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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【8】コミケ参加、それが俺のジャスティス【空前絶後】
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真面目にお酒の話をしよう

 大佐いわく、アニメ関係の仲間たちと食事に行ったときの事だ。

 大佐はまだ未成年なので飲酒はしなかったのだが、殆どが成人の集まりだったので、自然に居酒屋でオフ会をしたのだという。

「その際、ひときわ賑やかな、まあ俗に言うリア充グループがいたのでごわす。ワガハイたちはいつものように、情報交換をしていたのでごわすが、そのリア充グループは、全員が楽しげにめちゃめちゃ飲酒していたわけでごわす」

 しかも、ちらっと見るとけっこう強い酒が多かったらしい。

「ワガハイ、故郷が九州で焼酎をよく飲むのでごわすが」

「おい未成年」

 山縣がつっこむと、大佐はこほんと咳をひとつして、「『大人たちが』焼酎をよく飲むのでごわすが、焼酎はアルコール度数が高いのでごわす。後輩殿はお詳しくないようでごわすから、簡単に説明すると、焼酎のアルコール度数は、ビールの4倍くらいあるのでごわす」

「四倍、といわれてもよく判らないんすけど」

「考え方だけは単純でいいでごわす。アルコール比重で考えたら正確には違うのでごわすが、ビール四杯と焼酎一杯の度数が同じ。で、ワガハイ、ちらっと見てしまったのでごわすが、どうもその飲んでいるリア充、焼酎を飲みなれているようには見えなかったのでごわす」

 大佐曰く、焼酎には飲み方があるのだという。

「大抵がお湯割り、お茶割り、水割り、まあロックという選択肢もあるでごわすが、強い酒はアルコール分を飛ばし飛ばし、飲むものでごわす」

 焼酎に限らないが、強い酒は一気に飲むなら少しの量だし、大抵は量をちびちびやるか、薄めたり、大きなグラスに入れてアルコール分を飛ばして飲んだりするのだという。

「ビールはアルコール度数が少ないでごわすから、アルコールに耐性がない場合を除いては、普通に飲むぶんには危惧する必要はそこまでないのでごわすが、焼酎や日本酒なんてものはそうはいかないのでごわす」

 日本酒は焼酎ほどではないが、けっこうアルコール度数が高いのだそうだ。

「ぶっちゃけ、焼酎や日本酒は、3杯もいけば飲みなれていなかったり、耐性がない人はかなりまずいでごわす。本来、強い酒はゆっくり飲むものでごわす」

 ビールもアルコール度数が低いからと言って、どんどん飲むのは危険だそうだ。

「問題はその人の体が、アルコールをどう処理するかなわけで、処理能力が低い人は少しであっても飲むのは危険でごわす」

 大佐は、その人が気になるのでちらちら見ていたら、そのリア充の人は、焼酎を薄めもせずに、「うめー!」とか言って飲んでいたらしい。

「ワガハイ、その銘柄の焼酎を知っておりもうして。口当たりは軽く、さらっとしていて大変飲みやすいのでごわすが、アルコール度数が半端なく高いのでごわす。リア充、多分いきがっていたのと、まわりもそれを判って煽っている感があったので、まずいなとワガハイも思っておったのでごわすが、なにせ女の子も居るリア充グループに無粋な事を言うのも気が引けて黙っていたのでごわすが」

 自分も当然、オフ会に参加しているので、そんな関係のないリア充にかまってばかりもおられず、つい話しに夢中になっていたのだが、ふと気付くとその飲んでいたリア充の姿が見えなくなったという。

「どうしたのだろうと、トイレに行くふりをしていたら、そのリア充が仰向けで撃沈しておりもうした」

「……よっぱらって寝てたんじゃないんですか?」

 幾久の言葉に、大佐は頷いた。

「然様にごわす」

「だったら、別に大丈夫なんじゃ」

 酔っ払って眠っているだけなら、心配することはないのでは、と幾久はなんとなく思ったが、大佐は首を横に振った。

「一概には言えないのでごわすが、急性アルコール中毒はアルコールの毒性にやられて亡くなるばかりではなく、吐いた物が喉につまって、呼吸できずになくなる事もあるのでごわす」

