寺生まれのT(ORIKO)さん~イッツマイライフ(3)
今年の正月、鳳クラスに所属する、当時一年の首席、御堀誉は、地元の周防市でお見合いを受けた。
といっても親同士の付き合いのついでのようなもので、しかも長らく付き合いがあるという写真館のモデルも兼ねて、はっきり言えばお見合いは正式のものではない。
だが、報国院は基本、男女交際が禁じられている。
正しくは、千鳥クラスは妊娠させない限りは知らん、鳩クラスも同じ、鷹は立場を考えろ、鳳は『ウィステリア以外禁止』である。
つまり、報国院の鳳クラスはウィステリアの女子と以外のお付き合いは、基本禁止なのである。
といっても表向きにそう露骨には言えないので、『みんなウィステリアの女子と付き合うならいいよ』と伝えているだけである。
実際、他校の女子と付き合おうが内緒にしていて問題がなければいいのだが、鳳クラスはそうもいかない。
そもそも、学校の抱える借金の利子を低くしてもらえているのも、その条件があるからだ。
だから、鳳の生徒を持つ両親には、そこまで書かなくても基本男女交際は禁止です、発覚したら退学の可能性もありますと報国院のパンフレットには記載しているのだが。
元々、御堀誉の父親は報国院を良くは思っていなかった。
その為、報国院からの知らせも殆どチェックしていなかったという。
その結果、本人も親も全くその規定を知らず、うっかりお見合いをしてしまった。
このことは報国院だけでなく、鳳をよそに回そうとしたという事になるのでウィステリアとの約束も反故になるという大問題だ。
だからこそ、毛利らはその事を知って慌てたし、吉川も持てる力を全て使ってお見合いの中止工作を行ったのだが。
(しかしなんでバレた?!口止めはしっかりしていたし、絶対にバレる要素がない!!!!)
そう思う吉川だが、お見合いがあったのは事実。
舎利子がこうして乗り込んでくるということは勝算しかないからだろう。
吉川は舎利子の正面のソファーに座り、素直に深々と頭を下げた。
「ごめんなさい、黙っていました」
「そうねえ、黙っておくのは良くないわよねえ」
どうしてバレたか、という疑問はおいといて、吉川はとにかく事情を説明するしかないと思い、毛利を呼んだ。
「毛利先生!今すぐ御堀君を呼んで来い!」
この時間なら、あの子はフットサル場で遊んでいるはずだ。
フットサルコートを作りあげ、手に入れて、毎日朝早くから夕方はぎりぎりまでずっと親友とフットサルばかりしている。
「今すぐ呼んできます!!!」
この場からとにかく逃げたい毛利は、吉川の命令にすぐさま従った。
学院長室を慌てで出て行き、ドアがばたんと閉まる。
「いま、当事者を呼びに行かせた。俺が説明するより、その方が信ぴょう性があるだろう」
「そうねえ、その方がいいわね。確認するの面倒くさいし」
舎利子はそう言って、機嫌よさげに吉川に告げた。
「ところでお茶はまだ?」
「今すぐご準備いたします!!!!」
吉川はソファーから立ち上がった。
幾久と御堀はいつも通り、放課後のフットサル場で遊んでいた。
まだ部活と言ってもきちんと整っておらず、毎日殆ど遊んでいるようなものだったが、今のところは満足だ。
そうしていつものように遊んでいると、コートの外から慌てて走ってくる人が見えた。毛利だ。
らしくなく慌てて、髪も乱れていてぜえぜえ言っている。
「み、み、みほり、ちょ、こっち」
なんだろう、と幾久と御堀は顔を見合わせるが、御堀は毛利に近づく。
「なんでしょうか」
「……ウィステリアの怖い人に、お前の見合いの件がバレた」
その言葉に、傍で聞いていた幾久も目を丸くする。
幾久と御堀は顔を見合わせ、毛利を見ると、毛利が言った。
「いーか、正月に会った事、正直に全部話せ。アイツはこえーんだ。絶対に逆らうな。報国院のこの先の金の動きは殆どアイツが握っていると言って良い」
