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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【21】今年も君といる幸運と幸福【東走西馳】
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初日の出を迎えに歩く

 毛利と久坂がコンビニに出かけている間、一年生連中は全員でゲームをやって、一足早くおせちを貰い、つまんでいた。

「六花さん、いいんすか?」

 盛り上げた張本人とはいえ、幾久が訪ねると、六花は豪快に笑った。

「いいのよ、たまには賑やかなほうが楽しいもの。毎日だったら殴りたくなるだろうけどね」

「ははは、コワー」

 高杉と久坂という二人の姉ポジションというのは幾久に聞いていたので、一年生は全員、あまり調子に乗ったら痛い目にあうぞ、と目を見合わせたのだった。


 だらだらとゲームをしたり、スマホで遊んでいるうちに、全員眠くなったのか、いつの間にか寝落ちしていた。

「おいおい、折角コーラ買ってきたのになんだよー」

 そう言いながら、起こさないように静かに毛利は上がってくる。

「ったく、んな事だろうと思ったよ」

 ため息をつく久坂だが、起きていた高杉は苦笑した。

「まあ言うな。またどうせ起こしたら騒がしいんじゃから、菓子でも与えりゃ静かになるじゃろう」

「元気でいいじゃないの。高校生らしくてかわいいわあ。弟どもはどうにも老成しちゃってね」

 六花が言うと、久坂がむっとして返した。

「そりゃじじいで申し訳ないです」

「じじいに育てられたから仕方ねえの」

 高杉も一緒になって笑う。

 久坂も高杉も、殆ど久坂の祖父に育てられたようなものだ。

 そして六花も。

「なんだ、みよも寝てんのかよ」

 毛利が呆れる。

 あれだけ酒をよこせと言っていたのに、生徒と一緒になって眠っていると、教師には見えない。

「青木らと変わんねーな」

 毛利の言葉に六花もぷっと噴き出す。

「そうね。あんま変わらないわねえ」

 杉松がなくなって、ぼろぼろになった連中がやっと形を取り戻し始めた頃、突然幾久が現れた。

 子供時代を杉松の死で強引にエンドマークを突き付けられ、大人にならなければ、と誰もが無意識に思っていたのに、新しい杉松に似た幾久は、全く違う刺激を与えてくれる。

「連中も、ずいぶんとかわいがってるみたいだね」

 六花が言うと、久坂が苦笑した。

「ちょっといっくんに同情するレベルにはね」

 特に青木は酷い。

 杉松を失った時、たぶん身内でない人で、一番ひどかったのが青木だった。

 親友の宇佐美も毛利もよしひろも、杉松の弟の久坂と弟分の高杉を任されて、その仕事に夢中だった。

 だから悲しみの入る隙間より、責任の重さが勝ったのかもしれない。

 青木はただ、静かに壊れていった。

 その間、ずっと仕事に没頭して、誰もそれをどうにもできなかった。

 なぜなら、福原も来原も同じように傷ついていたからだ。

 それでもバンドは快進撃を続けて、大きくなって行く度に青木は荒んで行き続けた。

「まあいいじゃねえか、小僧、ちゃんと逃げてるしあいつら面白い事またやるらしいぞ?」

 毛利が言うと、久坂と高杉は顔を見合わせた。

「ああ、御堀が持ってった件ね」

「案外、度胸のあるやつじゃの、アイツは」

 金が必要と判るとすぐさま算段をつけ、グラスエッジに目をつけた御堀に高杉は感心していた。

「今回も確かに余計なものは拾ってきたが、ええもんも拾ってきちょる。児玉や御堀がそうじゃろう?」

「そうかもだけどさ。……」

 それを言われると久坂も弱い。

