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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【15】僕たちには希望しかない【相思相愛】
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アホくさ(×2)

「なんでも好きにしろ、としか俺は言えねーよ」

「そりゃそうだな」

 そう言って経は笑った。

 自分たちは好き勝手にやった人生で、うまいこと成功させて貰った。

 だから、もし失敗するにしても、やりたいことがあるのなら、反対できる大人はここには一人も存在しなかった。

「さ、論はどこだ?」

「あそこじゃね?石碑のとこにギター持ってる怖いおじさんがいる」

「本当だ」

 そういってにぎやかな大人たちは、仲間の所へ向かって行った。

 論に教えられて必死にギターを練習していた児玉の元へ、大人がぞろぞろやってきた。

 一人はさっき居た、論が言う所のいけすかない律というかっこいい男性、そしてもう一人は入学式の時に見た、シルバーに髪を染めた、派手な服装の男性。

 今日はジャケットではなく、蛍光色のジャージを着ていて目がちかちかしそうだ。

 もう一人は、どこにでもいそうな、気のよさそうな普通のおじさんだ。

「なんか面白そうなことやるって律から聞いたんだけど」

「おう、やるぞ。曲は、JETのAre You Gonna Be My Girl。こいつがギター。そんで俺と経やんもな」

 ぽんと児玉を叩く。

「よろしくおねがいします!」

 児玉が頭を下げると、経も頷いた。

「こっちこそよろしくね。軽音部?」

「うす、」

「じゃあ後輩だ」

 経が言うと、論が答えた。

「しかも御門で、幾久のダチってよ」

「へえ。じゃあ恥はかかせられないね」

「おーよ。ってわけで、このガキのギター、フォローしてくれ。まあコードは問題ねーよ。あとは度胸だけだな」

「承知の助」

 花緒もそう言ってニコニコするが、児玉は言う。

「俺すごい下手糞なんすけど」

 心配げな児玉に律が言った。

「コード弾いて、ブーンって音が出たらもう音楽だ」

 論が答えた。

「シド・ヴィシャス」

「せいかーい」

 そう言ったのは経で、児玉の肩に手を置いて言った。

「カッコいいトコ、見せたいだろ?」

「……うす」

 児玉が頷くと、経は笑って言った。

「よし!それだけ思えれば十分だ!」

 論、経、児玉の三人がギターを弾き、律はベース、花緒は楽器を持たずに手拍子で合わせた。



 父親たちが楽しそうにしているのをよそに、律の息子はボールを蹴りながら境内で遊んでいた。

(めんどくさ)

 もし報国院に入る気があるのなら、桜柳祭でも見てきたらどうだ、と言われ、昨日の昼に友人と遊びに来た。

 普通に出店は楽しい、学院長をやっている吉川のおじさんがライブをやったりと、それなりに面白くはあった。

 だけど舞台のタイトルを見て引いた。

(男同士でロミオとジュリエットとか、ないわ)

 どうやらウィステリアでは、ロミオ役の人もジュリエット役の人も相当人気があるそうで、アイドルみたいな扱いだという。

(アホくさ)

 どうせ舞台でチヤホヤされて勘違いした奴がはりきってんだろ、演劇部?ただの目立ちたがりかと見る気にもなれなかったので舞台は見ずに退散した。

 学園祭ってだけで、別に特別そこまで面白くもねーな、と思っていたのに、父親が急にその舞台の為に楽器を弾くという。

 あのケチでケチで、中々ピアノさえ弾かない父親が、自分から出してくれと頼んだあげくにローディーみたいなことまでして。

 しかも物凄く楽しそうとか、信じられない。

(ま、どうでもいいけど)

 小遣いをくれると言うからついてきただけで、どうせわけのわからない舞台もすぐに終わるだろう。

 境内の階段の前には人だかりが出来ていた。

 声が聞こえてきたけれど、多分あれは、ロミオとジュリエットの舞台をやっている最中なのだろう。

 ボールを蹴って遊んでいると、いつの間にか舞台に近づいていた。

 キャーッと言う女の子の声や、観客があまりに夢中になっているのでちょっと気になって、覗き込んだ。

「お前はロミオ、モンタギューのロミオだろ?」

 そうセリフを言っていたのは、ジュリエット役の男子生徒だ。

 眼鏡をかけて、衣装を着ているが、そこまで悪くもない。

(へー、ジュリエットってもっとアホっぽい恰好なのかと思ってた)

 てっきり男子校だから、ふざけた女装でもするかと思えば、報国院は女装は禁止されていると聞いて、そういうものか、と思った。

(ゲームみてえ)

 ロミオとジュリエットの二人は衣装ですぐ判るくらいには派手だったが、別にどちらもおかしな恰好ではない。

 むしろ、アイドルの衣装とかゲームに出てくるキャラクターのようで、格好良くさえあった。


「どちらも違うよ、いとしいジュリエット。どちらもあなたの敵の名前だ」


 そう言ってジュリエットに手を差し伸べたイケメンがロミオだろう。

 キャーッ、ロミオ様!とかほまれ様!とかみほりくーん、と声が上がるので、ロミオ役の男子生徒が、みほりほまれ、という名だとすぐ判った。


 二人の演技は真剣で、むしろ格好いいとすら感じた。

 恋愛の演技のはずなのに、男同士でやっているせいか、互いの友情を確かめ合うみたいに見えて、おかしいと思う隙はなかった。

(あれ?なんかこれ、面白くね?)

