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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【22】天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝【内剛外柔】
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OBたちの悪だくみ

「え?それってマジっすか?」

「そーなんだよ。報国院としちゃ停学なんか痛くもクソもないように出来てんだけど、一番いてーのがクラス落ちる事だろ?授業料も変わってくるし。つまり停学と言いながら実際はクラス落ち処分って事なんだよな」

 やばい!と幾久は慌てだした。

「駄目っすよ!誉、雪ちゃん先輩みたいに三年間首席を死守するって言ってましたもん!いくら誉で試験受けないと成績守れないじゃないっすか!」

「だよなあ。そういうの気にしないタイプなら良かったんだけど、あいつそういうタイプだよなあ、似てるよねえ三吉君」

「うるせー今関係ねーだろーが。今はどうやって御堀君の情報をウィステリアにばれないようにするかって事を優先しないと。お見合いっていつ?今日だっけ?もう終わったの?」

「あ、いえ、確か明日って」

「明日かあ。相手の事もあるしまじーなこりゃ。ウィステリアにばれないように内緒にしとけって訳にもいかねーし、かといって学校が直接乗り込んだら停学待ったなしだし」

 毛利が頭を抱えるが、幾久だって頭が痛い。

 思わずスマホを見たが、御堀からの返事はあれっきりで、なにもない。

「好きで家に戻ったわけじゃないのに」

 幾久が言うと、毛利が顔を上げた。

「誉、なんか様子がおかしかったし。でも気にするなって雰囲気だったからオレもほっといたけど。知らないうちに停学とか、そんなんないっすよ」

 多分、間違いなく親の言うなりで受けることになった見合いだろう。

 そもそも乗り気じゃなかったし、付き合いで仕方なくといった雰囲気は見て取れた。

 それなのに知らない間に停学沙汰で、試験も受けられないとか鳳から落ちるとか。

 すると、黙って話を聞いていた宇佐美がにこにこしながら答えた。

「やだなー常世もみよも。そういう時こそ、この俺の出番じゃないの?」

 思いっきり楽しそうに微笑む宇佐美に、毛利も三吉も嫌な顔をしたので、ひょっとしてなにか悪だくみをしているのだろうな、と幾久は思い、そしてそれは実際、その通りだった。



 お正月休みは続いているというのに、三日目の朝、早々に起きて、用意された服に着替え、幾久は洗面所の鏡の前で微妙な表情になった。

「……誉みたい」

 というのも、御堀そのもの、といったような服装だったからだ。

 グレーのシャツに黒ベースのアーガイル模様のカーディガン、チョコレートブラウンのチェックのカジュアルパンツ。

 いつもTシャツにジャージにパーカーといったカジュアルな服ばかりなので、制服以外でこういう格好は肩がこる、気がする。

 ふう、とため息をつきながらダイニングに向かうと、すでに宇佐美が迎えに来ていた。

「いよういっくん、おはよう!」

 そういって煌びやかな笑顔を見せているが、宇佐美はいつもと全く違った格好だった。

 紺地のスーツは織りで縦のラインが光沢で見え、シャツは紺地に白のストライプ、タイは同じく紺色なのに、複雑な織なのか無地なのに柄があるように見える。

 ジャケットを脱いでベスト姿で、普段はラフな髪形なのに今朝はきちんと整えていて隙が無い。

 おまけに眼鏡までかけているから全く違う人みたいに見える。

「大人だ」

 幾久の答えに宇佐美が噴出した。

「大人だよ。なに?そんなにカッコいい?」

「カッコいいっす。宇佐美先輩、イケメンだったんすね」

「おいおい、今更気づいた?遅いよいっくん」

 そう言って髪をかき上げるが、実際かなりカッコいい。

 いつもは作業着で気づかなかったが、スーツだとちょっとワイルドな雰囲気があるから、この姿ならかなりモテるだろうことは想像がつく。

「なんでそんなにカッコつけてんすか?」

「だってお見合いだろ?」

 にこっと微笑む宇佐美だが、幾久は呆れた。

「宇佐美先輩のお見合いじゃないんすけど」

「まあまあ。出逢いなんかどこにあるかわかんないじゃん?」

「中身はいつもの宇佐美先輩っすね」

 ふう、とため息をつくと六花が幾久に朝食を用意してくれた。

「はいいっくん。着替えてるんだから汚さないようにね」

「はーい。いただきます!」

 六花まで幾久に朝食を用意するために早起きしてくれたので、素直に幾久は朝食に集中する。

「それよりも名刺忘れないようにすんのよ。折角作ってもらってんでしょ」

「ばっちりもう名刺入れに入れてるって。ぬかりはないよ」

 そう言ってぽんと胸を叩く。

 そう、今日は幾久と宇佐美は御堀の見合いを邪魔しにいく大事な作戦があるのだ。


 昨日、幾久の何の気ない話題で御堀が見合いすることが分かり、毛利と三吉は大慌てだったが、それよりも慌てていたのが学院長の吉川だった。

 ウィステリアにばれた場合の借地料を脳内で計算してしまったらしく、一回意識を飛ばしていた。

(そんなにウィステリアってコエーのか)

