ここに〇人の新入生がおるじゃろう?
本日、午前中。
幾久と御堀は、OBが寄付してくれた出来立てのフットサルコートで一汗流し、その間、高杉は学校に呼び出され、新しい寮に所属する新入生のリストを貰って来た所だった。
報国院男子高等学校は全寮制の男子高校で、どんなに近所に住んでいようが基本、全員が寮に入ることになっている。
報国院には寮がいくつもあったが、その中で大まかに分けられるのが生徒に運営が任されられる『自治寮』と『それ以外』だった。
自治寮ではない寮は、報国寮と敬業寮のふたつで、半分以上の生徒がそのどちらかの寮に所属する。
報国院のクラス分けは殆どが成績順で、下から千鳥、鳩、鷹、鳳となっている。
クラスで言うなら、最下位の千鳥が報国寮に、その次の鳩が敬業寮に所属した。
そして自治寮と呼ばれる寮は、恭王寮、朶寮、鯨王寮、桜柳寮、そしてここ、一番人数が少なく、学校から遠い御門寮である。
高杉は午前中、学校に呼ばれ、説明を受けた書類をそのままちゃぶ台の上に広げた。
皆が自分のお茶とお菓子を引き寄せ、中央の書類をじっと見る。
高杉が説明した。
「報国寮と敬業寮は、人数の多さから殆どクラスそのままにぶち込まれちょる。性格を考えて、あとはクラスの関係や本人の希望で自治寮に誰を入れるのか、ちゅう話で、殆どが学校が決めちょる。希望者が多かった寮なんかは選択せにゃらなんのじゃが」
「ウチは希望者あったんだ?」
栄人が訪ね、書類をめくると高杉が「まあの」と頷く。
「というわけで、一年、じゃのうてもうすぐ二年ども、誰がエエか選べ」
「は?」
「え?」
「ん?」
突然そう言われ、もうすぐ二年の三人、児玉、御堀、幾久の三人はもう一度顔を見合わせて「え?」と首を傾げた。
「え?じゃねえ。最初から言うちょったじゃろう。寮に入れる一年生を選ぶのが、二年生の最初の仕事じゃと」
「マジっすか」
「マジもマジじゃ。じゃけ、選べ」
そう高杉が言うのだが、いざ選ぶとなったら責任をどしんと感じてしまい、三人は顔を見合わせた。
「誉、タマ」
「僕はまず幾が選ぶべきだと思うな」
「同じく」
「なんだよ!逃げたな!」
これから一緒に暮らして過ごす後輩を書類で選ぶなんて、面倒なことはお断りだとばかりにさっさと御堀と児玉は逃げた。
「でも幾が僕らの中では一番古株じゃん」
「う」
「そうそう、幾久先輩がたった一人、選ばれし御門の子だろ?俺は落とされてんだし」
「ぐぬぬ」
確かにこの学年で御門寮に最初から所属しているのは幾久だけだ。
「じゃあ、幾久、お前が好きなん選べ」
高杉がそう言って書類を見せるも、幾久は唇を尖らせた。
「えぇ~……なんか責任重大じゃないっすか」
「別に気にしなくていいじゃん。気に入らなかったら追い出せばいいんだし」
あっけらかんととんでもない事を言うのはやはり久坂だ。
「やーっすよ!入りたい子がいるなら、やっぱちゃんと面倒みないと!飼い主の責任っス!」
「幾久……後輩はペットじゃねえよ」
児玉が呆れて言うが、幾久は「そうかなあ」と首を傾げる。
「だってタマも誉もオレが拾ってきたんだよ?」
「確かにのう」
高杉がぷっと笑う。
ここに居る児玉も御堀も、幾久が引っ張ってきたようなものだ。
児玉は恭王寮の跡継ぎ候補で、御堀は桜柳寮の跡継ぎ候補だった。
どちらも人材としては御門寮は言うことなしなのだが、問題は次世代だ。
他の人数がそこそこ居る寮ならともかく、現在御門に居るのは新三年生が三名、そして新二年生が三名の合計六名。
ということは、新しい一年も、そのくらいの人数しか入れられない。
三名か四名。それが御門の限界だろう。
「うーん、入りたい子は全部入れてあげたいけど」
渋々と書類を見ると、幾久は「うえ」と声を上げた。
