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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【1】喧嘩にはじまり、花見で終わる【合縁奇縁】
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男同士のキスシーン!?

 深夜、幾久は不意に目を覚ました。


(……トイレ)


 ものすごく行きたいわけでもないけど、眠くて起きたくないなあ、どうしようかな。

 行こうかな、とうとうとと考えて目をうっすら開けると、目の前に高杉の後ろ頭がぼんやりと見えた。

 寝る前に枕元に置いた眼鏡を手探りで探し、眼鏡をかけた。

(あ、そか……)

 居間に五人が横に並んで寝ているが、幾久を真ん中に両隣が高杉と栄人、栄人の隣が山縣で、高杉の隣に久坂が寝ていた。

(高杉先輩、じゃなかった。ハル先輩、かぁー)

 最初から変な出逢い方だったなあと幾久は思い出す。そういえば高杉の顎をけっとばして怪我させたんだった。


 あれはもう大丈夫なのかな。

 今更思い出して気になって、明日目が覚めたら聞こうかな。


 なんて事をうとうと考えながら眼鏡をかけたまま、あー、トイレどうしよ、と、目を閉じようとすると、高杉の向こうに久坂が見えた。

 久坂は高杉と向かい合う格好で寝ているので幾久からは寝顔が見える。

(うわー……寝てる姿もイケメンですねこりゃ)

 ほんと恵まれた人っているんだなあ、と幾久は思う。背も高くて顔もイケメンで声もよくってなんか育ちもお坊ちゃんぽいし、浴衣なんかで寝るってことはやっぱ金持ちなんだろうなあ、渋くて高そうな浴衣だったし、とか思っていると、ごそ、と久坂が動いた。

(あれ?久坂先輩もトイレ?)

 じゃあ、久坂がトイレに起きた後に行こっかな、さすがに連れションは気まずいわーと思っていると、久坂の両手が寝ている高杉に伸びる。

(……ん?)

 上半身を肘でずらし、そっと高杉に顔を近づけていく。

(……んんん?)

 両手で高杉の頬を包み、至近距離まで顔を近づけて。


(―――――って、えええええええええええ?!おいおいおいおいおいおい!)


 どう見てもキスシーンだ。

 おいまじですか。



 寝たフリをすればいいものを、あまりに驚いて目をぱっちりと見開いてしまっていた。

 そして最悪なことに、おもいきり、ばっちり、久坂と目があってしまっていた。


 久坂は一瞬、幾久の目が覚めていたことに驚いたようだったけれど、人差し指で「しっ」という仕草をして、微笑んだ。

 思わずこくこくと頷いて、幾久は体の位置をぐるんと反対向きにした。


(うわ―――――っ!よりによってなんてタイミングで起きたんだよオレぇえええええ!こんななら眼鏡しなきゃよかったぁあああああ!)


 今更寝ぼけたフリをしようにも、眼鏡越しの視線がばっちりと久坂とバッティングしたのだ。

 しかもあれじゃ久坂のほうも絶対に起きているし気付いている。寝ている高杉は気付いてないようだったが。


(あれって、あれって、やっぱ、キス、だよ、なぁ?)

 ピアスの意味ってやっぱあれか、ゲイか、ゲイなのか。

 でも久坂はゲイじゃない、とはっきり言ったはずだ。

 ゲイじゃないならなんで。

 そこで幾久ははっと気付いた。


(両刀の、バイってことかぁあああああああ!)


 あれか?両耳のピアスは両方いけますよーってことなのか!

 で、右に三つってことはあれか、どっちかっつうと男が好きだけど女もいけないことはないよって事なのか?

 うわーうわーうわー!


 どう見ても高杉と久坂は親友と言う雰囲気だった。

 でも、こんな夜中に内緒でってことは、つまり。


(く、久坂先輩の片想いとか?!)

 なにそれめんどくさい。

 ないわ、マジでないわ。


 なんかさっきと違う意味で泣きそうだ。

 イケメンだとそういう弊害があるんだろうか。

 トイレに行きたかった気持ちもひっこんで、絶対に背後の空気は探らないようにしようと、心に誓いながら、眼鏡をかけたままで幾久は無理矢理目を閉じた。




 目が覚めて幾久は、しまった、と思った。

(眼鏡、かけたままじゃんよオレ)

 やっぱり夕べに見たのは夢じゃなかったんだ。

 どうしてこういう無駄なタイミングばっかりいいんだろう、もうやだ。

 そう思いながら起き上がると、周りは誰もいない。

(あれ?)

 布団はそのままだが、寝ているのは幾久一人だったようだ。

(寝坊とか、いーのかな)

 寮は起床時間や消灯時間とかあるだろうに、そういったものはどうなっているのだろうか。

 そういえば朝食は何時からなのだろうか。ぼけっとしていると開いた襖の向こうから栄人が現れた。

「いっくん、起きてた?いま起こそうと思ってた!おっはよ!」

「……はよう、ゴザイマス」

 ぺこりと頭を下げると、ぽいっとタオルが投げられた。

「顔洗って着替えてきなよ、朝ごはんにするからさぁ」

「う、す」

 頷いて着替えを持って洗面所へ向かい、顔を洗って服を着換えた。

 幾久が居間に戻る頃にはすっかり布団は片付けられて、ちゃぶ台が昨日あったように戻されていた。

 テーブルの上にはなぜかホットプレートが乗っている。

(なんで?)

