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【海峡の全寮制男子校】城下町ボーイズライフ  作者: かわばた
●2年生編【28】二度目の呼吸【麻中之蓬】
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すきな後輩を選ぶんじゃ

 なんだ?と思って書類を見ると、本人からの絶対条件が書いてあった。


「えーと……『大庭(おおば)喜八(きはち)土師(はじ)狛人(こまと)、三人一緒で御門寮を希望』」

大庭(おおば)喜八(きはち)って、茄々(なな)先輩の?」


 御堀が言うので幾久は他の書類をめくった。


「あった!本当にバキ君だ」


 大庭(おおば)喜八(きはち)は、ウィステリアの演劇部部長であった大庭(おおば)茄々(なな)の弟だ。

 茄々は幾久より二つ年上で、卒業してしまったが進路は雪充と同じ大学だった。

 自他共に認める美少年にしか見えない茄々の、自他共に認める美少女にしか見えない弟が大庭喜八。


「しかもこの子、次点だよ。二位だね」


 御堀が言うので幾久も書類を覗き込む。


「えっ、凄い」


 見ると確かに入試で二位の成績だった。


「この子の書類にも、同じように書いてあるね。三人一緒がいいって」

「ってことは、この土師(はじ)君が三位とか」


 と、幾久が書類をめくると、見ていた御堀と児玉、幾久の三人の言葉が詰まった。


「どうしたの」


 久坂の言葉に、高杉がニヤッとした。


「―――――じゃろ?困るよの」


 てっきり、華之丞が首席、大庭が二位、とくれば三位は土師と思いきや。


「―――――鳩、です」

「は?」

「え?」


 久坂と栄人が書類を覗き込む。

 順位は散々な順位で、決して高くない。

 そしてクラスは『鳩』。

 露骨にむっとした久坂が言った。


「だめだめ。全員落とせ」

「そんなあ!」


 折角、首席が希望しているし、幾久とも面識があって、それなりに懐いてくれている大庭の弟も一緒で、この子は知らないが三人一緒ならこれで決めてしまえば楽だ。


「いいじゃないっすか一人くらい」

「その慢心が寮の崩壊を呼ぶんだよ。モウリーニョとよしひろがなにしでかしたか、僕は知ってるからね」

「いやいやいや、あの二人はいまだにおかしいレベルなんで全く参考にならないじゃないっすか」

「幾久、フォローになってないぞ」


 児玉が言うも、幾久は久坂に訴えた。


「首席と二位が居るならそれも足して平均すれば実質全員鷹みたいなもんで」

「いっくんバカだろ?鷹なら余計にお断りだ」

「いやいや、オレだって最初は鳩っすし」

「実質鷹だったってハルは言ってたけど」

「じゃあ実質平均値鷹で問題ないってことで!」

「駄目だ」


 つーんと久坂が反対する。

 確かにそれは仕方がない事だ。

 桜柳寮は全てと言って良いレベルが最高位の鳳クラスで、御門もそれと似たようなもの。

 自治寮の中でも飛びぬけて自由度が高いのがこの御門寮と桜柳寮なのは、ひとえに成績重視の報国院において成績優秀者しか寮にいないからだ。


「でもせっかく三人まとまってるのに」


 幾久がしゅんとして言うと、高杉が助け舟を出した。


「確かに、全く知らん連中を三人入れてまとめ上げる、ちゅうのは面倒くさい上に、ワシ等にその経験はねえぞ」


 高杉の言葉に久坂が口ごもる。

 実際、卒業した雪充は山縣と中学生の頃から親しかったようだし、山縣は時山と親友と言うレベルだった。

 つまり、すでに関係性が出来上がった状態で御門寮に所属していたという事だ。

 そして、高杉と久坂と栄人は幼馴染で関係性は言うまでもない。

 幾久はたった一人で寮に所属していたが、児玉とは早い時期に和解して親しくなって御門寮に移寮してきたし、御堀は桜柳祭での関係で一気に幾久と親しくなってから、移寮してきた。

