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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【19】寮を守るは先輩の義務【通今博古】
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いろんな寮のおはなし

 寮の出展もしなければならないが、御門寮は全員が地球部に関わっているので、それとコラボしていた。

 三年の山縣は、映像研究部で、栄人は地球部ではなく経済研究部で売り上げの関係に、高杉と久坂、幾久は舞台に出演、児玉は効果音で裏方参加。

「そっか、全員地球部の舞台のほうになっちゃうから、そこまでできないのか」

 幾久の言葉に久坂が頷いた。

「そういうこと。うちは人数が最小だし、出来ることも限られているからね」

「ぼちぼち一年どもも、寮の運営については考えんといけん時期じゃのう」

 高杉が言うと、御堀が挙手した。

「むしろ、どういった運営をすればいいのか教えて頂きたいです」

「よう言うた。と褒めたいところじゃが」

「御堀は御門寮に食い込むつもりだね?」

 久坂が言うと御堀が頷く。

「勿論です。でないといつ追い出されるか」

「え?誉追い出すとかあるわけないじゃん」

 リフォームまでしたのに、と驚く幾久だったが、御堀は首を横に振った。

「甘い。甘いよ幾。先輩達はそういう人じゃないよ」

 すると横で聞いていた児玉が座を正した。

「お、俺も是非、伺いたいです」

 二人の態度に久坂と高杉が笑った。

「よし、そこまで言うなら持って来ちゃろう」

 高杉が立ち上がると、どこかへ行き、そして大きな分厚いリングファイルをいくつも抱えて戻ってきた。

 それだけで幾久には嫌な予感しかしない。

「うわー、見る前なのにもう見たくないよ」

「幾、しっかりして。見ないと追い出されちゃうよ」

「うわーん、タマ、誉が脅すよー」

 児玉に泣きつくも、児玉は言った。

「諦めろ、ここはきちんとやっておかないと後々俺たちが困ることになるんだ」

「その通りじゃの」

 高杉が言い、ファイルを広げた。

「これが寮の運営費、予算、その外もろもろじゃ」

 御堀は早速興味深そうにファイルを覗き込んだ。

「庭の維持費が凄いですね」

「そうじゃ。なにせ山そのものと言ってもいいくらいじゃからの」

 幾久達が学校から早く帰るときなんかは、時々庭師のおじさんやおじいさんと挨拶をすることはあったし、夏にスズメバチが巣を作ったときなんかも退治してくれた。

「そっか。御門寮ってそもそもが山の中にあるもんなあ」

 時折、意味不明な動物の糞らしきものも落ちていたりする。

 栄人が言うには、鹿じゃないか?と言っているがさすがにそこまではない(と、信じたい)。

「寮自体はそこまで突出した維持費はないですね」

 御堀がファイルを見ながら言うと、高杉も頷く。

「改築されたからの。外見は確かに日本家屋じゃが、中身はほぼ、普通の家と変わりない。人数も今年は少なかったし、これといって問題を起こす生徒もおらん。ちゅうことは、その分維持費がかからん、ちゅうことじゃ。報国寮なんかは人数が桁違いじゃから、維持費やなんやら、相当らしいぞ」

