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【海峡の全寮制男子高】城下町ボーイズライフ【青春学園ブロマンス】  作者: かわばた
【8】コミケ参加、それが俺のジャスティス【空前絶後】
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アカン先輩×2

 荷物を無事受け取ると、山縣は勝手知ったる、とさっさとどこかへ向かう。

「ガタ先輩?」

「こっちだ後輩」

 エスカレーターにのっかって迷い無く降りていく。

「どこ行くんすか?」

「アキバ」

「秋葉原っすか?」

「そう」

 なんというか、やはりと言う感じだ。

 山縣はオタクだけどオタクはやっぱり秋葉原に行きたいのか。

「荷物抱えて?大変じゃないっすか」

「駅のロッカーに荷物ぶっこんでくから大丈夫だ」

「買い物でもあるんすか?」

 幾久が尋ねると山縣はニヤッと笑って言った。

「ちげーよ。いろいろお前とのミッションがあるんだよ」

 山縣がミッションと言えばろくなことがないのは判っているのだけど、現状では逆らえる状態ではない。

「……お手柔らかに頼むッス」

「まかせとけって。世話になる分、お前のために働いてやんよ!」

 ああ、絶対に余計な事しかしなさそうだガタ先輩。

 幾久は早々に、この休みがとんでもないことになるだろうことを覚悟した。



 空港からのモノレールで終点の浜松町に到着し、そこから乗換えで秋葉原へ向かった。

 東京に頻繁に来ているというだけあって、山縣は全く迷うことなく乗り継ぎをする。

 逆に幾久のほうが一瞬困るくらいだ。

「ガタ先輩、詳しいっすね」

 ひょっとして電車もオタクっすか?と尋ねると山縣は「ちげーわ」と首を横に振る。

「移動するところなんか決まってるから、覚えるだろ」

 そうなのか、一体どれだけの頻度で来ているのかなと幾久は少し山縣に興味が湧いた。

「ガタ先輩って、どのくらい東京に行ってるんですか?」

「まあ三ヶ月に一回程度か。それが限界」

「三ヶ月?!」

 じゃあ、入学してから全く帰省していない幾久よりも多いくらいではないか。

「ってことは、オレが入学してからも東京に行ってたんすか?」

「ゴールデンウィークに来てた」

「はぁ……知らなかった」

 ゴールデンウィークは確かに山縣の姿を寮で見なかった。幾久は先輩達に長州市を連れまわされて遊びまわっていたので気にしなかったが、まさか東京に来ていたとは。

「金持ちっすね」

「バーカ。東京に来たいから稼いでんだよ。逆だ、逆」

 なるほど、金持ちだから東京に遊びに来るわけではなく、東京に来たいからお金を稼いでいるのかと幾久は納得した。

「でもなんでそんな東京好きなんすか?」

「東京が好きなわけじゃなく、好きなものが東京にしかないから仕方ねー」

「はぁ」

 好きなもの、とはやはり秋葉原にしかないグッズとかそういうものなのだろうか。


 電車で十分も移動すれば秋葉原に到着し、幾久と山縣は駅構内のロッカーに荷物を預けた。

「で、こっちな」

「ハイ」

 山縣についていく幾久はまるでこっちがおのぼりさんみたいな気がした。


「あ、それと今から俺のダチが合流すっから」

「えっ」

 駅の改札を出たところで、山縣が「あ」と手を上げた。山縣に気付いたやたらでかい、ラグビーでもしていそうな男性が、だっと山縣に近づいてきた。

(でかっ!あれ久坂先輩くらいあんじゃないのかな)

