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ご指名ありがとうございます、ジュリエット(男)です

「校舎内の案内とか、知ってる寮のことなら話せるかなあ」

「もし有能な子が居たら、みほりんの変わりに桜柳にまわしてよ」

 普が言うと幾久が言った。

「えーやだ。御門寮に入ってもらってオレが楽をする。それにそういうのって一番重要なの、ヤッタだろ?」

 幾久が言うと弥太郎が驚いた。

「なんで?」

「なんでって。雪ちゃん先輩、そのつもりだと思うけど。ヤッタ、鷹に入ったし、提督としてはいいんじゃないの」

 幾久の言葉に瀧川が頷く。

「確かに、弥太郎君なら真面目できちんとしているし誠実だ。恭王寮の提督は向いてるね」

「えええ、そんなの無理だって!昴に任せるよ!」

 すると、山田が言った。

「いや、昴は向いてねえ、と思う、集中したらスゲーけど、提督ってあれこれ気を回さないといけないし。二年の入江先輩はそういう意味では良く見てるし」

「確かに」

 弥太郎が頷く。

 二年の入江は恭王寮に来てから、はりきって雪充のサポートをしているので、多少のミスはあっても、問題なく稼動しているらしい。

「……なんか俺、後輩と話して、いいのがいたら恭王寮すすめとくわ」

 児玉が言う。

 やはり、知らなかったとはいえ自分が跡継ぎに育てられたのに、逃げてしまったのは心苦しい。

「それ、御門寮のあまりにしといて」

 幾久が言うと、御堀が苦笑した。

「幾は我侭だなあ」

「そうだよ!御門寮には良い子に入って貰わないとさ!」

 幾久が言うと普が笑った。

「いっくん、すごい御門愛だね」

「オレ、御門スキだもん」

 何も知らなければ、誰でも良いかなとしか思わなかったが、寮の存続がかかっているのなら無責任というわけにもいかない。

「適当に済ませたいけど、もし本当に有能なのがいたら、御門すげーアピールする」

「だったら、俺らは御門寮やべーって言っとこ」

 入江が言うので幾久と児玉と御堀が同時に言った。


「やめて」

「やめとけ」

「止めといて」


 三人が言ったので、他の寮の面々は同時に噴出した。



 生徒達は昼食を終え、それぞれの担当の場所へ向かうことになった。

 鳳クラス、鷹クラスの面々はそれぞれ指示された教室へ向かう。

 幾久と児玉といった現在一年鷹クラスの面々は、音楽室で待機となっていた。

 そこでそれぞれ、入学希望の生徒を預かり、大体が一人対一人で案内するのだという。

「あ、乃木君には希望者がありますね」

 担当の先輩の言葉に幾久は驚く。

「そうなんですか?」

「知り合い?菅原すがわらって子」

「いや、全く」

 幾久は驚くが、児玉が言った。

「ロミジュリで見たとか、そんなんじゃねえの?」

「そっか。そうかも」

 だったら幾久のことは知ってるということか。当たり前だが。

「希望者居ていいじゃん。人気者」

 児玉が言うと幾久は笑った。

「そうだといいけどさ」

「俺は?誰かいますか?」

 児玉がわくわくしながら尋ねたが、先輩は笑って言った。

「誰も希望者が居ないので、適当に組んでもらうことになりますね」

「あー、やっぱグラスエッジファンいねえのかな。俺だって桜柳祭でバンドやったのに」

「タマはまたそれか」

 苦笑しながら幾久と児玉は受付を済ませた。

 生徒の受付が終わり、ざわざわとした空気が近づいてきた。

 音楽室の外に、中学生が集まっているのだ。

「お、来たみたいだな」

「ちょっとどきどきするね」

 幾久を希望するということは、ほぼ間違いなく、ロミオとジュリエットの舞台を見たせいだろう。

 ということは、地球部に入部希望なのかもしれない。

(もしそうなら、勧誘できるんじゃ?)

 どんな子なのかはわからないが、もし地球部希望だったら、地球部に入って御門寮で、ひょっとして鳳だったりしたら、ものすごく都合がいいのではないだろうか。

(やばい、オレめちゃくちゃ有能になるんじゃね?)

 ここで御門寮、鳳、地球部に入りたい子を誘ったら、一挙両得どころか一挙三得になる。

 それって凄く楽チンでおいしいかも!幾久はわくわくしながら、後輩になるかもしれない子の登場を待った。


「では、どうぞお入りください」


 失礼します、という報国院では聞きなれない、懐かしい言葉を言いながら扉を開けて中学生が入ってくる。

 やはりまだ中学生らしく、誰もが初々しくて可愛い雰囲気だ。

 どこかおどおどしている子もいて、先輩であるこっちがしっかりしなくちゃな、と思う。

 中学生が音楽室に入りきると、進行役の先輩が言った。


「では、ご希望の先輩がいらっしゃる方は直接先輩のところへ向かわれて結構です。そうでないかたは、適当にお選びになってもかまいません。わからない場合は先輩から声をおかけします」


 すると、予約をしていたり、知っている同士はさっと在校生にかけよっていく。

 先輩、おー、お前か、待ってたぞ、とかこいつと中学のとき同じ部活でさ、なんて会話が聞こえてくる。

 あとは、先輩のほうから、逆に知っている子を見つけては、良かったら案内しようか、と声をかけたりもしている。

(こうやって、先輩後輩ってできるのか)

 最初から全く何も知らず、御門寮にひとりきりで放り込まれた幾久にとって、先輩は強引なばかりの人たちだったので、こういう雰囲気はうらやましい。

 誰も希望者がいないといじけていた児玉だったが、どうやら習い事で知っている子がいたらしく、すでに楽しそうに喋り始めていた。

(いいなー。それより、オレを選んでくれた菅原君って、どの子なんだろ?)

