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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【15】僕たちには希望しかない【相思相愛】
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Dream Fighter

「なるほど、外とは思いつかんかったの」

 高杉は幾久の発案に感心した。

 講堂は時間制限があり、時間を過ぎると絶対に使えない、というのは厳しく言われていた。

 なのでどっちにしろこれ以上は無理だ。だけど。

「夏休みに、オレらが人前で演技するのに慣れるためって、神社の境内で演技の練習、ずっとしたじゃないッスか。だったら、ここじゃなくても場所移動して、少しだけでもできませんか」

 ロミオとジュリエットの見せ場なら、夏からずっと境内で何度も練習した。

 度胸を付けるため、境内の階段で演技を行った。

 暇な小学生や、観光の人にじろじろ見られたり、恥ずかしい思いをした。

 あの時と同じようになら、いくらでも出来る。

 話をしていると、吉川学院長が顔を出した。

「学院長」

「アンコールがあんまり凄いんでな。様子見に」

 幾久を見つけると、学院長は笑って言った。

「アンコールが3回以上なんて、俺のバンドよりもずっと凄いじゃないか。地球部、ちょっと妬けるぞ」

「あ、いえ、はい」

 幾久が恐縮していると、玉木が吉川に言った。

「学院長、アンコールが鳴りやまないので外での舞台の御許可を。三十分もあれば十分です。御許可、頂けますか」

「講堂じゃないなら、全然オッケーだ」

「ありがとうございます」

 玉木が頭を下げると、吉川が笑って生徒たちに言った。


「客を待たせんじゃねーよ。さっさと放送してやれ。ガールたちの声が枯れちまうぞ」




 すぐさま打ち合わせを済ませ、周布がマイクでお知らせを流した。

『ロミオとジュリエットの公演、ご観覧ありがとうございました。講堂使用の規定により、退場を願います』

 周布のアナウンスに、えーっという声が上がる。

『アンコールにつきまして、お知らせします。境内において、舞台より一部抜粋公演を行います。三十分後、境内の階段前にて、ロミオとジュリエット、抜粋公演を行います』

 ぎゃーっという叫び声が上がり、本当に?とか境内にいかなきゃ!とお客さんがはしゃぎ始めた。

『どうぞ皆様、三十分後、境内前にお集まりください。抜粋公演で短い為、勿論無料での公演です。わずかな時間となりますが、ご覧ください』

 わーっと拍手が沸き起こる。

 周布が言った。

『繰り返します。抜粋公演は三十分後より境内にて行います。これは、皆さまへ、地球部一同からのお礼です。本当に、本当にありがとうございました』

 周布の言葉に、ぱちぱちぱち、と拍手が起こった。

『では皆さま、三十分後に!またお会いしましょう!講堂からはこれにてご無礼します!』

 ぶつんとマイクの音声が切られると、客席からも部員からも拍手が起きた。



「さ、時間がないわよ。どこを抜粋して何をするか決めましょう!」

 玉木が言うと、部員が頷く。

「効果音とか背景は?」

「なしでいいだろ。練習と同じ」

「でも全くの音楽なしか」

 うーんと唸る部員に、幾久は丁度降りてきた児玉に声をかけた。

「タマ!丁度良かった!なんかある?」

「なんかって、何が?」

 児玉に幾久はざっと説明すると、音楽がどうにかならないかと尋ねた。

「いや、確かもう時間が時間だろ?境内でもなんか音楽鳴らすのは禁止だったはず」

 この学校は神社の敷地内にあるのだが、まわりは住宅地が近い。

 桜柳祭の時は、騒がしくても大目には見てくれるのだが、日も暮れる時間になって、音楽を外で鳴らすのはあまりいい顔をされないらしい。

「アコギくらいならいいかもしれないけどさ」

 児玉の答えに、幾久は言った。

「アコギならタマできんじゃん!弾いてよ!」

「ばっ、無茶言うな!んなことできっかよ!」

「だって寮で弾いてたし」

「あれしかできねーんだって!」

 児玉と幾久が喋っていると、急に大人がどやどやと入ってきた。

「ちょっといいかな」

 そう言って近づいてきた人に、幾久は驚く。

(ピアノのおじさん?)