「七人もいるじゃないっすか!ってことは半分落とさないと!」
「そういう事じゃ」
「そういう事だね」
「がんばれーいっくん!」
呑気に無関係な三年の三人はそう言うも、幾久はどうしようと頭を抱える。
希望するという事は、やっぱり入りたいという事で、ということは半分は去年の児玉のような子を作ってしまうという事になる。
「これは難しい」
すでに数だけで頭を抱えた幾久に、高杉は言った。
「数字だけ見ちょらんと、書類を見ろ。どこから来たか、とか希望の理由と、あとは成績の順も書いてある。顔写真もあるけ、好みの奴を選べ」
「そしたら幾は顔の良いのから選びますよ」
御堀が言うと児玉も頷いた。
「幾久、面食いだもんな」
「誰だって顔いいの好きでしょ!」
「幾は露骨が過ぎるよ」
「誉の顔だって好きだよ?」
「ホラね」
「エエからさっさと中身を見ろ。明日には決定稿を持っていかんにゃならんのじゃぞ」
高杉が言い、幾久は仕方なく書類をめくった。
七人の全部を見てじっくり考えて、一日で決めるとか、と思ったのだが。
「―――――あれ」
「あ」
幾久と御堀が同時に声を上げた。
「どうしたの?」
久坂が尋ねると、幾久と御堀は顔を見合わせた。
「いや……だって」
「ねえ」
幾久と御堀にしてみたら、まさかの見知った顔がそこにあった。
というより、御堀は多分想像がついていたが、幾久にとっては寝耳に水だ。
「なんでノスケがのってんの?」
ノスケ―――――とは、菅原・オブライエン・華之丞の事だ。
初めてあったのは桜柳祭の時。
ロミジュリのアンコールを神社の境内で幾久と御堀が行っていた時、幾久を嫌う二人にサッカーボールを投げつけられ、幾久の対応で事なきは得たのだが、投げつけられたのは華之丞のボールだった。
当時中学三年生だった華之丞は幾久を知り、その後の昨年十二月、報国院の学校説明会に参加し、幾久の案内を希望した。
てっきり誘われているという、以前御堀もユースで所属していた二部リーグの周防ファイブクロスに所属して、御堀が進学するはずだった学校へ行っているかと思いきや。
「えっ、しかも首席?!!!!」
驚いて幾久が声を上げ、児玉と御堀が書類を覗き込む。
「本当だ。首席入学だね」
「ってことは、もう決定みてーなもんじゃん」
ホラ、と児玉が書類を指さす。
華之丞の書類には『御門寮』の版が押してある。
「首席入学じゃ、希望は通さんとの」
高杉が言う。
「ってことは、俺も首席だったら御門だったんですか?」
御門を希望しつつも入れなかった児玉が尋ねると高杉は「いーや」と返す。
「あん時ゃ、雪がおらんようになったけ、誰も取らん、と決めちょった。例え首席であっても断った」
「そうなんですか」
どこか児玉はほっとしたようだった。
「でも首席で御門希望だったら、これ決まってるんスよね?」
幾久が尋ねると高杉は「いいや?」と首を横に振った。
「誰が何を言おうと、自治寮の決定がないとそこは学校も無理は言わん。駄目なら駄目でもエエ。つまり最終決定権はこちらにある」
「そう。今回無理でも、中期に希望したら通るかもでしょ?」
栄人が言い、三人とも「確かに」と頷く。
「ただ、早く入れて教育しとかないと、知らない寮に行きたいって子はそういないし、希望しててもやっぱり慣れたら出るの面倒でしょ。それでもし一年、空白が出来たらウチなんか廃寮の可能性もあるんだし」
栄人が言うと幾久が慌てた。
「やばいやばいやばい!御門寮が廃寮になるの絶対にダメ!じゃあノスケで決定!」
幾久が即効決めたのだが、児玉が言った。
「幾久、でもよく見てみろこれ。書類に注意事項が書いてあるぞ」
「へ?」
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