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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【21】今年も君といる幸運と幸福【東走西馳】
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受験生はお年頃

「ピアノのかっこいいおじさん!」

「やあ」

 笑顔で立っていたのは、ピーターアートのベースである、律だった。

 夏に音楽室でピアノの調律をした時、幾久にピアノを弾いてくれた、超絶イケメンなおじさんだ。

「桜柳祭の時はありがとうございました」

 そういって幾久がぺこりと頭を下げ、御堀も児玉も頭を下げる。

 アンコールの追加公演を外でやることになったとき、音響が使えない状態なのに、音源の必要ないアコースティックギター、ベース、タンバリンで幾久達の舞台を盛り上げてくれた立役者だった。

「とんでもない。こっちこそ後輩の助けになったのなら何よりだよ」

 後で聞けば、有名なバンドのおじさんたちだったとの事なのだが、幾久達は世代的に知らないので、いまいち凄さが分からない。

「おじさんも鐘をつきに来たんですか?」

 幾久が訪ねると、律はちょっと驚いて、そか、とぷっと噴出した。

「違うよ。ここ、おじさんの家なんだ」

 え、と幾久は驚く。

「ここって、お寺、っスよね?」

「そう。おじさんのお家、お寺なの」

 えーっと幾久は驚いた。

「おじさん、バンドの人なんじゃなかったんですか?お坊さん?」

「おじさんはバンドの人で、ピアノの調律師さんだよ。ここは俺の母の実家でね。俺の祖父が坊主なの」

「へぇえ」

 なんだかすごく意外だ、と幾久が驚いていると、律が言った。

「それよりいっくん、ちょっとこっち来てくれる?」

「?ハイ」

 手を引っ張られ、案内されたのはお寺の本堂の玄関だった。

 なんだろう、と思いついていき、待っていると「ちょっと待ってね」と律が上がっていった。

 階段を上っていき、ドアをノックすると、ドア越しにうっせーな!と声が響いたのだが、律が怒鳴った。

「幾久君が鐘をつきにうちに今来てるぞ!お前、会わなくていいのか?」

 すると、どんっというドアを開ける音とともに、階段を駆け下りるどどどどどどど、と言う音が派手に聞こえ、幾久の前に現れたのは。

「―――――幾せんぱいっ!!!」

「ノスケ?!」

 幾久が驚くのも無理はない。

 そこに居たのは、この前、報国院に見学に来た中学生の菅原・オブライエン・華之丞だったからだ。

 しかも。

「お前、その頭、どーしたんだ?!」

 まばゆくきらめく天使のような美少年だった華之丞は、栗色の髪をばっさり切り落とし、坊主頭になっていた。

 華之丞は苦笑いして坊主頭をさすりながら言った。

「藤原に負けたし、俺、かっこわりぃいじめやってたんで。反省で」

「ベッカムみたいでかっけえ。似合ってるじゃん」

 幾久が言うと、華之丞は一瞬驚いたが、ニヤッと笑って「実は自分でもそー思ってるんス」と頷いた。

「でもノスケ、なんでお前がここに?」

 幾久が訪ねると、華之丞のほうが驚いた。

「だってここ、俺ん家なんで」

「……え?」

 ということは?つまり?

 幾久が驚いて律を見ると、律が言った。

「こいつ、俺の息子」

「え―――――っ!!!!!!」

 幾久が驚き、声を上げた。

「ノスケが、かっこいいピアノのおじさんの、息子?!」

 律が喜んで華之丞に言った。

「あはは、俺、かっこいいんだって」

 すると華之丞がかみついた。

「このおっさんのどこがかっこいーんすか!」

「や、かっこいいじゃん滅茶苦茶。ピアノ上手いし」

「ピアノくらい、俺だって弾けます!」

「それにイケメンだし」

「俺のほうがかっけーんで!」

 華之丞が噛みつくが、律はにこにこしながら幾久に言った。

「ゴメンねうちの息子、いまお年頃真っ最中で」

「反抗期だっつってんだろ!バカかよ!」

 ああ、なるほど、と幾久は苦笑した。



 華之丞に案内され、幾久と御堀、児玉の三人は鐘をつく列に並んだ。

 二列で並んでいるので、幾久と華之丞、その後ろに児玉と御堀が並んでいた。

「そっかー、華之丞のお父さんかっこいいからなあ。だからノスケもかっこいいのかあ」

 感心する幾久に華之丞は訪ねた。

「俺、かっこいいっすか?」

「え?ノスケはめちゃくちゃかっこいいけど」

 幾久に褒められ、華之丞はぱあっと顔を赤くした。

 その様子に児玉が笑って言った。

「顔真っ赤だぞ」

「るっさいっす」

 ふんと言うも、児玉は気にする様子もない。

「それより、家の手伝いとかしなくていいのか?ノスケ」

 幾久が訪ねると華之丞が苦笑した。

「幾先輩、俺受験生」

「あ。そういやそうだった」

 華之丞は中学三年生で、もうすぐ報国院を受験する。

 しかし、幾久はそのことを知らない。

「学校、どこ受けるか決めたのか?」

 相談を受けたとき、華之丞は周防市の学校に行くか迷っていた。

 だからそう訪ねたのだが、華之丞はちょっと考えて「決めてはいます」と答えた。

「え?どこ?」

 幾久が訪ねたので、華之丞はちょっと考えて答えた。

「幾先輩には、なーいしょ」

「えー、なんでだよ。オレ相談のったじゃん」

「いいじゃないっすか。サッカー負けたから仕返し」

「なんで。いいじゃん教えろって」

「嫌っす。内緒っす」

 そういう華之丞に幾久はため息をついた。

「もー、なんだよ」

「へへ」

 華之丞は幾久に構ってもらえて嬉しくてたまらないらしい。

 幾久はしょうがないなあ、と肩をすくめた。

「ま、どの学校でも、ノスケだったらうまくやれるよ」

「俺もそう思うっす」

 そう言って、華之丞はちらっと児玉と御堀を見た。

 というより、ちょっと睨んでいた。

(ははーん)

