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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【21】今年も君といる幸運と幸福【東走西馳】
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もう少しでお正月のはずが、なぜ我々男子高校生はバレンタインの話をしているのだ

  年末も差し迫った大晦日の前日、十二月三十日。

 明日はもう大晦日というせわしい日に幾久と御堀は学校に居た。

 ホームエレクトロニクス部、略してホーム部、俗に言うなら家庭科部に二十人程度の生徒が集められて、年末の作業に入っていた。

 清潔で奇麗で、使いやすく大きなキッチンがいくつも整備された調理室で、幾久と御堀は、ひたすら団子を捏ねていた。

 ホーム部を仕切る二年生、河上(かわかみ)修連(しゅうれん)は時計を見ながら団子の数を数えている。

「このペースだと、予定より早くいきそうだな」

 ほっとしている様子に、粉に水を混ぜてひたすら練る、という力仕事をしていた一年の伊藤は言った。

「だったらちょっと休憩しましょうよ~捏ねてばっかで腕いてーんすけど」

「だっらしねえな。なんだその筋肉は飾りかよ」

「飾りっす」

「嘘つくとハルに言うぞ」

「飾りじゃないっす!」

 慌てて団子を捏ねだす伊藤に幾久はふっと笑った。

 相変わらず伊藤は高杉に頭が上がらないらしい。

「こっちはもういい感じっすけど」

 幾久が河上に言うと、様子をのぞき込む。

 寸胴の大鍋には湯がはられ、ぐつぐつと煮えた中から幾久が団子をすくい、水を張ったボウルの中へ入れていく。

「すっげえな。めちゃくちゃ早い上に形がばっちりじゃん」

 ほー、と感心する河上に幾久は自慢げに言った。

「だって本職がついてますからね!」

 えっへん、と威張るのは幾久の隣に御堀が居るからだ。

 伊藤が大量の粉に規定どおりの水を混ぜ、捏ねると重さをはかり、小分けにする。

 それを幾久達は各グループで運び、重さをはかってのし棒の形にし、ひとつひとつを切り分ける。

 分けたものを手でこねて丸くするのだが、御堀は切り分けせず、適当にまとめた塊を、慣れた手つきで自前の竹ヘラを使って上手に団子を捏ね、丸い形に整えて湯が煮える鍋の中へ落とす。

 丸く平べったい団子は一度沈み、ゆであがると自然に浮いてくる。

 幾久の仕事はそれをすくいあげることになっている。

「幾、お前さっきからすくうばっかじゃん」

 そう言ったのは一年鳳、地球部で、桜柳寮に所属する山田御空だ。

 後期からホーム部に所属すると言っていたが、さっそく手伝いに呼ばれたらしい。

「だってオレが丸めても上手にできないし。御空のが上手だよ」

「そ、そうか?」

 褒められれば素直に喜ぶのが山田だ。

 幾久に褒められ上機嫌で山田は団子を捏ねだす。

 三人ずつ、6つのグループに分かれてホーム部はひたすらに団子を作っていた。

 報国院高等学校は神社の敷地内にあり、年末から元旦にかけての初詣は一大イベントとになる。

 よって、祭示部と呼ばれる、神事を手伝う部活では元旦に販売する善哉の団子をひたすら作っている最中で、その指導にあたっているのがホーム部で、幾久と御堀は、その手伝いに来ている。

「こんなの毎年やってるんすか?」

 幾久が訪ねると、河上が頷いた。

「伝統みたいなモンだぞ。昔は無料で配ってたんだけどな、今は紙コップに入れて団子みっつで一杯百円。それでも儲けはほとんどねーっつってたけど」

 毎年、報国院の神社には大勢の人が初詣にくるのだという。

「大体、十一時くらいになったらお参りの人が集まりはじめるし、この善哉目当てにくる人もいるんだからな」

「大丈夫っす!誉が作ってんすから!」

 自信満々に言う幾久に山田が苦笑した。

「ったく、幾はそれかよ」

「だって本職だよ?」

「本職じゃないかなあ」

 言いながらも手際よく団子を作っていくので、河上は感心して言った。

「いや、マジでうまいわ。うちにスカウトしたいくらい。バレンタイン、めちゃくちゃ忙しいんだよな」

「バレンタイン?誉は貰うほうっすよ?」

 幾久が言うと、河上が首を横に振る。

「残念だったな一年。うちの学校は、実はバレンタインは禁止されている」

 河上の言葉に、幾久と山田、そして伊藤、他一年が驚いて声を上げた。

「え―――――っ?!マジで?」

「本当に?つか、ありえん!!!!!」

 わいわい騒ぐ一年に、河上が怒鳴る。

「手を動かせ!ちゃんと教えてやるから!」

 一年連中は大人しく作業に戻り、河上が説明した。

「ご存じの通り、バレンタインといえば二月だが、三年生はぶっちゃけそれどころじゃねえよな?受験で大事な時期だ」

 うん、と全員が頷く。

「しかも鳳といえば、合格率が学校の評判にも関わるし大事な身。にも拘わらず素人の、もしくは知らん奴、衛生管理まる無視のもんなんか食わせてみろ?腹下すだけなら運が良いほうでインフル発症したら寮が全滅する」