「そりゃそうでしょうね」

 報国院のほぼ半分の生徒が千鳥であって、その千鳥の殆どが所属しているのが報国寮だ。

 敷地内も相当広いし、傍から見たらアパート群があるようにしか見えない。

 おまけに自前の畑まで持っているのだから。

「報国寮はうらやましくないけど、めーちゃんがいるのはいいよな」

 めーちゃんとは、報国寮の敷地内にある畑で飼われているヤギの名前だ。

 メスで、実際の持ち主は商店街にある八木のパン屋の主人だ。

 八木は報国院出身で、よしひろと社会人プロレスのグループをやっていて、栄人もバイトで世話になっているし、御門寮にもよく差し入れをくれる。

 報国院で売られているパンも、八木のパン屋が出展している。

 報国寮は敷地内に道路があり、そこは生活道路として開放されていて、めーちゃんは地域のアイドルになっている

「報国寮の生徒は問題をおこしそうになっても、『めーちゃんを肉にするぞ』と言えば静かになるそうじゃから、あれは必要なものじゃろうの」

「それはひどい。冗談でもやめてあげてほしい」

 幾久が言うと、高杉は笑った。

「本当にするわけはないがの、報国寮はちょっと油断すると無法地帯になるから牽制にはなるじゃろう」

「他の寮でもペットを飼ったこととか、あるんですか?」

 御堀が尋ねると、栄人が頷いた。

「実際飼ってるところあるよ。敬業寮、実は犬が居るし。飼ってるのは管理人さんだけど、寮のペットみたいなものだし」

「そういやそんな話、鳩のときにちょっと聞いた覚えがある」

 伊藤が居てくれたおかげで、幾久は誰も知り合いがいなくても情報には困らなかった。

 自分が報国院に残るかどうかを悩んでいたので、そこまで真剣に話を聞いていなかったが、確か同じクラスに敬業の子がいて、犬が居る、みたいな話は聞いたことがあった。

「御門寮はペットいらないじゃん。どうせいろいろ動物居るんだし」

 栄人が言うので幾久が体を震わせた。

「やめてくださいよ、トイレに行ったら鹿がこっち見てたとか嫌っすよ」

「そこは幽霊じゃないのかよ」

 児玉が突っ込むと幾久が言った。

「うちの怪奇現象の百パーセントはトッキー先輩が原因なんで」

「それもそうだ」

 栄人が頷くと、皆、どっと笑った。

「でも御門寮って、確かに廃寮にならないの、不思議なくらいですね」

 ずっとファイルを眺めている御堀が言った。

 高杉が答える。

「そりゃ、ここは保存するためにあえて寮にしちょる、という感じじゃからの。恭王寮も似たようなもんじゃ」

「恭王寮もお洒落っすよね!」

 幾久も初めて見たときは、びっくりしたものだ。

 レンガ造りを基調として、モダンなお屋敷風で、レストランか、お洒落な歴史のあるホテルかというくらいだ。

「御門寮も恭王寮も、歴史のある建築物だからね。残すならコストがかかるし」

 久坂の言葉に高杉が頷く。

「報国院の卒業生は、寮に思い入れのある連中も多いから、寮出身の連中が寮に寄付をするのは珍しくはない。それにしばらくウチは大丈夫じゃろ。エエ金づるがおることじゃしの」

「金づる?」

 幾久が首を傾げると、久坂が言った。

「グラスエッジ」

「ああ!」

 確かにいまをときめくモンスターバンドのグラスエッジなら、そういったことは簡単にできるだろう。

「確かにあの先輩らなら、御門寮になんかあったらすぐなんかしてくれそう」

 五月、騒がしくはあったけれど、御門寮への愛は本物だったし、つい先日も十一月に泊まって行ったばっかりだ。

 そのお金に困っていない先輩達が身震いするほどには、校舎の貸し出し料は高かったらしいが。

「だから御門寮は運営については心配なし。それより、こうして生徒が寮の運営に目を光らせてないと」

 久坂が言うと御堀が頷く。

「経済研究部でもそれは言われました。過去、凄い不正があったそうですね」

「そうそう。例の長井先輩のおじいちゃんが関わってて、マスコミでも騒ぎになっちゃって凄かったらしいね」

 同じ部活の栄人も頷く。

「それ以来、特に御門寮や桜柳寮、恭王寮や朶寮っていう、自治権を持った寮は寮の運営にも生徒が目を光らせているってわけ。だからおれがこの寮でしょ?」

 栄人が言うと、幾久は首をかしげた。

「なんでっすか?」

 すると栄人が答えた。

「経済研究部だから。各寮には、かならず最低一人は経済研究部の部員を配置してるはず」

「そうなんだ!」

 幾久が驚くと御堀も頷く。

「そう。だから僕も移れたってところがあるんだよね」

 栄人が卒業してしまうと、経済研究部に入っているメンバーがいなくなる。

 御堀がいなければ、次の学年で誰か経済研究部に所属している子を誘うしかない。

「もし、誰もいなかったらどうなるんすか?」

 一人くらいならなんとかなりそうだが、それでも部活を辞めてしまったり、寮を移ると問題もありそうだが。

 すると栄人が言った。

「ご心配なく。その場合は寮から経済研究部に依頼をいただいて、必要な代金をいただければ帳簿のチェックをいたしますー」

「ウワー、お金だ、お金の亡者だ」

 さすが報国院、金についてはしっかりしている。

「どの寮もそれが嫌だから、誰か入った人をスカウトしたり、誰か経済研究部に入れよ!となるわけ」

 久坂が説明し、幾久は頷いた。

「それで桜柳寮は誉を出せたのか。タッキー経済研究部だもんね」

 幾久が言うと御堀が頷く。

「そう。桜柳寮としては、タッキーが居るし、人材も豊富だから僕一人がいなくてもちっとも問題はないんだよね。ただ、首席がいなくなっちゃっただけで」

 児玉も頷く。

「それ。それやっぱ、桜柳寮はキツイよな。鳳揃いなのに三年の首席は雪ちゃん先輩、二年はハル先輩か瑞祥先輩、一年は誉だろ?一人も首席がいないもんな」

「それもあって、ちょっとギスギスしてるのが(えだ)寮なんだよね。あそこは鳳と鷹の巣窟だからプライドも高いし」

 朶寮は入江三兄弟が所属していた寮だ。兄弟でいま残っているのは三年、一年の入江だけだ。

「でもなんかうまくいってるんすよね?恭王寮は」

「そう。雪ちゃんいればそんなもんだよ。むしろ、もめたほうがおかしかったくらい」

 久坂が言うと児玉が身を小さくした。

「なんか面目ないっす」

 自分のせいで雪充に迷惑がかかったと思うと、やっぱり児玉は気になってしまう。

「だったらこれを理解しちゃれ。御門寮を出て行く前に、必死にまとめたのは雪じゃぞ」

 高杉が言うと幾久が驚いてくいついた。

「え?これ雪ちゃん先輩が作ったんスか?!」

「そうじゃ」

「そうだよ」

「そう」

 高杉、栄人、久坂が頷く。

「えー!だったら早く言ってくださいよ!それならオレ、頑張って理解するのに!」

「見る前から見たくない、ちゅうたじゃろうが」

 高杉は呆れてため息をつく。

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