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【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【青春】  作者: かわばた
【6】モテ男は女子から逃げる【夏虫疑氷】
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どうしてあんなに冷たいんだろう

 幾久がなんでもいい、と言ったので児玉が「じゃあ、オレアイスコーヒーがいい」という意見に全員が同意することになり、児玉が着替えるついでにアイスコーヒーを持ってきてくれることになった。


 児玉がいない間、雪充は幾久にいろいろ訪ねてきた。

「試験の結果、良かったみたいだね」

「あ、ハイ。先輩らがすっげえ、勉強みてくれて」

 でも、と幾久は言う。

「タマは、あんま良くなかったみたいで」

「そうだね。ちょっと厳しいね」

 雪充が言うと幾久はやっぱりそうなのか、と少しがっかりした。

「あんなに頑張ってたのに」

「それ以上に鳳は厳しいって事だよ」

 なんとなく結果が雪充にはわかっているのではないか、というような雰囲気に、幾久は(やっぱ、タマ、落ちちゃうのかな)と感じた。

「気にするな、とは言えないけど、リベンジする機会がちゃんとあるんだから、そうなってもいかに腐らずに自分を保ち続けられるか、が大事になってくるね」

「大変っすね」

「それをしてこその、鳳だよ」

 これが他の誰かだったら、少しは鼻につくはずなのに、雪充相手だとそんな風に感じない。

(イケメンって得なのかな)

 しかし、昨日のような目にあってしまうのならやっぱり損な気もするし。

(そもそも、オレ、何を相談したいんだっけ?)

 そういや、悩みはあったけど、その悩みをしっかりと考えていなかった事に幾久はいま気付いたのだが、と、同時に着替えを済ませた児玉が「お待たせッス!」とアイスコーヒーを三人分運んできたのだった。


 児玉は黒いTシャツにデニムジーンズ、そして裸足という健康的な格好で、スリッパ代わりのクロックスを引っ掛けていた。

「あいつら出かけてんだってさ」

 児玉が言うと幾久はそうなんだ、とほっとした。

 いくら聞こえなくても嫌いな人が近くにいるのは気が引けたのだが、児玉が確認してきたらしい。

「つか、この寮に残ってるの数人しかいないって。みんな部活とかだし」

「そっか」

 夏休みを前に、試験も終わったし本格的に部活に打ち込む時期なのだろう。

「じゃあ、安心もできたことだし、いっくんの話、聞こうか」

 雪充に促され、幾久は頷いて説明を始めたのだった。



 自分が何に悩んでいるのかは判らない、と前置きした上で、幾久は一昨日前からあったことを説明した。


 どこかの女子生徒が、久坂を好きなこと、追いかけてきたこと、久坂と高杉の二人が揃って逃げた事。

 寮に帰って話をして、二人が自分達に好意を向ける女子をうっとおしく思っていること、女子に対する考えが厳しい気がすること。

 そして昨日、久坂が女子に対して酷い振り方をしたこと、巻き込まれたこと。

 吉田がフォローに入ったけれど、久坂と高杉は女子を庇う吉田と『絶交宣言』してその場を去ったこと、その日も話を聞いたけれど、二人に悪びれることはなく、ただ面倒に巻き込まれたとしか思っていないこと。


 児玉と雪充はじっと幾久の話を聞いていた。

「幾久、災難じゃん」

「そうだけど、なんか巻き込まれたことよりも先輩らのほうが凄くて」

 いつもの幾久なら、巻き込まれた事に文句を言ったりするだろう。面倒なことは嫌いだからだ。

 だけど実際、久坂がいくら興味がないとはいえ、女子に対してあんなにも冷たく酷いことを平気で言うなんて、そのほうが驚いた。

 しかもいつもなら宥めるほうの高杉まで似たような感じだった。

 吉田も女子をフォローしていたらしいが、それも結局、久坂と高杉との連係プレーの一環というかんじで、後から謝っていたのは吉田の方だった。

 久坂の怖い雰囲気にも驚いたし、高杉の冷たそうな、突き放す雰囲気もちょっと怖かった。

 あとから気付いたが、吉田はわざわざ、女子の前では久坂の事も高杉の事も苗字で呼んでいた。

 いつもなら、名前で呼んでいるのに。

 傍から見れば強固な幼馴染の関わりとも見えるけれど、なんだかひどく、悪い人たちのように思えて幾久はただ、びっくりしていたのだ。

「仕方ないよな。久坂先輩、すっげモテるし、面倒だとは思ってそうだし」

 児玉が言うと、幾久は「判るけど」と返す。

「でもさ、もうちょっと言い方なかったのかなって思いはするよ。久坂先輩、オレでもコエエって思ったんだから、女子なんかもっとだろ」

「……じゃあ、いっくんは、どう言うのがいいと思う?」

 雪充が尋ねた。

「どう?うーん、そうだなあ。気持ちは嬉しいけど、ごめん、とか?」

「嬉しいなら、なんで断るのって言われたら?」

「えっそれ困る」

 なんでだ、と幾久は驚く。ごめんって言われたら、引き下がるものじゃないのか。

 だけど幾久は久坂が言っていた事を思い出した。


『だからさっさと断るんだけど、『せめて一回付き合ってみて決めて欲しい』とか言われるわけ』


 あ、これか、このことか、とやっと幾久は納得した。

「なんか困るっすね、そう言うの」

「そんな風にね、断っても断っても、なんとかすがり付こうっていうのがホント多いわけ。だから多分、それでも言葉は選んでいると思うよ。選んで使って繰り返した結果、あれが一番いい、と判断したからそうなんじゃない?」