「確かにそうだ」

 彼女であるならともかく、そうでない人の手作りなんて思ったらちょっとかなり怖い。

「それに、一部にはコエー奴がいてな。髪、爪、体液、血液がチョコに混じってる事もある」

「なんで?!」

 驚く幾久に、御堀が言った。

「おまじないって奴だよ。たまにそういうのやっちゃう人いるんだ」

 幾久が驚くも、河上は頷く。

「御堀、さすがよく知ってるじゃん。そうなんだよ。マトモな子が殆どだが、そんなコエーことする奴を排除するには全部排除しかないだろ」

「こえーよ、黒魔術じゃん。それじゃ禁止になるよな」

 はー、と幾久はうなづくと、河上が言った。

「そう。個人的に付き合ってるやつはもう自己責任だけどな。報国院はいい顔はしねーよ。だから付き合ってる連中も少ねーだろ?」

 幾久は思い出すも、確かに、と思う。

 絶対にモテまくっている二年の久坂や高杉、栄人、三年の雪充だって彼女はいない。

 男子校のせいかと思ったが、それでもあの人たちに彼女がいないのはおかしいレベルだ。

 幾久の疑問に答えるように、河上は言った。

「女子と付き合うリスクってのを、特に鳳は徹底的に叩き込まれるからな。折角鳳に入ってんのに、そっちのリスクをとる奴は、そういねえよ。居るとしたら、もう結婚するつもりとかだな」

「結婚って。気が早すぎ」

 げんなりする幾久に河上も頷く。

「だろ?だったら付き合うなってことだよ。お勉強しなさいってな」

「色気がないよー」

 幾久が言うも、河上が「そうでもないぞ」と言う。

「そういう時の俺ら、ホーム部よ!俺らがチョコを作る!」

 自信満々に胸を叩くも、一年生連中は「えー」と不満げな声を上げた。

「なんだよ、その不満そうな声は」

 伊藤が言った。

「不満なんすよ!だって男が作ったチョコなんか、だれが食いたいんすか?」

「おめーショコラティエに喧嘩売ってんのか」

「俺はバレンタインの話をしてんすよ!だって女子からのチョコ欲しいじゃないっすか!」

 伊藤が言うと、うん、と御堀を除く一年生たちが頷く。

 河上が言う。

「だーかーらー、うちは外部からのチョコは全部委託なんだよ。外部の女子からの発注を受けて、俺らが安全なチョコを作んの!」

 首をかしげる幾久に御堀が説明した。

「経済研究部と組んでるんだよ。お目当ての男子が居る場合は、外部女子はフォームから発注して、本人へ渡すようになってるの」

「ってことは、普通にお店で買う通販と同じか!」

「そういうこと。誰からってばらしたくない場合は、本人には知らせないってこともできる」

「へー、サービスいいんだ」

 御堀がにっこり微笑んで言った。

「母親に頼んで注文してもらう生徒が毎年数多くいるそうだよ」

「あー……自作自演、的な」

 なるほど、そういう需要もあるのか、と幾久は苦笑する。

 山田が言った。

「でも誉のチョコ、大量に来そうだよな。食いきれんの?」

 誰でも申し込みができるのなら、逆に御堀あてには送りやすいだろうし、アイドル的な存在になっているから、ファン的な要素で大量に送られて来そうだが。

 御堀は微笑んで言った。

「その心配はないよ。僕の場合はファンクラブのアプリでしか受付しないから」

「アプリ?」

「そう。課金制で、僕のところにチョコを送るってすると、金額に応じてお礼が出る。写真とか、コメントとか。直接お礼を送るコースもあるよ」

「あ……うん」

 やっぱり金儲けには余念がない御堀に、幾久は頬をひきつらせた。

「こっちに申し込みがあっても心配ねーぞ。大量にある場合は、本人希望のポイント制にしてチョコレートは少し、ってことも出来るようになってる」

 河上と同じ、二年の佐久間が頷いた。

「だから三年の桂先輩は毎年スゲー数来るけど、チョコはひとつしか食べないしあとはポイントで貰ってるぞ」

「そーだ!オレも雪ちゃん先輩にチョコあげたい!注文できますか?」

 幾久が言うと、どっと笑いがおきて山田が言った。

「幾、お前はちゃんと買って渡しても問題ねえだろ」

「うーん、でも受験時になんかあったらとか考えたら、自分で買うのも怖いっていうか」

 桜柳祭や恭王寮の提督で忙しい日々を送りながらも、雪充が受験に集中しているのは知っているだけに、万が一の失敗もしたくない。

 すると、話を聞いていた佐久間が言った。

「じゃあ、お前もチョコづくりに参加したらいいじゃん。大丈夫だよ、どうせこっちの監修が入るし、俺ら資格持ってるし」

 すると河上も頷く。

「お、いいな。どうせ桂先輩のチョコは作らなくちゃいけないんだし。やれよ!」

「え、じゃあオレ、手伝いに参加しようかな」

 チョコなんて作ったことはないけれど、先輩たちが居るなら大丈夫だろうし、ホーム部の料理の腕は確かだ。

「お前が参加するなら、御門のチョコはお前担当でもいいしな。あいつらも安心して食えるだろ」

 あいつら、とは御門の先輩たちの事だろう。

「ウチの先輩たち、なんか量、凄そうっすね」

「すげーなんてもんじゃねえぞ。実際にあれだけの数が来たら、学食で毎日チョコ茶漬け食わされる」

「想像だけでもういいっす」

 幾久が言うと、河上が笑った。

「ま、実際は必要な分しか作らねえからそこは安心しろ。うん、ってことはあいつらも安心して食えるチョコ作れるし」

「じゃあさ、幾、先輩たちにもあげなよ」

 御堀の言葉に幾久が首をかしげると、御堀が言った。

「ウィステリアの先輩」

「あ―――――!そっか!それいい!」

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