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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【12】愛しているから間違えるんだ【四海兄弟】
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謝るだけじゃ意味がない

 部活が終わり、部室を出ると児玉が待っていた。

「よう」

「あれ?児玉君だ。いっくん、児玉君だよ」

 三吉が笑顔で幾久を呼んだ。

「一緒に幾久と帰ろうと思ってさ。時間、丁度よかったから待ってた」

「そうなんだ」

 それが嘘なことくらい、幾久にも判る。

 だけど気遣いがありがたくて、幾久は笑ってうなづいた。

 いつものように皆で途中まで一緒に帰り、桜柳寮を

 越えると児玉と二人になった。

 暫く無言で歩いていくと、児玉が幾久に話しかけた。

「先輩ら、見ないけど」

「ハル先輩は桜柳会があるから休みで、瑞祥先輩はそのお手伝いらしいよ」

「そっか」

 別に特に幾久を避けたわけではないだろう。

 単純に、優先すべきことがあって、そっちを選んだだけだ。

 これまでは御堀のように、無理して地球部に来ていたのだろうことは幾久にも判る。

「わざわざごめんな、タマ」

 児玉が幾久を気遣って、待っていたことくらい判る。

 児玉は笑って首を横に振った。

「いいって。俺だって気になるし。それに、幾久の失敗って俺もやりそうだし。お前だけの事じゃないよ」

「……そっかな」

 児玉は多分だけど、幾久のような失敗はしない気がする。

「だってハル先輩や久坂先輩が特別でなんでもできるってさ、当たり前だと俺思ってるし」

「それは、確かにみんな言ってた」

 今日の部活でも、久坂と高杉は別格だ、と皆話していた事を児玉に告げると、児玉も「そうだよなあ」と頷いた。

「雰囲気あるし、常にツートップだろ?しかも武術の腕も相当なもんだし、外見もカッコいいし、普通に、なんか違うだろって俺だって思うし」

 幾久の言っている事は間違っていないと児玉も思うからこそ、久坂の怒りが判らない。

「確かにハル先輩にも仕事は多いのかもしんないけど、ハル先輩ならできるだろって普通に思うし、幾久ぐらい親しかったら言っちゃうと思うな、俺は」

 児玉の言葉に幾久も納得できる。

「オレが先輩らに甘えてんのも判るし、誉をかばいすぎてたのも判るよ」

 でも、どうしても自分の心の中に、高杉は特別なのに、という感情がある。

(実際、なんでもできるのに)

 困ったことがあればすぐに解決してくれるし、悩みがあっても高杉に聞きさえすればなんでも一発で解決してくれた。

 首席でなければ常に二位で、評判も評価も高くて、モテて、人気もあって、自慢の先輩なのに。

「なんで瑞祥先輩、あんなに怒るんだろ」

 自慢げに、僕とハルは出来が違うんだよなんて冗談でよく言っていたのに。

 一体どうして今回だけ、こんな風に怒られなければならないのか。

「考えても判らないなら、とりあえず謝ってみろよ」

 児玉が言う。

「どうしたってさ、いまの俺らにはわかんないし。ハル先輩に話しかけるのがダメって言われたんなら、まず瑞祥先輩にお願いしてさ」

 幾久も頷く。

「確かにそれしか、ないよね」

「思い浮かばないな」

 とにかく謝ること。それが必要なのは判る。

「久坂先輩がダメつったらダメだけど、言ってみるだけやってみろよ。な?」

 児玉の気遣いに、幾久はうん、と頷くしかなかった。



 寮に帰り、着替えを済ませる。

 栄人はバイトから戻っていて、夕食の支度を整えていたので、それを児玉と幾久も手伝った。

 作業をしながら、児玉が切り出した。

「あの、栄人先輩。ちょっとご相談しても?」

 幾久はどきっとした。

 ひょっとして、今の事を聞くのだろうか。

 栄人はにこにこしながら児玉に言った。

「なんでもいいよ?但し、ハルと瑞祥の件はなしでね」

 児玉は苦笑した。

「やっぱダメっすか」

「うーん、駄目っていうか、こういうのって周りが気をもむとさ、かえってややこしくなることってあるじゃん」

 幾久を見て栄人が言った。

「おれから見たらさ、なんで瑞祥が怒ってんのかも、ハルが何も言わないのかも、いっくんがどうすればいいのかも判るんだけどさ、正解を教えたって内容が理解できるわけじゃないんだよね」

「……?」

 幾久は首をかしげたが、栄人は続けた。

「答えだけ判ったって、クリアできるのは今回だけでさ、結局間違いって自分で超えないと、何度も同じ失敗になるんだよねえ。おれからしたら、いっくんはもう答えは知ってるはずなんだけど」

