【同性同名】
「じゃぁ みんな入ってきて~」
パンパンと手を叩いた秋山。 そのあと 開いた扉をノックして3人の生徒が入ってきた。
入ってきた瞬間騒ぎ出した 女子や、目立たない男子。
奴らの言う声は全て......
「あの女の子 かわえぇぇぇ!!!!」
「やばい、かっこいい!!!!!!」
......の中に入る言葉ばかりだった。
騒声があまりにも 耳に来た棗。 寝ようとして、本を取ろうとした時 ちらっと見えた教卓の姿。
「大河......」
無意識にこぼれる言葉は、いつもの棗の独り言に比べれば一段と大きかった。
その声に反応した大河は、ニコッと笑いかけた。
目を大きく開ける棗。 秋山からは 昔に戻ったと聞いた。 だが、1年前と変わらない透き通った笑顔。 違和感がすごく感じるのに、感じない。
「みんな来たね。 よし、じゃ 自己紹介!!」
完全に見えなくなっていた周りの声が、秋山の声で全て取り消された。
最初に乗り出したのは一番右端にいた少女。 金髪の明るそうな少女。
あれはどう見ても......
「藤田 紗奈です。 歳言った方がいいのかな? 18歳になります、3ヶ月ぐらい経てば」
この前 初めてここで会った時とはまるで別人。
恐怖だけだった彼女も、少しは『平常心』が宿ったのだろうか
その隣もすぐに 乗り出した。 やはり話し始めた時に 確信した。
1年前とは 違う。 けれど昔のまんま......言っても当てはまらない。
「俺はこいつのお兄さんの大河デーす!! みんな覚えておいてよ、俺はメダカが怖い!! 大河くんでした~」
教室中がドッと笑った。 明らかにウケを狙った大河の発言は、教室が笑ったと言えるほど盛り上がったものだった。
その盛り上がりを抱えての次の人物。 完璧に初対面
汚れがないのか、逆に汚れしかないのか......疑いのない黒髪。
目にも 何かおかしな感情が詰まっていそうな、言葉じゃ言えない色。
どうみても騒ぎそうな奴ではなかった。
「......マキ・リンカーンだ。 よろしく頼む」
「え?」
滅多に口に出さない「え?」の一言。 思いもしなかったマキの名前。
あいつ以外にこんなにも似てる奴がいたのか?
「......マキちゃん......?」
秋山も 驚いた顔つきでマキ・リンカーンを見る。
......相手の名前聞いてなかったのかよ。
しばらくざわつく教室。 いちよう人間初の番人、マキは組織中、いや 町中で評判だった。 そのあとに同じ名前で 微妙に容姿も似ている奴なんか出て来たら......何か関わりがあるんじゃないかとか思うんじゃないか?
しばらく止まった秋山。 やっと動き始めた時には、「コホン」と息を吐いてから話し始めた。
「......空いている所......何処でもいいから座って......」
話しながらも口に手を当てる秋山。 それと同時に頻繁に目も泳いでいる。
周りの反応に気すら動かないマキ・リンカーンは、迷わず棗の隣に座って来た。
その隣は、死ぬ気でもと隣の男子を説得してどいて貰った席。 そこまでして隣にいて欲しくなかった席に、迷わず座り込んで来たマキを ひたすら睨み続ける棗。
「ピーマン食う方がマシだ......」
心の中でそう叫びまくる棗は、いつもと違って焦っていた。