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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【20】愛とは君が居るということ【適材適所】
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君はどんな人なんだろう

 そうなのだ。

 グラスエッジのチケットなんて、今、多分一番取り難いと言っても良いほど手に入りにくいもので、児玉も江村も、二人で一日ずつしか申し込めなかった。

 幸い、そのどちらとも当選したので運よく2DAYSとも参加出来るようになったのだが、それでもファンクラブに入っていたから取れたようなものだ。

 怪しまれるだろうとは思っていたので、児玉は御堀に教えて貰った通りの答えを返した。

「お前だから教えるけどばらすなよ。鳳首席の特別枠だ」

 児玉が言うと、江村は「特別枠」とごくりと唾を飲み込む。

「ああ。お前も知ってるけどグラスエッジって報国院出身だろ。で、学校はグラスエッジが学生の頃、すげーサポートしてたんだと。だからメンバーも学校には頭が上がらないみたいでさ」

 そこは嘘ではない。実際にメンバーから児玉は聞いた。

「御堀はライヴが見たいっていうより、今成功してるバンドがどんなものかって確認したいらしくてさ。つまり経営者目線での視察ってやつ」

「視察」

 ほほう、と江村は感心した声を上げる。

「だったら学校はOK出すだろ?」

「確かになー、うちの学校、えぐいもんなー」

 鳳様首席様には何を言われても通すくらいの事、学校はいくらでもするだろう。

 そこは生徒全員の理解があるので江村が疑う事はない。のだが。

「御堀はそれで判るけどさ、なんで乃木まで?」

 そこだよ。児玉もそれは思った。幾久は来期やっと鳳な訳で、誰もグラスエッジとの関係を知らない。

 まさか、あの宮部さんが『絶対に来てね!約束だよ!なんならスタッフ迎えにやるから!お友達呼んでいいから!』と懇願するほどなんて誰が思うだろう。

「一人じゃ行きづれーし、学校がチケット二枚用意したから、仲良くてグラスエッジに興味ねーやつ選んだって」

「ナルホド、確かに乃木ってグラスエッジ好きって感じじゃないもんな。どっちかっていうと、オリテンだよな」

 鋭い。さすがバンド大好き音楽大好き江村は鋭い。

 実際、幾久はリストバンドを貰ったという、オリオンテンノット、略してオリテンの音楽はよく聴いていた。

「お前、すげーじゃん、マジそれよ」

「だよなー。でもなんか判る。騒がれたら面倒くせえよな」

 うんうんと江村も頷く。よし、これはこのまま大丈夫そうだ。

 そこで児玉は用意していたものをバッグから取り出し、江村に渡した。

「?なにこれ」

 指で「しー」とやりながら、児玉は江村の首に腕を回し、頭を下げさせると、こそっと言った。

「黙ってあけてみろ」

「?」

 児玉に渡された小さな紙袋を開けると、そこには。

「―――――!!!!!」

 驚きのあまり、江村が言葉を失った。そうだろう。

 そこにあるのは、完全非売品、ファンクラブでたまーに懸賞にある程度のレアレアレアなグラスエッジのラバーキーホルダーが入っていたからだ。

 ファンなら絶対に欲しい!いくらでも出す!頼む、売ってくれ!そんなグッズだ。

 それがまさに、ここにあるのだ。江村が驚くのも無理はない。

 児玉が言った。

「誉と幾久がくれたんだよ。チケットと一緒に貰ったけど、自分たちはいらないから、ファンの俺たちにって」

「まじか。んな申し訳ねー……」

「だから誰にもチケットの事は言うなよ。あいつらはあくまで勉強の一環で来てるんだから、逆恨みされたらやべーだろ」

 児玉の言葉に江村は何度もうんうんと頷く。

「でも、本当にいいのか……?!こんなすげーお宝グッズ、なんか申し訳ないっていうか……」

 感激のあまり江村は涙ぐんでいる。

(良かった……これで十分だった)

 最初はキーホルダーだのグッズだのサインだの、児玉が卒倒するレベルでグッズが用意されていたのだが、やりすぎだやめろとの判断でこのキーホルダーになった。

(あいつら加減を知らねーんだよ)

