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【海峡の全寮制男子校】城下町ボーイズライフ  作者: かわばた
【1】喧嘩にはじまり、花見で終わる【合縁奇縁】
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クラス分けとレベル

 始業式の当日、学校までは先輩達が一緒だったが、学年は当然違うので、幾久は一人で教室に入った。

 と、すぐにトシが気付く。

「お、幾久じゃねーの!おはよう!」

「おはよう」

 互いにネクタイの色を見て、にへ、と笑う。

「本当にクラスで露骨にネクタイの色が違うのな。朝、先輩らの見て実感した」

 幾久の言葉に伊藤が笑った。

「な、すっげー差別感丸出しだろ」


 レベルにあわせてクラスが違うのは当たり前だとしても、ネクタイの色が違うと一目でクラス、つまりランクがばれてしまう。


 鳳は金、鷹は茶色、鳩は緑がかった灰色、千鳥は千鳥格子の柄になっている。

 鳳の金はぴかぴかの金色ではなく、上品で少しくすんだ色なので黄土色っぽくも見える。


 朝、幾久のネクタイの色を見た山縣に早速「クルッポー」と鳩の真似で馬鹿にされたので「鷹落ち」と返してやったら、キレられた。どうやら図星だったらしい。


「そういや鷹落ちのこと教えてくれたろ?サンキュー。先輩に早速使ったら切れてた」

「おま、先輩によくやるなあ」

 伊藤が呆れるが、幾久は別にいいよ、と答える。

「なんかその先輩だけは、ちょっとだけ関わり方覚えたっていうか」

 山縣を舐めている訳ではないが、やりかえしてもいいのだと判ったので遠慮はしない事にした。

 山縣は性格が悪い割に、ひきずる事はあまりないらしく、その場でカチンと来たらその場で怒って、発散したらそれでおしまいになるらしい。


 決着をつけるという事には興味がないらしく、ストレスを吐き出したらそれですぐに収まるようだ。

 単純と言えば単純だが、幾久は山縣がそこまで嫌な人には見えなくなっていた。


「そうそう、その先輩もトシと同じで、すげーハル先輩を尊敬してた。気持ち悪いくらい」

「あー、なんだ山縣先輩の事かぁ。でもよく会話成立するな。あの人わけわからんくね?」

「訳判らないなりに、なんとなく判るって言うか」

「ふーん」

 喋っていると、トシの友人だという人が何人か話しかけてきた。

 同じ寮だったり、幼馴染だったりと様々だったが、どの人もなんとなく落ち着きがある。

 やっぱり高校生になると違うのかな、と感じて自分もしっかりしなくちゃなあと幾久は思う。

「一緒にいた、児玉君だっけ?あれは恭王寮の人だっけ」

「そそ。鳳とかスゲーよな。レベルが違う」

 思い返してみると、確かに頭がよさそうな雰囲気はあった。

「そんなに鳳って凄いんだね。オレ、全くわかんなくてさ」

 ばっと伊藤が食いついてきた。

「すげーすげー!だって東大進学率かなりだし」

「へ?」

 びっくりしていると、同級生が頷いた。

「去年も何人か進んだろ?」

「毎年出てるってだけでもすげーのにな」

「マーチだったら鼻で笑われるってマジ?」

「そういうの全然わかんねえけど、鳳なら確かにアリって感じするよな」

「鳳ってけっこう凄いんだ」

 マーチはともかく、あっけに取られて幾久が言う。

「だからそう言ってんじゃん。本州最西端の灘、って言われてるし」

 灘といえば知るも知ったりの進学校だ。

「ま、ただし鳳に限る、だよな。ウチは学校の平均値はそんな高くないから」

 それでか、と幾久は納得する。

 こんなに学力に差があったら、平均値はほんとうに『平均』になる。

「そそそ、なんたって千鳥がほぼ半分だろ?そりゃいくら鳳が化け物じみてたって意味ねえよな」

「鳳だけ、学校じゃなくて塾とか予備校みたいなもんだろ。あそこに引っかかるだけですげえし」

 そこまで聞いて、幾久は父やあのエアロスミスが言っていた事がやっと少しわかった気がする。

「どうしてただの進学校にならないんだろう」

 素直にそう疑問を口にすると、伊藤が言った。

「んなの決まってんじゃん、コレだよコレ」

 指で『金』とわっかを作って見せる。


「千鳥からまきあげて、それで学校の経営とか千鳥以外の教育を充実させてんだと。千鳥の担任とか、モロに言っちゃうらしいぜ。お前らなんか授業料だけ払ってくれりゃ、もう学校来ないほうがありがたい位だって」