 幾久が朝食の味噌汁をすすりながら考えていると、宇佐美は時計を見ていた。

 いつもカジュアルな時計なのに、高そうな銀色の時計で、そんなところまで変えているのかと驚いた。

「なんか詐欺師みたいっすね」

「え?俺の事?」

 幾久が言うと、六花は噴出した。

「確かに、いつもの格好からしたらうさんくささ半端ないもんね」

「いやいや、普通にカッコいいでしょ?それに商談の時はいっつもこんなだよ?」

「商談?宇佐美先輩って、魚屋じゃないんすか?」

「魚屋じゃないよ?」

 六花が言った。

「詐欺師よ詐欺師」

 幾久が頷く。

「やっぱり」

「なになに、いっくんも六花もひどくない?こんな男前捕まえて」

 はー、とわざとらしく肩をすくめるが、六花がコーヒーを出した。

「とっとと飲んで、いっくんが食べ終わったら出かけるのよ。混んでるかもしれないでしょ」

「あー、それ考えて高速使うつもり。だったら一時間くらいっしょ」

「周防市までならね。そもそも、お見合いの場所だって判らないのに。いっくん、御堀君からは連絡ないんでしょ?」

 幾久はこくんと頷く。

 あれから何度かメッセージを送ったのだが、既読にはなっても返信がない。

 途中からは返信どころか既読にすらならなくなって、さすがにこれはおかしいと幾久も思い始めた。

 いつもの御堀なら絶対になにか言ってくるはずなのに、ここまでほったらかしとなると、体調を崩しているのか、もしくはあの桜柳祭の時のように追い詰められているのかもしれない。

 そう考えると幾久はいてもたってもいられない。

「でも、向かってる間に入るかもしれないし」

「そうね。私が連絡してみてもいいんだけど」

 六花と御堀の姉は先輩後輩の仲なので連絡が取れないわけではないのだが、いきなり六花が連絡をするのはまずいという。

「あの子はあの子で立場があるからね」

 そういってため息をつく。

 御堀の姉は、ウィステリアらしく割と強引な性格で、両親の意思も何のそのでやりたいようにやるのだという。

 御堀の味方ではあるのだが、御堀が地元の高校ではなく報国院を選んでしまったことで、立場があまり良くないそうだ。

「まあ、あの子は気にしないんだけど、みほりんは気にするでしょ」

「だと、思います」

 御堀はただでさえ、自分が報国院を選んだことに引け目を感じている。

 姉の薦めとはいえ、強引にこっちを選んでしまい、結果、御堀は誰にも認められるような報国院生になろうと努力して、桜柳祭前にオーバーヒートして寮を逃げ出してしまった。

「誉にこれ以上プレッシャー与えたくないんス。普通に頑張ってる奴なんで」

「いっくん良い奴!」

 そういって宇佐美が食事の終わった幾久の髪をくしゃりと撫でた。



 宇佐美の車で周防市へ向かうことになっているので、幾久は久坂家の玄関を六花に見送られて出かけた。

 宇佐美の車は近くにある久坂家の駐車場に置いてあるので、そこまで歩いて向かう。

 幾久はブルーグレーのダッフルコートを着て、宇佐美はスーツの上にカーキのモッズコートだ。

 そうしていると、全身から都会の商社マンのような雰囲気が出ていていつもと本当に違うなと思う。

 しかし、駐車場についてもいつもの宇佐美のワゴン車がない。

(あれ?)

 幾久がきょろっと見渡すと、宇佐美が笑って言った。

「あはは、いっくん、車こっちだよ」

 そういって宇佐美が示したのは、オフホワイトのSUV車だ。

 黒淵のステップの部分にオレンジのラインが入っている、流行のよく見るタイプの車だった。

「いつもの車じゃないんすね」

「あれは配送用だからね、仕事の車。これは俺の愛車だよ。かっこいいでしょ」

 えへんと自慢する宇佐美に「よくわかんないっス」と幾久は返す。

「じゃ、乗って。出かけるよ」

「ウス」

 幾久は頷き、宇佐美の車に乗り込んだ。



 幾久がシートベルトをきちんとつけたのを見て、宇佐美は頷き車を出した。

「じゃー、行くぞいっくん!いざ!周防市へ!」

「ウス!」

 城下町の細い石畳の路地を抜け、宇佐美は山道へ向かっていく。

「高速に乗るんじゃないんすか?」

 国道へ向かう道とは逆に進む宇佐美に幾久は訪ねたが「いくよー」と宇佐美はのんびり答えた。

「高速は山越えの方が早いの。ちょっと戻ることになるけどね」

 山越えとは報国町から新幹線の駅がある街へ向かう、抜け道の事だ。

 幅が狭く、地元民しか知らない道で車で通るにはかなりの技術が必要になる。

 この道は宇佐美がよく通る道で、幾久も以前迷子になった時に御門寮までバイクで送って貰った時に通ったのがこの道だった。

 車が通るには一台ちょっと、軽自動車が二台ギリギリといった幅しかない道を宇佐美は平気で運転してゆく。

「なんか怖え」

 幾久が言うも、宇佐美はははっと笑った。

「大丈夫だって。お兄さんを信じなさい!」

「そりゃバイクよりはマシっすけど」

 突然バイクの後ろに乗せられ、宇佐美にしがみついていたあの恐怖よりは車の方が良い。

 報国町と海を背に、幾久達は山を越え、高速に入るインターチェンジへ向かう。

 ETCを抜けて、いざ周防市へ、宇佐美の車は軽快に走り出したのだった。

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