(なるほど)

 それで幾久の隣にべーったりくっついているわけか。

 華之丞の視線で察した二人は、視線を合わせて頷いた。

「せいぜい頑張れよ。ちょっとでも油断したらすぐ抜かれるぞ」

 児玉が言うと、御堀も頷く。

「そうそう。でも君だったら、ファイブクロスでは有望株になれるんじゃない?」

 御堀がわざとらしく言うと、幾久は残念そうに言った。

「そっか、周防市に行っちゃうのか」

「えっ」

 まさかの解釈に華之丞が驚くと、御堀は続けて言った。

「そりゃそうだよ。ファイブクロスは攻撃的な選手があまり育ってないから、菅原君は向いてるよ」

「嫌いな奴がいると、後々トラブルもおきやすいしなあ。離れたほうがいいって選択もあるよなあ」

 勝手にそんなことを言い始めた御堀と児玉だったが、幾久はその言葉を全く疑いもせずに頷いた。

「確かに、さっきもお父さんと喧嘩してたし、ちょっと離れたほうがノスケの為かもしれないなあ」

「えっ、あの、幾せんぱ」

(おい待て、気づけよ!ちゃんと幾先輩って呼んでんじゃん俺!)

 すでに幾久の後輩になる気満々でいるというのに、どうして気づかないんだ、この人は!と思ってふと後ろを見ると、児玉と御堀の二人が、ざまあみろ、といった風にニヤニヤしていた。


(……クッソ!毎日一緒に寮で過ごしてるくせに!ちょっと俺が幾先輩を取ってんのが気にくわねーのかよ!)


 その通りだった。

 華之丞によって幾久の隣にぐいぐい割り込まれた御堀は、笑顔を見せていたが非常に不機嫌だったし、児玉は児玉で、桜柳祭でお世話になった上に、大尊敬するグラスエッジの尊敬するピーターアートのメンバーである律に生意気な態度をとる華之丞が気に入らない。

「まあいいじゃん幾久。藤原君ってのが来るんだろ?お前の事大好きな」

 児玉が言うと、御堀が言った。

「そうそう。それに大庭先輩の弟さんも入学希望しているそうだし、楽しみだよね」

 大庭の弟を思い出し、幾久は頷いた。

「バキくんだっけ?あの美少女みたいな子!可愛いよね、お姉さんもすっげえイケメンだけど、どっちも美形だよね」

 話しかけられ、御堀がふっと笑って幾久に言った。

「今度一緒に、大庭先輩に話にいこうよ。大庭先輩、幾の事が大のお気に入りだからさ、きっと喜ぶよ」

「うん、受験の邪魔になんないようにしないとな。あ、でも絶対に誉も一緒に来いよ?オレ一人じゃ恥ずかしーし」

「勿論。幾を一人にするわけないじゃないか」

 ロミオ様スマイルをふんだんにぶちまけながら、御堀がじわじわと幾久と華之丞の間に割り込んでくる。

 すると華之丞が負けるものかとぐいぐい押してくる。

 華之丞が押し、御堀が押し。

 幾久はひょいっと後ろに下がった。

「もー、誉、なに焦ってんだよ。そんなに鐘つきてーなら、前に行けって」

「い、いやあの幾」

「いいから先行けよ。そんなに楽しみとは思わなかった」

 なー、タマ、という幾久に児玉は笑いをこらえながら「そうだな」と肩を震わせた。


 結局、押し合い圧し合いしていた華之丞と御堀の二人が並び、その後ろを幾久と児玉で並んだ。

 鐘楼の前に並び、狭い階段を順番で上がる。

「寮の蔵みたいだね」

「確かに」

 幾久が言うと児玉が頷く。

 鐘楼は蔵よりも随分と小さく狭いので、数人鐘の前に並ぶともう狭い。

「俺はいいんで、先どーぞ」

 華之丞が言い、御堀がまず鐘をついた。

 ごわぁあ~ん、と微妙な音だ。

 華之丞がぷっと笑い、小さく「ヘタクソ」とつぶやくと御堀が華之丞をぎろっと睨んだ。

「じゃー、次オレ!」

 幾久が変わり、鐘をつくが、御堀より一層鈍い音だった。

 わんっ……わん……っと明らかに失敗した雰囲気に幾久は苦笑した。

「やっぱ誉は上手だなあ。オレ下手だ」

 そう言って笑う幾久に、御堀はふふんと華之丞を見返し、華之丞はむっとして御堀をにらみ返す。

 幾久の知らないところで地味な戦いが繰り広げられている間、児玉が鐘をついた。

 こちらは流石に経験者だけあって、二人よりもまともな音が響く。

「タマが一番うまいなあ。軽音部だから?」

「関係ないと思うけど」

 幾久の言葉に児玉が笑う。

「じゃ、俺も」

 そう言って華之丞が鐘の前に立つ。

「幾先輩、見てて」

 幾久が頷くと、華之丞が鐘をつく。

 ごーん、とそれは奇麗な音が響いた。

 おお、と幾久は声を上げた。

「やっぱお寺の子だ!上手!」

「まーね!俺にかかればまーね!」

 えっへん、と華之丞は胸をはったのだった。

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