 朝食をホットプレートで作るのか?まさか。

 寮母の麗子さんが作りに来るのだろうか。

 あんなに本格的な料理を作る人が、ホットプレートとか使うのかな。

 そう考えていると、ぞろぞろと全員がいろいろ持って入ってきた。ボールや皿や、フォークにナイフ、なぜか箸まである。

「あの……」

「あさごはんはホットケーキでーす!」

 栄人の言葉に幾久は目を丸くする。

「あの、朝飯ってこれですか?」

「あれ?いっくんホットケーキ嫌い?」

「いや、フツーに食いますけど、麗子、さんは」

「あー、休み休み。今日土曜っしょ?土日は基本、麗子さんはお休みなの!」

 テーブルをセッティングしながら栄人が言う。高杉が腰を降ろした。

「おはよう幾久。よく眠れたか?」

「あー……あの、」

 眠れたっつうか、無理に眠らざるを得なかったというか。口ごもっていると高杉の後ろで久坂がにっこり、と笑って言う。

「おはよ、いっくん。いい朝だね」

 高杉の肩に久坂の手が触れている。

 昨日は気にならなかったが、ああいうのを見てしまうと妙にそういう意味かと気になってしまう。

 しかしにこにこ笑っている久坂の表情の裏になにもないと気付かないほど幾久は鈍くはなかった。

「おはようございます」

 そう言ってさっと久坂から顔を逸らす。

 久坂がちょっと楽しそうに微笑んだ。

「幾久、お前アレルギーとかあるか?」

 高杉の問いに幾久は首を横に振る。

「特にないっす」

「じゃ、大丈夫だな」

 ホットプレートの上に手をかざす。

「ぼちぼちかのー」

「バター落としていい?」

「落とせ落とせ!」

 二年生トリオが楽しそうにそう話しながら準備をしている。

 いつの間にか山縣も席についていた。携帯ゲームは持っていなかった。

「……山縣、先輩、おはようございます」

 ぼそっと言うと、山縣はやはり嫌そうな顔をしたが、「おう」と返した。

「あの、今日はゲーム、しないんすか」

「してーわ」

 ちっと舌打ちしながらそっぽを向く。あれ。じゃあやっぱり我慢しているのか。

 ひょっとして自分のせいなのかな、と思ったが聞きづらい。黙っていると、山縣が幾久に聞いた。

「おめ、モンハンは」

「え?」

 尋ね返した幾久に、山縣が舌打ちしながらもう一度尋ねた。

「だーかーらー!モンハンだよ。モンハンくらいやってるだろ」

 モンスターハンターなら確かにちょっとはやったことがある。はまって成績が落ちてしまって自重していたら、そのままなんとなくやらなくなっていた。

「最近はあんまりしてないっす」

「ハンターランク」

「確か5ですけど」

「ゴミめ。使えねーなお前」

 ちっと山縣が舌打ちする。

 前言撤回だ。

 やっぱりこの人嫌われものの理由判るわ。

 じゅー、という音に顔を上げる。

 栄人がホットプレートに、ホットケーキのタネを全部一気に流し込んでいる。

「なにやってんすか?」

 ホットケーキと言えば一枚ずつじゃないのか。

 タネを全部プレートに流し込むなんて、なんでこんな無茶するんだ?と幾久は驚くが、栄人は首をかしげる。

「大きいホットケーキ嫌い?」

「いやいや、そうじゃなくて」

 なぜこんなわけのわからないことをするのか、と聞きたかったのだが。

「うちはいっつもこうだよ。だってめんどくさいじゃん」

「めんど……」

 いや、こんなホットプレート一面に流し込んででっかいホットケーキとか、そっちのほうが面倒くさいんじゃないのか。

 そもそも、上手にひっくり返るのか?こんなもん。だが、誰もそれに異論は唱えない。

 黙って様子を見ていると、暫くして栄人がへらを使って焼けた底を見ている。

「上手にできたかなー」

「ぼちぼちいいんじゃね?」

 楽しそうにやっているのを呆れてみていると、また久坂と目があった。にっこり、と整った顔で微笑まれるとどうも具合が悪い。

 ちらっと高杉を見ると、何も気付いてないようだ。すっと久坂の目が細くなり、高杉の肩に顎を乗せた。

「ねぇ、ハル、まだ?」

「おー、もうちょい。待っちょけ」

 すり、と顔を高杉の肩にすりつける。

(な、なんで……なんであれで気付かないんだぁあああああああ!)

 おろおろする幾久だったが、多分誰もそのことには気付いていなかった。

 久坂以外は。

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