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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【23】戦場のハッピーバレンタインデー【拍手喝采】
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男子にも乙女心はあるんです

 そう、幾久もそれが心配で、雪充にチョコレートを渡していいのかどうかを悩んでいたのだ。

(でも、どーしても、どーしても渡したいんだよなあ)

 ホーム部に参加すれば、安全、安心なチョコレートを作って渡せると年末の団子づくりの時に唆され、こうして入部していないのに、特別に参加させて貰っているのは雪充にチョコを渡したいからだ。

「だからうちは、毎年バレンタインは安全第一をモットーにしている。結果、メニューはこうなる!」

 ざっと画面が切り替わった。

 おお、と教室がどよめいたのは、とても美味しそうなチョコレート菓子の写真がどーんと映ったからだ。

「昨年はチョコレートを刻んで練りこんだクッキーを作成した。その前はドライフルーツ入りパウンドケーキ、勿論チョコレートたっぷりのヤツ。どちらも焼いているので万が一の時も安心、安全の菓子で、わがホーム部がバレンタインを担当して以来、一度も食中毒などは出していない」

 おおー、と声と拍手が沸き上がった。

「そして諸君、お待ちかね、今年のチョコレート菓子はこれだ!」

 ばっと画面が切り替わり、ドアップでお菓子が映った。

「カヌレ・ショコラだぁああああ!」

 どーんと映ったのは、花のような形がてっぺんについて、円柱形のチョコレートのカップケーキのようなもの。

「ああ、カヌレか、いいね」

 お菓子なら詳しい御堀が頷く。

「どういうの?おいしい?」

 幾久が尋ねると御堀は頷く。

「外はカリっとして、中はモチっと。バターたっぷりでおいしいよ。味はマドレーヌに似てるかな」

「その通り!御堀の説明通りだが、カヌレはフランスボルドー地方で発祥のお菓子!卵たっぷりのめちゃくちゃおいしいお菓子!」

 そう河上が力説する。

「というわけで我々が今年制作するのはこのカヌレ!たっぷりおフランスのチョコレートをぶちこみ米粉使用の、もっちもち贅沢レシピだ!」

 おお、と調理室の面々がどよめく。

「なんか難しそうだなあ。美味しそうだけど」

 幾久が言うと、御堀が笑った。

「カヌレはそこまでじゃなから心配ないよ。混ぜて焼くだけだし、米粉を使うなら確かに食感は良さそう」

「そう!その通り!報国院特製カヌレはもっちもち!ちゃんと全生徒分、作るし注文も受ける!」

 全生徒数といえば大変そうな気もするが、ホーム部の部員はけっこう揃っているしこの人数ならどうにかなりそうだ。

「というわけで、本番はとんでもなく量があるから失敗は許されない。なので、今日はカヌレを各班で制作し、過程を覚える。今日はサイズも小さいし大した量はないからな。作ったものは食べて良し、持って帰って良し。ただし早めに食うように!」

 わーっと拍手が起きる。

「では、各班には一人、世話役が付くのでよく聞いてレシピや制作過程をしっかり理解するように!」

 河上が言い、全員がはーいといい返事をしたのだった。




 幾久と御堀は部外者であるという理由から、次期部長の河上、志道が傍に着くことになった。

 全員、シャツのようなデザインの白のコックコート姿で、幾久だけが白の割烹着だ。

「お前、割烹着似合うな」

 志道が噴出しながら言うが、幾久は「どうも」と気にしない。

「寮母さんが貸してくれたんす」

「そのほうが汚れなくて良いよ。似合ってるし」

 言いながら御堀がスマホで写真を撮る。

 ファンクラブの特典で見せる為だ。

「御堀も写真、撮るんだろ。並べよ」

 志道が気を使って言ってくれたので、御堀と幾久は並んで写真を撮った。

「しっかし、えらくかっこいいなそれ。実家のか?」

「はい。制服です」

 御堀が着ているのは詰襟のようなスタンドカラーのアイボリーのコックコートに、前掛けのプロンは上品な紫色。

 実家である御堀庵の制服だ。

 コックコートの胸とエプロンの裾に『御堀庵』の家紋と文字が刺繍してある。

「河上先輩のもカッコいいですね。黒って」

 幾久が尋ねると河上が頷く。

 河上や佐久間、志道が着ているのはデザインは同じでも色は黒のコックコート、ちゃんと胸には報国院の紋が入っているので本格的だ。

「うちは黒と白の両方用意してるけど、あんま自信ない奴には白を着るように言ってる。そしたら指導するほうも判りやすいしな。桜柳祭の時は、販売する奴が黒、作る奴が白って変えたりもするけど」

「いい分け方ですね」

 御堀が感心すると、河上はまあな、と頷く。

「普段ならともかく、桜柳祭とか、こういったイベントごとの時には普段来ない連中にもやって貰う事になるから。俺らみたいに毎日顔出してなんかやってるのは大抵黒ばっか着てる。かっけえし」