 御門寮の今後を考えると、幾久が引っ張ってきたも同然の児玉と御堀はこれ以上ないくらいの人材だ。

 児玉は雪充が恭王寮の跡継ぎとして選び、育てていたし御堀は文句なしの首席で桜柳寮の跡継ぎのはずだった。

「跡継ぎをふたつも奪ってきて、恨まれてもエエくらいじゃぞ、ウチは」

「そりゃ、そうだけど」

 やり方の上手さや、トラブルの内容で仕方がなかったとはいえ、有能な人材を取ったり取られたりなんてあれば、少しくらいは問題も抱える。

 御門だって、雪充を恭王寮に取られた時は一荒れあった。

「救いはどっちも一年生のうちじゃった、ちゅうことじゃろうな。今からならいくらでも立て直しはきくし、本来なら、二年からが跡継ぎ教育じゃからの」

 すでに御門の総督として動いている高杉は特別で、大抵の寮では三年の提督に二年の副提督がついて動き、一年間で引継ぎが行われるようになっている。

 恭王寮を素早く立て直すつもりだった雪充は一年生に直接教え込む、という荒業をやろうとしたが、結局はそれもおじゃんになった。

「ウチも考えていかんといけんのう」

 次は三年生になる高杉が言う。

 御門の跡継ぎを誰にするのか。

「どうせもう決めてるんでしょ」

 久坂が言うと高杉は「まあの」と答える。

「とはいえ、まだ焦る事はない」

 ギリギリの所では、夏休みが過ぎてから引き継ぎに入る寮もあるくらいなので、絶対に早めに、という事もない。

 だからこそ、児玉が寮を出て行ってからでも恭王寮はたてなおしが出来る。

 児玉があの時期に出て行ったのは、ある意味ギリギリでもあった。

 もしもう少しでも後だったら、雪充は引継ぎどころじゃなかっただろう。

「それに、次の一年生だよ。どうする?入れはするんだろ?」

「そりゃ入れんと、このままじゃ御門はお取り潰しになるけえの」

 幾久が来る前なら、何も考えもしなかっただろう。

 だけどもう幾久のほかに、児玉も御堀も居る。

「あれだけの人材奪っておいて、跡継ぎもおらん、なんて事になったら絶対にどこかの寮に引っ張られるぞ」

「そりゃそうだろうね」

 児玉も御堀も、寮の代表として十分すぎる人材だ。

 どこだってそういった人材を欲しがっているのだから、もし御門寮が潰されるという事になれば、ほかの寮が喜んで引き取っていくだろう。

「ずいぶんと寮は楽しいみたいね」

 六花が言うと、高杉は「まあの」と頷いた。

「杉松がおった寮じゃ。楽しいに決まっちょる」

「お前らは大人しすぎよ」

 毛利が言うと久坂が苦笑した。

「僕らはフツー。殿らがおかしいんだって」

 毛利の悪行は今考えたら正直おかしいし引くレベルだ。

 だが、それでも毎日楽しそうだったし、一緒に暮らした頃は楽しかった。

 それだけは間違いない。

「正直、殿が同級生だったら引くし関わらん自信はある」

 頷いて言う高杉に、毛利はコーラを飲みながら「ひでえな。ちょっとは敬え」と文句を言ったのだった。



 夜明け時間になる一時間前になった。

「ほら子供たち、起きないと初日の出、見逃すわよ」

 六花の声に、すやすや寝ていた一年生はみんなのそりと起き始めた。

「あれ、ここどこ」

 寝ぼけ眼で言う品川に、少し先に目を覚ましていた御堀が言った。

「久坂先輩の家だよ。初詣の後にお邪魔したろ」

 その言葉に起き上ったのは入江だ。

「そうだ!初日の出!」

 あっという間に目をぱっちりとあけ、隣で寝ていた山田の肩を揺すった。

「おい山田!悪者が!変身だ!」

 そういうとヒーロー好きの山田ががばっと起き上り、寝ぼけたままきょろきょろと辺りを見渡した。

「……悪者しかいねえ。絶望した」

「おい寝るな!昴も起きろ!」

