第三話
ラファエルがヴォルテールの釈放を知ってから、約二日が過ぎていた。
町中ではこんな歌が流行る。
『はらっぺこ〜なの〜は、ヴォルテールのせい、(服が)まずしいのはルソーのせいだ』
ヴィクトール=ユゴーの『レ・ミゼラブル』にもこの歌は登場するが(彼のいた時代にはルイ十八世、ルイ十六世の甥の時代)革命派に恨みを持つ者も中にはいたことも事実である。
ラファエルは、そのジレンマに苦悩する羽目に陥っていた。
「ああ、どうすれば、どうすればいいんだ、ちくしょう」
革命派を阻止しようとする動きもあった。
それが今言った恨みを持つ者なのだが、なぜ恨みを抱いたか。
それは、革命派に加わると、強制的に市民軍となり、王党派に拳銃を向ける。
もし夫や父親である大黒柱が戦死したら、残った女子供たちはどうなるだろう?
飢えて死ぬほかなかった。
それだからあえて阻止しようとする動き、『反革命分子』とよばれる一派ができあがったが、革命軍たちはこの反革命分子が誕生したじぶんから、血に飢えた獣のごとく、この集合体を倒すことに専念した。
つまり、革命を邪魔するモノに容赦がなかったといえよう。
ラファエルは頭を抱えてひとしきり、悩んだ。
そしてヴォルテールの言葉を想い出す。
――なぜきみは、革命を必要とするのかね?
「俺は・・・・・・わからなくなってしまった・・・・・・」
革命派と、反革命分子。
どちらが正しいのだろうか。
そして王党派。
ほんとうに失ってもいいものだろうか・・・・・・。
ラファエルは、※マリユスに問いかけるアンジョラスのごとく、誰かに答えを聞きたくてたまらなかった。
※ マリユスとアンジョラス・・
主人公はジャン=ヴァルジャンだが、マリユスはヴァルジャンがかわいがる娘コゼットを妻にし、第二主人公となる。
またアンジョラスは、革命派のひとりだったサン=ジュストをモデルにしたともいう。
彼の陰でもあったデカルト派(懐疑的論者)のグランテールとともに王党派に処刑される。