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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【17】恋の為ならなんでもするよ【大安吉日】
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おいでませ御門寮、ロミジュリコンビ、ここに完成

「でもやっぱり、御堀は惜しかったな」

 はあ、と前原はため息をつく。

 そんな前原に梅屋が言う。

「無理やり、書類は贋物ですって先生に言えばよかったのに」

 前原が首を横に振った。

「そんなことをしても、御堀のストレスが増えるだけだろ。折角の有能な人材を、桜柳寮で潰してどうする」

「あきらめたんだ、前原っち」

「仕方ないだろう。わざわざ買収工作までお前が『作ってやって』んだろ」

 そこでいかに梅屋が本気で仕込んだかがわかる。

 おまけにあの御門寮の面々が素直に買収されたというのだ。

 金でどうこう動く連中じゃないし、あえて桜柳寮に喧嘩を売るような面々でもない。

 ということは、結局、御堀に対して考えることがあったということだ。

「どっちにしろ限界突破した時点でアウトだったってことだろう?俺のせいだよ。タイミングが悪すぎた」

 前原は思う。

 つい、御堀に対して出来る奴だから、早めに伝えたほうがいいだろうと思ってしまい、伝えてしまった。

 思えば最悪のタイミングだった。

 せめてあのタイミングでなければ。

「それに、限界の御堀を助けに行ったのは桜柳寮の誰でもなかった」

 数ヶ月一緒に暮らした寮のメンバーでなく、親しくなって間もない幾久が、御堀の気持ちを察し、場所まで理解して探しに行って見つけてきた。

 地元民でもないのに、だ。

 ―――――助けに行ったのがもし、桜柳寮の誰かなら。先輩なら。

 御堀は桜柳寮に居てくれたのかもしれない。

「結局、乃木のおかげだろ」

 前原は言う。

 救いの手を差し伸べたのが、他でもない幾久だった。

 そういうこともあるのだ、と思う。

 梅屋は笑って頷いた。

「仕方ないよな。いっくんはどこに行ったか知ってて、桜柳寮では誰もわからなかった。それが答えだ」

 一緒に暮らして同じクラスで、互いになにもかも判っていると思っていた。

 だけど実際はそうではなく、御堀は桜柳寮の中ですら、御堀誉、というブランドを作り上げていただけだった。

 気づかなかった。

 桜柳寮の誰もが、それに対する思いがある。

 だからこそ、梅屋に買収を持ちかけられたときに乗っかった。

 気づかなくてごめんと謝ることはたやすい。

 だけど、それは御堀にとって救いにはならない。

 余計に御堀に気を使わせてしまうだけだ。

「三年生で提督だってのに、俺はなにも出来なかったな」

 前原が言うと梅屋が言った。

「買収されてやってんじゃん」

 笑って梅屋が続けた。

「みほりんの希望を受け入れて、寮の連中、一応は不正をお前もかぶったろ」

「一応じゃない。買収は不正だ。―――――だから、責任は俺が取る」

 寮生が全員買収されたのも、気づけなかったのも、そうさせてしまったのも自分の力量不足でおこったことだ。

 だったら、提督としての責任が前原にはある。

 前原は梅屋に言った。

「先生に提出した書類、どうせお前が勝手にサインしてんだろ?俺が正式に書き直すから、間違ってましたって訂正に行けよ」

「―――――はいよ」

 こうして梅屋が仕込んだ不正を、前原は不正ではなく正式な依頼に換える。

 よって、桜柳寮ではなにも不正は起こっていない事になる。

 たとえ首席でなくったって、目立った存在でなくったって、報国院で一番立場が強い桜柳寮の提督として選ばれ、皆が慕うのは、前原のこういう真面目できちんとして、責任を背負って始末をつけるところだ。

 だから梅屋も、前原を助けるし、前原が悪い立場にならないようにはフォローをする。

(そういうところなんだよなあ)

 だからこその提督だ。

 でなければ、こんな風に慕われない。

 本人は気づいていないだろうけれど。

「で、御堀からの賄賂、やっぱ本買うのか」

 前原は無類の本好きだ。

 だから御堀からの賄賂はわりと大金な額の図書カードだった。

「そりゃな。今回のことでいろいろ学んだから」

 そういう前原だったが、抱えた大量の本を見て、梅屋は言った。

「ちょっと待て。前原っち。その本は何だ」

 てっきり受験対策の参考書でも買うかと思えば。

 いや、間違いなくそういうものもあるのだが、それ以上に抱えられた本があった。

「今後、こんなことを起こさないように勉強しなければならんし、寮においておけば後輩の役に立つかもしれないだろう?」

 前原が抱えていた本の数々。

『もうだまされない!詐欺師を見抜く百の方法!』

『こうしてわかれ!部下の気持ち!』

『他人の気持ちがわからないとき、読む本』

『タイプで見抜け!部下の育て方』

『指示の仕方でみるみる変わる!部下を持ったらこう考えろ!』

「……前原っち、お前」

 あれだけの目にあって、まだビジネス書だの自己啓発だのを見ようとしているのかと梅屋はがっかり肩を落とす。

(こいつ、絶対にだまされるやんけ!って、だました俺が言うのもアレだけど!)