 同じ寮の久坂は身長が百八十を超えている。

 それを見慣れている幾久ですら、大きいと感じたのは身長もだが、かなり体格がいいせいだろう。

「ガタどの!」

「大佐!」

 飛びつきそうな勢いで二人は近づき、三十センチほど離れたところで山縣は両手に拳を握り、前かがみに男に向かい合う。

 男は耳元でなにも持っていないのにヘッドホンを触るような仕草をする。

「ほう!これはすごい。童貞力四万二千まで上がりましたよ。確かにいままでのガタどのとは違うようですね」

「……」

「参考までに……私の童貞力は五十三万です」

 なんだこいつら。

 近くに居たくない、と幾久が去ろうとすると、二人はどんと腕をぶつけて肩を組んだ。

「久しぶり~」

「おひさしぶりでごわすよデュフフwwwwつって、オンでは毎晩会ってるのにwwww」

「オフでは久しぶり~」

 こんなくだけた山縣は見た事が無い。呆れつつ観察していると、恰幅の良い男が声をかけてきた。

「こちらがガタどのの後輩どのでごわすか。はじめましてでごわす」

 挨拶をされたので、仕方なく幾久は頭を下げて握手した。

「あの、はじめまして。乃木幾久です」

「わがはい、ドン大佐と申すでごわす。童貞です」

「さっき聞きました」

「そうでごわしたwwwデュフフwwww」

 なんか山縣が二人になった気がして、幾久はがっかりとした。



 三人は近くにあるというマックに移動して昼食をとることにした。四人がけの席に幾久と山縣が隣同士で、向かいに大佐と名乗った男が座った。

「大佐、持ってきてくれただろ?」

「任せるでごわす」

 そう言って大佐はスマホを取り出した。幾久の肩を山縣が馴れ馴れしく抱いて近づける。

「じゃ、ピースでごわす、お二人とも」

「おい、あっちに向いてピースしろ、ピース」

「え?」

「いいから」

 言われるままに幾久は山縣と肩を組み、ひきつった笑顔でピースサインをする。

 なんでこんなことを?と思っているとそれを大佐がスマホのカメラで写真を撮った。

「おお、いい笑顔でごわすよ」

「頼む」

「ほいきたでごわす!」

 大佐は大きなリュックからノートパソコンを取り出した。一体何をするつもりなんだと幾久は見つめるが、大佐はかちゃかちゃとなにか操作をしている。

「ヌフフフフ、我ながらいい腕でごわすよ~ガタ殿、期待していいでごわすよ」

「勿論、俺は大佐を信じてるぜ」

「こっちにこうで、こうして……こう!」

 ッターン、と大佐が無駄にキーボードを鳴らし、くるりと画面をこちらへ向けた。

「!」

「おー、さすが大佐、良いじゃん良いじゃん」

「これ……?」

 幾久が驚き画面を見つめる。

 多分、さっき撮っただろう山縣と幾久の笑顔の写真の背景が、マックではなくなぜか東大の赤門前になっている。

 まるで今、東大の赤門前で記念写真を撮りましたよ、と言った風に。

「これ一体?」

「文明の利器、フォトショップでごわす。さも記念写真風に仕立てたでごわすが、中々ですな」

 確かにこれを見て合成とは思えない。幾久本人だって、一瞬『行ったっけ?』と思えそうなクオリティだ。

「なんでこんなものを作るんですか?」

 幾久の問いに山縣が答えた。

「んなのアリバイに決まってんだろ」

「アリバイ?」

 山縣が頷く。

「おめーの母親、教育ママで東大目指せっつってんだろ?」

「あ、ハイ」

 本気かどうかは疑わしいが、そういったことを言っていた。

「ということで、そういうのが一番喜びそうな仮想スケジュールを俺と大佐で組んでおいた」

「は?」

 仮想スケジュール?と幾久が首を傾げると、大佐がノートパソコンをかちかちと叩いてあるソフトを立ち上げた。

「まずはこれを見るでごわすよ」

 アニメ調で始まったそれは、つまりは会社でされるようなプレゼン、企画の発表そのものだった。

『東大を目指す息子を持つ母親が、必ずおさえておくのが東大赤門!赤門はやっぱり東大のシンボルだものね!ということで、受験前に赤門を見にきたり、記念写真を撮る人は少なくはないわ!』

「えーと……これ、ひょっとしてずっと続くんですか?」

 可愛い絵柄で、SNSのメッセージアプリのような雰囲気で説明してくれているが、内容はともかくアニメ調はちょっと辛いのだが。

 だが、山縣も大佐もにこにこと「まあ見ておけ」と笑顔を見せるばかりだ。結局自分達のやっていることを変えるつもりはないんだな、と幾久はそのプレゼンをうんざりと見続ける。

『じゃあここで、スケジュールを説明するよ?今日の木曜日は、東大生との会合だ!』

『現役東大生とのセッションはきっと実り深いものになるに違いないわ!どんなに素敵な内容を教えて貰えるかしら!興味ぶかいわぁ~』

『学校生活や授業の内容なんか、きっとネットで見れば一瞬で判る内容がてんこもりだよ!』

『うわぁ、楽しみだなあ!』

 なんか、時々毒が入ってないか?と幾久は思ったが、大人しくジュースを飲みながら続きを見る。

『明日は、明後日、明々後日の準備だよ!東大生とボランティア活動をするよ!』

『ボランティア?それはすごい!有益だなあ!』

『そう、やはり社会に貢献するっていう気構えが東大生には必要なんだ!明日はボランティアをする会場に行って、実際はどんなことをするのか、参加してみるんだ!』

『へぇえ~!楽しみだなあ!』

『ボランティアに参加するのは、現役の東大生、京大生、そして医師に教師に弁護士になんと自衛隊まで、ありとあらゆる選ばれしエリートがいるんだよ!きっと役にたつこと、うけあいだね!』

『わあ、すごいや、スーパーエリートばっかりだあ(棒)』

『つまり、スケジュールは?』

『簡単にまとめると、今日は赤門に行ったことにして、その後は東大生と実りあるお話、ボランティアの準備に、その打ち合わせ!明日はボランティアの準備!そして明後日、明々後日はボランティア活動頑張るよ!勿論ずっと東大生と一緒さ!』

