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【海峡の全寮制男子校】城下町ボーイズライフ  作者: かわばた
●2年生編【28】二度目の呼吸【麻中之蓬】
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はじめましてのぼく(ら)

 新入生の三人は寮の中に案内された。

 食事まで時間があるので、最初に自己紹介をしておこうとなった。


「こっち、居間があるんだ。食事とかもそこでするからね」


 幾久の案内に、一年生らはきょろきょろと辺りを見渡す。

 何もない居間に座布団が用意され、ちゃぶ台が置いてあった。

 一年生には長テーブルが用意され、そこへ横並びにつく。

 全員にお茶とお菓子が行き渡ったのを確認すると、栄人が両手を叩いた。


「じゃ、簡単にお互いの自己紹介からはじめようと思います!」


 新二年生、三年生の二人が拍手すると、一年もつられて頷いた。


「先に寮母さんから紹介するね。じゃあ、どうぞ麗子(れいこ)さん」


 いつも通り、レースのフリルがついた白の割烹着を着た麗子が頭を下げた。


「寮母の吉田麗子です。食べたいものがあったら、教えてね。嫌いなものも、好きになって貰えるお料理作るようがんばりまぁす」


 ほんわかした空気に、一年生もほっとする。


「じゃあ、次、どうぞ」


 麗子が言うので、幾久が頷く。


「一年鳳、」

「幾。二年だよ、二年生」


 御堀が突っ込むと幾久が気づく。


「あ、そか。二年鳳、乃木幾久です!サッカー好きです!よろしくお願いします!」


 一層強く拍手したのは華之丞だ。

 幾久は照れながら、「じゃあ次」と言うと御堀が頷いた。


「二年鳳。御堀(みほり)(ほまれ)です。和菓子のご用命は是非『御堀庵(みほりあん)』へどうぞ」


 にっこりと営業スマイルを見せる御堀に、一年は、へえ、という顔になった。

 御堀庵(みほりあん)の名前は聞いたことがあるからだ。


「同じく二年鳳、児玉(こだま)無一(むいつ)。えーと……趣味はボクシングとギター。よろしく」


 挨拶が終わると、栄人が言った。


「二年生はこの三人ね。じゃあ、おれら三年生の自己紹介に行きます!まずはおれ、三年鳳、吉田(よしだ)栄人(えいと)!商店街のバイトはなんでも判るし、バイトとコンパのセッティングは任せて!寮母の麗子さんは親戚でーす」


 ほお、と一年生らが拍手した。


「次、ほら瑞祥」


 栄人が言うと、久坂は一年生らを興味なさげに一瞥して言った。


「三年鳳、久坂(くさか)瑞祥(ずいしょう)。僕に興味を持つな、関わるな、質問するな。以上」


 冷たく言い放った言葉に、一年が全員口ごもり、柔らかかった雰囲気が一気に静かになってしん、となった。


(なんだこいつ)

(こええ)

(脅しかよ)


 一年生三人がそう思った時、久坂の顔を横から出てきた幾久が手のひらで覆った。


「瑞祥先輩またそーやって威嚇する。大丈夫だよ、なんかあったら最中与えとけば機嫌なおイテテテテ」

「余計な事を言うな」


 幾久のほっぺたを思い切り引っ張り久坂が言う。


(最中て)

(じじくせえ)

(つぶあん?こしあん?両刀?まさかのしろあん?)


 困惑する一年生を尻目に、最後の三年である高杉が出てきた。

 さっきから愛用の扇子を持って、閉じたり開いたりしていたが、ぱちん、と扇子を閉じて言った。


「三年鳳、高杉(たかすぎ)呼春(よぶはる)。この御門寮の総督(そうとく)でもある。なんか質問があったら尋ねろ。但し余計な言葉と時間を使うな。以上じゃ」


 やはり久坂と同じく、笑顔ではあるが威圧する雰囲気に幾久が横から言った。


「なんでまた威圧するんスか。大丈夫だよ、なんかあったらしるこサンド与えておけば機嫌なおイテテテテ」


 今度は久坂と反対側のほっぺたを引っ張られる。


(しるこサンド)

(あんこ率たけえ)

(おやつ、餡子類しかねえのかな)


