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【海峡の全寮制男子校】城下町ボーイズライフ  作者: かわばた
【23】戦場のハッピーバレンタインデー【拍手喝采】
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多分絶対あの先輩

 そう文句を言う幾久に、普は言った。

「いっくんは自由に出来るようにするからさ、あとは全部相手役に丸投げしたらいいじゃん。どうせみほりんはロミオ譲らないんでしょ?」

「うん。勿論」

「なるほどー、丸投げかあ」

 だったら、セリフは思い出す必要も、覚える必要もない。

「それならいいや。知らない変な役より、ジュリエットの方がマシかも」

 どうせ誰もジュリエット役をやりたがらないなら幾久がするしかないし、もう面倒だからどうでもいいや、と幾久は思った。

「じゃあ、ロミオが何人もいる設定で、面白い事なんか考えるよ!」

 普が言うので、皆、それに賛同した。

「あ、でもセットは使えないよな。それどうする?」

 山田が言う。

 そう、すでにロミジュリの舞台セットは解体されてしまったし、そうなると多分、一番有名だろうバルコニーのシーンは出来ないことになる。

 全員が来島を見ると、来島も頷いた。

「そうなんだよ。セットはとっくに解体されて木材だしな。でもそこをどうにかするのがお前らの仕事」

 えぇ~、と一年生から不満の声が上がるも、来島は言った。

「どーしても、どーしても、いい考えが浮かばない場合は、責任もって二年生がなんとかどうにかしてやるよ」

「いや、セットなかったらどうにもならないんじゃ」

 幾久が言うも、来島は首を横に振った。

「それをどうにか面白く仕上げろよ。地球部の腕の見せ所だろ」

 んな無茶な、と一年生は全員思ったが来島は譲らない。

「内容がばれたらつまんねーから、当然だが三年、または外部に協力を頼むのは基本禁止だ。やりてえっつったのはお前らなんだから、一年で出来る限りの事を考えてみろ」

 成程、と幾久は御堀と顔を見合わせた。

 一年生が言いださないとやらないと言ったのは、こうして一年の力量を見る為か、と納得した。

「二年は協力する、っつってんだから、少々の無茶は聞いてやる。だけど、骨組みはお前らがしーっかり組み立てろよ。でねーと特に高杉や久坂なんか話も聞かねーぞ」

 それは確かにそうだと幾久は頷く。

 きちんと言えば大抵の事はしてくれるが、そうでないなら絶対に動いてくれないのがあの二人なのだから。

「うーん、なんか急に難しい事のように思えてきた」

 入江が腕を組むと、品川も頷く。

「面倒くさそう」

「いや、実際面倒くさいんじゃないかな。僕は目立ちたいからやるけど」

 あはは、と笑っているのは瀧川だ。

「僕が一番面倒じゃない?」

 普が言うが、自分で言い出した事なので仕方がない。

「そりゃ、言い出しっぺだからやるけどさ」

「最低限の流れだけ作っておけばいいだろ。どうせ適当にどうにかできるって」

 そう言ったのは山田だ。

「自信満々だね、御空」

 普が言うと、山田は「まあな」と笑った。

「だってさ、桜柳祭の時みたいに、長い時間やるわけでもないし、絶対にセリフ間違えらんねえとかプレッシャーもないし、そもそも三年の先輩とか、在校生が見るんなら内輪だけだろ。チケットの売り上げとかの心配もねえし、好きにやればいいなら、俺らならどうにかできるよ」

 山田のはっきりとした意見に、御堀は楽しそうに尋ねた。

「確かに、御空の言う通りだけど、でもそこまでうまくいく?」

「うまくいかなくていいんだよ」

 山田は笑って言った。

「俺ら、所詮一年坊主じゃん。地球部の先輩とか、他にもお世話になった先輩に伝わればそれでいい。地球部、楽しかったです、これからも楽しみます、っていうのを先輩に伝えられたら、それで御の字って奴じゃねえ?」

