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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【22】天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝【内剛外柔】
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なんということでしょう(マジで)

(忙しいのかな)

 首をかしげると、宇佐美が訪ねた。

「どうしたのいっくん、浮かない顔してるけど、彼女?」

「違いますってば。誉っスよ」

「お前らホント仲良しだな」

 毛利が言うが、宇佐美は幾久にまた訪ねた。

「どうかした?なんか変な顔してたけど」

「なんかちょっと気になっただけっス」

「なにが気になったの?」

 三吉まで食いついてきたので、幾久は仕方なく説明した。

「いや、朝から誉、家に帰りたくなさそうっていう雰囲気だったんス。本人は隠してるっぽいんスけど。いまもメッセ送ったんすけど、いつもならすぐ返事来るけどスタンプだけって珍しいし」

 すると三吉と毛利が顔を見合わせた。

「御堀君の家庭環境がどうっていうのは、聞いたことないね」

「ま、俺らのとこには届いてねえなあ」

 すると宇佐美が幾久に尋ねた。

「御堀君って、周防市の御堀庵のお坊ちゃんだったよね、確か」

 幾久は頷く。

「はいっす。なんか面倒っぽい事が家であるらしくて。明日はお見合いもあるって」

「お見合い?!」

 毛利と三吉が同時に驚いて声を上げたので幾久がびっくりした。

「おい小僧、それマジか?!」

「え?あ、ハイ、誉が言ってたんで」

 幾久が頷くと、三吉が口に手を当てた。

「やっべー、一気に酔いがさめた。どうします」

「え?え?」

 意味が分からず首をかしげる幾久に、毛利と三吉は顔を見合わせると、深く深くため息をついた。

「小僧、やばい。非常にこいつはやばい状況だぞ?」

「本当にどうしましょう。知ってたら絶対に止めたんですけど」

「え?なんかまずいんすか?」

 御堀の見合いがどうして毛利や三吉にとってヤバイ事になるのだろうか。

 毛利が渋い顔で訪ねた。

「小僧、一応聞くけど、御堀の相手はウィステリアじゃねえよな?」

「はい。なんか同級生の妹さんで幼馴染って言ってたんで、多分年下は間違いないかと」

 ウィステリアは高校なので、年下なら当然、高校生ではないことになる。

「だよなー!周防市なら絶対ウィステリアじゃねえもんなー、あー、やっちまった。やっちまったよどうするよ」

 額を自分でべちべちと叩く毛利に、三吉も頷く。

「そこらの雑魚ならともかく、首席の御堀君ですからね。これはとんでもないことに」

「ちょ、ちょ、ちょ、先生らなにコエー話してるんすか!」

 なにやらとんでもないことがあるのか、と慌てる幾久に、毛利は言った。

「これは表立って校則とかではねーんだけどよ。報国院は実は交際禁止になってる」

「えっ」

 幾久は驚く。

 そんな話は聞いたことがないからだ。

 実際、彼女が居る先輩や同級生の話も聞いたことがあるし、そもそも元御門寮の時山は、彼女とラブラブ状態だ。

「そんなの、あったんすか?」

 三吉が首を横に振った。

「実際にはないけど、実は不文律みたいなものがウチの学校にはあってね」

 幾久が頷くと、毛利も頷いた。

「つまり、基本、ウィステリア以外とは付き合うなって事になってる」

「―――――へ?」

 確かにそれなら納得はいく。

 ウィステリアと報国院は姉妹校だし、実際時山の彼女だってウィステリアだし、ウィステリアの女子と付き合っている報国院の生徒は多い。

「でも、校則とかではないんすよね?」

「校則ではない。だが、ウィステリアが目を光らせているって言ったらどんだけコエーか判るだろ?」

 毛利が言うと、幾久も想像して、つい頷いた。

 そう、ウィステリアはかなりたくましい女子高校で、報国院が「文」ならウィステリアは「武」のほうだった。

 毛利が腕を組んでため息をつく。

「こうなったらもう言っちゃうけどさ、報国院の鳳ってそりゃあもう狙ってるのよ、ウィステリアが」

 三吉も頷く。

「そう。若くて有望な男子を姉妹校に斡旋しろっていう空気が凄くてね。特に首席なんか絶対に外部にくれてやるものかっていう。長井先輩のおじいさんの件は知ってるだろ?」

 幾久は頷く。

「はい。学校を改築するとかの騒ぎの事っすよね」

 三吉と同級生であるチェリストの長井は、祖父が報国院のOBで過去報国院でも要職についていた。

 だが、不正事件を起こし、かなりの大騒ぎだったと幾久は聞いている。

「その時、報国院はかなり財政が厳しくなって潰れかけた。そこに助けに入ってくれたのがウィステリアだ」

 毛利が言うと、三吉も頷く。

「ウィステリアはかなりの土地持ちでね。女性の地位が低い時代から、自力で戦って今の地位を築いたんだ。内部留保も凄くて寄付なしでもやっていけるくらいの力は持ってる」

「ゆーえーにーだ。報国院はウィステリアには頭が上がらねえ。やっとこ百仁鶴もにかのやろーが目立つ借金返し終わったところだ。ウチが一層がめつくなったのはそのせいだな」

