、なんとなく勉強していた私の成績は平行線であった。担任に薦められた高校には当然足りそうもなかった。私が最後の面談で、頑張ってはみたが無理そうだと告げると担任は分かったと応じた。
結局私は元々志望していた高校に無事合格し、そこで不毛な高校ライフを送ることになるが、後悔したことは一度たりともない。
ただ、何故か頭に鮮明に残っているのは「分かった」と言った担任の顔である。いつも生徒のことを一心に考え、降参したくなるほど熱く明るい担任が見せた、手塩にかけて育てたアサガオが結局芽が出もしなかった、そんな複雑な顔。