「確かにかっこいい」

 幾久が頷く。

 報国院は学校の制服も真っ黒だし、いろんな部活や学校指定のジャージも黒だ。

 普通、学校のジャージなんてダサそうなものだが、報国院の制服やジャージはどれもかっこいいのが嬉しい。

「ま、男子校でかっこつけてもなー、モテねー」

 はあ、と志道が苦笑しながら言うと、御堀が言った。

「だったら、アカウント作ったらどうですか?部活の。なにをやっているか判ったら、知名度も上がるのでは」

 御堀の言葉に、志道と河上が成程、と手を打った。

「それは考えたことがなかったな。学校の行事の時には学校のアカウントから出るくらいだし」

 部活だけで専用のアカウントを持っている所は少ないし、生徒が個人でやっていることもあるが、大抵は飽きて放置状態だ。

「でも作業してるときにスマホ触るのもなあ。いちいち消毒も面倒くさい」

 志道が言う。

 スマホはこう見えてかなり汚い。

 本来なら作業中は生徒のスマホ使用は厳禁。

 御堀が携帯を許されるのは、きちんとルールを守るからだ。

 作業中に写真を撮るのもすでにホーム部に許可を貰っているし、消毒用のティッシュで常時拭きながら作業している。

 だったら、と御堀が言った。

「映像研究部はどうでしょうか。頼めば作業中の撮影をしてくれると思います。SNSにも詳しいですし」

「成程、そりゃいい手だな。そうすりゃ俺らがスマホ触る必要もねーし。ちょっと聞いてみるか」

 クラブ同士で話が出来れば早い、とふんだ河上は、早速映像研究部にメッセージを送った。

 あっという間に話は整って、早速今回のお菓子作りの本番から撮影に来ることになった。

「行動早いなあ、うちの先輩」

 御門寮の先輩たちの行動の速さも見ている幾久は、これって学校の性格なのか、と納得した。

「そりゃ早くしねーと、同じ事考えてる連中に奪われるだろ。こんなの一秒でも早い奴が勝つんだから」

 河上が言うと、幾久は感心した。

「そういうのお金先輩も言ってた」

「お前らも来年は二年だろ。後輩できるんだから、迷ってたらあっという間に取り残されるぞ」

 河上が言うと、幾久はそっか、と頷いた。

「もうすぐ二年になるんだよな。後輩かあ。実感湧かないけど」

「だからしっかり今回覚えておけよ!一回ちゃんとやっときゃ、なんとかなるもんだからな。料理も」

「はーい」

 幾久が言うと、御堀も「はい」と頷いた。

 その後は普通に調理実習のように、全員でカヌレを制作した。

 和やかに問題なく、どのグループも上手に出来ていて、これなら本番も問題ないだろうという河上のお褒めの言葉で、今日は終了したのだった。



「成程、それでこれがあるのか」


 御門寮での夕食を終え、夕食の後に出されたカヌレに高杉は頷いた。

「御堀が作ったなら安心して食べられるね」

「なんすか、ちゃんとやりましたよ」

 むっとする幾久を気にせず久坂がカヌレを手に取り、口に入れる。

「うん、おいしいね。甘すぎないし。上手に出来てる」

 高杉も食べ、頷く。

「確かにうまい。流石ホーム部じゃの」

「河上先輩がめちゃくちゃ上手でした。手際いいし。あとテッちゃんもすげー上手で」

 幾久が言うと、高杉が頷いた。

「志道か。アイツは料理好きすぎて勉強がおろそかになっちょるそうじゃからの」

「でも鳩でしょ?いっくんは同じクラスじゃなかったの?」

 久坂の問いに幾久は頷く。

「違うクラスの方だったんでお互い知らないっす。しかもオレ、前期だけなんで正直覚えてもなくて」

 鳩クラスは二クラスあり、合同で授業をすることもあるのだが、幾久はずっと弥太郎やトシと一緒だったし、他のクラスまで興味もなかったので全く知らなかった。

 桜柳祭の準備中に、差し入れをもらったりしたのでホーム部の主要なメンバーはそれなりに覚えたが。

「ホーム部って統率取れてるなって桜柳祭の時も思ってたんですけど、今日の作業中もすっごい先輩たちがいろいろ見てて、あれスゲーなって思いました」

 ホーム部なんて、どちらかといえば女子力が高そうな雰囲気で、楽しそうにお菓子でも作るのかと思いきや、全体の時間配分、料理の手際、個人差、そんなものを全部確認しながら指示を出していく河上を見て、幾久は思った。

「河上先輩って、見てるとハル先輩みたいだなって」

 茶碗を洗い終わり、テーブルについた栄人が言った。

「あー、判る。あいつもすっげーチャカチャカしてるもんな。料理は時間との勝負ってのもあるし」

「チャカチャカとか、なんか煩そうじゃの」

 あまりその評価は嬉しくないのか、高杉がむっとする。

「褒めてるんだよ。ハルのおかげでなにかと物事は早く進むでしょ?たまに暴走するけど」

「暴走とは何じゃ」

 むっとする高杉に栄人が言った。

「だって去年、急に一年生を入れるって勝手に決めてきたの誰でしたっけ?」

 幾久を強引に御門寮へ連れてきた事を言われ、高杉はぐぬ、と口ごもった。

「仕方なかろう。なんたって殿からのお達しじゃ逆らえん」

 ふんっとそっぽを向く高杉だが、栄人が言った。

「またまた。そうやってすーぐモウリーニョのせいにする」

「間違いなく殿のせいじゃぞ?」

 そこはきっぱりと高杉も言い返す。

「そもそも、最終の募集で受験する連中なんぞ、殆ど、というか全員が千鳥の数あわせじゃろう。幾久が受験したのは三月末じゃぞ。試験の二週間後にはもう入寮じゃ、スケジュールがどうしようもない」

 高杉の話を聞いていた幾久が、しみじみと言った。

「そっかー、もう一か月で、オレ、報国院に来て一年になるのかあ」

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