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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【17】恋の為ならなんでもするよ【大安吉日】
311/497

いともたやすく行われるえげつない行為

「―――――え?」


 驚く前原に、御堀は言った。

「すでに桜柳寮から移寮の許可は出ています。先生の許可もありますし、試験も終わりましたのでいつでも引越しは可能だと」

「待て。待て待て待て!」

 前原は慌てた。

「移寮って。そんなのは提督の許可がなければできんはずだぞ!」

 そう、本来、移寮であるとか、他寮に泊まるであるとか、そういったことは提督の許可がなければ出来ない。

 当然御堀の移寮などは提督の許可が一番必要なもののわけで、桜柳寮に所属している御堀は前原の許可なしには絶対に移寮できないはずだ。

 前原は思わず梅屋を見た。

 すると梅屋は不二家のペコちゃんよろしく可愛く「てへっ」と笑って見せた。

「……梅屋、まさかお前」

 梅屋が御堀を手放すとは考えられない。

 なんだかんだ、桜柳寮のことを思い、報国院を愛している。

 たったひとつの事実を除いて。


 つまり、お金のためならなんでもする―――――


「お前、御堀を売ったのか?!桜柳寮生としての魂はどうした!」

「俺は売れるものはなんでも売る」

 梅屋の言葉に前原が怒鳴った。

「ばか―――――っ!おまえ!御堀がどんだけ優秀なのか判っているのか?!首席だぞ?!桜柳寮でやっと手に入った!首席!それなのに!」

 なぜか毎年といって良いほど、首席は変わり者が多く、御門寮を希望する面々が多かった。

 一番遠いのに自由度が高いのがその魅力らしく、鳳代表格のはずの桜柳寮ではなかなか首席の生徒を得ることが出来なかった。

 ほぼ鳳で占めている寮なのに、首席がいない。

 それが無言のプレッシャーでもあり、やっとそれから開放されるとほっとしていたのに。

 梅屋は言った。

「だから売り時なんだろ。本人も売られたがってるし丁度いいじゃねえか」

「そこを説得するのが先輩の役目だろーがっ!」

「自由意志を尊重するのが報国院だろ?」

「ただの生徒じゃないぞ?!御堀だぞ?!首席だぞ?!」

「いや、別に桜柳寮から首席がんばって出せばいいんじゃないんですかね」

「そう言って!もう何年!桜柳寮から首席が出てなかったんだ!」

 三年は元御門寮、現恭王寮の提督、桂雪充がぶっちぎりのトップ。

 二年は御門寮の久坂と高杉がほぼ交互にトップ争い。

 そして一年は御堀と、やっと桜柳寮がトップに躍り出たと思ったのに、その御堀までもが御門寮に移寮するとは。

 梅屋が言う。

「それはホラ、前原っちがもっとがんばればよかったというか」

「桂相手にどーできるってんだ!化物だぞあいつは!」

 前原と梅屋の言い争いを、桜柳寮の寮生たちはのんびりと見守っている。

 そこで前原は、ふと気づいた。

 山田の変身ベルトが新しいものになっている。

 寮生思いの前原は、興味がなくとも寮生のはまっているものや好きなものには極力関わるようにしていたので、当然山田の特撮好きについても真面目に勉強して知っていたが。

(―――――あれは)

