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【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【青春】  作者: かわばた
【17】恋の為ならなんでもするよ【大安吉日】
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ライバルは誰だ

「俺のライバルは、俺自身だ!」

 ふんっとそう言って山田はふんぞり返るが、入江がぼそっと突っ込んだ。

「じゃあ圧勝じゃん」

「なんかスゲーむかつくこと言う饅頭だな」

「でもさ」

 普が言った。

「これまでみほりんは、実際そんな感じだったんでしょ。ライバル不在」

「―――――確かに、そう、だけど」

 サッカーでも塾でも学校でも、誰にも負けるつもりはなかったし、負けてはなかった。

 だけど、誰か相手が存在して、それに負けたくない、と思ったことは一度もなかった。

「だから、いっくんがみほりんの初、ライバルなわけだ。みほりん、初めて敗北するかもね!」

「我々の気持ちを味わうがいい」

 突然品川がゲームの悪役のような台詞をはく。

「そうだぞ、たまには俺らの気持ちも分かれよ。お前、勝ちっぱなしだもんな。お前のライバル扱いされずに届かない俺らもアレだけど」

 山田が言うと、御堀は「そんな」と反論しかけた。

 だが山田が首を横に振った。

「いや、ここは素直に敗北を認める。でもな、絶対に俺はいつかお前を抜くからな!」

 品川が言った。

「いや、それは無理じゃない?むしろ落ちないか気をつけないと御空」

「コエー事言うなよ!」

 山田がそういって、皆が笑ったところでベルが鳴った。

「あ、ヤベ、授業の準備してねーわ」

 話に夢中になって、すっかり次のことを忘れていた。

 全員、あわてて自分の机へと戻っていく。


 自分の席に戻った面々は、急いで授業の準備を始めている。

 鳳の授業はペースが速い。

 ぼやぼやしていると、あっという間においていかれるだろう。

(そっか。恋じゃなくて、ライバルか)

 ちょっと御堀は残念に思う。

 もし恋だったら面白かっただろうなあ。

(幾なら、なんか楽しそう)

 そう思って、幾久との付き合いを想像してみた。

(つきあったら、何するんだっけ?)

 たとえばデートとか?海に行くとか?

(もう行ったなあ)

 たとえば手を繋ぐとか。

(とっくに繋いだし)

 一緒にご飯を食べるとか。

(御門寮で食べたし)

 抱きあうとか。

(とっくにロミジュリでやってるし)

 キスするとか。

(それももうやったし)

 だったら、あとはもう結婚とか。

(それもロミジュリでやったし)

 短い期間とはいえ、ロミオとジュリエットは舞台の上で、あれもこれもそれも、結婚式も済んでいる。

 すでに互いに人生を駆け抜けてしまった仲なのだ。

 御門寮に泊まったときに一緒に寝ているし、布団の上でごろごろもしたし、この数ヶ月で幾久としていないことを探すほうが難しい。

(女の子相手なら楽しい……のかな?)

 そう考えても、幾久と居るときが御堀にとってはなによりも楽しく、本気で勝負が出来るのでやっぱり女の子はなしだな、と思ってしまう。

 正直そんなのどうでもいいや。

 そんなことよりも遊びたいなあ。

 早く試験終わったらいいのに。

 そんな風に考えていると、次の授業の担当である三吉がとっくに教室に来ていて、御堀に言った。

「御堀君、さっきから何か考え事しているようだけど、悩みでもあるのかな?」

 鳳クラスには菩薩のようにやさしい三吉が尋ねたので、御堀はもう一度、毛利に尋ねたのと同じ質問を三吉にした。


「三吉先生に好きな人はいますか?」

「好きな人……そうだな、尊敬する先輩はいるけども」

 うーん、と考えて三吉は答えた。

「もし僕の大好きな車みたいな素敵な女性が存在したら、好きになっちゃうかも。僕の車のフォルムはそれはそれは美しくてね」

 御堀は答えた。

「聞いた僕が間違っていました」



 昼食の時間になり、御堀はいつものように学食へ向かった。

 だいたい、どのあたりに座るのかは決まっていたのでそこへ向かうと、すでに幾久と児玉が食事中だった。

「幾、もう食べてんの?」

「うん。ちょっと授業が早めに終わってさ」

「そうそう、今日のモウリーニョ、話が脱線しまくりだったよな。試験前にあれやめてくれって」

 そう笑っているのは児玉だ。

(うーん)

 御堀は児玉をじっと見つめた。

「?なんだ、どうかしたのか?食欲、でねえとか?」

「そんなことはないよ。ちょっと考え事してただけで。ランチ取ってくる」

「おー。席、つくっとくわ」

 児玉が言うと、御堀が「頼むね」と手を軽く上げた。

 鳳クラスの面々がランチを取りにいっている間、幾久と児玉は席を並べ、御堀たちが来るのを待っていた。


 と、幾久に声がかかった。

「やあ、いっくん!」

 声をかけてきたのは、お金先輩こと、三年の梅屋だ。

「お金先輩」

 幾久が頭をぺこっと下げると、児玉も同じように頭を下げた。

「その席、空いたとこ?」

「逆っす。いまから使うんス」

「あー残念。じゃ他探すか」

 どうやら空いた席を探していたらしい。

 先輩であっても、学食の席は早い者勝ちだ。

「スンマセン」

 幾久が謝ると、梅屋が「いいって」と笑う。

「本当に欲しかったらお金の力でなんとかするし」

「相変わらずッスね」

 栄人と御堀の先輩でもある梅屋は、とにかくお金に汚い、もとい、うるさい。

 だが、出す金も惜しまないので投資や株なんかも相当やっているのだという。

 幾久は以前、梅屋にバイト代を払い、父親への書類を作って貰った事がある。

 それに、梅屋は御堀と同じく桜柳寮に住んでいるので、幾久もよく知っている。

「じゃ、またね、いっくん」

 そういって梅屋が去っていく、その隣の人に幾久は気づいた。

(あ、前原先輩)