毛利のただならぬ様子とその言葉に、御堀の背筋はしゃんと伸びる。
すぐに鳳の首席モードにまった。
「僕、着替えたほうが良いですか」
御堀の質問に毛利は首を横に振る。
「いや、いますぐ向かったほうが良い。アイツはスゲーせっかちなんだ、着替えたら逆にブチ切れる」
「判りました。幾、悪いけど」
「こっちは気にするな。いいから急げ」
幾久の言葉に御堀は頷き、毛利と全速力で走って行った。
「なんか大変そうだなあ」
正月の件は幾久も巻き込まれたというか、幾久が騒ぎを大きくしてしまったような気もするので、ちょっとだけ責任も感じてしまう。
「けど、誉ならうまくやるだろーな」
そう幾久は呑気にかまえていた。
もうすぐ巻き込まれてしまうとも知らずに。
毛利の慌てぶりを見て、これはきっと相当なリスクが伴うのだろうと御堀は覚悟は決めていた。
学院長室へ駆け足で向かいながら必要な情報を毛利から貰う。
「相手はウィステリアの女帝、道重舎利子学院長だ。百仁鶴くんとは幼馴染みてーなもんで、ジャンルはパンクス。クソつええ。ウィステリアの権化みてーなババアだけどババアって言ったら五十回くらいころされる。今回は多分、お前の見合いの件を掴んで報国院から巻き上げに来たって所だ」
「はい」
「ずっとウィステリアに借りてたんだけど今回フットサル場になっただろ?そんでうちとしては土地を買いたかったんだが、あちらさんは地代を跳ね上げるのが目的だ。そのあたりひっかけながらお前の見合い話に絡めてくるだろーな」
「はい」
毛利の話は簡潔で判りやすい。
「つまり僕に求められているのは、見合いの内容ではなくどう相手の信頼を取り戻すのかって事ですね」
御堀が言うと毛利が頷いた。
「おまえさんはおりこうで話がはえーわ。そういうこと」
多分、この様子では御堀の見合いの件などあっちはとっくにご存じだったに違いない。
しかし、なにかの材料にするために、じっと静かにしていた。
結果、フットサル場が出来上がった今になって地代を跳ね上げに来たという事だ。
学院長室に到着し、毛利はドアをノックした。
「御無礼しまーす!毛利です。御堀君を連れてきました!」
「入れ」
そうしてドアがあくと、毛利と御堀は学院長室へと入る。
御堀は頭を下げ、暫くして顔を上げ、一瞬驚く。
学院長室のソファーにどっかり腰を下ろし、足を高々と組んでいるのは、一瞬モデルかと思う程のすらっとした美女だったからだ。
ファッションはよく判らないが、これが毛利の言うパンクスというジャンルなのかな、と御堀は思う。
「御堀誉です」
そう言うと、吉川は自分の隣に手招いた。
座る前に、御堀はウィステリアの学院長に頭を下げた。
「どうぞ座って」
舎利子が言うと、御堀は「はい」と頷き腰を下ろす。
「さて、どこからお話しましょうか」
にっこりそう微笑んでいたが、吉川の無表情ではあるが動揺の見える雰囲気に御堀は、これは骨が折れそうだな、と思ったのだった。
さて、一方フットサル場の幾久はボールで遊びながら考えていた。
(大丈夫かなあ、誉)
正月の、御堀がお見合いすると判った時の先生方の慌てっぷりは半端なかったし、最終的には学校の依頼で宇佐美が出ることにすらなった。
六花の家にいたから話はまるで身内の中で終わったような気がしていたが、こうしてウィステリアの学院長が出てくるのはけっこう大変なのではなかろうか。
心配だけど、幾久が顔を出す訳にもいかなくて、なんとなくすっきりしない。
「でも心配してもしょうがないかあ」
御堀の事だからきっとうまくやるだろう。
そうは思うがやはり心配ではある。
先に帰る事もできるけれど、もうしばらくここに居よう、と幾久はボールで遊ぶのだった。
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