 確か以前、欲しいベルトがあるから冬休みにバイトしたいなあ、と言っていたのが似たようなモデルだったはず。

 しかし今、山田の腰にしっかり巻かれている。

「山田、お前、そのベルトどうした?」

 前原の問いに、山田は頷いた。

「正義の声に従いました」

「……よし、判った。なんとなく判った」

 前原は、はーっとため息をつく。

 考えれば、確かに試験中、寮関係の書類があるけど、梅屋に丸投げした事が数回あった。

 ということは、その数回のうちのどれかに、御堀の移寮を許可する書類があったのだろう。

 最初から梅屋に仕込まれていたのなら、気づいてももう遅い。

 つまり前原は、梅屋にはめられてしまったのだ。


「よし、判った。全員居るなら、もういっそここで確認しておこう」

 梅屋が居るなら、お金に関するなにがしかの行為が行われたのは間違いない。

 山田の様子を見るに、多分、買収工作だろう。

 前原は言った。


「今回の御堀の移寮についてだが、梅屋に買収された奴は正直に挙手しろ」


 すると、さっさっと手が上がっていく。

 上がっていくのはいいのだが。

「―――――ちょっとまて」

 おい、と前原は驚き言った。


「ひょっとして、俺以外、全員買収したのか?!」

 御堀は答えた。

「御門寮も全員です」

「あぁあああああ」

 前原は思い切りひざから崩れ落ちていた。

「梅屋、お前……御堀への話は試験後にしろってしつこかったのって」

「お察しの通り!試験中に全員の買収をおこないましたー」

 梅屋の言葉に、桜柳寮の寮生からわーっと拍手がおこる。

 拍手なんかしてんじゃねえよ、と前原は思いつつ、はっと顔を上げて御堀に尋ねた。

「御門寮全員……?ってまさか、あの真面目な児玉も、素直そうな乃木も、お前に買収されたのか?」

「はい」

 御堀は頷き、前原に答えた。

「児玉君にはつきっきりの家庭教師でOK、乃木君はできたての外郎を運んでもらって買収しました」

「じゃああいつは逆らえねえじゃねえか!」

 幾久の外郎好きは相当だ。

 外郎の為なら買収工作くらい簡単に乗っかるだろう。

「乃木は素直そうだから、おかしなところがあったら絶対にすぐ判ると思ったのに……!」

 不覚、と前原は項垂れた。

 おかしな空気を感じたとき、幾久の様子を何度も伺ったのに、今日の今日まで、そんな様子を見つけることができなかった。

 普が言った。

「けっこう、いっくんって策士なんだよね、ああ見えて」

 山田が頷く。

「さらっと誤魔化したりとかするんだよな。フェイントが上手いっていうの?」

 瀧川も言った。

「追加公演の時の、ボールのかわしは本当に上手だったよね。ボクらでも気づかなかったくらいだし」

 前原に御堀は言った。

「残念ですが、前原提督。幾はMFミッドフィルダーなんです」

「……どういう意味だ?」

「MFは、FW、つまり攻撃の僕にボールを運ぶ役割です。もし邪魔が入る場合は、相手の攻撃をいかに潰すか、仕事をさせないようにするか。相手を混乱させたり、タイミングをずらすのが仕事です」

 普が言った。

「要するに前原提督、いっくんに一泡ふかされちゃったんだ」

「これだから御門寮の奴は!」

 前原が怒鳴ると御堀が頭を下げた。

「すみません」

「いや、お前が御門寮行くとか、俺は認めないぞ?!認めないからな?!」

 ところが梅屋が桜柳寮生全員に告げた。

「御堀が御門寮へ移寮するのに、異議のないものは挙手」

 さっと全員の手が上がる。

 前原はそれを見て、呟いた。


「いっそ俺も買収しろ……」

 御堀は答えた。

「ご用意してあります」

「お前のそういう所、なんかもうホント……御門だわ」

 がっかりと前原が肩を落とし、なぜか桜柳寮生は全員から前原に対し、あたたかい拍手が送られたのだった。



 結局、前原に一番多く賄賂を支払い、御堀は意気揚々と、あっという間に桜柳寮を出て行った。

 あまりにあっさり出て行ったので、前原には全く現実感がない。

「思えば、試験後に教えてくれたのは気遣いだったんだな」

 前原が言うと梅屋が言う。

「とーぜん。いくら俺らには最後の試験ったって、卒業前に鷹落ちしたくないっしょ。しかも桜柳寮で」

「そりゃそうだが。けど、たった二週間も待てないくらいに御堀が御門寮に行きたかったとは」

 寮を移る場合、大抵は期の終わりになることが多い。

 児玉の時のようにトラブルがあったりすると、イレギュラーで移寮することもあるが、大抵は終了式から休みの間に引越しを済ませる。

 御堀は中期いっぱいまでは桜柳寮に居るかと思えば、そんなことはなく、たった二週間の時間すら惜しいとばかりに引っ越した。

 業者を呼んで、数時間であっという間に出て行った。そう言うところは鳳らしいと思う。

 三年生の試験は中期の期末で終わりで、あとは受験のみになる。

 試験が終わった週末、希望の生徒は報国院のバスで長州市で一番大きなショッピングモールに出かけていた。

 報国町にも商店街はあるのだが、あくまで片田舎なので店自体は小さい。

 なので報国院は試験明けの週末には、買い物を希望する生徒にバスを出したりもする。

 前原は桜柳寮の寮生や後輩に誘われ、ショッピングモールの書店に来ていた。

 気分転換にと書店に誘ったのは、前原の本好きを知る後輩からだった。

 すでに後輩たちはショッピングモールの中で、服を見たり、おもちゃを探したり、雑貨を見に行ったりと好き勝手に過ごしている。

「本当はこんなことをしている時間も惜しいんだけどな」

 前原は言うが、梅屋が苦笑する。

「まあいいじゃん。折角の後輩からのお誘いなんだし」

 桜柳寮全体で前原をだましたようなものなので、やはり騙したほうとしては少々肩身が狭い。

 そこで一年生が、御堀からの賄賂でなにか奢るので一緒に出かけませんか、と誘ってきたのだ。

「こういうときは出かけてやらないと、後輩だって気が晴れないでしょ」

「そうだな」

 前原としては、もう済んだことだし自分でも結局OKを出したので、特に後輩に思うことはない。

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