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やはりがめつい報国院

「へー、そうなんだ。確かに昴ってメカ好きだし、詳しいし」

「そういった風に、寮を移動すれば、そうじゃのう、化学変化のような事がおこって、うまくいくこともある。それを思うと、児玉の件も無駄じゃなかった」

 高杉が言うと、児玉が首を横に振った。

「いや、それは雪ちゃん先輩の采配が良かっただけっす。昴を選んだのも、入江の兄貴を選んだのも雪ちゃん先輩っすから。俺は面倒をかけただけっす」

 児玉の言葉に御堀が噴出した。

「ほんっと、タマって真面目だね」

「本当のことだぞ」

 児玉が言うも、高杉も頷く。

「雪は確かに、こういった采配が上手いけえの。目指すとなると、少々じゃねえぞ」

 高杉が言うと御堀がわずかにむっとして「心得てます」と返す。

(誉って負けず嫌いだなあ)

 コーヒーをのみつつ幾久は御堀を覗き見る。

 一緒の寮にいるからか、それとも御門寮だと素直になるのか、御堀はけっこう、こういった部分を見せるようになっていた。

「ともかく、御門寮はよその寮とは違う自由さもあるが、違う制約もある。新しく一年を入れんとなると、ワシらの世代はともかく、お前らになると御門寮を維持してくれるかどうかはちょっと怪しかろうの」

「脅すのやめてくださいよ!オレ、御門寮にずっと居たいっす!」

「そうじゃろう?じゃったら、選ぶ面々は慎重にせんと、選んだはエエが、問題ばっかりとなると、面倒じゃぞ」

 高杉の言葉に、一年は全員呻る。

 確かにその通りだ。

 後輩は居てくれたらありがたいし嬉しいが、それは御門寮というものを理解して、今後も維持する為に考えてくれる人じゃないと困る。

 幾久は一年で、しかも東京から訳もわからないままに御門寮に所属して、なんとかやっていっているが、もしこれが地元出身で、好き勝手やりたいからと、誤魔化して御門寮にうまいこと入り込まれたら。