 ファンだったら絶対に欲しいお宝、なんかないですかと御堀が宮部に質問した翌日には、航空便でグッズが大量に到着した。

 箱ごと江村に渡そうとする御堀を止めて正解だった。

 そんなことをしたら江村がライヴ前に召されてしまう。

 同じグラスエッジファンとして、ライヴが楽しめない状況は駄目だ。

「自分たちより俺らが持ってたほうがいいからって。後からお礼言っとけよ」

 児玉の言葉に、江村は何度も頷く。

「やべー、マジ感激する。あいつらいい奴だな」

 うん、確かに幾久はいい奴だけど御堀はどうかな。

 児玉は思ったが、あいまいな笑顔で誤魔化しておいた。



 いそいそと大事にキーホルダーをしまう江村が、児玉に尋ねた。

「でもさー、なんかあいつら急に仲良くなったよな。やっぱロミジュリ効果って奴?」

 そもそも同じ寮でもなく、クラスも別。

 関わったのは桜柳祭からなのに、あの二人はまるで昔からの親友のように見える。

「っていうか、幾久が誉を助けたんだよ」

「助けた?」

「そう。誉って、首席だし、出身周防市じゃん。おまけに良い所の坊ちゃんだろ?親に進路も決められてるみたいで、かなり悩んでたみたいなんだよ」

 これは本当だし、御堀からも言っていいと言われた情報なので、児玉は遠慮なく晒す。

「そんな時に、幾久の言葉とかが、スゲー救いになったんだって。それは俺も経験あるからさ」

 幾久の言葉は、素直でまっすぐだ。

 それが時折、刺さってしまうこともあるが、少なくとも児玉や御堀にとっては救いになった。

「地球部の舞台も練習ずっと頑張ってたからな。あれはすげーよ」

 軽音部で練習する児玉は、自分でも頑張ってきたとは思うし、比べるものでもないけれど、やっぱり地球部の面々はかなりのハードスケジュールをこなしていた。

 特に高杉と御堀は桜柳会も兼任していたので、その忙しさは見ていても心配になるほどだった。

 案の定、御堀は詰め込みすぎて、追い詰められてしまったが。

「衣装とかも凄かったもんな」

 江村が言うと、児玉も頷く。

「あれはウィステリアの先輩がスゲーんだよ。誉と幾久の二人を見て、絶対に衣装作るって食いついて。最終日までアレンジ加えてたっていう」

「だからあんなにスゲー衣装だったんだな」

 そう、それだけではない。

 児玉も知ってびっくりしたのだが、ロミジュリの衣装を製作したテーラー松浦の孫娘だが、なんとグラスエッジの衣装協力をしている人の親戚だというではないか。

 グラスエッジは学生時代からの関係者が多く、その為にチームの結束が固いと知ってはいたが、実はグラスエッジの衣装は、ボーカルの集と同級生である報国院出身のデザイナーが手がけているのだという。

 松浦の服も、高杉の服も、実はそこから回ってきている物だから似たようなデザインになっている。

 児玉のツボにはまるかっこいい服が多いな、と高杉を見て思っていたが、グラスエッジの衣装と同ブランドなのだから当然だ。

「確かにあの舞台、凄かったもんな。盛り上がりも凄かったけど」

 江村が言うと児玉も頷く。

「俺、音響も協力してたから傍で見てたけど、本当に頑張ってた」

 朝早くから真夜中まで。

 全員、ギリギリまで必死になって努力していた。

 だから、幾久と御堀が、観客から万雷の拍手を貰ったとき、児玉は自分の事ではないのに、思わずよし、と拳を握り締めた。

 あいつらのこの何ヶ月かの努力を、全部知っている人なんか当然居ない。

 だけどその結果を、一気に貰うだけの価値が、地球部の連中にはあるべきだと児玉は思っていた。

「すげえよな。結局乃木は鳳だろ?やっぱ先輩らは見抜いてたって事なのかな」

 恭王寮に所属する江村は、当然雪充の事も尊敬はしている。

 地球部に所属する面々も大抵は鳳で、希望者が居ても学力が問題で落とされることもあるという。

 児玉は江村に頷いて言った。

「駄目なら追い出せばいい、ってのがうちの寮の先輩らの意見だからな」

「うわなにそれ。厳しっ。御門こええ」

「そーだよ、わりとコエーよ。気にせず過ごしてんの、幾久くらいじゃねえの」

 そういって児玉は笑うも、そんな幾久でさえ、失敗したのを知っている。

 御門は厳しい。今となってはそれがよくわかる。

「ルールなんかなにもないからこそ、もしミスったら一発退場ってのは判る」

「自由そうだけど、やっぱそう楽なとこなんかねーってことか」

 江村が言うと児玉が笑った。

「そうそう。実際、気楽さでいえば、絶対恭王寮がいいって」

 児玉は、野山や岩倉が居てトラブルになったから、ということや、あこがれていた人が御門寮に所属していたから御門がいいと思うけれど、もしそんな希望がなかったなら、きっと恭王寮の方がいいと思っただろう。

「雪ちゃん先輩はしっかりしてるし、先輩って感じだし、やっぱ寮らしい統率ってある気がする。恭王寮に居たときはそこまで感じなかったけど」

 恭王寮は寮としては小さなほうに入るけれど、立場は高いほうだ。

 自治寮として確立しているし、運営もうまく運び始めた。

「恭王寮って、雪ちゃん先輩が来なかったらけっこうボロボロになってたんだろーなって思う」

 児玉が言うと、江村がだよなあ、と頷く。

「今は二年の入江先輩と、ヤッタがいろいろ任されてんじゃん。服部はなんかずっと調べてるけど、寮のこともいろいろやってるし。あれ見ると、やっと桂提督がなにやりたかったのか、判るようになったっつーか」

 寮に入って、半年が過ぎ、生徒たちは皆自分たちの寮になじんでいる。

 こうなると、入学時、他の寮に行きたがった生徒もぼちぼち面倒だなとか考えはじめて、結局そこまで移動したいと願う人もいなくなる。

「あいつら、結局報国寮のままなのかな」

 江村が言う『あいつら』とは、野山と岩倉のことだ。

 江村はそこまであの二人と接触がなかったとはいえ、児玉の悪口を言っていたのは事実だった。

 だが、結局策略がばれてしまい、児玉含め、三人とも恭王寮を追い出された。

 児玉は希望の寮で、しかも最近やってきたのは御堀という鳳のトップ、ザ・報国院みたいな奴だし、幾久はいい奴すぎるし、先輩達は尊敬できる面々ばかりだ(三年の山縣はちょっとアレだが、それでも尊敬はできる)。

 だが、報国寮に移った野山と岩倉は、一年の分際で二人部屋をあてがわれ、あまりいい雰囲気で過ごせてないのだという。

「さーな、どうなんのかな」

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