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わちゃわちゃしている御門の日常

「ただ、首席で入るのでアドバイスをお願いします、といわれたが結局ワシのアドバイスは役に立たんかったようじゃの」

 そういって高杉は笑う。

 人が悪いなあ、と幾久は思う。

 首席で入るつもりが、入学してからずっと三位だったから、瀧川はさぞかし悔しかっただろう。

「誉は?どの先輩が担当か覚えてる?」

 幾久が尋ねると頷いた。

「お金先輩。僕、地元出身じゃないだろ?だからコミュニケーション能力半端ない先輩が担当にまわされたって」

「確かに」

 お金先輩こと、梅屋の対人スキルは半端ない。

 初見の人相手でもすぐに商売の話に入るのだから。

「でもおかげで経済研究部は楽しそうだなって判ったから、入ってよかったとも思ってるよ」

「そっか」

 そんな風に、良い出会いもあるのだな、と思うとちょっと期待が出来る。

「つまり、来年、御門寮の後輩になる子が、担当になるかもしれないってことかあ」

「えっ、僕は嫌だな。後輩なんかこれ以上いらないよ」

 折角わくわくした幾久に久坂が言う。

「えー、欲しいじゃないっすか後輩」

「僕はいらない。ただでさえ、どっかの一年生がよそから二匹も拾ってきたし」

 どっかの一年とは勿論幾久のことだし、よそから二匹とは当然御堀と児玉のことだ。

 だが、幾久は言い返した。

「血統書つきと、雪ちゃんの育てた折り紙つきっすよ?」

 高杉が噴出し、栄人が笑った。

「はは、瑞祥一本取られてら」

「拾うのは上手いんだよね、いっくんは」

 はあ、と久坂がため息をつく。

「とはいえ、誰を入れるか、は総督の判断だからね」

「ってことは、ハル先輩が決めるんスか?」

「そうじゃの。決定権はワシにあるの」

 高杉が言うと幾久は訴えた。

「後輩、入れますよね?」

「そうじゃのう。有能なのが、御門寮を希望すりゃ考えんでもない」

 高杉の答えに、幾久はうーんとうなる。

「やっぱ優秀じゃないと駄目なんスか」

 久坂が答える。

「当たり前だろ。ここは学校から一番遠いし、先生の目も届かない。門限もないに等しいし、かなり自由も許される。だからこそ、馬鹿に入って好き勝手されたら困る」

 高杉も頷いた。

「最悪、ワシらだって他の寮に振り分けられて、御門寮は閉鎖もありえるんじゃぞ」

「え―――――!困る!」

 幾久が言うと久坂も言う。

「僕らもだよ。だから、入るのはどんなヤツかしっかり見極めないと」

「だったら先輩、なぜ幾を選んで入れたんですか?」

 御堀の質問に、全員が「ん?」と首を傾げる。

「幾は鳩ですよね。いくら受験が遅かったといっても、鳩なら報国寮か、敬業寮があるわけだし、どっちもかなり広いじゃないですか」

 御堀のごもっともな質問に、さて、と全員が顔を見合わせる。

 ここで幾久が、実は久坂の兄に環境とか外見が似てて、なんて言うのもおかしな話だし面倒くさい。

 すると意外なことに、久坂が答えた。

「毛利先生のズルだよ。いまさら報国寮のグループの人数帰るのが面倒くさいからって、余ったいっくんをうちに押し付けたの」

「でも、どうしてあえて幾を?」

「だっていっくんは東京っこでしょ?だったらこの近所も判らないし、あえて門限破るなんてこともしないでしょ」

 久坂の言葉に御堀はなるほど、と頷いた。

「土地勘がないから、ズルしないと」

「そう言うこと。逃げようがないでしょ。実際、いっくん学校から寮までの道、時々迷ってたくらいだし。それに人数少ないほうが、外部の子は面倒みやすいし」

 久坂の説明はもっともで、御堀は納得したらしい。

「だから鳩でも、御門寮だったんですね」

「あと、そいつは入試の結果、実際は鷹、だったそうじゃ」

 高杉の言葉に幾久は驚いた。

「えっ、それ知らない情報っす」

「そりゃお前には内緒にしちょったからの。ところが、鳩は人数の融通はきいても、鳳と鷹はそうはいかんから、鳩になったんじゃ」

「えー、そうだったんだ」

 いま聞く自分の情報に、幾久は驚いた。

「入試が一番遅い、追加の追加の、また追加、みたいなもんじゃろう?そもそも、普通は事情があるような連中しか、あの時期の試験は受けに来ん」

 確かに、こんな時期によく入試なんかあるもんだと疑問に思うほど、幾久が受けた試験日は遅かった。

 おまけにその日に入学は決まっていたし。

 高杉が言う。

「大抵が、引きこもっているのに親がしつこく言って仕方なく、とか、どこも落ちてしまって行く所がない、とか、あとは病気なんかの特別な事情があって、とか、まあ入りたくて入るわけじゃない連中が殆どじゃろう」

