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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【21】今年も君といる幸運と幸福【東走西馳】
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あけましておめでとうございますお姉さま

 幾久達が鐘を突き終わってしばらくすると、日付が変わり、年が明けた。

 年明けに一度鳴らす鐘が最後になり、それは律が打つことになった。

 奇麗に鐘の音が響くと、全員が頭を下げた。

「新年、あけましておめでとうございます!」

「おめでとー!」

「おめでとう」

「おめでとうございます」

 そうして知らない人とも、皆口々に新年のあいさつを交わす。

「じゃ、俺勉強あるんんで、これで」

 華之丞が言い、幾久が頷いた。

「そっか。初詣は?」

「朝になったら、ダチと行くっす」

「そっか。じゃあ受験頑張ってな」

「うす!」

 華之丞が言うと、幾久が「じゃあな」と笑って手を振る。

 ほくほくと満足する華之丞だったが、さっと幾久の隣に御堀が立ち、わざとらしく幾久の肩に腕をまわす。

 ちらっと華之丞を見返すと、ふふんと華之丞にいやみっぽく笑うと、「じゃあ幾、いこっか」とべったりくっついていた。

(なんだよあいつ!むっかつく!)

 華之丞のあこがれの先輩である幾久にべたべたするのも気に食わないし、なにげにミスリードして、華之丞がさも周防市に行くかのように幾久に話していた。

 そもそも、華之丞は幾久はともかく、御堀にサッカーでこてんぱんに負けている。

 むかつく理由しかないのである。

(ぜってー、アイツだけには負けねー!)

 もともと報国院の上を目指していたが、これで余計に負けない理由が出来た。

(なにがなんでも、アイツだけには負けねえぞ!)

 鳳、首席、イケメン。そんなものクソくらえ!

「俺が絶対に抜いてやる!俺様がトップだ!」

 華之丞がそう叫ぶと、まだ残っていた人がびくっと驚く。

 律が言った。

「ごめんねうちの息子お年頃で」

「反抗期って言えクソ親父―――――っ!」

 二人をよく知る檀家の人は、ああまたか、と苦笑して、今年も変わらないのだろうなあ、と笑顔になったのだった。



 受験勉強に戻った華之丞と別れてお寺を後にし、幾久達は来た道を戻り、報国院へと向かっていた。

 商店街は初もうで客をみこんでか、ところどころの店が開いており、福袋を売り出している店もあった。

 年があけたせいか人通りもさっきより増え、真夜中なのにまるで昼間の通りくらいににぎやかだ。

 がやがやとした雰囲気は神社へ近づくほど大きくなり、正面ではない、商店街側の階段はすでに人だかりができていた。

(雪ちゃん先輩、連絡してもいいかな)