 幾久がきょろきょろしていると、目の前に一人の少年が立った。

「ノギ、イクヒサ先輩」

「はい!」

 幾久を選んでくれた後輩だ。

 幾久は喜んで顔を上げて、よろしく、と手を出そうとして驚いた。

 目の前に、まばゆいばかりの美少年が、きらきらと輝きながら現れた(ように見えた)。

 見覚えがあるその美少年は、黒の詰襟の制服で前ボタンをはずし、黒のパーカーのフードを出してかぶっていた。

 幾久の前でパーカーのフードを落とす。

 すると、やわらかな明るい栗色の髪が現れた。

 やたら白い肌、あまりにも整った顔立ち。

 山縣風に表現するなら、二次元からそのまま出てきたような。

 幾久はこの少年を覚えている。

 桜柳祭のとき、境内で行われた追加公演で幾久は嫌がらせでボールを投げつけられた。

 そのボールも、実は見に来ていた中学生から奪ったもので、彼はボールを奪われた被害者であり、幾久に声をかけてくれて、救ってくれた人でもあった。

「君かあ!」

 幾久が言うと、美少年は首を横に振った。

「君じゃないっす」

 あの時と同じせりふを言われ、幾久は必死に名前を思い出す。

(えーと、えーと、確か)

「そうだ!ハナノスケ!」

「はい」

 そうだ、思い出した、と幾久はほっとした。

 美少年は胸についた名札を幾久に示して見せた。

 幾久はそれを読む。

菅原すがわら・オブライエン・華之丞はなのすけ

 なるほど、名前から見るにやはりハーフかなにかだったらしい。

 華之丞は幾久の疑問が判ったのだろう、自分から説明した。

「俺の親父が日本人で、かーさんがガイジンなんす。アイルランド系」

「そっか。ものすっごい綺麗だね」

 幾久がにこにこと笑顔で言うと、華之丞はちょっと驚いたが「あざす」とだけ答えた。

「それでは、中学生の皆さんはここで自由となります。校内を先輩と散歩するもよし、なんなら部活動に参加してもかまいません。その際は先輩の許可を取るように」

 はーい、と中学生たちから声が上がり、それぞれが希望のところへ向かうことになった。

 幾久は華之丞に尋ねた。

「君はどこが見たい?」

「ノスケ」

「ん?」

「君じゃなくて、ノスケ。俺、ノスケって呼ばれてるんで」

「うん、判った」

 どうやら『君』と呼ばれるよりはそっちのほうがいいらしい。

「じゃあ、ノスケ君」

「呼び捨てでいっすよ、幾先輩」

 すっかり幾久になついた、というより慣れきっている華之丞に幾久は苦笑いだ。

(これって、オレ、舐められてるわけじゃないよな?)

 疑問に思いつつも、ハーフの子だし、フランクなのかもな、と思って幾久はあえて突っ込まなかった。



 華之丞の希望は、幾久が知っている場所を全部見たい、ということだった。

「オレ、鳩クラスだったから教室見るならそこからだけど」

 幾久が言うと華之丞が頷いた。

「見るッス」

 まず鳩のクラス、そして職員室、そのほか鷹クラスに、鳳クラスも見学した。

 他に使う美術室や音楽室、あとは部活の時の部室。

 学校なんだから、中学とそう変わらないと思うのだが、華之丞は楽しそうに見学していた。

「なにか質問とかない?」

「ないッス」

「あ、そう……」

 あっさりしている華之丞だが、特に幾久に不満ということもなく、校内の設備を興味深そうに見ている。

 幾久は華之丞に尋ねた。

「ノスケは、部活は決めてる?」

「うーん、それがいまちょっと考えてて」

 すると、急に何か思いついたように幾久に尋ねた。

「そーだ!幾先輩に聞いたらいいんだ!」

「うん?なに?」

「幾先輩、サッカー好きっすよね?ルセロ居たんスよね?!」

「いたけど、昔の話だからなあ」

 すると華之丞は立ち止まり、じっと幾久を見つめて言った。

「ちょっといっすか。相談があるんスけど」

「いいけど……オレも気になったこと聞いて良い?」

「いっすけど」

 なんだろう、と華之丞が首をかしげた。

「ノスケ、前見たとき、目がすごいきれいな紫っぽい色だったのに、今日は黒いよね?」

 すると、華之丞は立ち止まったまま、腕を組んで考えて、幾久に言った。

「幾先輩、ガチでマジの話があるんで、ちょっと話できるとこ、ないっすか?」

「え?うーん、そうだなあ」

 幾久は考える。

 話をするだけなら、学食はいつでも使えるが今は人が多いかもしれない。

「じゃあ、部室に行こう。あそこなら今、誰も居ないし自由に使えるから」

 地球部の部室なら部員は出入り自由だし、外してくれ、と言えば二人にしてくれる。

「地球部、さっきも見たけどあの部室なら使えるから。あそこでいい?」

「いっす」

 華之丞は大人しく後をついてきて、幾久はなんだか先輩気分で嬉しくなった。

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