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男子高校生はロミオからも逃れたい(後)

 妙な言い方に、御堀がなにか思惑があるのだろうという事に気づいた高杉は、乗ってみるのも手か、と思い乗っかることにした。

「幾久の貞操さえ守れば問題ない」

「ありがとうございます」

 ぺこりと御堀が頭を下げるが、幾久はそれ所じゃない。

「ちょ、ちょっと待って、いま何の話してるんすか二人とも」

 どうにも怪しげな会話をしていて、聞き捨てならない気がするのだが。

「いっくん、大人になってくるんだね」

「やめてくださいよ瑞祥先輩まで」

「御堀ならいっくんの将来は安泰だな」

 あはは、と雪充が笑う。

「雪ちゃん先輩まで!」

 ひどい、と幾久は訴えるが一年生が盛り上がって近づいてきた。

「心配すんなよ幾。俺らも同じ寮だからさー」

 なー、と山田と入江、三吉に品川が頷く。

「ちゃんと二人の仲は邪魔しないから」

「そういう意味じゃない」

 絶対にみんな面白がってるだろ、と幾久は言ったのだが、皆隠すことなく、思い切りうんと頷いていた。


 皆下手に行動力だけはある。

 結局、部活を終えた後、幾久は桜柳寮に泊まる事になった。

 一度御門寮に帰って、着替えを用意している間に御門寮の総督の高杉と、桜柳寮の寮長が話をつけたらしい。

 夏休みということもあって許可はもちろんあっさり通った。なんといっても恭王寮の提督の雪充までのお墨付きとなれば、反対する人など誰も居ない。

「めんどくさい」

 幾久はげっそり言うが、三吉が「まあまあ」と笑う。

 桜柳寮に泊まると決まり、幾久が一旦寮に帰ると聞いて、三吉と山田が「御門寮見たい!」とついてきたのだ。

 寮に到着し、ぶつくさと言いながら幾久が荷物を整理しはじめると、二人はその間、早速御門寮の探検をはじめた。

「うわー、広い!すっげー!」

「話は聞いてたけどマジで広いねー、いいなー」

 寮の中をあちこち観察しては覗き込んでいる。

「ガタ先輩の部屋だけは開けないでね。うるさいから」

「おっけー」

「りょ!」

 二人はそう言って、あちこち散歩を始めた。


 準備なんてたいしたこともない、せいぜい着替えと制服くらいなので幾久のしたくはすぐに終わった。

「いいよー、行ける」

 幾久が言うと、三吉と山田が戻ってきた。


「じゃあ、行ってきます」

 幾久が御門寮の門を出ると、久坂と高杉が見送った。

「さみしいからって泣くなよいっくん」

「おねしょすんな」

「しませんし泣きません!」

 そう言うと、久坂も高杉も爆笑した。

「じゃあ、悪いけどうちの子頼むね、山田、三吉」

「御堀によろしく言ってくれ」

「はい!」

「おっけーです!」

 そう山田と三吉が頷く。

「じゃ、行こうか、いっくん」

「うん。行ってきます」

「行ってらっしゃい」と久坂。

「気をつけての」と高杉。

 幾久は三吉と山田と、御門寮を後にした。


 桜柳寮は学校に近い、というより本当にすぐの場所にある。チャイムが聞こえてから走っても間に合う、といわれているが確かに全速力なら間に合いそうな距離にあった。

「ここが桜柳寮かあ」

 入り口は普通に城下町らしい瓦の門だったが、中はおしゃれなアパートっぽい。扉が特に洒落ている。

「なんかレトロってかんじ」

「だろ?たまにカフェと勘違いした観光客が入ってくる」

「わかる」

 門から見えるアパートのドアは、外国の映画に出てくるみたいに洒落たつくりだったからだ。

「一応、門の前に『桜柳寮』って書いてあんのに」

「それでも間違えるんだ」

 へえ、と幾久が驚くと山田が言った。

「それがさー、『そういうコンセプトの喫茶かと思った』、だってさ。驚くわ」

「な、なるほど、そういう解釈」

 確かにそういわれてみればそうなのかもしれない。

「下手に洒落てんのがまずいよな」

 でも、と三吉が言う。

「おしゃれで可愛いほうがいいじゃん」

「そりゃ汚ねーよりかはいいけどさ。おれはもっと秘密結社っぽいほうが好み」

 ヒーローものが大好きな山田はそう言う。

「秘密結社っぽかったら、全然秘密じゃないじゃん。いっくんもそう思わない?」

「思う、思う」

 そう言って笑っていると、桜柳寮の中に案内された。



 寮で待っていたのは、当然御堀だった。

「いらっしゃい、乃木君」

「あ、ドモ……お世話になります」

「みんなに事情は話してあるから、安心していいよ」

 そう御堀は言うが、一体どんな事情になっているのか確認するのは少し怖い。

「いっくん、いらっしゃーい」

 そう言ったのは三年の梅屋だ。

「あ、どもっす。先輩、ここの寮だったんスか」

「そーだよ。よろー」

 ノリが栄人そのままなのは、栄人の部活の先輩だからだ。幾久も少し世話になった事がある。

「お世話になります」

「みほりんがナンパしてきたんでしょ?」

「そういうのホント勘弁してください……」

 完全にやっぱり面白がられてるんだな、と幾久は肩を落とした。

(まあいいか。どうせ一晩だけだし)