 思わずじっと、見入ってしまった。

 ロミオとジュリエットの恋愛のシーン、その後はロミオがジュリエットの従弟を殺してしまい、それでも互いに愛を語り合うシーンだった。

 あんなにバカにしていたのに、いざ真剣な演技を見ると、それがちっともおかしくないどころか、面白くてかっこよくて、つい見入ってしまった。

(なんかすげえ)

 足で転がしていたボールを止め、律の息子は夢中で舞台を見ていた。


 つつがなく舞台は進んでいたのだが、こういう時に、揉め事は勝手に舞い込んでくるものだ。



 桜柳祭は前夜祭を含め、三日間開催される。

 その間、ずっと暇を持て余していた報国院の生徒が居た。

 もとは恭王寮に所属していた、一年生の二人組。

 元鷹で今現在は鳩の野山と、もう一人は岩倉。

 この二人は中期に児玉と揉め事を起こしたせいで報国寮に移寮となっていた。

 児玉は以前からの希望通りの御門寮だったというのに、二人は報国寮で、まるでこっちが悪いと言わんばかりの処置は気に入らない。

 その上、部屋は二人部屋をあてがわれた。

 それだけで報国寮の先輩たちから「一年のくせに」と睨まれている。

 本来、一年生は大人数部屋で、六人が普通なのだ。

 二人部屋なんて三年生にならないと貰えない。

 どうせ後期になれば別の寮にいくかもしれないし、という毛利の説明で、先輩たちは引き下がったものの、あまりよくは思われていない。

 恭王寮でやっていた事がバレてからというもの、クラスでも浮き気味で、おまけに報国寮は人数が多すぎて、逆に誰とも親しくなれない。

 なんとか近づこうと同じ鳩クラスの伊藤に近づくも、伊藤はいつも忙しく動いていて、寮の中ではほぼ世話役になっていて、常に二年、三年の指示を受けていた。

 桜柳祭は部活で参加か、もしくは寮で参加か、またはクラスで参加か。

 二人は部活には名ばかりしか所属しておらず、クラスでも浮き気味、寮なんか誰かと喋ることもない。

 結局互いしかおらず、祭りもまるで参加せず、外部客のような立場で、桜柳祭は一日で飽きてしまった。

 することもない祭りは退屈で、楽しそうな連中を横目で見るだけしかない。

 しかも、以前関わった恭王寮の連中を避けていると、入れる店も限られる。

 つまんねえな、と文句を言っても文句が授業のない三日間、続くはずもなく、ただ暇をつぶすだけの時間をだらだら過ごすしかない。

 どいつもこいつも忙しそうな上に、舞台は大盛況だ。

(乃木のヤロー、むかつくんだよ)

 寮の先輩たちが鳳のせいで、しかも恭王寮の提督である三年の桂にも取り入ったおかげで主役でチヤホヤされまくりだ。

 あっちこっちで、ジュリエット君かわいいよね、あの子、乃木君って言うんだって、えー、あの乃木さんの子孫ってあの子?かわいいじゃんー、という声が聞こえてくるし、ジュリエットスゲーよな、バカバカしいと思ったけど真剣でかっけえじゃん、とかいう評価を聞くだけで苛ついた。

 見たくもないのに前夜祭では舞台を見せられた。

 生徒全員が参加なので仕方がないのだけど、本当に面倒でどうでもよかった。

 派手な衣装を着て、まわりの連中は鳳だらけ。

 そりゃましな舞台にもなる。

 オマケに主役でチヤホヤされて、あれで良く見えないほうがどうかしてる。

(くそっ!)

 自分だって、脅されたりしなければ鷹のままでいられた。あいつは狡い。先輩は鳳だらけで、勉強も見て貰えて、おまけに乃木希典の子孫というだけで、他の名門の先輩達に受け入れられて可愛がられている。

(東京からってだけで、気取りやがって)

 追加で入ってきた、正真正銘の出来損ないで、鳩クラスだったくせにあっという間に伊藤ともなじんだ。

 児玉の味方をしたのは上手だったよ、桂先輩のお気に入りだったもんな。

 考えれば考えるほど癪に障るのに、桜柳祭ではすることもない。

 居場所もない。

 クラスの連中も、寮の連中も、部活の奴らも楽しんでいる。

 こういう時くらい部活を手伝ってやってもいいか、と名ばかりの所属している部活に行ったものの、桜柳祭の最中で一年生の連中に、「あー、すんません、ここから部外者お断りなんで」と知らない奴に言われて、そのまま出て行くしかなかった。

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