「そうかもっすけど。ただ」

「ただ?」

「……女子って組むとなんか面倒じゃないっすか。久坂先輩、女子をあんな振り方して、なんかこう、やり返されたりとかないんすか?」

 正直、高校生レベルの女子の友達づきあいがどんなものかは判らないが、久坂が酷い態度を取ったことがばれたら『ひどぉい、久坂って許せない』とかならないのだろうか、と幾久は思うのだが。

「それはないよ」

「そうっすか?」

 心配そうな幾久に、雪充が「ちょっと待っててね」と一旦部屋に戻り、再び脇に大きなファイルを抱えて戻って来た。

 テーブルの上に広げると、いろんな学校の写真と制服なんかが載っていた。

「あのさ、女子って制服だったんだろ?だったら、どれか覚えてる?」

 雪充の問いに、幾久は頷く。ファイルをめくられている中で、ひとつ、覚えがある制服があった。

「あ、これっす!ここの制服っした!」

 かなり着崩してはいたが、制服はちゃんと覚えている。念のため、似たような制服がないか探したが間違いではないようだった。

「あと、工業の奴らとコンパしたって言ってたんだよね?」

 雪充の問いに、幾久は頷く。

「栄人先輩が、女子達にそう言ってました」

「じゃあ、間違いない。商業の女子だ」

 雪充は判った、と納得したようだ。

「工業と商業は割りと学校が近くてね。レベルも似たようなものだから付き合ってる奴も多いんだ」

「そうなんすか」

「助かったよ」

 なぜか雪充が言うが、幾久はなんのことか判らない。

「それより、幾久はなんで、なにを悩んでんだ?」

 児玉が尋ねた。

「―――――判らない。ただ、先輩らってああいう人じゃなかったからびっくりして」

 少なくとも、確かにちょっと癖はあるし、意地悪な部分もあるけれど、幾久にとってはいい先輩だった。

 時々お節介で、邪魔もしてくるけど、面倒見はいいし、だから幾久もよく甘えている。

 兄、というものを持ったことがないけれど、もし兄が居たらこんな風なのかな、だったらけっこう楽しいな、と思うくらいには。

「先輩達って、確かに時々洒落にならないくらいキツイ時あるけど、でもなんかあの女子には態度違ったっていうか」

「瑞祥はね。そういうの一番嫌うから」

 仕方ないよ、と雪充が言う。

「色々理由はあるけど、瑞祥は肩書きとか外見とか、そういうのを使われるの凄く嫌がるんだ。女子が告白ったって、他校の女子がなんとなく、だろ?」

「久坂先輩も似たような事言ってました」

「だろうね。実際告白とかって、最初は嬉しいかもしれないけど、そのうち面倒になってくるよ」

「やっぱそうなってくるんすか?」

 児玉が興味津々で雪充に聞いてくる。雪充はまあね、と頷いた。

「やっぱモテるって嬉しいじゃない?でもね、そのうち判るんだよ。自分が所詮、見せびらかす道具でしかなくって、誰かのコンプレックスの解消の為に使われてて、なんか嫌だなって」

「それも、久坂先輩が言ってました。ひょっとして、雪ちゃん先輩の受け売り、っすか?」

「こういう言い方をしたらそうなのかも。でも、思っていることは変わらないよ、僕も瑞祥も」

「俺、そんなんないっすけど」

 児玉が不服そうに言うと、雪充は笑う。

「そりゃそうだよ、だってタマ、入学してからもずーっと習い事か勉強か、しかしてないじゃない。市内に制服で出た?」

 児玉は首を横に振る。

「そんなんしないっす」

「だろ?だったらそんなのないよ。市内に自分から出るか、どこか他校の文化祭にでも制服で行くか、それか柳桜祭で声かけられるか」

「そういや、告白した女子も文化祭で久坂先輩を見て好きになったって言ってました」

「よくあるパターンだよ」

 珍しいことじゃないと雪充は言う。

「特に去年の柳桜祭はね、演劇の出しものが凄くて、あれで一気に二人の評価が上がりまくったからね。あの頃告白なんか順番制かってくらい凄かったよ。バレンタインも」

「……」

 凄いしうらやましいけど、久坂のあの態度ではどうにもならなかっただろうことは想像はつく。

「本気の子もいたかもだけど、『あわよくば』みたいなノリの子だって多いよ。瑞祥は外見はあれだし、頭もいい。出自だって立派だし、家も大きい。モテないほうがおかしいよ。ただ、瑞祥はそういうの嫌ってるけどね」

 児玉が頷いて言った。

「俺、久坂先輩が面倒くさいっての、なんか判るかも。モテたことないけど、勝手に言い寄られたら確かに面倒だよな」

 幾久が一緒のせいで口調がすっかり砕けてしまっている。

「女子なら殴るわけにも喧嘩するわけにもいかねーし、だからって相手すんのもなって思うし。試験前にそんなんやられたら、マジぶっとばしたくなるかも」

 児玉が言うとしゃれにならないが、鳳に居ることを目標にして必死に頑張っている児玉にしてみたら、確かに邪魔されるのはうっとおしいだろう。

(なんだか、先輩らに似てるな、タマ)

 自分よりもむしろ、御門にふさわしいのは児玉のほうじゃないのかな、と幾久は本気で思う。

 児玉の感性は幾久よりも、むしろ御門寮の二年生達に近い。

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