 肩を落とす梅屋に前原は真剣な顔で言った。

「やはり何事も考えないとな」

 うむ、と頷くも梅屋は前原が抱えていた本をひっさらうと言った。


「そういうとこやぞ!」


 ほんっと、目の離せない奴だな!

 と梅屋はぷんぷん怒って前原の抱えていた本を本棚に戻した。




 一方、許可が取れると早々に、御堀は御門寮へ越してきた。

 週末を利用して業者まで使って、引越しの荷物と同時に御門寮へやってきた。

 一番喜んだのが、寮母の麗子さんだ。

「あらあ、イケメン君が御門寮に来るなんて!」

「お世話になります」

「こちらこそ!」

 御堀はナントカ君という好きな俳優に似ているそうで、麗子さんはご機嫌だ。

 二年生連中は買収されているので当然として、あの面倒な山縣さえも、御堀を受け入れたのは幾久にとって驚きだった。

(けどまあ、誉は御門寮向きってガタ先輩も言ってたしな)

 元々、御門寮は児玉や御堀みたいなタイプが所属するところで、幾久のような、これといって特徴のないタイプが所属するのは珍しい。

 だからこそ幾久も、御門寮にふさわしい寮生になるようにがんばっている最中だ。

「ところでさ、誉は部屋はどうすんの?」

 御門寮は人数が少ない割りに部屋数は多いので、どこもかしこも余っている。

 幾久と児玉、そして二年の栄人は自室を持っていない。

 栄人は寮に居るときは雑務に追われていたし、それ以外の時間はほとんどバイトに行っている。

 児玉はボクシングを習いに行く以外は勉強しているが、勉強するのは居間で、幾久も一緒に勉強をしていた。

 二年の久坂、高杉は同室で山縣は一人部屋。

 御堀が一人部屋を希望すれば、それはすぐに準備が出来るとは思うが。

「ああ、それについてはすでに連絡してあるんだ」

「連絡?どこに?」

 御堀はにっこり微笑んで答えた。

「伝統建築科」

 すると玄関から大きな声が聞こえた。

「こんにちはー!伝統建築科でーす!御堀さんのご依頼でやってまいりましたー」

「へ?」

「何?」

 児玉と幾久が驚き顔を見合わせるも、御堀は微笑んだままだ。

「はーい、いま行きます」

「ちょ、誉?」

 あわてて幾久も児玉も御堀の後を追いかけた。



 玄関に立っていたのは、ロミオとジュリエットの舞台でも世話になった伝統建築科、三年の周布だ。

「周布先輩?」

「おー!ロミジュリども、元気してたか?」

「あ、はい、まあ」

 周布の背後には、何人もの生徒が立っていて、ぺこりと頭を下げた。

 幾久も児玉も頭を下げる。

「じゃ、早速作業に入らせて貰いまーす。廊下側から資材を入れるんで、シート敷かせてもらいまーす」

「じゃあこちらへ」

 御堀が早速、周布達を案内するのを幾久と児玉は驚いて見つめている。

「ちょ、誉?いまからなに始まるの?」

「リフォーム」

「リフォーム?」

 児玉が言うと御堀が頷く。

「ちゃんと先輩達の許可は取ってあるよ」

 そういって早速御堀はある一室に周布たちを案内し、幾久と児玉はそれを呆然と見ていた。


 居間に移動して、高杉に尋ねると高杉は頷いた。

「そうじゃ。御堀が住む時はリフォームしてエエか、と言うからの。別に卒業時に元に戻せばかまわんと」

「そういうのできるんスか?!」

 幾久が驚くと久坂が答えた。

「出来るよ。ただし、使う業者はウチ、つまり報国院の伝統建築科に依頼しなくちゃならないけどね」

「いや、出来るのも凄いし高校生でリフォームとかやっちゃうんすね?」

 伝統建築科はクラスこそ千鳥になっているが、実際は鷹、鳳クラスの実力を持った生徒も居る。

 実習が多いが、本格的に技術者を目指す生徒もいるので数学の授業などは鷹や鳳と受けることもあり、結果周布のように鳳、鷹クラスと繋がりが深くなる。

「報国院の関係で、簡単なリフォームなら外部のものもやってるぞ。商店街のも受けちょるし」

「すげえっすね」

 サッカーゴールを作れるくらいだから、確かに床を張り替えるくらいなら出来るのかもしれないが。

「あれ、何日かかるんすか?」

 幾久の問いに高杉が答えた。

「明日には終わる、ちゅうことじゃ」

「なにをやっているんですか?」

 児玉が尋ねると高杉が答えた。

「床板と壁紙を張り替えて、あとは窓枠とカーテンレール、扉の変更じゃったかの」

「それが二日で出来るんスか?」

「出来るらしいぞ。伝統建築科は、全寮の設計図を持っちょるから、こういったことは早くできるらしい」

「はー……すげえっすね」

 いくら科が違うとはいえ、同じ高校生なのにこんな事が出来るとは。

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