寓話 書物の王
あるとき、王は言った。
聖書の他に本は要らぬ、焼いてしまえという意見がある。この意見に対してどう思うか。
賢者ヨシノブは答えた。
「王よ。自らの民を好んで焼く王がいるでしょうか」
王は言った。
「おらぬ。そんな王は断じていてはならぬ」
賢者ヨシノブは続ける。
「ならばこうお考えください。聖書は本の中の王。その民として全ての書物を従える、いと偉大なる王であると」
王は唸った。
「なるほどな。他の本は、全て王たる聖書の民であると言うのか」
賢者ヨシノブは言った。
「然り。本を焼くことは民を焼くことと同じこと。これを固く禁じ、罪とするのが良いかと申し上げます」
大司教サヴァンがこれを聞いて言った。
「書物こそは先人の知恵。それを作るのに生涯を賭けた者もおります。
先人の一生を踏みにじること、それは『汝の父と母を敬え』というキリストの教えにも反することです」
王は言った。
「では本を焼くことを戒める法を作ろう。そしてその法の続く限り、戦となっても決して図書館にだけは火を放たぬように命じよう」
こうして賢い王によって本はよく守られ、その国は長く栄えたという。
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