「……それで結局、鳳ばっかりになるんスね」

 幾久が言うと、久坂が頷く。

「そ。自由でいたければ、何をすべきか。何を言っていいか悪いか、の判断ができなかったら、みんな御門寮がいいって言うだろ?そうでなくてもウィステリアが近いのに」

「あ、そっか」

 確かに御門寮のほど近くにはウィステリアがある。

 時間帯がかみ合わないので、通学中にエンカウントすることはあまりないが、それでもその気になればいくらでも接点は作れる。

「ワシらは幼馴染がほとんどウィステリアに入っちょるし、あえて関わらろうとも思わんが、女子に関わりたいと思っちょるなら、この場所はいい場所になるの」

「そういう意味では、問題児ばっかりって思われたほうが確かに面倒がないッスね」

 幾久が言うと、高杉も久坂も頷く。

「寮としての格は、桜柳寮や朶寮、あとは恭王寮のほうが上じゃと思われちょる。そのほうが面倒がなくてエエからの」

 報国院にずっと所属していると、鳳、鷹、鳩、千鳥のヒエラルキーは勿論だが、寮自体のヒエラルキーも見えるようになってくる。

 御堀がこの前まで所属していた桜柳寮は間違いなく鳳しか所属できないし、実際首席は不在でも、トップクラスはほとんどがそこに居る。

 よって、寮の中でもトップになる。

 次が朶寮で、こっちも鳳と鷹が多い。鷹でも鳳に近い面々が揃うらしい。

 その次が、恭王寮だ。

 大切な資料が保管されているので、成績はともかく、人間として悪いことはしないはずだ、と選ばれた人が所属するという解釈をされている。

 だから、児玉とのトラブルが発生したとき、児玉以外の二名、野山と岩倉が恭王寮から追い出されたのは、当然といえば当然だった。

「つまり、寮にも性格があるし、どこも自分の寮を自分たちで上手に支配したい。そのためには、後輩を選ぶのも慎重にならざるを得ん、ちゅうことになるな」

「それでスカウトするんですね」

 御堀が頷く。

「スカウトなんかするんだ?」

 幾久が驚くと、御堀が頷く。

「学校見学でも、特別見学会の場合はお金を払うだろ?幾は知らないんだっけ?」

「知ってるような、知らないような」

「判った。じゃあ説明するけど、報国院は千鳥ラインの見学会では、親団体に説明して、親団体で見学して、はい終わり、になるんだよ。それは無料なんだよね」

「ふんふん」

「で、希望者には有料で、別途詳しい説明や、生徒一人に先輩一人がついて、学校案内を行う。これが今回、僕らが参加するやつね」

「うん」

「その参加費で、お金を取られる」

「いくら?」

「一万円」

「いちっ……?!マジで?」

 御堀の答えに幾久は驚く。

「その代わり、パンフレットは特別なやつで、学食で食事も出来るしお土産もついてくる」

 児玉が言うも、幾久はその値段に驚く。

「しかし一万円は高すぎじゃないっすか?」

 栄人が言った。

「でもね、そのぶん、生徒に還元されるんだよ。今回はいっくんもそうだけど、学校案内に協力した生徒には電子マネーが支払われるんだ」

「マジで」

 それはそれでいいかもしれない。

「そこまでして参加するのは、もう報国院に入るつもりで来ているわけだから、クラスがどこかはともかく、確認みたいなものだよ」

 久坂が言うと幾久はそうか、と納得した。

「なるほどなあ」

「いっくん、他人事みたいに考えてるけどひょっとしたらいっくんの選んだ子が御門寮に来て、問題起こしたらいっくんにも責任が出るぞ」

「えっ、そんなんヤダ、困る」

 だったら後輩は誰かが選んでくれたらいいと思う。

「誉が選んだらいいよ。間違いなさそう」

「僕だって面倒なのは嫌だよ。それに、そういうの選ぶのは、タマのほうが向いてそう」

 児玉に話をふると、児玉はうーんと考えた。

「俺、グラスエッジのファンの後輩が欲しい」

「タマはそれかよー」

 幾久が言うと児玉が言った。

「だって幾久だって、サッカー好きな後輩だったら嬉しいだろ?」

「そりゃそうだけどさ」

「僕は最低ラインが鳳クラス、かな」

 御堀が言うと、栄人が呻った。

「なるほど、一年の基準は鳳クラスで、グラスエッジファンで、サッカーファン、ということか」

「そんなのいるわけないじゃないっすか」

 呆れる幾久に、久坂が言った。

「だったら、適当に出来のよさそうなの拾っといで。いっくん得意だろ」

「そんなあ。タマとか誉みたいなのって早々いないっすよ」

 高杉が言った。

「いや、案外お前はエエ拾い物をするかもしれんぞ?少なくとも、2件は実績があるわけじゃし」

 そういわれれば、そんな気もしないでもないが、でもやっぱり無理だと思う。


「そう、うまくいけばいいっすけどね」


 幾久は肩をすくめたのだった。



 土曜日、午前中はいつものように授業が行われた。

 鳳クラス、または鷹クラスの一部の生徒には、午後から入学希望者の案内をするように通達が出た。

 鳳クラスの面々は勿論、鷹クラスで来期鳳に所属する幾久や児玉、現状鷹クラス所属の面々も駆り出される。

 幾久や児玉、御堀、他、地球部一同は全員、現在は鳩、来期は鷹クラスの弥太郎も手伝いをすることになった。

 全員で学食で食事をとってから、各自の仕事場に回されることになっている。

「ヤッタは何すんの?」

 幾久が尋ねると、弥太郎が答えた。

「トシと一緒。雑務と案内、先生のフォローが殆どだから、単純な手伝いだけだよ」

 食べ終わったらすぐに、講堂へ向かうのだという。

「忙しそうだなあ」

「他人事みたいに。いっくんだって、午後からは忙しいよ?一年生を案内するんだし」

「なーんかめんどくさい。オレ、地元民じゃないからそんな詳しくないし。かえってこの近所の子の方が詳しいだろ」

 幾久が言うと普が言った。

「地元案内なわけじゃなくて、学校案内だから。トイレどことか、そういうの?」

「そんなの見たら判るだろ」

 山田が呆れて言う。

 隣に居た入江が言った。

「兄貴たちに聞いたけど、校内をぐるっと回るだけで、なんか質問ある?くらいで十分だってさ。大抵、何も言わないし、ふーんそうなんだーくらいの反応しかないってさ」

「だったらいいけどさ。オレ、なんか目的があって報国院に来たわけじゃないから、なんでこの学校選んだんですかって言われたら成り行きとしか言えない」

 幾久が言うと、普が言った。

「いーんじゃないの。僕だって、鳳だったら学費、寮費無料だから決めたんだし」

「でも鳳だから言える技じゃん」

「いっくんだって次、鳳でしょ?いいじゃん」

「うーん、やっとのこと、だもんなあ」

 そこまで自信ないや、という幾久だが、周りはあまり気にしていない。

「そんなご立派な目標なんかそうそう持ってないし、むしろタマとかみほりんのほうがレアだと思うけどな」

 普が言うと、周りも頷く。

「そうそう、それに中坊の言うことなんかたいしたことねーって」

 山田が言うも、幾久が答えた。

「や、たったひとつしか変わらないし」

「それでもひとつはひとつだろ?」

「そうだけどさ」

 なんだか面倒くさいなーと思う。

「いいじゃないか。ここで有望株を見つけておけば、寮の運営が楽になるよ?」

 そう言ったのは瀧川だ。

「うちの先輩も同じこと言ってた。あ、ハル先輩に去年、案内されたんだってね、タッキー」

「そう。主席入学の先輩に案内されたいって希望出してさ、主席で入るつもりだったのに、結局三番目でとんだ道化だよ」

「案内に希望?そんなの出せるの?」

 瀧川の特殊な物言いはスルーして幾久が尋ねると、普が答えた。

「出せるよ。必ず通るとは限らないけど、確か先着順で、希望の先輩がいたら担当につけますってできるの。お金取ってるからね、融通はきくよ」

「な、なるほど」

 幾久はちらっと誉を見た。

「だったら、誉とか絶対に予約入ってるよね」

「どうだろう?」

「いやー絶対に入ってるって。首席でロミオだよ?」

 幾久が言うと御堀が笑った。

「だったら、幾にも入ってるかもよ?ジュリエットにあこがれてとか」

「いやーないない」

 御堀のロミオはわかるが、幾久はジュリエットだ。

 普通に男子校に入ろうという中学生が、女装ではないとはいえ、ジュリエット役の幾久にあこがれるとは考えにくい。

「オレにはそんなのないって。なんか適当にまわされるよきっと」

 そのほうが気楽だけど、と幾久は言う。

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