 夏に音楽室で見た、ピアノのやたら上手い、かっこいいおじさんだ。

 確かバンドをやっていたはず。

 幾久がじっと見つめていると、ピアノのおじさんはウィンクした。

 どうやら幾久の事を覚えているらしい。

 幾久も思わず、微笑んでしまった。

「さっき君たちの舞台見てたんだけどさ、エンディングは『シカゴ』の『素直になれなくて』だろ?俺が弾こうか」

 キョトンとする生徒に、ピアノのおじさんは笑って言った。

「ああ、俺はここの卒業生。今日は吉川学院長のお手伝いしてたんだ。あと、この学校のピアノを調律してるのも俺だよ」

 先輩と知ると途端、皆、どこかほっとした雰囲気になる。

「なんかかっこいいおじさんだね」

 三吉が言うと幾久も頷く。

「実際、カッコいいよ」

 今日もなんだかお洒落な格好で、やっぱりどこか普通のおじさんとは違う雰囲気を持っている。

 おじさんは児玉に尋ねた。

「軽音部にアコギあるだろ?エンディングくらいならタイミング合わせるよ」

 皆が、え、と喜んだその時だった。

「はいはいはいはーい!へたくそりっちゃんじゃなくて俺がやりまーす!」

 どたどたと乱入してきたのは、ドレッドヘアに革のジャケット、穴だらけのデニムパンツにじゃらじゃらうるさいアクセサリーをたくさんつけた、煩いおじさんだ。

(うわっ!入学式の時の!)