 服部を起こすと、こくんと頷き、寝てしまった山田の上に覆いかぶさってまた寝てしまった。

 騒がしさに目を覚ました幾久は、あくびをひとつする。

「おはよう誉」

「おはよう。お茶は?」

「飲む。あったかいの」

 幾久が言うと、児玉も手を挙げた。

「スマン、俺のも」

「いいよ。どうせだから全員分入れるよ」

 御堀がお茶を用意し始めると、徐々に一年生たちの目が覚めてきた。

 伸びをしてあくびをして、きょろっと周りを見渡して、服部が言った。

「先生、お菓子」

 傍にいた毛利は呆れて言った。

「ここは幼稚園か。お昼寝の時間の後かよ」

 そう言いながら、さっきコンビニで買ってきたお菓子を袋ごと渡した。

「適当に食え」

「あざーっす」

 言いながら今度はお菓子の取り合いが始まる。

 仕方ないなあ、と幾久は苦笑しながら、六花の用意したおせちを食べながら御堀の入れてくれたお茶を飲む。

「日の出、間に合うんスか?」

 幾久が毛利に尋ねると毛利が答えた。

「ぼちぼち出たほうがいいな。よしひろがもう先に行ってるから」

「先って、どこっすか?」

「海岸。神社は人が多すぎてな」

 海岸は、御堀のお気に入りの場所の、報国の海の事だ。

「歩いて行けば、日の出前くらいにゃ着くだろ。お前ら支度しろ」

 毛利の呼びかけに全員がはーい、と答えた。



 上着を羽織り、戸締りを確認して、毛利、三吉、そして六花を保護者に全員が海岸へ向かった。

 二年生は久坂と高杉、一年生は、幾久、御堀、児玉、そして品川に入江、山田に服部。

「けっこうな大所帯だな。親御さんの許可取っといてよかったわ」

 毛利は、「おーさび」と言いながら体を震わせる。

 三吉はすでに片手にアルコールの缶を持って飲みながら歩いている。

(柄悪いなあ)

 幾久達はそう思うも、先生なので何も言えない。

「幾、せんべい食う?」

 山田はばりばりとお菓子を食べながら歩いていて、これではまるで遠足だ。

「なんか遠足だな」

 幾久が言うと、児玉が「そーだな」と笑った。

「レベルが丁度いいんだろうね。楽しそうでなにより」

 久坂が嫌味を言うと、高杉が返した。

「お前は家で寝ちょっても良かったのに」

「ヤだよついてくよ」

 久坂がふんと言い返す。

 こう見えて、案外一人は苦手なのだ。

「人嫌いなくせにぼっち嫌って、瑞祥先輩面倒くさい」

「別にいっくんに迷惑かけてません」

「後輩に絡むな」

 高杉が注意すると、久坂は高杉にしがみついた。

「じゃあハルに絡む」

「おー、そのほうがエエぞ。今は一年の方が多いけ、二年は分が悪いの」

 一年生は皆楽しそうに話しながら歩いている。

 今年は温かいので、歩いていれば寒さが気になるほどでもない。

 大通りを超え、海岸へ向かう途中、ウィステリアの方へ車が何台も入っていった。

 ちらほら、歩いている人が見えるようになった。

「みんな初日の出、見に行くんスかね?」

 幾久が訪ねると、高杉が頷いた。

「そうじゃろうの。この上にある神社、初日の出がよう見えるスポットで有名での。毎年ようけ人が来る」

「そうなんすか」

 そっちの方も見たかったかな、と幾久が考えていると高杉がそれを見透かしたように言った。

「ウィステリアの女子も多いぞ」

「うわやめときます。もうさっき沢山会ったし!」

 別に嫌なわけではないが、新年早々、握手会で散々挨拶しまくったので、正直もうおなかいっぱい、といった感じだ。

「せめて初日の出は静かに拝みたいっス。な、誉」

「うーん、小さい賽銭箱を持ってくるべきだったかな」

 御堀が言うと児玉が噴出した。

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