 栄人の言葉は、肝心な事をはぐらかしているようにしか幾久には聞こえない。

「よく、わかんないっす」

「だろうね。だから失敗しちゃったんだもんね」

 栄人が苦笑していて、やはり失敗しているのは確実に自分の方なんだな、と幾久は改めて考えた。

 児玉が尋ねた。

「あの、栄人先輩。俺、久坂先輩に、ハル先輩に幾久が謝りたがってるから、謝らせてもらえませんかってお願いしても大丈夫っすか?」

「そりゃ大丈夫とは思うよ?タマちゃんがなにしたいのかって事くらい、おれにも判るんだから、瑞祥だって当然判るし」

「そっすか」

 児玉はほっとするが、栄人は言った。

「ただ、謝るオッケーは出ても、それで解決するかどうかは判んないよ?」

 それは暗に、そのやり方では駄目だ、と言われているのだと児玉も幾久も気づいたが、でも他に方法が思い浮かばなかった。

 チャレンジするしか、方法はなにもなかった。



 そうこうするうちに、高杉と久坂が帰ってきた。

「ただいま」

「ただいま」

 玄関から声がして、二人は慌てて玄関へ向かった。

 久坂も高杉も靴を脱いでいる最中で、久坂は幾久を一瞥すると不機嫌そうに眉をしかめた。

 だが、そこで切り出したのが児玉だった。

「久坂先輩、ちょっとお願いがあるっす」

 児玉の言葉に久坂は静かに「なに?」と告げた。

「幾久の事ですけど、ハル先輩に謝りたいそうなんです。でも、話しかけるわけにいかないんで」

「そう」

「幾久、ハル先輩に謝らせて貰えますか」

 お願いします、と児玉が頭を思い切り下げる。

 久坂はため息をつきながら、腕を組んだ。

「じゃあ、居間においで」

「はい、すぐ!」

 児玉はほっとして、幾久の腕を引いた。



 居間に入ると、久坂と高杉、児玉と幾久は向かい合っていた。

「あの、久坂先輩、すみませんでした」

「謝るべきは僕じゃないでしょ」

 幾久を見つめるその目は冷たく、幾久は歯を食いしばる。

(瑞祥先輩って、んな怖い人だったっけ)

 拒絶という空気を初めて感じて、幾久はなんでこんなに空気が重いんだろうと思う。

 それでも高杉に謝りたくて、無言で立つ高杉の前に、幾久は向かい合った。

「あの、ハル先輩」

「なんじゃ」

 高杉の声は怒ってはいない。それは判る。

 だけど、幾久はきっとなにかを間違えている。

 久坂を一度もたしなめない。

 それが高杉の答えなのだろうと思った。

 幾久は、頭を下げた。

「ハル先輩、生意気な事言ってすみませんでした」

 そう言って思い切り頭を下げるも、高杉は無言のままだ。

 やっぱりこれが答えじゃないんだろうか。

 幾久がずっと頭を下げ続けていると、高杉がぽつりと告げた。

「わかった」

 それだけだった。

 え、と思って顔を上げたが、高杉は幾久なんか目に入っていないかのように、その場を後にし、久坂はずっと呆れたままの顔で、幾久には何も言わなかった。



 それから話しかけようにも、久坂の雰囲気は最悪で、ずっとぴりぴりしっぱなしなのが判る。

(オレ、やっぱなにか間違えてるんだ)

 夕食の時も始終静かで、元気なのは山縣だけだった。

(なんか、けっこう辛いな)

 高杉と話をしなくなって、もう二日たつ。

 たった二日話をしないだけなら別にどうということはないのだけど、話すのを禁止されているというのはけっこう堪える。

 ちょっとした事や、疑問に感じたことも幾久は全部高杉に喋っていたので、全く喋らないとなるとまるで喧嘩をしているみたいで気分が良くない。

 でも原因が自分にあるのなら、どうにかしなければならないと思うのに、どうしてそこまで、とも思ってしまう。

 サッカーを見る気にもなれなくて、幾久は児玉と一緒の時間に布団にもぐりこんだ。

 並んで寝て、幾久は児玉に尋ねた。

「タマ、恭王寮に居た頃ってさ、嫌がらせされてたんだろ?居づらくなかった?」

「居づらかったさ、そりゃ」

 ははっと児玉は笑って言う。

「でもまあ、ヤッタが同じ部屋に居たからなあ。そこはマシだったけど」

「ヤッタと雪ちゃん先輩以外、話す相手いなかったんだろ?」

「そーだなあ。最低限の用事とかは話すけど。当番とかさ。でもそれ以外は殆どなかったな」

 毎日先輩とおしゃべりしていた幾久にとって、今の環境はひどく辛い。

「オレなんか、この二日だけでへこたれそうなのに」

「仕方ねえよ。だって御門って人数少ないし、一年はずっと幾久一人だったろ?」

 だからこそ余計に、今怒らせている理由が判らないといけない気がする。

「なにがどう悪いのか、ホントわかんない。こういう時ハル先輩に聞いたらなんでも教えてくれたのに」

「肝心のハル先輩の事だもんな」

 仕方ねーよ、と児玉は言う。

「なにか間違えてるのは判ってるんだからさ、ちょっとずつでも訂正してこーぜ。明日も謝ってみろよ」

「―――――うん」

 だけどきっと、今日と同じように謝っても、久坂は決して幾久を許さないだろうし、高杉もきっと、受け入れてはくれないだろう。

(なにを間違ったのかな)

 誰か、教えてくれないと、もう潰されてしまいそうだ。

 児玉が布団の上から、幾久の体をぽんぽんと叩いた。

「おやすみ」

「―――――おやすみ」

 一人じゃなくて良かった。

 幾久は心からそう思って、目を閉じた。

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