 どっちにしろ、ここには怖くて厄介そうな先輩が殆どで、なにかあったら幾久か三年の栄人に尋ねるしかないというのは理解した。

 栄人が言った。


「じゃあ、こんな感じで一年生に自己紹介をお願いします」


 一年生たちは背をぴっと伸ばし、最初は華之丞から自己紹介となった。


「一年鳳、菅原(すがわら)・オブライエン・華之丞(はなのすけ)っス。えーと、ノスケって呼ばれてます。見てのとーり、ハーフっすけど中身はバリ日本人っス。御門に入れて嬉しいっス!」


 そう言って「あざっした」と頭を下げると、拍手が起こる。

 次、と手を挙げたのは大庭だ。


「一年鳳、大庭(おおば)喜八(きはち)。バキって呼んでください。見ての通り美少女です!」


 すると、高杉が言った。


「バナナの弟じゃろ。見たことがある」

「そうです!」


 そう言って頷く大庭に、高杉が幾久に言った。


「昔、同じ武術を習っちょっての。道場で知っちょる」


 成程、確か大庭らは高杉と幼馴染だったと幾久は思い出す。

 面識があるなら、高杉や久坂もそこまで邪険にしないかも、と幾久はほっと落ち着いた。


「じゃあ、次、君でラストだ」


 幾久が言うと、一人残った少年は、びくっと肩を揺らした。

 すると、華之丞が割り込んで言った。


「あの、こいつ、ちょっと吃音(きつおん)あるんス。緊張したり、慣れてねートコとか人、苦手なんで、その」


 吃音(きつおん)とは、言葉がどもることで、話す前に同じ音を繰り返してしまう事だ。

 それなら確かに、いま初めて会った人や初めての御門寮では喋りづらいだろう。


「ボードとかあったほうがいい?」


 幾久の問いに、華之丞が首を横に振った。


「あ、いえ、そこまでじゃ。な?狛人こまと


 うん、と土師(はじ)は頷く。

 そして息を吸うと、ゆっくり言葉を紡いだ。


「い、い、一年、鳩の、は、土師(はじ)狛人(こまと)。と、と、得意なものは、ピ、ピアノ」


 そう言ってぺこりと頭を下げる。

 確かにスムーズに喋れはしないのだろうが、意思疎通には問題なさそうだ。


「しゃ、喋るの、と、得意じゃないっす、けど、な、慣れたら、こういうの、へ、減ります」


 幾久が言った。


「わかった。じゃあオレらはなんも気にしなくていいんだね?別に問題なさそーだし」


 幾久がそう言って、御堀や児玉が頷くと、土師は頷く。


「そ、そのほうが、あ、あ、ありがたい、っス」


「判った。もしオレらがしたほうが良い事あったら教えて。対応できる事はしたいから。そのほうがストレスもないだろーし。言いづらかったらノスケからでもいいし」


 な、と幾久が華之丞に尋ねると、華之丞は思い切り何度も頷いた。


「はい、はい、是非!」

「よーし、いい返事!」


 幾久が言うと、華之丞は思い切り笑顔を見せた。


 自己紹介の後、寮の中を案内されたり、庭を歩いたりして、華之丞はすっかり幾久と打ち解けた。

 他の二人も、新二年生の二人がきちんと丁寧に面倒を見てくれたし、三年生もなんだかんだ、二年生には従って、一緒に行動してくれた。


 夕食は、気を使ったのか和、洋、中華が揃えられていた。

 和食は新鮮な魚をOBが運んでくるし、洋食、中華はデリバリーが多かったが、食事は寮母さんが作ってくれるので、好きなものや嫌いなものがあったら伝えて欲しいと言われた。

 食事はどれも美味しいし、デザートも用意され、食後のコーヒーも美味しかった。

 食事には何の不安もない。


 食後は寮生みんな一緒に風呂に入った。

 これまでは人数が少なかったから、と小さな風呂を使っていたそうだが、一年生が入ってきたので大きな風呂を使う事になったそうだ。

 見た目は純和風の建物だが、内部は何度か改築されてモダンな雰囲気だったし、部屋が必要なら好きなだけ使っていいとの事だ。


 個人でもっすか、と尋ねる華之丞に、皆、欲しいなら、と頷いたのには驚いた。

 一年生でも立場は気を遣う必要はないらしい。

 面倒そうな先輩は居るが、幾久が居るなら全然かまわない。

 まだ部屋が決まっていないので、普段使わない和室に三人は布団を並べて寝ることになった。

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