「ひっでえ」

「金払ってエリートの踏み台になりに来るドM共、ご入金、じゃなかった、ご入学ありがとうとか挨拶で言われたって、千鳥のダチがへこんでた」

「格差社会すげえな」

「その千鳥の教師ってあれだろ、なんか元ヤンでしかもコネで入ったって言う」

「武器持ってるってマジ?」

「それがマジだって先輩が言ってた。でもしょうがないよな、千鳥って馬鹿ばっかりじゃん」

「そんなに酷いの?」

 幾久の問いに、伊藤やその他が頷く。

「本当に大人しいだけの金持ち馬鹿もいるけどさ、もうここしかないからって来る奴も多いよ」

 つまり、どの学校も受け入れてくれないような連中も多いのだという。

「でもさ、千鳥ってかなり凄くなかった?入学金とか寮費とか」

「そうそう、俺も親父に『千鳥なら行かせない』って言われていたから、鳩でほっとしたわ」

 どこの親も言う事が一緒なんだなと幾久は思った。



 午前中に担任の紹介と校内の案内があり、鳩というクラスのせいか、わりとのほほんとその日は終わった。

 入学式の時と同じく、食堂で弁当を貰ってあとは解散という事だった。スマホに栄人からのメッセージがあり、前と同じく学食で待っているので来いとあった。

「花見の話、聞いてる?」

 伊藤の問いに幾久が頷いた。

「聞いてる。オレは場所知らないけど、先輩らも一緒に行くからいっかなって」

「ハル先輩来てるんだろ?うわー、マジ嬉しい!」

 楽しそうに伊藤が言う。

「本当に好きなんだ」

「めっちゃ!めっちゃ尊敬してる!あーマジ幾久羨ましい。俺も御門いきてー」

 言いながら食堂に入ると、やはり凄い人数がいて、弁当を受け取って栄人を探すと、窓際の席にたむろっている人たちが居た。

(……うわ)

「あ、いっくん!」

「おー、来た来た」

 なんていうか、登校時には気付かなかったが、この人たちなんか、派手だ。

 なんというか雰囲気が。

 どうしてだろうとまじまじ見ると、多分それはネクタイと胸の略綬のせいだと気付いた。

「なに?なんかめずらしい?」

「いや……なんかあの、ネクタイの雰囲気」

 幾久の言葉に久坂が首をかしげ、栄人を見る。

「ああ、このうん……」

「金色のネクタイ、ね」

 久坂が先に言った。いま絶対にうんこって言おうとしたよ栄人先輩。食事前なのでそこにはあえてつっこまずに言う。

「やっぱなんか圧倒されるっすね、鳳って」

 自分がそのレベルをなんとなく理解したから思うのか、それとも単に御門の先輩達が派手なのか。


(絶対にまあ、どっちもなんだろうなあ)


 やっと見慣れたが久坂は相当なイケメンだし、栄人だってちゃらい風貌で派手なほうだ。

 高杉に至っては妙な存在感があるし。

 それに傍に居る三年生の桂も堂々としている。

「あ、」

 ぺこりと無言で幾久に頭を下げる人が居た。以前桂に紹介された、恭王の一年生。

「児玉君、だっけ」

「うん」

 ネクタイは金色、ということは鳳だ。

「凄いね、鳳」

「なんとか入れたって感じだから。あくまでも三ヶ月だけの暫定だし、油断はできないよ」

「え?一年間はずっと鳳じゃないの?」

 幾久の質問に児玉がきょとんとする。

「違うけど」

 桂が説明してくれた。

「いっくんは知らなかったのか。この学校は学期毎に試験があって、その成績でクラスが変わるんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。一学期、というかここは前期、中期、後期って言ってるけど、学期ごとの二回のテストで成績を計算して、上から10%くらいまでが鳳、その下15%くらいが鷹、その下25%が鳩、それ以下が千鳥。人数はきっかり決まってないけどね」

「じゃ、学期毎にクラス替えがあるみたいなもんっすか」

「そうなるけど、そこまで激しい入れ替わりはないかな。代わっても鳳が鷹と、とかその逆か、鷹と鳩、とかたまに鳩と千鳥程度だろ?全クラスごちゃまぜになるわけでもないし」

「いっくんは早く鳳に来ないと!御門の義務だよ」

 茶化して言う栄人に幾久は唇を尖らせた。

「なんかすっげえプレッシャー」

「なに言ってんの。東京でいい学校にいたんだろ?それにいっくん、けっこうあちこちに喧嘩売ってるから、からまれるかもねえ」

「なんすかそれ!オレ、喧嘩なんか売ってないっすよ!」

 栄人が楽しそうに幾久に告げる。

「鳳じゃないのに御門にいるってだけで、嫌な顔するやつもいんの。ま、ごく僅かだけどね。ねぇ、タマちゃん?」

 ちらっと栄人が児玉を見ると、児玉が慌てて顔を逸らす。

 あれ?なんかいい人そうに見えたのに、ひょっとして嫌がられているんだろうか。

 幾久がじっと児玉を見ると、さっきまでそうでもなかった児玉の目が少し鋭くなった気がする。

 幾久は少し児玉に対し不信感を覚えた。

「別にオレは入りたくて入ったわけじゃ」

「いっくんの事情はそうでも、中には入りたくても入れなかったやつがいるってこと。トシだってそう言ってたっしょ?」

「そうなんすよ!」

 伊藤が、がしっと幾久の肩を抱いて腕で引き寄せる。

「もーこいつめちゃめちゃ羨ましい!今年は御門が誰もいないって聞いたから諦められたのに、後からなのに御門に突っ込まれるとか!」

 ぐりぐりと頭を拳骨でねじられる。

「痛い!痛いってトシ!」

「こんくらい我慢しろよ。この幸せものめ!」

 ちらっと伊藤が児玉を伺うと、ふいっと児玉が目をそらす。

 そのなにげない一瞬に、桂と栄人が目を合わせるが、一人幾久だけはそれに気付かず、ぶつぶつ文句を言いながらずれた眼鏡を戻していた。

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