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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【20】愛とは君が居るということ【適材適所】
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ジュリエット君は(デートという事に)気づかない

 冬休みに入ってすぐの土日は、くしくも丁度振り替え休日が重なり三連休となり、その最終日となった本日はクリスマス・イブ、十二月二十四日。


 休日の人ごみでごったがえす博多駅に、四人の男子高校生が降り立った。

 それは御門寮の一年生である御堀、児玉、そして乃木幾久のいつものコンビともう一人、一年の鳩で来期は鷹にあがる、恭王寮の江村である。


「博多って思ったより近いね。新幹線だから?」

 幾久はそう言って、新幹線の中では脱いでいたブルーグレーのダッフルコートを羽織り、首にかけていた青いネックウォーマーをぐいっと上に上げた。

 アイボリーのチノパンツに、ブルーのジャージ、スニーカーは深く濃い青色に、いつも使っているリュックというスポーティーな出で立ちだ。

「報国からだと近いなって思うね」

 そういって頷くのは御堀で、こちらは仕立ての良さそうなグレーのチェスターコートに、紺のテーパードのチノパンツ、インナーはノルディック柄の薄いセーターにシャツ、そして黒のスニーカに、マフラーと手袋は揃いの黒。

 いいところのお坊ちゃん丸出しのファッションだ。

「やっと来たぜ……」

 そう言って感激しているのは、御門寮の児玉無一。

 フードパーカーにジーンズパンツ、黒のMA1タイプのミリタリーブルゾンに黒のスニーカー。

 黒のニット帽は勿論愛するグラスエッジのグッズアイテム。

 リュックにはこれまで行ったライヴのリストバンドがキーホルダーにされてつけられている。

「とうとう来たな……!」

 もう一人がそう言って児玉と向かい合い頷く。

 黒のハットに丸首のトレーナーは、ボーカルの集が愛用のブランドのものだ。

 白い三本ラインが入った細身の黒のジャージを履き、靴は白のごついスニーカー。

 そして上着のスタジャンは、深い青色地に背中に刺繍の入ったもので、こちらもファン限定で販売された集プロデュースのものだ。

 リュックにはやはり児玉と同じように、リストバンドをキーホルダーにしてこれでもかとつけている。

 彼の名前は江村(えむら)忠風(ただかぜ)

 恭王寮で一番のグラスエッジファンで、五月に行ったフェス限定のTシャツを児玉が盗んだと思い込まされ、児玉を嫌っていたが、誤解が解け謝罪してからは児玉とはいい友人関係になっている。


 グラスエッジはいま若者に一番支持があるといっても過言ではないほどのモンスターバンドで、今日、十二月二十四日、五日の二日間は、博多でグラスエッジのライヴが行われる。

 四人はそのライヴを見るために、博多へとやってきた。


 新幹線から降りた四人は、案内に従って駅の階段を下りてゆく。

「んで、これからどうするって?」

 児玉に幾久が尋ねると、児玉は言った。

「俺らはグッズ欲しいから、会場行って並びに入る」

「判った」

 頷き、四人は幾久と御堀、そして児玉と江村、二組に分かれた。

 そんなに急ぐ必要はないのに、じゃあな、と小走りに開場へ向かう児玉と江村は本当に楽しみなんだろうな、と見て判るほどだ。

「じゃあ、幾、どうする?おなかすいた?」

「いやー全然。まだ早いかなあ」

 今朝は児玉に起こされ、いつも学校に行く時間よりはずっと遅いが、それでも夜のライヴ時間には早すぎる時間に出発することになった。

「誉が居てよかったよ。オレ、全くこういうスケジュールだと思ってなかったもん」

 ライヴの開始時間が十八時なら、移動時間を考えて寮を十五時くらいに出ればいいと幾久は考えていたのだが、児玉はグッズが欲しいというので、時間を調べたら、グッズ販売は十四時からだった。

