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【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【青春】  作者: かわばた
【17】恋の為ならなんでもするよ【大安吉日】
314/497

おめでとう僕ら

 さて、試験が終了した翌週、結果が発表されはじめた。

 授業でテストが戻ってき始め、なんとなく自分の位置はどのあたりか想像はついても発表されるまでは、やはり冷や冷やする。

 張り出しが出る日になると、気になる生徒達は皆職員室前に集まった。

 勿論、幾久も児玉もだ。

 職員室の前の廊下で、発表されるのをいまか、いまかと待っている。

「結果、どうだろうね、タマ」

 一応、先輩達からは『安全圏だろ』とお墨付きは貰っているけれど、正直怖い。

 児玉もギリギリのラインだったので、結果に自信はあっても他人がどこまで食い込んでくるかが勝負だ。

「お前は大丈夫だろ。それよか俺だよ」

 ああもう、と児玉はもどかしそうだ。

「いや、二人とも鷹のまんまかもしれないし」

「そうだとしてもやっぱ不安だろ」

 二人でそう喋っていると、一年の鳳の面々がやってきた。

 さすがに結果の張り出しの場所へ金色のタイの連中が並んでくるとちょっとした雰囲気がある。

「誉?みんなも?」

 やってきたのは御堀に瀧川、三吉に山田といった地球部の面々だ。

「なんで?誉は見る必要ないのに」

 幾久の言葉に御堀は微笑んで頷く。

「そうなんだけど、幾が心配でさ」

「落ちたら誉のせい」

「なんでだよ」

「だって教えてくれたの誉じゃん?」

「そこは幾の実力だろ」

 文句を言い合う二人に、山田が苦笑した。

「そんなことより、ぼちぼち出るんじゃないか?」

 瀧川もスマホを取り出し、画面を見ていた。

「こっちは発表が少し遅いんだよね」

 報国院は生徒用のアプリを作っていて、そこでも結果は発表される。

 幾久は張り出しを待つ間、不思議だな、と感じた。

(前期って、タマの発表待ってたよな)

