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【海峡の全寮制男子校】城下町ボーイズライフ  作者: かわばた
【24】ロミオとジュリエット、巌流島にていざ決戦す~白熊を添えて【品行方正】
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ロミオとジュリエット、巌流島の決戦

「しかもオレ、すげー楽そう」

 ロミオとジュリエットとタイトルがついているのでやることが多いかと心配していたが、内容はそこでもない。

「時間が短いし、ドタバタのコメディの方が絶対に面白いから出来るだけ皆に出番を用意したんだ」

「これなら必死にリハする必要もないね」

 御堀が言うと、普も頷く。

「そう。これやって僕らが鳳落ちたら馬鹿じゃん?だから極力、アドリブで使えるようにセリフは最低限にしてさ」

 それと、と普が時間のスケジュールを示した。

「先輩たちが交渉してくれて、最高三十分、地球部にもぎ取ってくれたんだ。一応、ニ十分以内に収めてくれとは言われてるけど、ちょっとくらいは見逃してくれるって。その代わり、先輩たちもやりたいことがあるんだって」

 最初の数分程度、二年生が三年に向けて見せたいものがあるという。

「といっても、五分程度だし、僕らの舞台を壊すような事はしないから安心しろって」

 まず最初に二年生が五分程度の演出をして、その後に一年生のロミジュリ、そしてラストは一年、二年合同で挨拶をするというスケジュールだ。

「脚本はそれぞれ、自分が関わる人となら時間も指定してあるから好きに変えていいし、そっちのほうが面白そうだから僕の脚本は無視してもオッケー。とにかく盛り上げて楽しくしたいんだ」

「質問だけど、衣装はどうするんだ?」

 山田が挙手して尋ねると、皆が首を傾げた。

「そういや、衣装の事何も考えてなかった」

「えっ、じゃあどうするの?」

 てっきり桜柳祭の時と同じ衣装を着ると思っていた幾久は驚くが、普は言った。

「好きな衣装着ようよ。僕、コスプレしたいんだー!」

 すると瀧川が頷いた。

「私めも何か派手な格好がしたい所」

 普も頷いた。

「どうせ試験前に衣装を準備するのって無理じゃん。だったら、桜柳祭の衣装でもいいし、好きな服着たらカオスで面白いんじゃないのかなって」

 へえ、と話を聞いていた児玉が言った。

「じゃあ俺なんかは絶対にグラスエッジのツアT着る」

「タマはそれだよな」

 すると話を聞いていた御堀が頷いた。

「凄くいいね。僕もなにか派手な格好したいな」

「ロミオの時以上に派手な格好とかある?」

 幾久が言うと、御堀がふふっと笑って言った。

「紋付袴」

「あ―――――!見合いの時の?」

「そう。いいと思わない?」

 すると話を聞いていた面々が首を突っ込んだ。

「紋付袴?そんなんで見合いしたのかよ!」

 御堀の見合いでのトラブルは、鳳の面々の中では共有済だ。

 今後もし誰かが、停学や退学になると大変だからだ。

 幾久が頷いた。

「そーだよ、めちゃめちゃかっこよかった。スゲー似合ってたし」

 でも、と幾久は思い出す。

「あれって泥だらけになってなかった?」

 呉服店の奥様が発狂していたくらいに豪華な着物だったはずで、だったら幾久の服みたいに洗濯機で洗ってよし、なんて事はないだろう。

 御堀が頷く。

「うん。弁償分は勿論、新しいものを仕立てさせるけど、今回のについては、黒田の奥様が奇麗にしたのを僕にくれるって」

 え、あれって確かかなりのお値段じゃなかったっけ、と幾久が目を丸くすると、御堀はにっこりとロミオ様スマイルで答えた。

「どうせ処分されるものだからって」

「それも怖い」

 毛利が言うにはかなりのお値段だったはずだが、いくら汚れてしまったとはいえ『どうせいらないもの』とか言ってしまう誉会の奥様は怖い。

「それって単に言い訳だよね?」

「当然。ここぞとばかりに請求するからだって」

 あはは、と笑っているが御堀も多分怒っているのだろうな、と幾久は理解した。

「じゃあ、みほりんは紋付袴で、いっくんはなににする?」

「なんでもいいし面倒だし」

「ちょっとは真面目に考えろよ」

「ツアT選ぶタマに言われたくないし、何着たって誉には見劣りしちゃうよ。オレは諦める」

 幾久の言葉に、全員が頭を抱えた。

「うーん、みほりんの着物の破壊力は相当って事だね」

「少々の衣装じゃ目立てねえぞ」

「そんな事より皆、勉強は良いのかい?今度こそ私めが首席を頂戴する羽目になりますが」

 瀧川が言うも、全員が首を横に振った。

「負けないし」

「お前も落とす」

「はは、見くびられたな」

「次は俺が首席かな!」

「ありえねーよ万寿」

 なんだかんだ、やっぱり鳳のプライドは健在なのだ、と幾久は苦笑したのだった。

(これなら心配することもないよな)

 一応、ロミジュリの名前があるので自分がしっかりしなければ、と考えていたが、多分そんなことをしなくても、皆、楽しくやれそうだ。

 幾久はほっとして、一人で勉強を始めた。

「あ、いっくん、なに抜け駆けしてんの」

 普が目ざとく気づいて幾久に突っ込む。

「だって脚本見たらオレすることないし、これなら勉強に集中してもいっかなって」

 幾久の言葉に、御堀が目を細めた。

(そっか。幾ってば)