 ところが、その販売時間の前に並んでおかないと欲しいものが買えない可能性があるので、昼前には会場に到着するつもりだったという。

 児玉と江村はチケットも一緒に並びで買っているので、じゃあ移動は一緒で、あとは自由行動で、ということになった。


「僕らは三時くらいだっけ?」

 御堀の問いに幾久は頷く。

「うん。宮部さんが、三時過ぎくらいから来てくれたら話もできるし、先輩ら喜ぶからって」

 グラスエッジは今現在、ツアーの真っ最中だ。

 すでに何箇所かは回っており、後半に差し掛かった所だと言う。

 福岡は博多が2DAYS、幾久たちはそのどちらも参加することになっている。

「なんか二日もいらなくない?」

 幾久が言うと御堀が苦笑した。

「仕方ないよ。先輩の条件だからね」

 グラスエッジは、実はそのバンドメンバーの殆どが長州市にある報国院男子高校の出身者で、しかも全員が御門寮のOBだった。

 おまけに幾久は、グラスエッジの存在を殆ど知らないまま、バンドメンバーの先輩たちと仲良くなってしまい、後から大人気のバンドだと知って驚いたくらいだ。

 冬にライヴがあるから、招待するから是非来てね。

 グラスエッジのマネージャーでもある宮部さんにそう言われ、幾久はまあいいかと安請け合いしていたのだが、御堀が一緒に行く事を希望して驚いた。

 というのも御堀は児玉のようにグラスエッジのファンではなかったし、そこまでの興味も持っていなかった。

 それもそのはずで、御堀の目的は自身が所属する部活、経済研究部としてグラスエッジに会いたいのだという。

「幾には悪いね、面倒かけて」

「別にいいよ。誉一緒だったら、少しはアオ先輩から逃げやすいし」

 グラスエッジのキーボーディストである青木は、幾久が大のお気に入りで、溺愛しまくっていて幾久に非常にウザがられている。

 幾久の願いなら何でもかなえてやると豪語していて、じゃあと御堀の希望をと伝えると、なんと返ってきたのは『嫌だ』。

 というのも、青木と御堀は、十一月の芸術祭の後に御門寮での面識があるのだが、その際、幾久が青木から逃げ回った上、御堀の影に隠れていたので御堀にはいい印象がない、というか敵だと認識してしまったらしい。

 青木の『嫌』には宮部もそう簡単に逆らえないらしく、困っていたのだが御堀が宮部に頼み、青木と電話をすると一瞬で青木が、嫌々ながらもOKを出した。

 その代わりの条件が、幾久が福岡のツアーに二日間参加することで、だったら御堀も来ていいという事だった。

「でもさあ、なんで誉がアオ先輩なんかに興味あるの?」

 面倒くさいしウザイよ、とむくれる幾久だが、御堀は微笑んで幾久に言った。

「でもタカるならあの人でしょ?」

「うわ出たよ、お金先輩みたいな発言が」

 幾久がうんざりとした顔になる。

 そう、経済研究部といえば聞こえはいいが、実際はお金儲けクラブに過ぎない。

 現部長の三年、梅屋は経済研究部の部長でお金儲けが大好きで、なにかとお金を稼ぐ事ばかりやっている。

 なのであだ名がお金先輩。

 御堀が桜柳寮から御門寮へスムーズに移ることが出来たのも、御堀が梅屋を買収したからだった。

 御堀もまた、経済研究部らしく、お金儲けには余念がない。

 御堀いわく、どうもお金が必要な『悪巧み』を考えているらしく、最近いろいろ考え事ばかりしているようだ。

「あ、それより幾、手を出して。手」

「手?」

 言われたとおり、手を出すと御堀が幾久の手を恋人つなぎで握る。

 なにやってるんだろうと思っていると、御堀はスマホで繋いだ手の写真を取ると、手をはずした。

 そしてスマホを操作し、なにか入力するとポケットにしまった。

「じゃあ、行こうか」

「うん?」

 よく判らないが幾久は頷き、御堀に並んで歩いて行った。



 幾久と御堀が向かったのは、駅ビル内にあるデパートだった。

 博多駅は駅ビルの中にいくつも商業施設があり、今日は三連休の最終日な上にクリスマスイヴとあって人出が多い。

「人が多いね」

 御堀が言うと、幾久が笑った。

「なんか懐かしいかんじ」

 ずっと東京で育った幾久にとって、この人出は去年までの日常の中にあった。

 それが普通だと思っていたけれど、いざ報国町の静けさに慣れると、それはそれで悪くない。

「こんだけ店があれば、先輩らへのプレゼント、なんかありそう」

「確かにね」

 折角出かけるし、クリスマスなので、幾久は先輩達やお世話になっている麗子さんにプレゼントを買おうと思っている。

 山縣はあれから定期的に映像をUPしては、そこそこのお金を稼いでいるらしく、幾久にも毎月、振込みがあった。

 それにクラスが鳳に上がったことや、冬休みは帰省しないとなった事で、父が冬休み用にお小遣いを振り込んでくれた。

 おかげで幾久はわりと懐が暖かい。

「誉もなんか買うんだろ?」

「うん。麗子さんと姉に。それと、雪ちゃん先輩と、前原提督にもなにかあったらって思ってる」

「お金先輩は?」

「お金を一番喜ぶから」

「あ、そっか」

 だよね、と笑って幾久と御堀は、まず最初にデパートへと向かった。


 その頃、御堀がアップした、誉会ファンクラブ限定アプリの中で、幾久との『恋人つなぎ』の写真に猛烈な勢いで『いいね!』が付いている最中だという事を、当然幾久は知る由もなかった。



 まず最初に二人はプレゼントを探す事にし、駅に併設されてあるデパートを探索した。

「前原提督は本とか、本関係なら外しないから書店か文具店でいいよ。麗子さんは、お菓子とかかな?」

 御堀が言うと、幾久も頷く。

「お風呂関係どうかな。ゆっくり休んで欲しいし。お菓子だったら、結局オレらんとこ持ってきそう」

「確かにそうだね。じゃあリラックスできるものとかかな」

 エスカレーターを上りながら店をのぞいていると、幾久と御堀はある店が目に留まった。

 スポーツ用品店だ。

「ちょっとみたい」

 幾久が言うと、御堀も頷く。

「僕も」

 デパートのフロアに、いろんなスポーツのユニフォームが綺麗に飾ってあり、スニーカーもいくつかあった。

 さすがデパート用なのか、かなり高価なものが置いてある。

「代表のレプリカ!やっぱ欲しいなあ」

 幾久が日本代表のユニフォームにくいつく。

 応援に行く予定があるわけではないが、やはり欲しい。

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