 山田の言葉に、一年生はそうだな、とほっとして、来島は思わず、ふ、と笑みをこぼし、山田の頭をぐしゃっと撫でた。

「それだけ判ってりゃ十分だろ一年坊主。じゃあ、これで決まりでいいな。脚本が三吉、詳しい事は二年に相談。脚本はいつ出来そうだ?」

「あ、すぐやります。明日は休みだし、今夜から突貫で」

 三吉が言うと、山田も頷く。

「そうだな。早めに脚本やって、アドリブで逃げる所と、そうじゃない所だけでも決めたほうがいいな」

「いや、山田、お前大丈夫か?」

 来島の問いに山田が首を傾げた。

「大丈夫っすけど?明日休みだし」

「や、だって明日お前ら、ホーム部でバレンタインの菓子作るんだろ?」

 幾久と御堀、服部と山田は顔を見合わせた。

「そういやそうだ」

「そうだった。忘れてた」

「すっかり頭から抜けてた」

「……」

 まあいいや、と呑気に構える一年に、来島は言った。

「お前ら大丈夫か?去年、周布先輩も手伝ってたけど、材料かき混ぜるのにミキサー車よこせって発狂してたけど」

「えっ、そこまで大変なんすか?」

 幾久は驚くが、来島は言った。

「お前ら、年末の団子づくり大変だったって言ってただろ?あの比じゃねーんじゃねえの?」

 そこでやっと、幾久と御堀は、ひょっとして思ったより大変なのでは、気づく。

「え、どうしよう。明日そこまで大変なのかな」

 幾久が心配すると、考えていた山田が言った。

「一応、明日の作業、俺らでするようにしてたけど、頼もう。普、タッキー、晶摩、饅頭、明日、ホーム部の作業手伝ってくれ。頼む」

 山田が頭を下げると、皆、笑顔で言った。

「別にいいよ、そのくらい」

 ね、と普がいうと、皆、うんと頷く。

「出来ることは協力するし、頼まれればやるよ」

「試験前でもないし、映えな場面もとれそうで賛成」

 瀧川が御堀に尋ねた。

「撮影はOKかい?」

「僕らは構わないけど、八木先輩がどうかな。店内とかは駄目か

 も」

 御堀が明日、聞いてからに、と話していると品川が言った。

「……この打ち合わせからダイジェストとか作るの、面白そうじゃね?」

 皆が顔を上げた。

「どうせ誉のことだ、予餞会の舞台もうまくいけば売るつもりだろ?だったら、この打ち合わせからして録画しとけば時間稼げるんじゃね?」

 品川の意見に、御堀と瀧川が顔を見合わせて頷いた。

「それいいアイディア」

「詳しく聞かせて貰おうか」

 そうして一年生たちは、またにぎやかに打ち合わせをはじめ、来島は苦笑しつつ、これならほっといても問題ないな、とちょっと安心したのだった。



 さて、問題の翌日、祝日の月曜日の朝である。

 御堀、幾久、服部に山田は商店街にある八木ベーカリーの前に集合していた。

 約束の時間の五分前に到着し、店の前で待っていると、八木が現れた。

「よう!おはよう後輩ども!今日はよろしくな!」

 ますく・ど・かふぇのマスター、よしひろとプロレス仲間というだけあって、ノリも同じだ。

「お世話になります」

 御堀が深々と頭を下げると、八木は頷いた。

「さっすが鳳は行儀がいいなあ!なあいっくん!」

「オレも鳳っスけど」

 むすっとして言うと、そうだった!とにぎやかに笑う。

 いつでも元気のいい人だ。

「しかし、その細腕で大丈夫か?昨日来た連中も、一昨日も、どいつもこいつもヒーヒー言ってたぞ?」

「できなかったら諦めます」

 幾久が言うと、御堀が首を横に振った。

「駄目だよ。今日作らないと絶対に数が合わないんだから」

「そん時は普とかに助けて貰おう。呼んどいてよかった」

 脱落する気満々の幾久に、山田と服部は笑う。

「そこまで行く前に頑張ろうぜ」

「御空はそういうけどさ、周布先輩が文句言うってよっぽどだよ?」

 ああ見えて手助けや後輩はすぐに助けてくれるし、文句を言わない周布がぶーぶー文句を言っていたというから、実は物凄く大変なんじゃないか、と幾久は不安だ。

「あー、去年な。去年はクッキーだったから余計に大変だったんだよ。今年はそこまでじゃないって!」

 八木が言うと、幾久は御堀に尋ねた。

「本当?誉」

 御堀は頷く。

「うん。クッキーはバターと砂糖と小麦粉が殆どだからすごくタネが重いんだ。数もいるだろうし、大変だったんじゃないのかな」

 御堀の説明に、八木が、はっはっは、と笑った。

「そーうなんだよ!保存はきくんだが、なにせタネが重くてなー。来年もやるなら工事用のミキサー持ってくるぞって随分怒ってた子がいたなあそういや!」

(周布先輩だ)

(周布先輩……)

(間違いなく周布先輩だ)

(怒るなんてめずらしいなあ)

「心配するな!今回はそんなに重いタネじゃないから!ただ、手間はやっぱりかかるけどな!」

 そんなに重くない、と言われても八木のむっちむちの腕を見ると、説得力に欠けるな、と思った一年生だった。



 暫くすると、普と瀧川がやってきた。

「おはよーございます!」

「おはようございます」

「あれ?二人だけ?」

 昨日の時点では、入江と品川も来るはずだったのに、と幾久が尋ねると普が苦笑した。

「あいつらまだ寝てる。もうちょっとしたら来るってさ」

「やっぱり……」

 山田が呆れた。

 品川も入江もマイペースが過ぎるので、そんな気がしていたらしい。

「起きたら来るだろうし、昼前には目が覚めるだろうから、なんか手伝いさせたらいいんじゃない?」

 普が言うので、山田はため息をついた。

「仕方ねえな。じゃあ俺らは仕事に入るか」

 八木には昨日のうちに撮影の許可を貰っていたので、全員で店に入った。

 八木が言う。

「本当なら土日は休みだったり、午前中しか開けてねーこと多いんだけど、今日は完全にお休みだから、客が来る事もねえよ。安心して作業に集中しとけ」

 店の中は、パンを並べる店舗があり、その奥に作業をする部屋があった。

 作業の部屋は、腰から上がガラス張りになっており、オーブンや、銀色のトレイが所狭しと並んでいるのが店舗からも見える。

「あの奥が、工場っスか」

 幾久が尋ねると、八木が頷いた。

「工場っていうほどでかくはねえけどな。報国院の生徒のパンと、マスターのパン、うちで売る程度は十分まかなえるぞ」

「報国院のパンって、いつも八木先輩の所のなんですか?」

 毎日の定食でも、たまにパン食の時があるので御堀が尋ねると、八木が頷いた。

「そう!うち業務用の冷凍庫あっから、報国院で沢山いる時は冷凍した奴を持ってくんだよ!売ってる奴は、普通に朝、焼いた奴だけどな」

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