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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【8】コミケ参加、それが俺のジャスティス【空前絶後】
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祭りの前の静けさ

 幾久と山縣、そして大佐の三人が秋葉原から向かったのはお台場だった。

 りんかい線で移動して、電車の中で楽しげにオタクの会話をする山縣と大佐の隣で幾久は渡された本をじっくり読んでいた。

 それは明日にあるという見本市に参加するための注意が書いてある漫画とコラム、そして山縣に渡されたタブレットでいろんな漫画を読まされた。

 そこでやっと理解したのだが、幾久が明日山縣と行くのはコミックマーケットという漫画の見本市らしい。

 オタクの人が自分で作った本や作品を売ったり買ったりするというもので、幾久もなんとなくの知識だけはあった。

(けどまさか、自分が行くとは思わなかった)

 今日は前日なので、スタッフが準備している最中らしい。

「とりまお前がすることのリハーサルを今日はやっとく。言っとくけど、明日はとんでもねーことになってるからな」

「はぁ」

「心配はないでごわすよ、今日は人数全然少ないでごわすからな。確かにリハをしておくのは正解でごわす」

 説明の漫画やコラムを読んでわかったのは、相当の人数が来るのでマナーを守ること、人が多いのでトイレに行くのが難しいこと、しかし水分補給をしないとすぐに熱中症になるくらいに暑いこと。

 荷物についての注意とかいろいろあったが、幾久は大量の荷物を持つこともないので、そこらへんは大丈夫だろう。

『国際展示場前、国際展示場前』

 電車内にアナウンスが流れ、到着したことがわかった。

「お、ついたでごわすな」

「よっしゃ行くぜ!」

 二人が立ち上がったので、幾久も慌てて後を追いかけた。


 駅に降りて驚いたのは、駅構内がアニメや漫画一色だったことだ。

「うわあ、すごい」

 看板からポスターまで、なにもかもがアニメや漫画だらけだ。

「後輩殿は、ビッグサイトははじめてでごわすか?」

 大佐の質問に幾久は「いいえ」と答えた。

「学校とか、習い事とかのイベントがあるときに来たことあります」

「ほほう」

「でもこんな風になってるの、初めて見ました。すごいっすね」

 賑やかにいろんな垂れ幕やポスターが掲げてあって、その華やかさに幾久は素直に感心した。

「あ、これガタ先輩がはまってるやつ」

 知っている絵だったので幾久が反応した。

「お、わかってんじゃん」

 山縣が得意げに言う。

「そりゃ、あれだけ言ってれば覚えますよ」

 山縣ははまっているアニメを見るときは居間で見ているので、自然、それが目に入ってしまう。

 幾久もなんとなく内容は知っている。

 妖精が出てくる話でちょっとグロい内容だった。

「原作興味あるなら本を貸してや」

「ないっす」

 即お断りを入れると、その様子を見て大佐が笑っていた。

「全く、ガタ殿のおっしゃるとおりのお方でごわすな、後輩殿は」

「はぁ」

「オタクに偏見はないのでごわすか?」

「オタクにはないっす。ガタ先輩にはあるけど」

 そう言うと、大佐は「ブフォwwww」とオタクらしく噴出した。


 会場に近づくと人の流れが多くなった。会場前にはスタッフ的や他にもいろんな人が居て、それぞれが忙しそうに動いている。なんとなく、幾久はわくわくしてきた。こういうお祭りの準備な空気は嫌いじゃない。

 会場の中へ入ると、その中もけっこう人が居た。

 ざわざわとしていて、皆足取りが軽い。

「明日は東だからな。間違えんなよ」

「東……」

 貰った地図を広げて、幾久が場所を確認する。

 方向に東と西があって、それぞれに会場があるらしい。

「いま、ここっすよね」

「そう。んで、明日はものすっげえ人が多いから、もし迷ったら、ここな」

 山縣が時計を指差した。

「この時計の場所に、一時間ゼロ分になったら来い。十五分して来なかったら、四十五分後に再チャレンジしろ」

「え?ガタ先輩、スマホ持ってますよね?」

 だったらそんなことしなくても、と幾久は言うが山縣は首を横に振った。

「明日は文明の利器は全て不能になると思え」

「え」

「十万人以上来るんだぞ。まずそんなものはあてにならない」

 文明の利器を誰よりも信じて享受している山縣から出るとは思えない言葉だ。

「多分、お前のミッションはお昼過ぎまでかかるはずだ。というより、気がついたら一時だった。そんな感じで間違いない」

「はぁ」

「一時丁度に間に合わなかったら二時丁度。それでも無理なら三時丁度にここだ。覚えておけ」

「……イエッサ」

 よくわからないが、判らないなりにとりあえず覚えておけばいいだろう。幾久はそう答えると、山縣はうん、と頷いた。

「で、こっちが東だ。来い」

 山縣に言われ、幾久はあとをついていく。大きな見本市会場と知っていたが、本当にやたら広い。

「この場所も明日は人でいっぱいになるからな。その覚悟はしておけよ」

「うっす」

 返事はするものの、こんなに広い通路が人でいっぱいなんて、どれだけの人数が来るのだろうと思う。

「あと、会場内は絶対に走るな。危険だからな」

「ウス」

 てくてくと先輩達についていくと、目の前が開けた。

「で、こっから降りる。あそこに見えるのが東館だ。全部で6ホールあって、向かい合わせに3ホールずつ」

 来たことはあってもじっくり場所まで確認したことはなかったので、幾久は珍しそうにあたりを見渡した。以前きた塾のイベントとは場所は同じなのに、雰囲気も熱気も全然違う。