 高杉から、この時間なら大丈夫と教わっていたが、やはり気が引けるな、と思っているとメッセージがすでに雪充から入っていた。

 雪充から、新年のあいさつのスタンプと、『いま神社にいるよ。境内だけど、いっくん居る?』とメッセージがある。

「雪ちゃん先輩、来てるみたい!どこかな」

「そうなんだ」

「マジで?」

 御堀も児玉も、雪充は大好きな先輩だ。

 幾久の言葉に慌てて探すと、上の境内から声をかけられた。

「おーい!いっくん!タマ!御堀も」

 雪充の声に、ばっと顔を上げると、雪充が手を振っていた。

「雪ちゃん先輩!」

 幾久はまるで飼い主を見つけた犬みたいに、走り出し、御堀と児玉は苦笑した。

 階段の端っこからかけあがり、幾久は雪充のそばに駆け寄ると、雪充は姉の菫と一緒で、上にある境内のはずれに立っていた。

「あけまして、おめでとうございます」

 幾久が頭を下げると、雪充が頷いた。

「おめでとう。今年もよろしくね」

 雪充の言葉に、幾久はばっと顔をあげて「はいっ!」と元気よく答えた。

「これ、ありがとういっくん。すごく便利でさ、部屋でも使ってるし、いまもこうして」

 雪充がそう言って、ネックウォーマーを軽くひっぱる。

 それは幾久が雪充の為に、予算オーバーしても欲しかった、かっこいいブランドのネックウォーマーだった。

 奮発したかいがあって、雪充によく似あっている。

「いえ、めちゃくちゃかっこいいです」

 幾久が言うと、雪充が笑って訪ねた。

「僕が?ネックウォーマーが?」

「ネックウォーマーをしてる雪ちゃん先輩が!」

「そっか」

「はい!」

 そう会話をしていると、隣で悶えている女性が居た。

 雪充の姉、菫だ。

「もういいでしょ雪充。こっちにも、いっくんをまわしてよ!」

 そう言って出てきた。

 相変わらずあでやかな美しさで、幾久は一瞬息をのむ。

「いっくぅうううううん!!!!!あけましておめでとぉ!」

 そういってぎゅうう、と幾久を抱きしめる。

 長い髪がふぁさっと幾久の頬をかすり、やわらかさについうっとりする。

 菫は手袋を外し、幾久の頬を両手で包んだ。

「いっくんがくれたハンドクリームつけてんのよ!もうほんとお気に入りなの!ありがとう!」

 幾久の頬をぐにぐにと触る菫に雪充が苦笑する。

「姉さん、いっくんの顔が潰れるよ」

「潰れても可愛いなんて、ほんとなんて可愛い!」

 美人にならもまれてもいいやあ、と幾久がうっとりしていると、声をかけられた。

「おい、そいつは餅じゃねえぞ」

 声をかけてきたのは毛利だった。

「お餅だったら食べちゃう!持って帰る!」

「俺のついた餅を持って帰れ。そいつは不可だ」

常世(じょうせ)のケーチ」

「現品限りだからしゃあない」

 在庫があったら売られちゃうのかよ、と思いつつ、本当に売られそうだなと思って幾久は突っ込まなかった。

「それより、なんで列から出てるんすか?」

 境内から本堂に向かって、お参りする人は一直線に並んでいる。

 外れていたらいつまでもお参りはできないだろうに。

 すると毛利が答えた。

「もうちょっと人が引くの待たねーと、今日は多いからな」

「並んでたらいいのに?」

 お参りが済めばすぐみんなお守りを買いに社務所へ向かったり、近くの別の神社へ向かうので、人はきちんと減っている。

 すると、雪充が困ったように言った。

「人が多いと、姉さん、すぐ痴漢に会うんだ」

「えっ」

 幾久が驚くと、菫は困ったような顔になって言った。

「そうなのよ。ちょっと人ごみに入るとすーぐ触ってくる不埒物が居てね」

「なんすかそれ」

 露骨に幾久の声が不機嫌になり、菫は驚き、雪充はちょっと驚き。

 そして毛利は(あーあ)と思った。

(こいつ、こういう所も杉松と同じだったんか)

 と、毛利が気づいても遅い。

「なんすか、それ絶対犯罪じゃないっすか」

 急にむかついたらしい幾久が言うと、菫は困ったまま、「そうなんだけどね」と答える。

「本当はもうちょっと遅くなって来ようかと思ったんだけど、雪充にいっくんが居るって聞いて焦っちゃって」

 だったら、菫は幾久に会いたいが為に、わざわざ待っていてくれたことになる。

「だってそんなの、菫さん全然悪くないじゃないっすか。なのになんで、菫さんがそんな奴の為に、時間考えないといけないんすか。オレ、そういうの絶対に許せない」

 なぜか幾久の方が傷ついた顔になり、菫は少し困ってしまう。

 いいのよ、と言ってもきっと幾久はきかないだろう。

(そういうところ、ほんと杉松さんだよね)

「菫さんは絶対に悪くないし、かといって痴漢を捕まえるのも、菫さんに触らせちゃうことになるし」

 ぶつぶつ言い始めた幾久は、たぶん本気で怒っている。

 むっとしたままの幾久に、児玉も御堀も黙ったままだ。

 こういう時、幾久には触らないほうが身のためだからだ。

 そこで、幾久ははっとなにかを思いついた。

「ちょっと待っててくださいね!すぐ戻ります!」

 そうして社務所へ向かって走って行った。

 毛利はそれを見てため息をつく。

「あーあ、紳士が発動しちゃった」

 菫はふふっと笑う。

「可愛いじゃない。なんであれ素直に嬉しいわあ」

 菫にとってはよくある事でも、幾久がああも本気で怒ってくれて、なにかを思いついて走って行った。

 なんて可愛いのだろうと嬉しくなる。

(好きでこんな外見なんじゃないや、ばーか)

 奇麗でいいわね、何の努力もしてないのに、なんて嫌味を言われるたびにいろいろ不満はあったけれど、こうして杉松に似た幾久が本気で怒ってくれると嬉しくなる。

「あー、あの子が面食いでよかったあ」

「自分で言うか」

「いうわよ。あたし美人だもん」

「へいへい、そうですよね」

 呆れながらも、こうして毛利が傍についているのは、菫をそういった連中から守るためだ。

 学生の頃からそうだった。

 あの頃小さかった雪充は、姉を守れるくらいには強くはなったけれど、それでも一人では間に合わない。

「でも、いっくんなにするんだろう」

 好奇心半分で雪充が言う。

 幾久一人では痴漢から菫を守れないだろうけれど、さて一体どんな事をするのだろうか。

「なんとなく、想像はつきますけど」

 御堀が言うと、児玉も笑って「そうだな」と言う。

 社務所には伊藤が居るはずで、しかも男手は余っている。

 ああ見えてわりと交渉上手の幾久だ。

 きっと面白いことをするに違いない。

「誉に声かけずに言ってんだから、きっと自信あるんだと思いますよ」

 児玉が雪充に言うと、雪充も「そうだろうね」と笑う。

「さて、どんな手腕を見せてくれるのかな、いっくんは」

 菫も雪充も、ちょっとわくわくしながら、幾久の戻るのを待った。



 しばらくすると、真っ黒な着物の上衣を着た面々が現れた。

「おっ、考えたな坊主」

 毛利が楽し気に笑った。

 現れたのは伊藤を始め、警備にあたっていた報国院のSP部隊だ。

 幾久が菫たちに言った。

「警備をお願いしたんで、一緒に並んでくれるそうっス!」

 ずらっと現れたのは、報国寮、千鳥のSP部隊だ。

 中には河上の姿もある。

「桂先輩のお姉さまを痴漢から守る会!参上しました!」

「押忍!」

 見事なまでの掛け声に、参拝客からくすくすと声が聞こえた。

 見ただけで十人近くの生徒が集まり、菫を見ておお、と声を上げていた。

「美人だ」

「すげえ美人だ」

「女優だ」

 幾久が菫に言った。

「菫さん、騒がしいっすけど、みんなが囲んでくれるそうっす。並んでお参りしましょう、一緒に」

 そう言って幾久が手を出すと、菫はにっこりと微笑んだ。

「うん!じゃあ、いっくんにお任せする。君たちもよろしくね!」

 そう菫が極上の笑顔で言うと、男子生徒からどよめきが起き、「絶対に守るぞ!」「痴漢、ダメ、絶対!」と声が上がったのだった。

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