 入学したものの、報国院に入ると決めたわけでもなく、あまりうまくいっていない児玉と話すようになった。

 一方的に喧嘩を売ってきた鳩と鷹の野山と岩倉に喧嘩を売られ、売り返し、鷹のヤツを落とすと宣言して。

 あの頃は自分が報国院に居るかどうかも判らなかった。

 だけど今は違う。

 報国院に居たいし、鳳に入りたい。

 御堀の願いをサポートしたかったし、なにより御門寮の寮生として、堂々としていたかった。

「あ、ホラ、出るよ」

 先生たちが職員室から出てきて、張り出しを行っていく。

 三年生は流石に見に来ている人が少ない。

 すでに成績が安定しているのもあるし、卒業までの時間を受験に使いたいのだろう。

 幾久は二年の張り出しを覗き込み、一位、二位の名前を見てほっとした。

「今回は瑞祥先輩がトップか」

 児玉が言う。

「そりゃ、ハル先輩は負担半端なかったからな」

 桜柳会に参加して、地球部の部長もやって舞台にも出て。

 久坂のサポートがあったとはいえ、やはり負担は大きかったのだろう。

「それでも二位ってのがチートだよなあ」

 児玉が言うと幾久が苦笑した。

「努力してるって知ってても、それでもやっぱなんかスゲーよな、って思う」

 二年生の張り出しが終わり、そして待ちに待った一年の張り出しだ。

 職員室の壁、高い場所に貼られたところから、紙がゆっくりと下へ落ちる。

 トップはやはり、変わらず御堀だ。

 ただ今までとひとつ違うのは、来期から『御門』になっていること。

「やったじゃん」

 幾久が言うと御堀はすました顔で答えた。

「当然だね」

「あーやなやつ」

 二位は変わらず普、その次が瀧川だ。

「やっぱそこは不動か」

 そして張り出されていく名前に、幾久はどきどきする。

 服部、品川、入江、そして山田。

 山田は自分の名前を見て、ほっとしていた。

 次々に出てくる名前に、息をのむ。

 そして。

「―――――、」

「……った、」

 ばっと鳳の連中が、幾久と児玉を見て、笑顔になった。

「や、」

「った―――――ッ!」

 並んであったのは、幾久の名前と、児玉の名前。

 二人とも無事、鳳クラスに入っていた。

 勿論寮は、御門寮のままだ。

 幾久と児玉は互いに顔を見合わせて、ばっちん、と力強くハイタッチした。

「―――――やったな、幾久」

「うん、やった、タマ」

 二人はがっしりと手を握り合って、そうして湧き上がる嬉しさに、笑い出してしまった。

「ふ、」

「あはは、」

「おめでとう二人とも!来期から同じクラス!」

 そういって抱きついてきたのは普だ。

「マジ一緒だ!」

「地球部一年、全員揃って鳳だな」

 山田がほっとしたように言う。

「タマ。おめでとう」

 そういって山田が手を伸ばすと、児玉も笑顔で手を握り返した。

「ありがとう」

「ま、よかったな、味噌落ちしなくて!」

 入江がそう言って茶化すと、山田が言った。

「うっせえ、次はお前を落とすぞ」

「あれ?いっくんのまね?」

 楽しそうに普が言うと、幾久が肩を落とす。

「ちょっとやめてよ、折角鳳になったのに」

「これで心置きなく問題おこせるね!」

 普が言うと幾久が言った。

「いやおこさないし」

 冗談じゃない、と苦笑していると、御堀が微笑んで立っていた。

「―――――誉のおかげ。ありがとう」

「当然かな」

「はは、しょってる」

「よくがんばったね、幾」

 そう言う御堀に幾久は首を横に振った。

「よくがんばったよな、オレら」

 幾久が言うと、御堀はすっと目を細めた。

 そして静かに笑っている。


 ―――――そっか、と幾久も気づいた。

 幾久が鳳に入れたのは、一人だけの力じゃない。

 先輩達や、児玉や御堀や、皆が居たから頑張れた。

 御門寮に居たい、御堀を助けたい、先輩達についていきたい、地球部の面々と同じクラスになりたい。

 そんな気持ちが、幾久をずっと後押ししていた。

 助けてくれたのは、御堀だ。

 幾久は御堀の肩に腕をやった。

「さすがロミジュリコンビって気がしない?」

 幾久が言うと、御堀も幾久の腰に手を回す。

「僕らも、ハル先輩らみたいに名物にならなきゃね」

「えー?誉はもう十分名物でしょ。オレ添え物でいいや」

 幾久が言うと、入江が言った。

「なに?バランなの?弁当についてるやつ」

「せめて外郎の包み紙にして」

 幾久が言うと、普が言った。

「それっていっくんには御褒美じゃん」

「いや、オレは食うほうだし」

「みそに饅頭に外郎の包み紙……」

 入江が言うと山田が入江の足を踏む。

「みそが足についた」

「良かったな。饅頭の格が上がったぞ」

「それよりキミ達、どうせなら打ち上げでもしないか?折角仲間が戻ってきた、アーンド、増えたことだし」

 瀧川の言葉に、皆そうだな、と頷く。

「みそもこぼれなかった事だし、安心して喜べるな!」

「うるせえ!」

 山田が怒鳴るも、全員笑顔なのは、一人も鷹落ちしなかったからだ。

 幾久と児玉が受かった分、誰かが鳳から落ちた。

 それは間違いない。

 だけど今は、知っている面々が落ちなかったことを素直に喜びたい。

(なんか、責任感じるなあ)

 幾久は思う。

 鳳に所属するということは、当然誰かを落としているということだ。

 助けてくれた人に報いたいし、友人と離れたくないし、先輩と同じクラスで居たい。

 全員で、マスク・ド・カフェで打ち上げをしようという事になって廊下を歩く。

 御堀と肩を組んだまま、幾久は言った。

「なんかズルイよな、報国院って。友達と居たかったら成績合わせなくちゃだし、無理に頑張るしかないし」

 御堀は言った。

「下にあわせて楽もできるんじゃない?」

「そうかもだけどさ」

 児玉が横から言った。

「それが悪く働いたのが恭王寮だって、雪ちゃん先輩も言ってた」

「そっかあ」

 なんとなく、報国院に寮がたくさんあるのはそのせいかな、と思った。

 悪いなら悪いように、良い事は良い様に。

「桜柳寮に居たら鷹落ちしづらいよね」

 幾久が言うと、普が頷いた。

「それはあるけど、前原提督、みほりんが御門寮に移ってすげー落ち込んでた」

「なんで?」

「鳳だらけなのに首席がもうずーっと桜柳寮に居ないからって」

「あ、そっか」

 三年の首席は雪充、そして二年の首席は高杉、もしくは久坂。

 そして一年は御堀。

 全員が御門寮、もしくは元、御門寮だ。

「いまさらやっとガタ先輩の言ってた意味がわかるって悔しい気がする。御門って割とスゲーなって」

 御堀が言った。

「やっぱ三年だなって?」

「そう。認めたくない」

 むっとする幾久に、御堀が笑った。

「鳳になったからいいじゃないか。堂々と自慢したら?」

「トーゼン、いまさら、ばっかじゃねえのって罵られる」

「言い返すだろ?幾だったら」

「勿論!鳳だからもう負けられないし」

 児玉が言う。

「一応先輩だろ」

「一応だから別に適当でいいよ」

 幾久が言うと、児玉も御堀も「あーあ」という顔で苦笑した。


 軽やかに一年生たちが廊下を抜けていく。

 来期は皆、鳳クラスになる。


 そうしてその前に、にぎやかな嵐が待っていることをまだ誰も知らない、十二月の事だった。




 大安吉日・終わり

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