 つまり、全く知らない者同士が寮で親しくなる、というシチュエーションは誰も経験していない。


「もしなんかあっても、フォローは不可能ってことですね」


 御堀が言うと高杉が「そういう事じゃの」と頷いた。


「いや、御堀だって児玉だって、入学して寮に入って関係作ったわけでしょ?騙されないよ僕は」


 ふんと言う久坂に、高杉は苦笑する。


「やっぱり誤魔化せんか」

「せるわけないだろ」


 久坂の言葉に栄人が苦笑した。


「でもさ、おれらにその権限はないわけだし?」


 それを言われると久坂も逆らえず、むっとする。


「―――――僕は反対だ。どうしてもって言うなら、鳳の二人だけ」

「三人一緒でないのなら、別の寮に移してくれ、とあるの」


 書類をめくり、高杉はなぜか楽しそうに久坂に告げた。


「まぁ、エエんじゃないか?三年の首席はワシか瑞祥、お前じゃし、二年の首席は御堀じゃ。御門はそこまで首席はいらん。しかし、一年の首席なんぞ、どこの寮も喉から手が出る程欲しがるじゃろう。例えおまけに鳩がついてきてもいい条件じゃのう」

「そーそー、しかも二位の子もいるんでしょ?一年ヒエラルキーの頂点に立てるじゃん。これは(えだ)あたりがスカウトしたがるぞぉ」

「なんで(えだ)が?」


 (えだ)寮は鷹クラスの多くが所属する、幾久と同学年なら入江が所属して、昨年までは三年、二年、一年の年子の入江兄弟全員が所属していた寮だ。

 個性が強い、というか自治寮はどこもそうなのだが、朶はその中でも拗らせっぷりが際立っている寮だった。

 鳳クラスの入江は一年でありながら立場は兄より強かったそうなので、成績での立場がものをいうのだろう。

 幾久が首を傾げると栄人が答えた。


「だって朶って、鷹が多いだろ?一人でも多く鳳が欲しいんだよ。だって誰も好きで鷹なんかやってないもんね」

「あぁ……それは確かに」


 千鳥はさておき、鳩は割と「面倒くさいけど鳩くらいでいなくちゃ」という平均値を狙って鳩クラスをやっている面々も多い。

 だが、鷹はそうじゃない。

 うっかり鳩から上がってしまった鷹は別だが、殆どの鷹は『鳳』を目指して届かない連中ばかりだ。


 つまり、朶寮は、鷹にいたくないのに鷹にいるしかなく、出来る事なら別の寮に移りたいという連中ばかりという事になる。

 鷹と鳳を行ったり来たりの入江次男が喜んで恭王寮に移寮したのはそういう背景もある。

 寮の中の空気も割とギスギスしていて、試験の前なんか、かなり不穏なオーラが漂っていて、お近づきになりたくない、と幾久と同学年の入江三男坊は言っていた。


「そんな朶がもし首席なんか入れちゃったら、そりゃ喜ぶし、大騒ぎになるよ。あまり話題にしたくないけど、赤根だってサッカーやってなかったらあれ絶対朶タイプだもん」

「ひぇ」


 もう卒業したとはいえ、やっぱり苦手な先輩の名前を出され幾久は思わず身を震わせた。


「じゃあ、瑞祥先輩の言う通りに彼を取らない場合、うちはみすみす寮の力比べに勝負もせずに負けるんですね。朶寮に」

「朶って決まったわけじゃないだろ」


 むっとして言う久坂に、高杉は「そうか?」と首を傾げる。


恭王(きょうおう)寮は去年のコイツの件があるけ、余計に身辺にはうるさく調べるじゃろうが、最初から関係性ができちょった連中が問題おこしたけえ、こういう完成した組み合わせは嫌がるじゃろう。桜柳寮はウチ以上に鳩はいらんな。じゃああとは朶しかなかろう」


 鯨王(げいおう)寮はケートスのユースに所属しているのが絶対条件なので、華之丞含め全員がユースの必要がある。

 だが、概容にはそんな内容の記載はなく、つまり、選択肢は御門か朶しかありえない。


「さすがに首席を報国や敬業にぶちこむわけにはいかんしの。選択としてはまちごおてない」


 高杉の解説はもっともで、久坂は流石に何も返せない。


「ウチも三年、二年、一年と首席がおりゃ箔はつく。なにせ、唯一の三年の進路が東大様じゃ。立場はぐんと上がったぞ」

「卒業生の進路とか関係あるんスか?」


 もう卒業してしまったら関係なさそうだが、と幾久が不思議に思うと栄人は「そりゃそうよ」と頷く。


「だって、その寮からいい大学にぞろぞろ受かってたら、やっぱその寮ってなんかあるのかなとか思うっしょ」

「確かに」


 幾久も御門に入って鳩から鷹に上がった時は、御門の先輩に贔屓されているみたいな事を冗談でも言われたものだった。

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