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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【15】僕たちには希望しかない【相思相愛】
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アンコールが3回

 ロレンスとロミオの従者が霊廟に到着すると、時はすでに遅く、パリスは殺され、ロミオも死んでいる。

 そしてジュリエットが目覚めた。

「神父様!ここは霊廟に間違いありませんよね、ロミオは、オレの恋人はどこに?」

 ロレンスはジュリエットに苦々しく告げる。

「お前の夫は、お前の胸で死んでいる。お前の夫になるはずだったパリスもだ。ロミオが殺した。さあ、立ちなさい、お前はどこかの修道院にでもやろう、こんな場所に居てはいけない。もはやここは死と絶望しかない」

 自分の上で動かなくなったロミオに、全てを察したジュリエットは、首を横に振った。

「―――――どうか去ってください。オレはここを動きません」

「ジュリエット」

「いますぐここを出て行って下さい」

 そうきっぱりと言うジュリエットに、ロレンス神父は霊廟を去る。


 ジュリエットはロミオの残した毒薬の瓶を拾い上げる。

「これがお前を殺した毒か。ひどい奴だな、どうしてオレのぶんまで残しておかなかった?」

 そうしてロミオの唇に口づける。

「お前の唇に毒が残っていれば良かったのに。まだ温かいんだな。オレを置いていかないでくれ」

 そう言ってロミオを抱きしめるジュリエットだが、騒ぎを聞きつけた夜警が霊廟にやってくる。

「松明が燃えている?誰かいるのか?それに、このおびただしい血は一体……」

 はっとしてジュリエットは短剣を握る。

「さあ、剣よ、お前の鞘はこの胸だ。早くオレを死なせてくれ、そしてロミオの元へ」

 そういってジュリエットは短剣を胸に刺し、ロミオの上に覆いかぶさり、息耐えた。




 婚礼の前に亡くなったはずのジュリエットの体がまだ温かく、しかもロミオとともに死んでいる。

 その上、パリスの遺体まであり、モンタギュー家とキャピュレット家は混乱の渦に巻き込まれる。


 領主であるエスカラス、高杉に状況を説明したのはロレンス神父の久坂だ。

 ロミオとジュリエットが恋におち、それを両家の和解の手段に使おうとしたこと、強引なパリスとの婚儀の前にすでに二人は結婚を誓った事、二人を結びつけるための計画がいろんな不運でうまくいかず、結局全員が亡くなったこと。

 ロレンス神父はエスカラスに語った。

「事情を知らず、霊廟を守らんとした気高きパリス、そして自らの恋の為にジュリエットの元での死を選んだ、真にジュリエットを愛するロミオ。私はジュリエットに、この霊廟から出るように言いました。ですが、ジュリエットは首を横に振った。愛する夫との死を選んだのです。ロミオとジュリエットの婚儀が正式なものであったのは、ジュリエットの乳母が存じております―――――このような悲劇は、すべて私めの不祥事。どのような償いもお受けいたします」

 エスカラスは首を横に振った。

「そなたはかねてより高徳の僧である。それよりも、夜警を呼んだのはロミオの従者であったな。言い分を聞こう。ロミオの従者をこれに!」

 ロミオの従者、バルサザーは、ロミオについてくるなと言われたにも関わらず、その一部始終を目撃していた。

 パリスとロミオが戦い始めたのを見て、まずいと思い夜警を呼びに向かったが、到着した時にはすでにジュリエットも息絶えた後だった。


 エスカラスはロミオの従者が託した手紙を受け取る。

 ジュリエットとともに死ぬことを選んだロミオは、自分の父親宛てにすべての真実を書き残していた。

 ジュリエットと正式に婚姻を結んだ事、ジュリエットの死を知ったこと。毒薬を手に入れ、死を覚悟し、ジュリエットの眠る霊廟に向かった事。

 エスカラスは手紙の内容を読み、ロミオとジュリエットの父親に怒鳴った。

「この手紙には全て書いてある、二人がどのように今に至ったのかを。ロミオは、愛するジュリエットの元で死ぬ為にここに来たのだ。敵同士の親ども、お前たちの下らぬ争いで落とされた罪の結果を見よ!神はお前達の争いの喜びを、愛によって葬ることを選ばれた。ワシもまた、お前たちの争いを収めきれず縁者を失った。皆、罰せられた」