「報国院ががめつい理由は分かりましたけど、それと誉のお見合いがまずいのはどう関係が」

 幾久が訪ねると毛利がため息をまたひとつついた。

「……ウィステリアは破格の利息で報国院を助けてくれたんだけどよ。その際、女性進出の助けになる教育に力を入れるよう、報国院に要求してきた」

 三吉が言った。

「千鳥ってしろくま保育園で実習がやたらあるだろ?」

 幾久は頷く。

 最下位でありながら、報国院の生徒の半数が所属する千鳥クラスは実習が多く、その中でも料理や育児といった、一風変わった実習が行われていた。

 保育園の運動会は千鳥がサポートに入ることになっており、保育園のプログラムにも千鳥クラスの参加が前提のものも多い。

 ゆえに、しろくま保育園の園児からすれば、報国院の制服は『遊んでくれるお兄ちゃん』という認識になっている。

「千鳥はほとんどが就職か、せいぜい専門学校に進む。結婚も早いが妻を専業主婦にできるほどの器量もねえ。結果、家事や育児に力を入れないと捨てられる。だったら、お婿さん教育をしっかりやれってお達しだよ。ウィステリアと結婚しなくても、結果として女性進出の役には立つ男が出来上がるだろ?」

「それは分かりましたけど、誉のお見合いとはどういうまずさが出てくるんスか?」

 毛利と三吉は再び顔を見合わせて、ため息をついた。

「……ウィステリアは、報国院の男子の情報は全部持ってる」

「金を借りる時の条件でね。報国院の男子の情報を全て共有している。そういう会が存在するんだ。つまり、悪い情報も持っているけれど、良い情報も持っている」

 なんだか話が見えてきたぞ、と幾久はやっと頷いた。

「つまりだ小僧。外見整ってる、お家柄も良い、成績優秀、素行も良し、性格もまあ良し、そんな男子は喉から手が出る程欲しいわけだ」

「乃木君、御堀君と一緒にウィステリアに行っただろ?桜柳祭の出し物の報告をしにいくのは伝統だって言われなかった?」

「はい。地球部の部長になるはずの、一年生が向かうって」

 幾久はそこではっと気づいた。

「え……っ、じゃあわざわざウィステリアに挨拶に行かされたのってひょっとしなくても品定めっスか?!」

 毛利と三吉は同時に頷いた。


「そういうこと」


 気づかなかった、と幾久は今更ながら思う。

 いや、全く知らないのだから気づかないのは当たり前の事なのだが。

「勿論んなこたウィステリアの生徒は知らん。教師連中だってヒラは知らねーだろーよ。だがそういうこった」

「つまりね、乃木君。ぶっちゃけヒラな報国院の生徒が付き合おうがなにしようがウィステリアはどうでもいいんだけど、有能な生徒に関してはそうはいかないわけ。けど、それを正直に言うわけにもいかないから、一応は『全員交際禁止』となってる。そしてそれは、絶対に守らないとまずいんだよね」

「表に情報が出る前にどうにかしねーとまずいな。あの小僧のこったから、外部に見合いがどうこうはホイホイ喋らねーとは思うが、だったらその前にカタつけねーと」

「そ、そんなになんかまずいんすか……?」

 幾久が訪ねると三吉が難しい顔で言った。

「乃木君。ウチの学校施設はね、ウィステリアに借りているものもあるんだ。問題を起こした場合、突然来期から契約を変えられて借地代が跳ね上げられたらどうなるか判るだろ?」

「わかります」

 そこは経済研のおかげで幾久にもよく判る。

 お金の話は世知辛い。

「地球部が基本、ウィステリアと関わってもお咎めなしなのはそのせいもあるんだよ。絶対に主席が部長と決まってるし、大抵その友人が所属するからな。そういう連中と自分とこの生徒ができてくれるのはありがたいからな」

「それよりもどうします?御堀君は周防市出身ですよね。だったら、報国院のシステムを親御さんがよく理解していなかったのはあるでしょうけど」

 三吉が訪ねると毛利も難しい顔で唸った。

「大抵、首席で入る連中なんて大抵父親も報国院か、もしくはよくよく知った上で入れてくるからなあ。これは想定外だが」

 知らなかった事だし、高校生で見合いなんて笑い話で終わるとおもいきや、幾久が知らない所でなんだかとんでもない方向へ行きそうだ。

 御堀だってそんな事は当然知らなかっただろうし。

 幾久は訪ねた。

「あの、だったら誉に最悪の事態って、どういう事がおこるんスか?」

「―――――ウチはね、そういうの気にしないから、とりあえずウィステリアには『処分しときましたんで!』っていう名目が立てばそれでいい、んだけど」

 三吉が言うと、毛利も頷く。

「その処分ってのが停学なんだよ。でも実際は寮で休んどくだけで、授業もオンラインでいくらでもできるわけ」

「なんだ。だったら別にそこまでじゃ」

「ところがだ。処分期間は『試験中』と決まってて、停学になると、試験が受けられない。結果はクラスが落ちてしまうって訳だな」

 幾久の全身からざーっと血の気が引く。

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