「でも、吐くくらいなら目が覚めそう」

 病気で具合が悪い時に戻した経験しかない幾久は、あの気持ち悪さで起きないことがあるのだろうか、と不思議に思った。

「後輩殿、筋肉弛緩剤を打たれたら、動けないのはわかるでごわすな?」

 幾久は頷く。いくらなんでもそのくらいは判るし、理解できる。

 でも、飲酒と筋肉弛緩剤がどう関係あるのだろうか。

「アルコールとは、リラックス効果があるわけでごわす。精神的に、ではなく肉体的な意味で。ぐったりするのはアルコールのせいで、全身に力が入らなくなるからでごわす」

 飲み潰れた人を考えて、幾久はなるほど、と思う。

「多少のリラックスは別にいいとしても、体の自由がきかなくなるほどのリラックスは、危険でごわす」

「そうなんすか?」

 リラックスしまくるなんて、良い効果しかありそうにないのにな、と幾久は思ったが、大佐は首を横に振った。

「アルコールは筋肉を弛緩させる作用があるでごわす。だから量がそれなりであれば、リラックス効果をもたらすのでごわすが、許容量を超えてしまうと、筋肉を弛緩させすぎてしまうのでごわす」

 筋肉を弛緩させて、一体なにがどう危険なのかが、幾久にはよく判らない。

 だが、山縣が言った。

「後輩。舌だって筋肉だろ。舌がリラックスしきった状態で、仰向けになってたらどうなる?」

 幾久が首を横に振ると、山縣が教えてくれた。

「舌は、のどの奥に落ちるんだよ。そうなったらどうなる?」

「……喉に詰まって、呼吸が止まります」

「正解でごわす。それともうひとつ。体はアルコールという毒を無理矢理に体の外に出そうとするでごわす。つまり、飲んだものを吐こうとするわけでごわすが、体中は緩んでいる。つまり、しゃっくりすら起こせなくなるわけでごわす。そうなると、吐こうとしたものは喉に詰まるが筋力は使えない。結果、どうなるでごわす?」

 幾久はぶるっと体を震わせた。

「やっぱり、喉に詰まって、呼吸できないです」

「つまり、そういうことでごわす。酔っ払って寝ているのではなく、立派な急性アルコール中毒をおこしているのでごわすよ」

 酔っ払って、寝てしまって、目が覚めた人は単純に幸運なだけだと大佐は言う。

「アルコールを分解するのが早いから無事なだけであって、キャパオーバーして運悪く吐きでもしたら、それだけでもう終わりでごわす」

「だったら、そのリア充の人も?」

 幾久の問いに大佐は頷いた。

「大学生ともなると、賑やかな場所に付き合うことも増えるでごわす。が、自分の飲み方を学ぶ前に失敗することもよくあるでごわす」

 毎年のようにアルコール中毒で亡くなる大学生をニュースで見るが、そういう理由だったのかと幾久は驚いた。

「一概に全員が全員そうであるとは限らないではごわすがな」

 内臓に負担がかかったり、血液に影響が出たり、低血糖になったり脳梗塞をおこすなど、いろんな症状があるのだという。

「大人が日本酒一合、焼酎一杯程度を分解するには四時間程度かかるでごわす。リア充はちらっと見ただけでも四、五杯は飲んでいる様子でごわした」

 その状態で、横になっている上に意識もない。

 大佐は思わず、その人を動かして起こしてみたのだが、全く返答がない状態だったらしい。

「これはマズイと思い、店員さんに『すぐ救急車を呼べ』と怒鳴ったでごわす。リア充グループは、突然現れたワガハイに、なんだこいつ、とか大げさにすんなとか、寝かせてあげろ、かわいそうだと散々ののしったでごわすが」

「なんだそれ」

 全く事の重大さを理解して無いと幾久は呆れたが、大佐は首を横に振った。

「知らない人の認識なんてその程度でごわすよ。実際、店員もよくあることらしく、ピンときていなかったようでごわすが」

「俺知ってるぜ。大佐、店員に『この店で学生死亡で新聞に載りたいのか!店が潰れるぞ!』って怒鳴ったんだろ?」

 仲間から聞いたらしい山縣はニヤニヤして言っていたが、大佐は恥ずかしがっていた。

「んで、リア充の連中、『余計なことするな』とか『関係ないじゃん』とか『勝手に盛り上がっててきもー』とか大佐にさんざん言った上に、SNSにアップしたんだよなー。気持ち悪い酔っ払いのおっさんに絡まれてるから通報してくれーみたいな」