 ジュリエットの父はロミオの父の手を取る。

「モンタギューよ、われらは手を取り合い兄弟となろう、われらの結ぶ手が、子らへのなによりの贖罪となるであろう」

 ロミオの父もまた頷く。

「どうか私にあなたの子、ジュリエットの像を立てさせてください、美しくまばゆいジュリエット、なによりもその恋こそが一番の輝きであったと」

 ジュリエットの父はロミオの父の提案に頷く。

「では私はそれに劣らぬロミオの像を。我々は憎しみのあまり、跡取りのたったひとりの我が子を生贄にしてしまったのです」

 嘆く二人の父親に、エスカラスは最後の言葉を告げる。


「夜明けとともに訪れるのは陰鬱な平和、悲しみのあまり、太陽もその顔をあげはせぬ、さあ皆、屋敷に戻りこの悲劇を語らうのだ。それぞれ罰せられるものも、許されるものもあるだろう」

 エスカラスは踵を返し、足を止め、舞台からまっすぐ前を見据えて言った。


「世界に悲劇は数あれど―――――この世にまたとない悲劇こそ、ロミオとジュリエットの、恋の物語」



 そう言うとエンディングの音楽が一層大きくなり、エスカラスが舞台を去る。

 そして、互いに支えるよう、悲しみに肩を落とすロミオとジュリエットの父親も退場する。

 俯く役者たちに、観客から拍手が起こり、それはやがて大きなうねりになる。


 そして、報国院地球部、桜柳祭記念公演、ロミオとジュリエット。

 最後の幕が、ゆっくりと降りた。



「―――――終わった」

 そう呟く幾久に、御堀が無言で肩を抱いた。


 幕が降りてもすさまじい、講堂が割れるかと思うほどの拍手が降り注ぐ。


「さ、小鳥ちゃんたち!ダンスの準備よ!」

 そう言って玉木がぱちんと両手を叩く。

「はい!」

 まだ舞台は終わってはいないのだ。

 皆、すぐに互いの持ち場へつく。


 物悲しいエンディングが終わり、いきなりダンス・ミュージックに変わる。

 これ以上ないほどの大喝采、そしてカーテンコールへ。

 流れるポップ・ミュージックのリズムに合わせて観客が全員、手を叩いてリズムを取った。


 周布がマイクでいつものように役者を紹介していくけれど、その声が少し、詰まっている。

 これで最後の公演で、三年の周布は卒業になる。

 思う所があるのだろう。

『……エスカラス役、二年、高杉呼春』

 わーっという一層にぎやかな声が上がる。

 そして高杉と同時に出た久坂も紹介を受ける。

『ロレンス神父役、二年、久坂瑞祥』

 きゃーっという声が上がったのは久坂のファンからだろう。

 いつもなら二人は、軽く踊って見せるのだが。

 いきなり互いに向き合うと、高杉と久坂は互いに投げ合い、くるっと回転して見せた。

 いつも御門寮の庭でやっている、ストレス解消の武術だ。

 いきなりの事に、どおっと講堂中が盛り上がる。その派手さに袖に居た幾久が呆れた。

「うわー、派手なことやってる、二人とも」

 傍に居た入江が笑った。

「クッソ派手すぎて笑う。スゲーな」

「出て行きづらい」

 幾久が言うと、山田が背を叩いた。

「ほらさっさと行け主役!どんだけ他が目立っても、お前らが一番だぞ!」

 そう言って背を押された。

 幾久は舞台に出て行く、御堀も同時に出る。

 そして二人でいつものように踊る。

 これがラストダンス。

 御堀の手を取ると、ぎゅっと握られた。

 そしていつもなら、互いに踊るのだけど、今日は御堀が幾久の手を取り、ワルツのようにくるくるっと回ってみせると、わーっと歓声が上がった。

 最後の役者紹介だ。

『……ロミオ役は、一年、御堀 誉』

 御堀がぺこりと王子様のように頭を下げると、あちこちから「みほりくーん!」「誉さまー!」と声が上がり、御堀はぬかりなくさっと声がした方へ笑顔で手を振ると、そのどこからもきゃーっと声が上がった。

『そしてジュリエット役は、一年、乃木幾久』

 ぺこりと頭を下げると、客席から「いっくーん!」と女子の声が上がり、幾久は思わず頭を下げて「あ、ドモ」と言ってしまった。

 そのしぐさに会場がどっと笑いに包まれる。

 そして紹介された全員が、再び幕から現れて、全員で踊る。

 ダンスを踊り終ると、全員が手を繋ぎ、客席に向かって大声でお礼を告げる。

「ありがとうございました!」

 そう叫ぶと、わーっと拍手が鳴り響く。

 まるで世界中に雨が降っているみたいに。


 幕が降りてゆく。

 カーテンコールも終わりだ。

 全員で顔を見合わせて、つい笑って自分でも拍手をした。

 所が、観客席からの拍手がいつまでも終わらない。

「拍手、いつまであんの?」

 品川が言うと三吉が首を横に振る。

「わかんない」

 暫くすると、「アンコール!」と声が上がった。

 割れるような拍手の音、そして「アンコール!アンコール!」という叫びに、高杉が苦笑した。

「しょうがねえ。もう一度出るぞ」

 一回目と同じく、アンコールがおきたので、全員で横に並ぶ。

 すると、音響が気を利かせて、音楽を流しはじめた。

 音響のスタッフが居る講堂の二階、舞台が見える窓を見上げると、児玉が幾久に向かって親指を上げていた。

(タマのやつ!)