 幾久は思わず御堀の陰に身を隠す。

 他の面々もその雰囲気に圧倒されたらしく、引き気味だ。

「うわ」

「なんだあのおっさん」

「ホームがレスしてる人?」

 生徒達の好意的ではないざわめきに、ホームがレスしてそうなおじさんは言った。

「は?俺様を誰だと」

 生徒に威嚇する男に、ピアノのおじさんが言った。

「このおじさん、こんな外見だけどプロだから上手だよ?そうだなあ、やっぱりプロの論様にはかなわないもんなあ。オレは所詮ベースだし」

 ニヤニヤしながらピアノのおじさんこと、律が言うと、ホームがレスしていそうなおじさんこと、論がふんぞり返った。

「だろ?だろ?俺のギターは最高だからな!なんたって!本物の!おプロ様だからなあ!」

「じゃあ論に任せる。この子たちのエンディング、上手にタイミングに合わせてやって」

「お、おう」

「心配ないよな?プロだもんな?一番ギター上手いもんな?」

 律の言葉に論は胸を張って言った。

「まーな!まーな!普通はタダじゃきけねーが、まあ桜柳祭だし?後輩の為だし?いっちょやったりますよー!喜べ後輩ども!」

 あれ。これってひょっとしなくてもこのおじさん、ピアノのおじさんに上手に利用されただけなんじゃ。

 幾久は思うが、目があった律は幾久にやさしく微笑んでいるだけだ。

 生徒達は首を傾げているが、BGMはないよりあったほうがいい。

「じゃあ、抜粋公演はロミオとジュリエットのバルコニーのシーン、それと結婚式のシーンの後に、ラストのロミオが毒を飲んで、あたりか」

 三吉が挙手した。

「じゃあ、カーテンコールはなしでってことでしょうか」

「そうじゃのう」

 さすがにあのカーテンコールのダンスの曲をギターでするには無理があるだろう。

「エンディングだけなんとかして貰うなら、そのまま終わりしかねえじゃろうの」

 高杉はそう言うが、幾久は他になにかできないだろうかと思う。

 幾久には、絵をくれた保育園の女の子のお母さんの言葉がずっと心に残っていた。

 本当だと勘違いしている子に、ラストはにぎやかに見せてあげたい。

 そうでなくとも、ラストは楽しく盛り上げたい。

「なんとか、にぎやかに終わりたいっすね」

 ぽつりと幾久がつぶやくと、論が突然怒鳴った。

「おいコゾー!」

 響く声に、皆が顔を上げた。

「そこのだよ、そこの。ギター弾いてたコゾー!」

 ばっと一同が児玉を見た。

 この面々でギターを弾いていたのは児玉しかいない。

「え?俺、っすか?」

「おーよ。オメー、なに弾けんの。アコギで」

 くいっと顎をしゃくりながら言う論は、ふんぞり返って感じが悪い。

 しかし児玉は答えた。

「JETのAre You Gonna Be My Girlだけ」

「ふーん、いいじゃん。じゃあそれな」

 じゃあそれな、と言われて皆「え?」と驚く。

「ノリのいい曲なら、アンコールに使えるだろ。リズムだけとりゃ、ちょっと踊るくらいの役には立つ」

 論が言うと、児玉がさーっと顔を青くして首を横に振った。

「むっ無理です!俺、人前でアコギなんか弾いたことねーし!」

 慌てて首を振る児玉に、論は言った。

「ギター少年がギター持った時にロックは完成してんだよ。下手も上手いも関係あるか。俺様は上手いけどな」

 すると律が首を挟んで、にっこりとほほ笑んで幾久達に言った。

「大丈夫。こっちプロだから、恥はかかさないよ。安心して。そいつも態度と口と顔は悪いけど、腕は最高だから」

「なんだよ律!なにげにいま俺のことディスったな!」

「いつものことだろ」

 ははっと意に介さず、と律は余裕で微笑んでいて、論は怒鳴ってはいるものの、逆らわない。

「あの、いいん、ですか?」

 OBとはいえ、幾久は面識も特にないし、そもそもプロの人だというのに。

 幾久が言うと、吉川学院長が言った。

「その人たちがいいっていうなら、甘えておけばいいんじゃないか?アコギなら音も問題ないし、腕はオレも保障する」

「後輩の前でいいとこ見せたいんだよ、おじさんたちは。な?論」

 律が言うと、論は「まーな」と返す。

「あんな舞台見せられちゃあな。ちったあお役にたとーって気になるだろ。かっこいいぜお前ら」

 むっとしたまま言うので、生徒たちは誉められたことに一瞬気づけなかったが、玉木が笑顔で頷いた。

「そうでしょう?自慢の生徒なのよ」

「だろーな」

 そう言うと、論はふっと笑った。

「さて、音合わせやんねーとな。おい、ギターあるか?」

 論が児玉に尋ねた。

「はい、控室の方に置いてあります」

「じゃあお前もそれ持って来い。どうせ暫く出番はねーだろ?アンコールの曲、コード確認してやる」

 論が言うと、児玉は早速ギターを取りに行った。

「それとおい律、俺のギター、寺から運んでこい。テメーはベースな。あとそんで経やん引っ張って来い。あいつにはギター持ってこさせろ、あと花緒に声かけろ。でねーと後ウルセーから」

「了解」

 そう言って律は舞台から去った。

 児玉がギターを二本抱えて持ってきた。

「よーし。じゃあお前らはさっさと舞台やっとけ。俺はコイツに付き合うから、校門の階段んとこにいるわ。音楽必要な時間五分前に誰か呼びに来い」

 玉木が手を叩いた。

「はい、じゃあ決まりね。エンディングはOBのおじさん達に任せて、カーテンコールはぶっつけだけどなんとかしましょ。楽しければいいのよ」

「はい!」

 生徒達はそう返事して、玉木とともに打ち合わせに入ったのだった。

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