 目が合い、ぺこっと頭を下げると、前原は一瞬眉をひそめたが、すぐに元に戻り、幾久に軽く微笑んだ。

(―――――あれ?)

 その一瞬の表情に、幾久は引っかかった。

(オレ、前原先輩に、なんかしたっけ?)

 前原は桜柳寮の提督で、報国院の寮全体を統括する責任者でもある。

 以前、幾久が桜柳寮に泊まった時も、快く泊めてくれたし、これまでも特に問題なんかはなかったはずなのだが、あの一瞬の表情は何だろう。

(うーん、気のせいかな)

 知らないわけではないけれど、かといって親しいわけでもない。

 どうして前原は、幾久を見て、一瞬表情をゆがめたのだろうか。

(気のせい、かなあ)

 気にはなったが、御堀たちが来たので、幾久はその事をすぐに忘れてしまったのだった。



 幾久を一瞥し、三年の前原は考えていた。

(別に乃木に、変わったところはなさそうだ)

 どうも特に最近だが、気になることがいろいろある。

 ひとつひとつはたいしたことではないのだが、些細なことほど小骨のようにひっかかって気になるものだ。

「御門寮は相変わらず、人数が少ないんだな」

 前原の言葉に梅屋が頷いた。

「まーな。あそこは閉鎖の危機あるくらいだしな」

 御門寮が閉鎖かも、というのは寮の責任者なら皆知っている。

 それでも特に話題にあがらないのは、そんなの当たり前としか思わないからだ。

 たった数人程度の寮で、生徒の中には存在すら知らない連中もいるというほど、小さな寮だ。

 目立つのは、そこがほとんど鳳で構成されている上、卒業生も目立つタイプが多いという理由で、内情はほとんど知られていない。


 だから、報国院の寮としてはトップの位置に君臨する、桜柳寮が騒ぐことでもないし、気にかけるほどでもないはず―――――なのだが。


(気になる)


 どうも、前原の勘とでもいうのだろうか。

 なにか自分の知らないところで動いている。

 そんな気がしてならないのだ。


 御門寮といえば、一年はあの乃木幾久が最初から入っていて、しかも鳩クラスだったというのに、御門寮の面々は可愛がり、世話を焼き、しかもあの山縣が追い出さずにいるという。

 見る限りでは普通でしかないが、やはりなにかあるのだろうか。


(考えすぎならいいんだが)


 桜柳寮の存続を第一に考える前原にとって、気になることは全部確認しておきたい。

 だが、あの乃木の様子を見ると、なにかおかしな様子もない。

(試験が終わったら、確認しないとな)

 もしなにかあるとしてもさすがに試験中にするような馬鹿は桜柳寮にはいないだろう。


 ほとんどが鳳クラスで構成されている寮は、こういいうときに安泰でいい。


「どしたんだ?なにか気になることでもあったか?」

 梅屋の問いに、前原は「なんでもないよ」と笑って首を横に振ったのだった。



 御門寮に帰り、幾久は早速先輩達に直球で尋ねた。

「誉から買収されたってマジっすか?」

 夕食をのんびり食べていた面々は全員が頷いた。

「うん」

「された」

「そうじゃ」

「まーな」

「えっ」

 一人、一年の児玉のみが初耳だという風に驚いて幾久を見た。

「買収って……御堀、なんかしたのか?」

「うん。買収。ウチに移寮したいんだって」

「そんなのできるもんなのか?」

 驚く児玉に幾久は「わかんない」と返す。

「できるもんなんすか?」

 児玉が二年生たちに尋ねると、二年生は全員、首をかしげた。

 答えたのは高杉だ。

「さあのう。なにせ、寮をうつりたいから買収されてくれなんて言われたのは初めてじゃし、これまで聞いたこともないのう」

 久坂も頷く。

「そうなんだよね。大抵は成績で強引に入り込むか、付き合い重視で学校が移動させるとか、恭王寮がやったみたいに、必要だから移動してくれっていうのはあったけど」

 吉田も頷いた。

「いいんじゃない?買収しちゃ駄目って決まりはないし、みほりん本人がこっちに来たくてやってるんなら、おれらには関係ないわけだし」

「でも買収って、駄目なんじゃないんすか?」

 児玉の言葉に高杉が「そうか?」と笑う。

「ワシはうまい方法じゃと思うがの。人間性がどうとか、成績がどうとか、そんな理由より買収一択で入れてくれなんぞ、明快で判りやすい」

「でも、だったら成績いいんだから先生と交渉とか、アイツならそういうほうが簡単そうに見えるのに」

 児玉は言う。

 首席入学で、一度も首席を譲ったことのない御堀なら、学校だって簡単に寮を移らせてくれそうなものなのに。

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