 児玉は音響の勉強の為にずっと地球部の舞台の間、先輩につきっきりだったので、多分気を利かせてくれたのだろう。

 流れたのは明るいロックだったので、ひょっとしたら児玉が選んだ曲かもしれない。

 幕が上がったので、もう一度全員で頭を下げる。右に、左に、そして正面に。

 頭を下げるたびに、わーっと拍手が起きる。

「ありがとうございました!」

 また同じように頭を下げ、ブザーが鳴り、幕が降りる。

 これで本当に終わりだな、と全員で顔を見合わせて笑っていたのだが。


「アンコール!アンコール!アンコール!」


 拍手とアンコールを求める声。三回目だ。

 どうしようかと玉木を見ると、客席を指さし肩をすくめた。もう一度出ろ、ということだろう。


「え?また?」

「えー、まだやんの?」

 文句を言いながらも、皆嬉しそうだ。

 高杉が言った。

「もう一度じゃ。全員、並べ!」

 仕方なく全員が並んで、もう一度幕が上がると、また拍手が大きくなった。

 立っている人が殆どで、頭の上で拍手を続ける人も居た。

 三回目ともなると幾久も余裕が出て、まっすぐ前を見ると、見てくれた人みんな凄い笑顔で、惜しみない拍手を送ってくれている。

(こんなに見てくれてたんだ)

 客電がついているので、観客席がよく見える。

 人数にも驚いたが、あまりにいろんな人がいるのにも驚いた。

 老若男女問わず、子供も大人も皆笑顔だった。

 そしていつの間にか、ウィステリアの演劇部だろうか、横に長い大きな垂れ幕を持ってきていて、『ロミオとジュリエット公演、大成功おめでとう!』と描いてある。

 持っているのは杷子や大庭、松浦もだ。

 幾久は思わずこみあげてきそうになったが、まだ舞台の上なのでこらえて笑顔で手を振った。

 あちこちに舞台から愛想をふりまくと、ブザーが鳴った。

「ありがとうございました!」

 そう叫び、全員で頭を下げ、幕が足元に落ちるまで全員ずっと頭を下げっぱなしだった。


 ほっと息を吐いたのもつかの間。

「アンコール!アンコール!アンコール!」

「はぁ?!」

 幾久達は驚きの声を上げた。

「ちょっと、さすがにもう無理でしょ!」

 三吉が言うと、高杉や久坂といった先輩たちが集まってきた。周布もだ。

 三回目のアンコールを終えても、客席は静かになるどころか、一層盛り上がって、アンコールの声が止まない。拍手もだ。

 その上、「みほりくーん!」とか「ほまれさまー!」とか「いっくーん!」「ハルさまー!」「久坂くーん!」といった声が上がりっぱなしだ。

「どうする?」

 周布が高杉に尋ねた。高杉も肩をすくめる。

「どうするも何も、こんなのは初めてじゃ。ワシにも判らん」

 さて、と高杉はここで幾久に声をかけた。

「どうする?幾久」

「え?オレ?」

「去年のワシらの時はアンコールは二回で終わった。しかしこれは収まりそうもねえの」

「強引にアナウンス流す?」

 そう言ったのは久坂だ。

 講堂は使用時間が決まって、これ以上は使えないと規定で決まっている。

 だけど、幾久は考えていた。

(あれだけの人が、せっかく来てくれて)

 まだ声は続いている。どうしようとつい、上を見上げた。

 児玉が顔をのぞかせて、ニヤッと笑った。

(あれ?)

 一瞬引っ込んだかと思うと、幕が落ちると同時に音が引き、消えていた音楽が再び音量を上げて響き始めた。

 音楽がかかると、また幕が開くと思ったのだろう、女性客からの「キャーッ!」という声が上がった。

(タマ?!なに期待させるようなこと!)

 再び顔をのぞかせた児玉を幾久は見上げた。

 すると、児玉の口が動いた。

『出ろよ』

 え、と驚き児玉を見つめると、児玉はもう一度口を動かした。

『やれって』

「やれ、たって……」

 タマの唇を読むも、いざ言われてもなにをやれば。

(何かあったかな。えーと)

 考えていると、幾久はふと思い出し、手を挙げた。

「あの、オレ、ちょっと、思いついたんす、けど」

「なんじゃ。言え」

 幾久は高杉の言葉に頷き、思いついたことを手短に説明した。

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