『わぁあ~』


「つらい」

 思わず幾久は言葉をこぼした。

「なんですかこれ。延々東大生東大生って」

「え?だってお前の母親にこの内容説明したらきっとバカウケ間違いなしだぞ」

「や、そうかもしれないっすけど」

 確かに東大生がずっと傍に居て、いろいろ教えてくれるなんて聞けば母親は喜ぶだろう。

「でも、東大生ってそんなのどこにいるんすか」

 幾久の問いかけに、大佐はにこにこと笑顔で自分を指差し、山縣は大佐をささげるように両手を差し出している。

「……は?」

「や、だからおめーの目の前にいんじゃん」

 山縣の言葉に幾久は思い切り眉をひそめた。

「は?」

「だからおめーの目の前だって」

 幾久はおもわずきょろっとあたりを見渡した。だが、目の前には大佐しかいない。ということは。

「……え?」

 幾久の態度に大佐が「ブフォ!」と噴出した。

「なんでごわすか、お約束どころじゃないでごわすよこの反応、逆に面白すぎでごわすwwww」

「な、こえーだろ、これが一般人ってやつらだよ、どんな定番のお約束でも俺たちにできないことを平然とやってのけるッ」

「そこにシビれるあこがれるゥ!」

 二人でそう言ってハイタッチまでかましている。もうなんなんだよこの二人は、面倒すぎるなんてものじゃないぞ。

「つまりだよ、帰省中ったって、お前家に居たくなんかねーんだろ?パパン忙しいっつってたじゃん」

「そうっすけど……」

 高杉に家には帰っておけと言われたし、それに寮が閉鎖されていくところが無いから仕方なく家には帰ってきたようなものだ。

 ぶっちゃけ、会うような友人もいないし、することもない。どうしようかとは考えていたけど、良い考えはなにもなかった。

「だから、俺様がてめーにちゃんと仕事を用意しておいてやったんだよ」

「は?」

 がさがさと山縣がなにか紙を出した。

「おめーのミッションは、今日これから会場の下見に行く。明日、おめーの仕事のために必要だからな」

「会場?どこに?」

「有明。お台場だよ。お台場はわかんだろ」

「わかりますけど、そりゃ」

 あんな辺鄙な場所に一体なにしに行くんだろうと思うが山縣は続けた。

「で、明日はてめーはミッションをコンプリートする必要がある。心配はいらん、少々失敗してもフォローはできるものにしてあるからな」

「はぁ」

「で、明後日、明々後日、特に明々後日は忙しいからな。ボランティアをやってもらう」

「ボランティア?」

「ま、心配スンナ。俺がついててやるんだから」

 余計に心配になる幾久だが、二人は全くお構いなしで、幾久の前に地図を広げた。

「これが今から行く会場の地図だ」

 大きな広い会場に、升目が並んでいて、升目にはそれぞれ数字が入っている。

「これ、なんすか?」

 山縣ではなく、大佐が説明した。

「今から行くひっろーい会場でごわすよ。会場にはテーブルが並んでいて、見本市があるのでごわす」

「へえ。何の見本市なんですか?」

 幾久の問いに、大佐が山縣に尋ねた。

「後輩殿は、ご存知ないのでごわすか?」

「全く。本当に何も知らない一般人だからな」

「……ガタどの。それはあんまりでごわすよ」

 大佐が山縣に言い、急に幾久に同情的になった。

「何も知らない一般ピーポーだというのにあの戦場いくさばに放り込むというのは、いささか賛同しかねるでごわす」

「だから逆に並びやすいところをチョイスしてある。買い逃しても許して貰えるような所をな。万一、ひとつも買い物できずとも、フォローは可能だ」

「そうだとしても、夏コミでごわすよ?しかも今回が初めててごわすよな?しかも女の子の日でごわす。大変でごわすよ」

「大丈夫だ。こいつのこの外見とスルー能力とコミュニケーション能力がありゃあんなの楽勝だって。マニュアルも全部用意してある」

 そう言って山縣が手作り感満載の、ホッチキス止めの冊子を大佐に渡すと、大佐はそれを読んで「うーん」とうなった。

「ここまでしてあるなら、なんとかなるでごわすな」

「なんとなかるようにしてあるし、その為に今日下見に連れて行くんだよ。大佐のチケット、こいつと俺で使うんだよ」

「おお、であればかなり楽ではごわすな!」

「あの……お二人とも、一体何の話をしてるんですか?」

 幾久には理解できない内容だが、あまり快いものではないであろうことは山縣の雰囲気で理解できる。

 山縣は言った。

「お前の身の安全について本気出して考えているんだよ漏れらは」

「そうでごわす。後輩殿、明日は戦場で生き抜くために、今日は偵察に行くでごわすよ」

 幾久はうんざりした表情で、ジュースの最後、抗議の意味も込めて爆音を立てて啜って言った。


「いやっす」

 当然、そんな言葉を二人とも受け入れはしなかったが。


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