 幾久は試験日のことを思い出した。

「それでオレ以外の全員、名前だけ書いて出て行ったのか」

 幾久の言葉に児玉が驚く。

「えっ、本当にそんなことする奴いるのかよ」

 幾久は頷いた。

「うん。試験始まると同時に、オレ以外みんな、多分あれ名前くらいしか書いてない時間で、『できました』って出て行って、オレぼっちで試験うけたし」

 あの時はびっくりしたけれど、いま考えれば、確かに嫌々に受験して、それこそ入るだけが目的なら、そりゃ名前だけ書いて出て行くだろう。

「でも今更っすけど、オレ、鳩でよかったっす。おかげでトシやヤッタと仲良くなれたし」

 もし鷹だったら、いま知っている人は誰も居なかった。

 きっとけっこう長い間ぼっちだったり、変に情報を入れたりして、嫌なやつになっていたかもしれない。

「結果、鳳に来たら結果オーライだね。これで御門寮、全員鳳になったし!」

 栄人の言葉に幾久の頭がぴょこんと動いた。

「そーだよ!うち、オール鳳だ!」

 三年の山縣も鳳に決定したというし、二年は全員、当然鳳。

 児玉、幾久の二人が今回、鷹から鳳に上がり、御堀は当然鳳。

 二年はツートップ二人と一年の首席。

「うわー、なんかすげえ派手」

 寮生が全員鳳、というのはなんだか選ばれた感がする。

 こうなって改めて、幾久の入学時に山縣がやけに絡んできた理由も判る。

「ま、御門寮としちゃ当然かな」

 涼しい顔で久坂が言う。

「ってことは、御門寮に入れる一年は、やっぱり鳳なんスか?」

 幾久の問いに高杉が言った。

「当然じゃ。と言いたい所じゃが、それは人によるとしか言えんの」

「僕は、絶対に鳳以下は認めないからね」

 久坂の言葉に高杉が苦笑する。

「こう言っちょるのがおるし、そこはあわせていかんと」

「つまり、鳳クラスで御門寮に入りたい、という一年生が居たら認めるということですか?」

 御堀が尋ねると高杉が頷いた。

「まずは考えてはみる、ちゅうところじゃの。そもそもさっきも言ったように、御門寮は寮としては、いつでも解散の危機にある」

 食事を終えて、高杉が言った。

「コーヒー」

「あ、オレ入れます」

 幾久が立ち、コーヒーメーカーの準備を始め、久坂と高杉以外、全員がテーブルの片づけを始める。

 山縣はまだ勉強中なので食事の席にはおらず、おかずは麗子さんが冷蔵庫の中に入れている。

 栄人が茶碗を洗い始めたので、御堀が「手伝います」と声をかけたが、栄人は「いいから座ってな」と笑った。

「一年生が聞いたほうがいい話だから。そんかし、乾いたら拭いてなおしといて」

「判りました」

 御堀が頷くと、幾久が立てたコーヒーが出来上がったので、一年生全員でコーヒーとお菓子を準備した。

 あたたかいコーヒーをひとくち飲むと、高杉が「さて」と手を組んで言った。

「そもそも御門寮が、なんでこんな少人数で運営されちょるか、ちゅうと、何かあった場合の補助としておかれちょるわけじゃ。たとえば、たった数人分、寮が確保できんから、ちゅうて新しい寮を建てるわけにはいかん。かといってアパートを借りても、高校生がきちんと寮として運営できるか、ちゅうのも難しい」

「そうですよね。時期によって子供の数も違うわけですし」

 御堀が言うと、高杉たちも頷く。

「そういうわけじゃ。今でこそ、うちなんかこの少人数じゃが、多いときは二十人以上、おったそうじゃからの」

「今の倍ってことですか」

 幾久が驚くが、御門寮の広さを考えたら、別におかしなことではない。

「でもそっか、風呂とかでかいほうは、かなりの広さありますもんね」

 五月に先輩が泊まりに来たときに使った風呂は、ちょっとした温泉くらいの広さがある。

 今の人数でそこは使っていないが、もしこれ以上人数が増えるのなら、今使っている家庭用の風呂ではまかなえないだろう。

「あと、忘れがちじゃが、ここは一応史跡じゃ。とはいえ、儲かっちょらん史跡なんぞ、市はどんどん壊す。報国院はそれらを学生寮として使うことで、保護しちょるわけじゃの」

「確か恭王寮もそうです」

 児玉が言うと、高杉が頷く。

「そうじゃ。あそこは元々、皇族の保養所として使われちょった屋敷じゃ。かといって金にはならんし、資料もあるがおいそれと表に出すわけにもいかん」

「なんでですか?資料とか、発表したほうがよさそうなのに」

 児玉が言うと、高杉が首を横に振った。

「変に表に出すとの、譲ってくれ、だの、そんなものは学校にふさわしくないだの、研究するから貸してくれだの、面倒が多い。かといって、研究用に資料をまとめるのも金がかかる」

「それで報国院で管理してるんすね」

 児玉の言葉に高杉が頷いた。

「そういうことじゃ。そう言う意味では、児玉なんかはなぜ御門寮があるのかのいい具体例になったの。寮で問題起こして逃げてきて」

「面目ないっす」

 ぺこりと頭を下げる児玉に高杉が笑う。

「まあ、そう言うときの為の御門寮じゃ。それに、恭王寮に行った服部のおかげで雪はずいぶんと助かっちょるらしいぞ」

「そうなんすか?」

 服部は一年の鳳で、地球部にも所属している。

 いつもよくわからないメカを作ったり、いじったり、なぜ地球部に居るのかは判らないのだが、本人は楽しそうにやっている。

「あいつ、メカが好きじゃろう?それで、恭王寮にある飛行機の資料をまとめているらしくての。飛行機も好きらしい」

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