「うわあ」

「結局、潰れたリア充はやはり急性アルコール中毒でごわして、病院で手当を受けたわけでごわす」

「へえ。だったらすごく感謝されたんじゃないですか?」

 幾久が言うと、大佐は首を横に振った。

「とんでもない。大げさにしやがってと散々文句くらったでごわした」

「はぁ?」

 助けてもらっておいてなんだそれ、と思ったが、大佐は苦笑いをしていた。

「そんなもんでごわすよ。対処した結果、なにごとも起こらなかったものなんて、最初から起こるはずが無かったのだと思われるものでごわす」

 せめてもの救いはご両親からお礼を言われたことだったという。

「よくぞ助けてくださったと、何度も何度も頭を下げられたでごわす。当人は、まあ判っていなかったようでごわすが」

 飲み会で潰れて病院に運ばれたなんて、みっともない、寝ていれば酒に強い事を証明できたのに、なんてことを言って親にひっぱたかれたらしい。

「でも大佐、ちょっとは仕返ししたんだろ?」

 山縣が言うと、大佐はにやりと笑って言った。

「そりゃ勿論、ワガハイも人間だもの、少々立腹したでごわす。リア充は某私立のリア中のリア、キングオブリアなわけでごわす。一緒に飲んでいた女子がお見舞いと称してすぐに病院に来たくらいにリア。そんな中、医師の方が、ワガハイの判断を非常に褒めてくださったのもあって、ご両親はぺこぺこされておったんでごわすが、リア充と女子は、『医者でもねーのに余計なことすんな』などと申しておったのでごわす」

「なんだそれ」

 幾久が呆れると、大佐もため息をついた。

「ご立腹のご両親に対してワガハイつい、『いえ、将来医師をめざしておりますので、当然のことをしたまでです』などと心にもないことを言ってしまったわけでごわす」

「うわあ……」

 え?ちょっとまって、と幾久は思った。

(東大で医者?って?え?)

「ご両親、『まあ、医学部の方で?』などと目をキラキラさせてこちらを見られている上に、リア充は嘘つくなと吐き捨てて目をそらし、女子は何だと?みたいな目でこちらを見ているでごわす。ワガハイつい、お漏らししちゃったのでごわす」

 てへっと山縣がよくやるへったくそなウィンクを、大佐も同じようにしてみせたのだが、幾久はそれどころじゃない。

「東大で、医者って」

 ということは大佐は理系なのか。

 勝手に文系だと思い込んでいたのだが。

 山縣と大佐は顔を見合わせて、ピースサインのようなものをしてみせたが、そこにあるのは指二本のピースではなく三本。つまり。

「学生証は常に携帯すべきでごわすね!」

 大佐の学生証を見せた瞬間、ご両親は息子のやったことを大叱りし、更に頭を下げ、息子はふてくされ、女子はいきなり全員が『今回の事で好きになったから付き合って!』と迫ってきて、それはひどい騒ぎになったそうだ。

「……そりゃそうだろ」

 幾久だってそんな場面は簡単に想像できる。

「ちょっとしてやったりでごわした」

「ちょっとじゃねえっす。完全KOじゃないっすか」

「お、なんだそれ。ギャグかよ。センスあんじゃん」

「違うっすよ!」

 ああもう、と幾久は頭を抱えた。

「ほんと、紙一重ってマジなんすねえ」

 幾久の言葉に大佐が「けっこう無礼でごわすな、後輩殿は」と言うと山縣も「だろ?こいつこーいう奴なんだよ」などと言っている。

「でもアルコールって怖いっすね。勉強になりました」

 ぺこりと頭を下げると大佐もいやいや、と頭を下げる。

「この先、なにかと必要になる知識でごわすからねえ。いくら成人してから飲めなんて言っても聞かない連中は一定数おるでごわすし」

 大佐いわく、アルコールは個人差が大きいから、一般的な分量はそんなにあてになるものではない、という。

「めちゃくちゃ飲んでもケロッとしているのもいれば、ちょっとビール飲んだだけでも気分が悪くなる人も居るし、酒の種類によって全く酔いが違う人もいるので、一概にどうこうなんてわからないのでごわすよ」

「そんなもんなんで飲むんすかね。怖いっす」

 幾久が体を震わせる。

「それに、急性アルコール中毒には、治療法がないでごわす」

「えっ」

 幾久は驚いて大佐を見た。

「だって、さっき病院に運んだって」

 大佐は頷いた。

「できるのはせいぜい点滴程度でごわすよ。それもあまり意味があるとは言いがたいでごわす。アルコールを排出するのは、当人の肝臓にかかっているのでごわす」

 病院なら、吐いても息が詰まらない様に対処できるから、というくらいで、これといった解毒剤があるわけではないのだという。

「だから、急性アルコール中毒に一番いい対処法は、飲まないこと、もしくは最初から飲む量を加減すること、それしかないのでごわす」

 そうなのか、と幾久は一層大佐に感心した。

「よくご存知っすねえ、大佐」

「いつか彼女ができたらそう言って、あんまりお酒飲んじゃだめでごわすよ(ハァト)とか言うつもりでごわしたのに、毎回なぜワガハイは男にご披露して感心されるのでごわすか」

 大佐は肩を落としたが、幾久はものすごく役に立つ知識だなあと大佐の言葉を反芻して、ちゃんと覚えようと思ったのだった。

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