「手続きが必要だろ?」

「あ、ワガハイに任せるでごわすよ」

 言うと大佐がささっと会場の中へ入っていく。

 幾久と山縣はのんびりと大佐の後を追い、中へと入った。

「わっ、すげえ、広い!」

 驚いて幾久が声を上げたのは、自分が見たことがある会場よりずっと広かったからだ。

「来たことあるんじゃなかったのか?」

「ありますけど、なんかすっげ広くねーっすか?」

 ちょっと興奮してしまうのは、やたら広く感じたからだ。

「わっ、車?チャリ?」

 車が出入りし、自転車で移動している人も居る。

 ざわざわとしていて、皆忙しそうだ。

「ガタどの~後輩どの~お待たせでごわす」

 大佐が戻ってきて、二人に首から下げるパスを渡した。

「中に入るには必要なんでごわすよ」

 首からかけるようにと言われ、幾久と山縣はパスを下げた。なんだかこんなのも、お祭り気分で楽しくなってくる。

「広いっすね、ここ」

「来たことあるのでは?」

 大佐の問いに幾久は頷いて答えた。

「あるんすけど、こんなに広いって知らなかったっす」

「ああ、まだ準備段階だから、全部見えるから広く感じるんでごわすな」

 足元にダンボールや折りたたみ式の机が置いてあって、それらを運んだりチェックしているのか、覗き込んで確認しているらしき人も居る。

「あれって明日の準備ですか?」

 幾久の問いに大佐が頷く。

「そうでごわす。いま入っているのは準備のボランティアと印刷会社の人でごわすよ。あれは全部明日の本でごわす」

「へぇー」

 なんだかすごい、と幾久は感心した。こんな裏方みたいなことを見た事がなくて、ちょっとわくわくしてしまう。

「なんか明日、楽しみっすね」

 明日になればここに人が一杯きて、あのなんだか面白そうなダンボールの中にある本が並べてあるのだろうか。

「……そう言っていられるのも今のうちだけだぞ後輩」

 山縣の言葉に大佐も「然様でごわす」と返す。

「明日は歴戦の戦士達が完全装備でやってくるからな。お前はとにかく、生き抜くことだけを考えろ」

「はぁ」

「んで、明日の確認だ。こっちこい」

「はい」

 山縣についていくと、会場から外に繋がっている場所へ案内された。

「いいか、明日はお前はまずここに並ぶ」

 場所を示されて、幾久は番号を確認する。

「はい」

「明日になれば、ここはどこだかさっぱり判らなくなる。その地図があってさえ、お前は自分を見失ってしまうだろう」

「はぁ」

 また山縣の厨二病か、と幾久は適当に流すが、山縣はふうーっとため息をついた。

「お前、俺が厨二病を発病させたとか思ってそうだけどな、全くんなことねーかんな。マジで全然判らなくなるからそこは覚悟しとけ」

「ガタ殿の言うとおりでごわすよ。後輩殿、明日は絶対にわけがわからなくなるでごわすから、とにかくあの柱の文字を見るでごわす」

 大佐の指差す大きな柱には、アルファベットが書いてある。

「この文字を基点に、いま自分がどこにいるか確認しろ。明日になったら一応テーブルにも印はあるが殆ど意味をなさん。わからなければ腕章をつけた奴に場所を聞け。だが基本、頼りになるのは自分だけだ」

「全く判らずとも、さっきの時計の位置に必ず来る出ごわすよ?そうすれば命だけは助かるでごわす」

「命だけはって」

 そんな馬鹿な、と幾久は思ったが、山縣と大佐の表情がどこまでも大真面目なので、二人とも重症な厨二病なのか、本当にやばいのかは判断ができなかった。



 珍しいので会場をぐるりと見て周り、いろんな説明を受けているうちにけっこうな時間になった。

 そろそろ家に帰ったほうがいいかな、と思っていると、なんと父からメッセージが届いた。

『幾久、いまどこにいる?もし良かったら夕食は山縣君も一緒に外でどうかと思うんだが』

「えっ、マジで」

 しかし母親がなにか支度をしているのではないのか、と尋ねると母は今日、用事があって夜まで帰ってこないそうで、それで幾久の父に夕食を頼んだということらしい。

(なんかちょっとほっとする)

 もし母親が食事を作っていて、それを山縣と食べると考えたら何を話せばいいのかとか、いろいろ考えてしまうに違いない。

 父と一緒なのはありがたかった。

「ではガタ殿、わがはいはこれで失礼するでごわすよ。明日の準備があるでごわすからな」

「オッケー了解。明日はよろしく頼む」

「了解でごわす!後輩どのも、明日は健闘を祈るでごわす!」

「あ、はい。お疲れさまっす」

 幾久が言うと大佐はびしっと敬礼を決めてから、さっきの会場の中に戻って行った。


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