 とはいえ、本当に一晩この寮に居るだけで御堀に慣れることができるのかどうか、不安だらけではあるが。


 幾久は御堀達に、桜柳寮を案内してもらった。古い作りではあったが、御門寮と同じく改装されていて、古いというよりレトロな雰囲気が満載だった。

「確かにこれだとカフェって思うかも」

 廊下は赤いじゅうたんが敷かれ、階段の手すりなんかは木で細工がしてある。

 恭王寮に似ていて、古くてもいい雰囲気だった。

「部屋は全部二人部屋。三年であまってたら、一人部屋でも使っていいの。狭いんだよね」

 ほら、と見せられたけれど確かに狭い。

 部屋はベッドが二つにクローゼット、小さな机があるけれど勉強するには狭い。あくまで簡易的なものだ。

「そう、だからもう完全に寝室だけっていう使い方してる。図書館って呼んでる部屋があってさ、そこが学習室がわりになってるよ。みんなそこで勉強してんの」

「へえ」

 その部屋も見せて貰ったが、すごい蔵書量だった。

「小さい図書館みたいなもんじゃないっすか」

「この寮のOBがおいてくんだよ。伝統で、卒業するときに1冊以上おいてくの」

「そういうのかっこいい」

 古くて歴史がある寮で、そんな伝統とかあこがれるなあ、と幾久は思う。

「御門にはそういうのないの?」

「聞いたことない。あるのかもしんないけど」

 御門寮は古くて広い。使っていない部屋がいくつもあって、そういえば隅々まで探検したことはなかったな、と幾久は気づいた。

「もったいない!探してみなよ、面白そうじゃん」

 ね、みほりん、と三吉が言うと御堀もそうだね、と頷く。

「みほりんって散歩好きだから、今度御門に行ってみたら?広かったよ」

「そうだね。お邪魔してみようかな」

「散歩好き?」

 幾久が尋ねると三吉が頷いた。

「そーだよ。よく梅屋先輩と歩いてるよね」

「僕、部活は経済とかけもちしてるんだ」

 御堀の言葉に幾久は驚く。

「え、じゃあ栄人先輩のことも?」

 御門寮の栄人は経済研究会部に入っている。梅屋の後輩だ。ということは、御堀は栄人の後輩にもなる。

「知ってるよ。すごく沢山バイトしてるから、あんまり会うことないけど」

「だよね」

 幾久は笑う。

(そっか。栄人先輩の、後輩なんだ、御堀君)

 知っている人と関わりがあると思うと、急に気が緩む。このまま御堀に慣れることができたらいいのだけど。


 桜柳寮で夕食を済ませ、一年生達とお風呂に入った。

 さすがに二十人近くもいると風呂も大きい。

 御門は数人なので家族で使うレベルの風呂と聞いて、皆驚いていた。

「ほんっと御門って少ねーのな」

「うん。だから全然、寮って感じ、いまだにしない」

 幾久が言うと、三吉もわかる、と頷いた。

「今日も思ったけど、いっくんと御門の先輩達って、先輩後輩ってかんじより兄弟みたいだもんね」

「わかるわかる。あれ完全兄貴のソレ」

「そ、そう?」

 幾久にはよく判らないが、皆はうんうんと頷いている。

「いっくん、兄弟は?」

「オレ一人っ子だから、兄弟とかよく判んないんだ」

「へえー」

 一年生はお互いに、オレ何人兄弟、とか言い合っている。

「みほりんはお姉さんがいるんだよね」

「そういえば、今日お姉さんが来てたんだって?」

 御堀は頷く。

「学生の頃の先輩に用事があったらしくて」

「ってことは、和菓子たくさん来てる?」

 三吉がくいついてきた。御堀は頷く。

「かなりあるよ。好きなだけどうぞ」

「わーい、いっくん、和菓子好き?みほりんとこの和菓子、めちゃめちゃうまいよ!さすが老舗って感じで」

「へえ、そうなんだ」

 そうだよ、と三吉が言う。

「山田とかは甘いもの食べないからさ、一緒に和菓子食べようよ!」

「うん、いいよ」

 幾久は甘いものもお菓子も好きなので、ちょっと楽しみだな、とそう思った。

 この後にとんでもない目に幾久はあうのだが。


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