 地球部を背負ってほしい、という御堀の願いを幾久はちゃんと守るつもりだったのだろう。

 言ったことを忘れたわけでは当然ないし、信用もしているけれど、こうしてささいな瞬間に、御堀の事を考えていてくれると思うと頬が緩む。

「僕が教えるよ。予餞会はりきって、二年の最初から鷹落ちなんてロミジュリコンビの名が廃るからね」

「あ、じゃあついでに俺も横で見る」

 ちゃっかり便乗する児玉に、山田が慌てて近づいた。

「じゃあ俺も!」

 そうして皆で勉強を始め、あっという間に地球部の部室は自習室へと変わったのだった。




 夜、御門寮では先輩達も居間で勉強していて、幾久らも一緒に勉強する事にした。

 暫くして休憩する事になり、じゃんけんで負けた御堀が全員分のお茶を用意することになり、児玉が親切で手伝いについて行った。

「じゃあ、三年生は本当に全くなにも知らないんスね」

 幾久が尋ねると高杉が頷いた。

「ああ。どうせなら当日まで内緒にしちゃろう、となっての。とはいっても毎年後輩からなにかの出し物はあるから、薄々は気づくじゃろうが」

 高杉は楽しそうに笑った。

「まさか、こんな妙なものを思いつくとは」

 一年生が中心になってやることが決まった、『ロミオとジュリエット、巌流島の戦い』の脚本を見て御門寮の二年生も大爆笑だった。

「いいんじゃない。桜柳祭の事を押さえつつ、地元ネタって面白いし」

 めずらしく久坂も絶賛するので、幾久は胸を張った。

「すげーでしょ」

「いや、いっくんが書いたわけじゃないだろ。乗っかるくせに偉そうに」

「そうじゃぞ。お前、巌流島がどこにあるのかも知らんじゃろう」

 久坂と高杉の物言いに幾久は威張ったまま答えた。

「巌流島は巌流区にある島っス」

「そんなものはない」

「そんな場所はねえ」

 久坂と高杉が同時に言うと、栄人が笑った。

「まあでも、いざどこって言われたらきちんと答えるのは難しいよね」

「だったら先輩らもわかんないんじゃないっすか」

 ぶう、とむくれる幾久に久坂と高杉が言った。

「行った事あるけど」

「船で行けるぞ」

「えっ、そうなんだ」

 幾久の想像では伝説の島っぽいので、かなり遠いイメージだったのだが。

「観光地じゃけ、行楽シーズンには船が出る。無人島じゃから誰も住んでおらんがの」

 高杉が言うと、久坂が笑いながら言った。

「いっくんのお友達が沢山住んでるよ」

「……悪意しか感じない。何スか」

 久坂は意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「狸に決まってんじゃん」

「なんで決まってんすか。接点感じないんスけど」

 話を聞いていた高杉と栄人が噴き出すと、幾久はむっとして「何スか」と言うも、「いや、確かに」「お友達じゃのう」と言うのでますます幾久はむっとした。

「幾、手伝って。お茶到着したよ」

 現れたのは人数分のお茶とお菓子を持ってきた御堀と児玉だ。

「わかった」

 立ち上がり、御堀たちの手伝いをして、御堀が幾久の隣に腰を下ろすと幾久は尋ねた。

「なあ誉、先輩らがオレを狸の友達扱いすんだけど酷くね?」

 暫く真顔だった御堀だが、「ぶっ」と噴き出すと肩を震わせて笑い始めた。

 ほら見ろ、という表情の二年生に、幾久は思わず児玉を睨んだが、児玉もたまらず苦笑していた。

「なんだよタマもかよ!」

「や、だってまあ確かになんとなく雰囲気はあるよな」

「判る」

 頷く御堀と児玉に、幾久はむくれる。

「オレが狸に似てるなら、杉松さんだってそうじゃないんすか?」

 所が久坂がふんぞり返って言った。

「うちの兄はちっとも狸じゃなかったよ」

 高杉も頷く。

「そうじゃ。もっと素早い雰囲気があったのう」

 久坂が続けた。

「順番としては、狸、いっくんをはさんで、兄って感じだから、狸要素はいっくんで漉されちゃってるね」

「ひどい!」

 抗議するも、幾久の前に御堀がお茶とお菓子を置いた。

「幾、休憩しておやつ食べよう」

「わーい外郎だ!いただきます!」

 御堀庵の外郎さえあれば、幾久の機嫌は瞬時に良くなる。

「外郎好きの狸っていいのかな」

 久坂が言うと幾久が言い返した。

「オレは狸じゃないからいいんですぅ」

「いや、割と狸っぽいよ?」

 御堀が言うので幾久はむっとする。

「誉まで」

「だって、リフティングして、額に乗せるの、幾上手じゃん」

「で?」

「おでこにボール乗っけてるとき、確かに葉っぱを乗っけてる狸っぽいと言えない事もないなあって」

 児玉がこらえきれずに噴き出すと、先輩たちも次々に笑い出し、御門寮はしばらく爆笑に包まれたのだった。

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